One winter day

気温が急に下がり出した冬の初め、部活を終えた四天宝寺の面々は順々に部室に戻り、帰
り支度を終えたものから帰って行っていた。
「ケンヤは相変わらずやし、小春はんもユウジはんも今日は用事ある言うて、すぐに帰っ
てしもたな。」
「変に絡まれるよりええやないですか。師範と静かに帰れるんで、そっちの方がありがた
いっスわ。」
「はは、財前はんも相変わらずやな。」
帰り支度をしながら、銀と財前はそんな会話を交わす。部室には白石がまだ残っており、
何か書き物をしていた。
「白石はんはまだ帰らんのか?」
「来週の練習メニュー考えとってな。あと、金ちゃんと千歳がまだ戻ってきてへんから、
とりあえず二人が帰ってくるの待って、これ終わらせてから帰ろうと思っとる。」
「部長って大変っスね。」
「大変は大変やけど、二年の初めからやってるからさすがに慣れるわ。」
「さすが白石はんやな。」
「俺のことは気にせんで、先に帰ってもええで。日が落ちるんも早くなってるしな。」
まだ日没までには時間はあるが、冬至に向かって日が短くなっているこの時期、あまり遅
くなるとすぐに暗くなってしまう。制服に着替え、コートやマフラーなどの防寒具を身に
つけると、銀と財前は白石よりも一足早く部室を後にする。
「ほんなら、お先に帰らせてもらうで。」
「おー、お疲れー。」
「お疲れ様です。」
部室を出た瞬間、冷たい風が二人の頬に触れる。予想以上に冷えている外の空気に財前は
顔をしかめる。
「さむ・・・」
「ホンマやな。」
「勘弁して欲しいっスわ。寒いの苦手なんスよ。」
「財前はんはもともと体温も低いしな。今日は真っすぐ家に帰るか。」
それを聞いて、財前の表情はあからさまに残念そうなものになる。少しの間を置いた後、
同意するような言葉を返した。
「・・・・そうっスね。」
校門を出て道を歩く財前はいつも以上に口数が少なくなっていた。そんな財前を見て、銀
は少し寄り道をしようと考える。
「財前はん。」
「何スか?」
「ちょっとワシのわがままに付き合うてもろてええやろか?」
「?別に構わないっスけど・・・」
そう言って財前を連れ、銀が向かったのは学校の近くにある公園であった。
(あれ?真っすぐ家に帰る言うてたのに・・・)
公園内にある自動販売機で飲み物を買うと、西日の差すベンチに座るように財前を促す。
「寒いの苦手やのに、付き合わせてすまんな。ワシのサイズやったら、その上からでも着
れると思うからは羽織っとき。」
銀は自分の着ていたコートを脱ぐと、財前に羽織らせる。
「えっ、師範・・・」
「それからこれもしといた方が少しは暖かくなるかもしれへんな。」
さらに首に巻いていたマフラーを外し、財前の首に巻いてやる。そして、今しがた買って
きた温かいおしるこを財前に渡した。
「えっ、ちょっ・・・こんなにしてもろたら、師範が寒くなってしまうやないですか!」
「心頭滅却すれば・・・や。それにおしるこはワシの分も買ってあるしな。」
かなり暖かそうな格好になった財前の隣に腰かけ、銀はおしるこの缶を開ける。銀のコー
トとマフラーで覆われた財前は、コートやマフラーからふわりと香る銀の匂いにドキドキ
してきてしまう。
(メッチャ師範の匂いする・・・)
「大丈夫か?財前はん。寒ないか?」
「さすがにこれだけしてもろたら、大丈夫っス。」
「そうか。ほんならよかった。」
そう言って、おしるこを飲みながら銀はふっと微笑む。ぶかぶかのコートから指先を出し、
財前も銀の買ってくれたおしるこをコクンと飲む。温かく優しい甘さのそれは、まるで銀
のようであった。
「美味しい・・・」
「せやな。この時期にはピッタリの飲み物や。」
「師範、真っすぐ家帰る言うとったのに、何で寄り道するんスか。」
「すまんな。財前はんとまだ一緒に居たいと思うてしもうて。」
「っ!!」
申し訳なさそうにそう言う銀の言葉に、財前の心臓はドキンと跳ねる。寒いのは苦手であ
るが、銀と一緒にいる時間はそんなことはどうでもよくなるほど、財前にとってかけがえ
のない時間であった。
「何で謝るんスか・・・」
「財前はん、寒いの苦手やのに、無理矢理付き合わせてしもたからな。」
「・・・俺やって、師範と一緒に居たいと思っとるんです。」
「それは嬉しいなあ。」
おしるこの缶をぎゅっと両手で握りながら、財前はそう呟く。その言葉を聞いて、銀は嬉
しそうに微笑んだ。銀の香りに包まれ、大好きな声で胸がときめくような言葉が紡がれる
のを聞く。寒さを忘れるほど、財前の体温は上がってきていた。
「師範。」
「何や?」
「俺、冬が嫌いやったんです。ただでさえ体温低いのに、寒くて余計低くなるし、周りの
奴らが浮かれるイベントがぎょーさんあって、テンション高くなったそいつらに合わせる
ことも出来ないし、いろいろ面倒やなーって。」
「財前はんらしいな。」
「せやけど、今年からは冬が好きになりそうですわ。」
「ほう。何でや?」
「師範と一緒やからです。」
白い息を吐きながら、頬をほんのり赤く染め、銀の目を見つめて、財前はキッパリとそう
言い放つ。まさかそんなことを言われるとは思っていなかったので、銀の鼓動はドキドキ
と速いリズムを刻む。
「寒くてもこんなふうに師範が寒くないようにしてくれるし、クリスマスも年末も正月も
バレンタインも、師範と一緒に過ごすならどんな感じになるんやろって考えると、すごく
わくわくするし、楽しみやなー・・・って、俺、何言うてるんやろ。」
「いや、財前はんがそんなふうに思ってくれてること聞いて、メッチャ嬉しいで。」
「ホンマですか?」
「ああ。」
「あと、アレです。冬は師範の誕生日あるやないですか。師範の生まれた日があるとか、
それだけで冬に対する評価爆上がりですわ。」
「はは、そんなにか。」
財前の口から聞くその言葉が嬉しくて、銀の顔は自然に緩む。ほんわかとした雰囲気の中
二人はずずっとおしるこを飲む。
「何かええっスね。何がってわけやないですけど、師範と一緒に居るとええ気分です。」
「せやな。ワシもそう思うで。それに、財前はん、ええ顔しとるもんな。」
「ホンマっスか?俺、どんな顔してます?」
「嬉しそうで、幸せそうな顔や。」
先程までは寒さと不機嫌さで不愛想な表情であったが、今は口元が緩み、自然と笑みが溢
れているといった表情になっている。銀にそんなふうに言われ、財前は少し恥ずかしくな
る。
「そんなん言われると、ちょっと恥ずかしいっスわ。」
「何でや?ワシは財前はんの笑てる顔好きやで。」
「!!」
「そんなふうに照れてる顔もな。」
からかうようにそう言う銀の言葉にも、財前はドキドキしてしまう。嬉しそうに微笑んだ
り、照れて顔を赤く染める財前を心の底から可愛らしいと思っている銀は、ふとほんの少
しだけ財前に触れたくなる。財前の首に巻いているマフラーを少し引っ張り、財前の顔を
自分の方へ向かせる。
「何です?師範。」
そのままマフラーで財前の顔を隠すようにすると、銀はゆっくり財前の唇に口づけた。
「っ!?」
「すまんな。どうしてもしたくなってしもて。」
唇を押さえながら、耳まで顔を赤くして驚いたような表情で固まっている財前に、銀は苦
笑しながらそんなことを言う。自分の冷たい唇とは対照的にひどく温かった柔らかい唇。
二人で飲んだおしるこの甘い香りと甘い味。冷たい冬の風が心地よく感じるほどに財前の
顔は熱くなっていた。
「・・・何しよるんですか。」
「嫌やったか?」
「別に、嫌やないですけど・・・まさかこんなとこで、師範にキスされると思ってなかっ
たんで・・・」
「財前はんの唇、おしるこの味で甘かったで。」
「そ、そんなん師範やって、同じやないですか!」
「ぜんざい食べるたびに思い出してまうな。」
「ちょっ・・・そんなん言われたら、ホンマにぜんざい食うた時に思い出してまうやない
っスか。」
「ははは、それは困ってまうな。」
「ホンマですよ。でも、まあ・・・好きなもん食うて、師範とのキス思い出すのは、そこ
まで嫌やないかもしれんです。」
ふいっと銀から視線を逸らしながら財前はそんなことを呟く。照れ隠しのそんな態度も、
嫌ではないと素直に口にする言葉も、銀にとってはたまらなく愛らしく感じられた。目を
細め、銀は財前の頭をくしゃっと撫でる。
「何や幸せやなあ。空気は寒いが心の中はポカポカやで。」
「俺と居るからやないっスか?」
しみじみとそう呟く銀に、財前はぶっきらぼうにそう答える。
「その通りや。さすが財前はん、ワシのことよう分かっとるな。」
「その返しはずるいっスわ・・・」
銀の言葉に財前はもうときめきっぱなしだ。もう冷たくなりかけているおしるこを飲み干
すと、財前はポスンと横にいる銀の肩に頭を預ける。
「もうちょっとだけ、一緒に居てもろてもええですか?」
「せやなあ。日が沈むまではここに居よか。」
「ありがとうございます。」
「寒ないか?もう少しくっついてもええんやで?」
「師範と居ると体も心もポカポカっスわ。せやけど、もう少しだけくっついときます。」
甘えるように銀に身を寄せ、財前は銀の足に手を置く。そんな財前の頭を大きな手で撫で
ながら、銀は財前のぬくもりを存分に味わう。日が沈むまでの短い間、銀と財前は二人き
りの甘い時間をお互いのぬくもりを感じながら、心ゆくまで楽しむのであった。

銀と財前が公園でまったりしている頃、四天宝寺のテニス部部室にはやっと金太郎と千歳
が戻ってきた。
「はあー、千歳とぎょーさんテニスして楽しかったわー!!」
「金ちゃんの体力は底なしやね。」
「あれ?白石まだおったんか。」
「金ちゃんと千歳が戻ってくるの待っとったんやで。」
戻ってきた二人を見ながら白石はそう答える。それは悪かったと金太郎と千歳は顔を見合
わせる。
「堪忍なー、白石。テニスが楽しくてつい夢中になってしもてん。」
「別にええよ。やることあったしな。」
「ん?ミユキからメール来とるばい。あっ!今日、荷物が届くやて。白石、金ちゃん、ち
ょっと急いで帰るわ!」
実家から寮に荷物が届くという連絡があったようで、千歳は慌てて帰る準備をし、走って
部室を出ていく。
「千歳、帰ってもうたな。」
「慌ただしいやっちゃな。」
「白石は何しとるん?」
「みんなの来週の練習メニューを考えとったんやで。もう少しで終わるから、少し待っと
ってくれるか?一緒に帰るやろ?」
「おん!ほんなら、着替えて待っとくな!」
いくらか汗で濡れたジャージを脱ぐと、金太郎は学ランに着替える。帰り支度を終えると、
金太郎は白石の隣の椅子に座った。
「よし、終わった!」
「おー、お疲れさん。ワイと千歳はずっとテニスしとったから、ちょっと暑いくらいなん
やけど、この部室結構寒いやん?白石、ずっとここにおったんやろ?寒くないん?」
「あー、確かに言われてみればちょっと寒いかもしれんな。」
筆記用具をしまい終えた白石の手を金太郎は試しに触ってみる。金太郎の手が運動をした
後で熱くなっていることもあり、白石の手はかなり冷たく感じられた。
「うわっ、白石の手ぇ冷たっ!!」
「金ちゃんの手、温かいなあ。温めて欲しいくらいや。」
「ええで。ワイが白石のことあっためたる!」
そう言いながら、金太郎は白石の両手を自分の両手で握った。金太郎の熱で冷たい手がじ
んわりと温まっていく感覚に白石は心地よさを覚える。
「ホンマ金ちゃんの手、温かくて気持ちええわ。」
「白石の手が冷たくなくなるまで、ぎゅーってしといてやるな!」
「おおきに。金ちゃんは優しいなあ。」
穏やかに微笑む白石を見て、金太郎はドキンとしてしまう。ほんの少し自分の顔より上に
ある白石の顔を眺めていると、金太郎はとあることがしたくなる。
「なあ、白石。」
「何や?金ちゃん。」
白石が返事を返すのと同時に、金太郎は白石の唇にちゅっとキスをする。突然の金太郎か
らの口づけに白石は目をパチクリさせ、金太郎が離れると顔をかあぁっと染める。
「なっ・・・あっ・・・」
「へへ、白石の顔が何やメッチャ可愛かったから、思わずしてもうた。」
「急にしてくるから、メッチャビックリしたわ。こういうことはちゃんと聞いてからせな
アカンで。」
「聞いたらしてもええの?」
「それはまあ、時と場合によるで。」
白石の手を握ったまま、ずいっと金太郎は白石に顔を近づける。突然の出来事に驚いた白
石はバランスを崩し、椅子から落ちてしまう。
「ちょお、どないしたん!?」
「い、いや、ちょっと驚いて落ちてもうた。」
一旦手を離し、金太郎は尻餅をついている白石を心配するかのようにしゃがみ込む。
「平気か?白石。どっか痛かったりせぇへん?」
「ちょっとケツは痛いけど、ケガとかはしとらんから大丈夫やで。」
「そんならよかった。で、さっきの続きなんやけど・・・」
「さっきの?何?」
「もっとぎょーさんちゅうしてもええ?」
「へっ!?いや、えっと・・・」
聞いてからしなければいけないという白石の言葉を素直に聞いて、金太郎はそんなことを
尋ねる。もう自分達以外は帰っているのを確認しているし、今更誰かが戻ってくるとも思
えない。少し考えた後、白石は恥ずかしそうに頷く。
「・・・ええで。」
「おおきに!白石!」
白石の許しももらえたので、金太郎は床に腰を下ろした状態になっている白石の足を跨ぎ、
少し温まった手を再び握る。キスをされることが分かっているので、白石は目を閉じた。
ほのかに赤く染まっている白石の唇に金太郎は自分の唇を重ねる。何度かちゅっちゅと触
れるだけのキスをした後、ぺろっと舌を出す。
「白石も舌出して。」
金太郎に言われるまま、白石は小さく舌を出す。その舌にかぶりつくように金太郎は少し
大人なキスをする。
「ふっ・・・ぅんっ・・・!」
(うわ、金ちゃんの舌熱っ・・・アカン、顔も身体も熱なってきた。)
余裕がなくなっている白石とは対照的に、金太郎は実に楽しそうな表情で白石の舌を弄ぶ。
先程までは冷たかった手も熱を帯び、ゾクゾクとした甘く痺れるような感覚に白石の体温
は急上昇していた。
「んっ・・・んぅ・・・・」
(ちゅうしてるときの白石、やっぱかわええなあ。ドキドキするし気持ちええし、この感
じメッチャ好きやなー。)
しばらく白石とのキスを楽しんだ後、金太郎はゆっくりとその唇を離す。
「ハァ・・・金ちゃん・・・・」
とその時、部室のドアがガチャっと開く。まさかの出来事に白石の心臓は飛び出てしまい
そうなほどに跳ねる。
「おーい、まだ誰か残ってんのかー?下校時間過ぎとるし、早めに帰りやー。」
部室のドアを開けたのは、顧問のオサムであった。もうほぼ全員帰っていると思っていた
のだが小石川が帰る際にもしかしたら白石が残っているかもしれないと言うこと聞き、
念のため確認しに来たのだ。
「もー、オサムちゃん邪魔せんといて!」
「おっ、何や金太郎も残ってたんか。白石が残ってるかもってのは聞いとったんやけどな。」
「も、もう帰るとこやから・・・・」
「ん?白石、顔赤いしちょっと呼吸も苦しそうやけど、熱でもあんのか?体調悪いならこ
んな遅くまで残ってたらアカンで。」
「な、何でもあらへん!ちょっと来週の練習メニューの筋トレを試しにやってみたら、思
いのほかキツくてって感じや!」
「そんなんこんな時間にやることやないやろ。まあ、用が済んだなら早う帰りや。」
二人がもう帰るところだということを確認したオサムはひらひらと手を振りながら、部室
を出ていく。部室のドアが閉まると、白石は大きな溜め息をついた。
「はあー、危なかった。」
「何が危なかったん?」
「俺と金ちゃんがキスしてるとこオサムちゃんに見られたらアカンやろ?」
「何でや?」
「何でもや。せやから、キスとかそういうことするんは、家とか二人っきりのときにしよ
な。」
「うーん、ワイはどこでもしたいんやけどなあ。」
「どこでもはアカン。それに家やったら、もっとええことしたくなったときもそのまま出
来るしな。」
「っ!!せやな!分かった!!そういうことするんは、家とかだけにする!」
白石の言葉を聞き、金太郎はこくこくと頷く。こういうところは素直で子どもらしくて可
愛いなあと思いながら、白石はクスッと笑う。
「オサムちゃんの言うとった通り、そろそろ帰らなアカンな。」
「せやな。白石、ちょっとはあったまった?」
「ああ、金ちゃんのおかげでかなり温まったわ。」
「ほんならよかったわ!」
白石の寒さは少しは和らげることが出来たと金太郎は嬉しそうに笑う。そんな金太郎につ
られて白石も口元に笑みを浮かべながら、テニス鞄を肩にかけた。
「忘れ物はないな。帰るで、金ちゃん。」
「おん!」
金太郎も鞄をかけ、白石の後を追うようにして部室を出る。日の沈みかけているこの時間
の空気は想像以上に冷たかった。
「外は余計に寒いなあ。」
「白石の手がさっきみたいに冷たくならんように、手繋いどいてやるわ。」
包帯が巻かれていない方の手を金太郎はきゅっと握り、ニッと笑う。子供らしい純粋な大
好きな笑顔。その笑顔に答えるかのように白石は金太郎の手を握り返した。
「今日はぎょーさんテニスしたし、白石と何回もちゅうしたから腹減ったわー。」
「俺としたことはそんな関係ないやろ。」
「白石ぃ、タコ焼き奢ってやー。」
「もっと俺が奢りたくなるようにおねだり出来たらええで。」
「後輩っぽく頼んだら白石メッチャショック受けてたしなー。どんなんがええかなあ。」
「後輩っぽくっちゅーか、財前の真似だったやん。あれは金ちゃんに言われるとショック
やわ。」
後輩っぽくと言ったら財前の真似をされ、かなりへこんだことを思い出し、白石は苦笑す
る。何とか白石にタコ焼きを奢ってもらおうと、金太郎はどうおねだりをすればよいか、
一生懸命考える。
「大好きな白石と大好きなタコ焼き一緒に食べたい!!せやから、白石、タコ焼き奢って
やー。ほんで、一緒に食べよ?」
実にシンプルで分かりやすいおねだりだが、白石のツボにはしっかりハマった。これはも
う奢らざるを得ないと、白石はタコ焼きを奢ってやることにする。
「しゃあないなー。タコ焼き奢ってやるわ。」
「ホンマに!?よっしゃー!!」
「一緒に食べる言うたんやから、独り占めしたらアカンで。」
「分かっとるって。やっぱ、白石大好きや!!」
繋いだ手をぶんぶんと振りながら、金太郎は満面の笑みを浮かべてそう言い放つ。金太郎
に好きと言われるたびに、きゅんと胸がときめき嬉しさで心が躍る。思わず顔がほころん
でしまいそうな幸せとぬくもりを感じながら、白石は繋がれた手に視線を落とす。二人で
熱々のタコ焼きを食べるのを楽しみに、金太郎と白石は学校から商店街へ向かって歩き出
した。

                                END.

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