跡部の家に到着した二人は、早速跡部の部屋へと向かう。部屋に入るとドアのすぐ側に全
身が映る鏡があり、宍戸はふとその鏡を見た。鏡に映る自分の姿はとても男とは思えない
ような格好で、自分でも驚くほど女に見える。
(全身見るとまた違うなあ。ホントまんま女だし。)
「何見てんだ?」
「いや、別に。それより、ほら、さっさと座れよ。チョコ、渡してやるから。」
「ああ。」
ソファに促すように宍戸は跡部の背中を押す。自分も跡部の隣に腰かけると、鞄の中から
用意してきたチョコレートを出す。
「もうチョコレートなんて山ほどもらってるだろうけどよ、気持ちは誰よりも込めたつも
りだぜ。」
「へぇ、手作りか?」
「いや、今回は違うけど、とにかく見てみろよ。」
「ああ。」
受け取ったチョコレートを跡部は開けてみる。中には真ん丸のチョコにココアパウダーが
かかったトリュフがいくつか入っていた。特に変わったところのないそのチョコに跡部は
首を傾げる。
「普通のトリュフチョコにしか見えねぇけど、どこが変わってるんだ?」
「いいから食べてみろって。」
納得いかないなあと思いながら、跡部は一粒口へと放り込む。味もまあ、普通のチョコレ
ートだなあと思っていると、耳元で何かを囁かれる。
「・・・・ぜ。」
「えっ?」
「好きだぜ、跡部。」
口を動かし、チョコレートを味わうとよりハッキリとした口調で同じ言葉を囁かれる。試
しにもう一個食べてみようと、トリュフを口に入れると今度は頬にキスをされた。こんな
にも積極的にこういうことをする宍戸はそう滅多に見られないので、跡部は地味にドキド
キしてくる。
「宍戸・・・?」
「あと、四つ残ってるな。それ、一つ食べるごとに一つレベルアップしたことしてやるぜ。
まあ、今ほっぺにチューだったから、次は口に軽くって感じか?」
「六個目食べたら何してくれるんだ?」
「それは食べてからのお楽しみだぜ。」
悪戯っ子のように笑いながら宍戸はそんなことを言う。女装をしているために、それがま
た本当に可愛らしく見え、跡部はもう一つチョコを口にした。
「よいしょっと・・・」
チョコが口に入ったままにも関わらず、宍戸は跡部の足を跨ぐように向き合い、軽くちゅ
っとキスをした。本当はそこで離すつもりだったのだが、今度は跡部が反撃する。
「んっ!?・・・んむっ・・・!」
宍戸の体をしっかりと捉え、チョコレートが口の中に入ったままの状態で、宍戸の口の中
へ舌を入れる。溶けかかっているチョコレートは宍戸の口の中にも流れ込んできた。
「んっ・・・んん・・・んん・・・!」
驚いて抵抗しようとするが、甘いチョコレート味のキスに宍戸はすっかり腰砕け状態。い
つの間にか跡部のされるがままになってしまっていた。
「ぷはっ・・・」
「三個目でディープキスか。こりゃ、この後が期待出来るな。なあ、宍戸。」
「ちょ、ちょっと待てよ!今のは、跡部が・・・」
「あーん?一つ食べるたびに一つレベルの上がったことをしてくれるんだろ?テメェが自
分で言ったんだぜ。」
ニヤニヤとしながら、跡部はそんなことを言う。まさかこんなことになるとは思っていな
かったので、宍戸は焦りまくりだ。
「テメっ、ずりぃぞ、それ!!」
「何とでも言いやがれ。テメェがふっかけてきたんだからな。」
「くそっ、分かったよ!!」
自分でまいた種だ。文句は言えないと宍戸は怒りながらも頷く。怒った顔も恥ずかしがっ
ている顔も可愛いと跡部は口元を緩ませる。そして、四個目のチョコに手を伸ばした。
「あっ!!ちょっと待てよ!まだ心の準備が・・・・」
「俺は早く六個目が食べてぇんだ。さて、次は何してくれるんだろうなあ?宍戸。」
「う〜。・・・・跡部のアホ。」
「アーン!?誰が・・・っ」
ボソっとぼやいた宍戸の言葉が耳に入り、跡部は怒ろうとするのだが、目の前で、宍戸は
結んでいた髪を下ろし、着ていたパーカーを脱ぎ始めている。そして、さっきよりも色っ
ぽくなった状態で、顔を近づけ一言。
「今日は女の格好してやってんだから、優しくしろよ・・・」
四つ目はどうやらそういうことのお誘いらしい。一瞬固まってしまった跡部だが、そんな
誘いを受けたら、断るわけにはいかない。
「それは俺様の気分次第だな。その誘い乗ってやるぜ。」
ふっと自信満々に笑い、宍戸とチョコを抱いてベッドへと移動する。少し早すぎる気もす
るが、宍戸も心の中ではこういうことを期待していたのだ。あと二つをどうするか考えな
がら、宍戸は跡部の首に抱きつきキスをした。
氷帝学園高等部のレギュラー部室に来た二人は、周りに誰もいないのを確認すると中に入
り、鍵をしっかりと閉める。
「さすがにここは誰も来ねぇよな。」
「来ないやろ。にしても、やっぱここの部室は部室とは思えん雰囲気やな。」
豪華なソファに大きな本棚。何故かテーブルクロスのかかった低いテーブルがあったりと、
とてもテニス部の部室とは思えないほどの雰囲気だ。そんな部室のソファに座って、二人
はゆったりとくつろぐ。
「はー、何か誰も来ないって分かってんとすげぇくつろげるな。」
「ああ。あっ、そや。バレンタインのチョコレート用意してん。一緒に食べよう。」
「マジ?やった!今回はどんなの?」
「今年はチョコレートケーキや。姉貴に手伝ってもらって作ったんやけど、結構うまくい
ったんやで。」
「へぇ、マジでマジで!?見せて。」
岳人にせがまれ、忍足は持ってきたケーキの箱をテーブルの上に置く。箱を開けると、直
径が12cm程度の真ん丸のケーキが顔を見せた。
「おー、すっげー!超うまそー!!」
「そうか?それじゃ、早速食べるか。」
「おう!」
棚に入っているフォークを出してきて、忍足は再びポスンと岳人の隣に座る。ここはお決
まりのことをしてみようと、忍足はケーキをフォークで差すと一口大に切って岳人の口元
に持っていった。
「はい、あーん。」
「おっ、なかなかいい感じのことしてくれるじゃん。」
差し出されたケーキを岳人はパクッと口に入れる。生チョコクリームの甘さと中に入って
いるイチゴがピッタリマッチした味が口の中いっぱいに広がり、岳人は舌鼓を打った。
「うわあ、このケーキ超うめぇ!市販で売ってるのなんかより全然うまいぜ!!」
「ホンマに?俺もまだ味見してへんねん。ちょっと食べてみよ。」
岳人が絶賛するので忍足も自分で食べてみる。思った以上にうまく出来ていることに忍足
は満足気な笑みを見せる。
「確かに悪くない味やな。よかった。」
いつもと同じような笑顔なのだが、化粧の所為か今日はいつも以上に女の子っぽく見える。
そんな忍足の笑顔を見て、岳人はドキンと胸が高鳴る。
ドサっ・・・
気づくと岳人は忍足をソファの上に押し倒していた。突然の展開に驚く忍足だが、それほ
ど動揺はしていない。
「どないしたん?岳人。」
「いや、何か今の侑士見てたら無性に・・・・」
「まだケーキいっぱい残ってるで。」
「うん、分かってる。でも、今は侑士の方を食べたい。」
「率直な意見やなあ。でも、ま、今日はバレンタイン・デーやしな。」
くすくす笑いながら、忍足は眼鏡を自ら外す。雰囲気の変わったその顔を見て、岳人はさ
らにそんな気分が高まった。忍足の目にかかる前髪をかき上げ、岳人はマジマジとその顔
を見つめる。
「やっぱ、侑士は眼鏡外した方が可愛いぜ。」
「何やそれ?ベタな口説き文句やな。」
「別にそんな意味で言ったんじゃねぇよ。ただ思ったこと素直に口にしただけだぜ。」
「そっか。ケーキは俺を食うた後のデザートにでもすればええよ。せっかくいい雰囲気に
なったことやし、岳人がそないに俺のこと食いたい思うんやったら食ってもええで。」
「本当に?」
「ああ。今日はせっかくこんな格好してるんやから、めいいっぱい女の子っぽくしてやる
わ。ラブロマンス映画見まくってるから、そういうのは得意やで?」
「あはは、マジかよ?じゃ・・・」
可愛いことをポンポン言ってくる忍足に岳人はそっとキスをする。何度か繰り返されるキ
スの中、岳人の服をきゅっと掴み、忍足はいつもより高い声で岳人の名を呼ぶ。
「ん・・・岳人ぉ・・・・」
そんな忍足の態度と声にメロメロになり、岳人はもう我慢が出来なくなる。
「本当、今日の侑士可愛すぎ。俺、もう我慢出来ねぇ。」
「わー、岳人ってばオオカミみたいやなあ。俺はそれでも構わんけど、あんまり激しくせ
んといてな?」
「おう!今日の侑士は女の子みてぇだから、いっぱい優しくしてやるよ。」
笑いながらそんなことを言い合うと二人はもう一度、甘い甘いキスを交わし始めた。
鳳の家に到着した滝と鳳は、二人そろってガチャっと玄関のドアを開けた。
「ただいまー。」
「お邪魔します。」
「長太郎?おかえりー・・・って、あんた何て格好してるの?あっ、いらっしゃい萩之介
君。」
「えっ・・・?あっ!!」
今自分が女装してるということを思い出し、鳳は大慌て。どう誤魔化そうかあわあわしな
がら、姉に言い訳をしようとする。
「えっと、これは、先輩達がしようって言って・・・その・・・・」
「あー、断れなかったわけね。でも、なかなか似合ってるじゃない。その身長のわりには
全然違和感ないわよ。」
「そ、そうかな・・・?」
「いつまでもそんなとこにつったってないで、早く上がっちゃいなさいよ。あとでお茶で
も持ってくわね、萩之介君。」
「はい、ありがとうございます。」
鳳の姉は礼儀正しく綺麗な顔立ちの滝がかなりお気に入りだった。そんな滝が遊びに来た
ということで、かなりご機嫌な様子で鳳の姉はキッチンの方へパタパタと入っていった。
「じゃあ、滝さん、上がってください。」
「うん。お姉さん、相変わらずだね。」
「そうなんですよ。見かけは結構おとなしめに見えるんですけどね。」
苦笑しながら鳳は滝を連れて、自分の部屋へと向かう。滝を部屋に迎え入れると、クッシ
ョンを敷いて座らせる。
「はー、何か慣れない格好すると疲れますね。」
「でも、本当にその格好似合ってるよ。可愛い。」
「そうですか?ありがとうございます。」
滝にその格好を褒められ、照れ笑いを浮かべながら鳳は言う。そんな女の子らしい笑顔を
見ながら、滝はふとあることを思い出す。
「あっ、そうだ!」
「どうしたんですか?」
「今日、長太郎誕生日でしょ。だから、はい、これ。プレゼント。」
そう言いながら滝が鳳の前に差し出したのは、リボンのついた封筒であった。
「開けてみてもいいですか?」
「うん。」
その封筒を開けてみると、中には何かのチケットが二枚入っていた。そこに書かれた文字
を見て、鳳はぱあっと笑顔になる。
「うわあ、俺、このコンサートすごく行きたかったんです。でも、なかなかチケットが取
れなくて。ありがとうございます!」
「俺もちょうど行きたくてさ。こんなコンサート、一緒に行ってくれるの跡部か長太郎く
らいでしょ?でも、跡部と行くのも何だから、やっぱり長太郎と行きたいなあと思ってさ。」
二人が行きたいと言うコンサートは、クラッシックのコンサートのことだ。なかなか人気
があり、チケットを取るのは至難の業だった。それを一緒に行こうとプレゼントされたの
だから、鳳が喜ばないわけがない。
「すごく嬉しいです!!ありがとうございます、滝さん!!」
「どういたしまして。」
鳳がとても喜んでくれたので、苦労して取った甲斐があったと滝も笑顔になる。どちらも
かなり気分的にいい感じになったところで、ドアを叩く音が聞こえた。
コンコン
「はーい、何?」
「お茶持ってきたんだけど、入っていい?」
「うん。」
ガチャ
「どうぞ。あら、長太郎、随分嬉しそうな顔してるじゃない。何かあったの?」
「別に何でもないよ。」
「素直じゃないわねー。萩之介君、ありがとうね。あのチケット取るの本当に大変だった
でしょう。」
「聞いてたんじゃん!だったら、聞かないでよ!!」
「いえ、俺も長太郎と一緒に行きたいなあと思ってましたから。」
「こんな弟だけど、よろしくしてやってね。じゃ、お邪魔虫は消えまーす。」
「ちょっと、姉さん!!」
お茶とケーキをテーブルに置いていくと、鳳の姉は楽しそうに笑いながら部屋の外へ出て
いった。そんな二人のやりとりを見ていて滝も声を殺してクスクス笑った。
「おもしろいねー、お姉さん。」
「本当、困っちゃういますよ。あっ、滝さん、遠慮しないで食べてください。」
「うん。じゃ、いただきます。」
木苺の乗ったビターそうなチョコレートケーキを滝は一口口に運ぶ。そんな様子を鳳はじ
っと見ていた。
「どうですか・・・?」
「うん、おいしいよ。ケーキ自体の甘さは控えめだし、でも木苺は甘いし。」
「よかったあ。」
滝の美味しいという言葉を聞いて、鳳はホッとしたような顔になる。どうしてそんな反応
をするのだろうと、不思議そうな顔でフォークを咥えていると鳳が恥ずかしそうにその理
由を話した。
「そのケーキ、俺が作ったんですよ。本見てなんですけどね。今日はバレンタイン・デー
なんで一応作ってみました。」
「本当に?嬉しいなあ。じゃあ、もっと食べなくちゃ。」
鳳の手作りだと聞いて、滝はパクパクとそのケーキを食べる。美味しそうに食べる滝の顔
を見て、鳳は満足そうな顔になった。あまりにパクパク食べているので、唇の横にクリー
ムがついてしまっていた。それに気づいて鳳は自分の口を使ってパクっと取る。
「あっ、滝さん。クリームが口の横に・・・・」
ガチャン
「萩之介君、これ、私と母さんからのバレンタインのチョコ・・・・」
『あっ・・・』
「あらあ、お邪魔だったみたいね。失礼しました。」
何かいいものを見ちゃったというような笑顔で、鳳の姉はドアを閉めた。大変な場面を見
られてしまったと鳳は大パニック。
「あー、もう姉さん開けるならノックくらいしてよ!」
「あはは、見られちゃったね。」
「スイマセン、滝さん。」
「別に謝ることないよ。あのさ、長太郎。」
「はい。何ですか?」
「今日の夜ね、そういうことしたいなあと思ったんだけど、お姉さんやお母さんがいるな
らやっぱりしない方がいいよね?」
バレンタインならではのことがしたいが、この状況だと無理そうだなあと感じ、滝をそん
なことを鳳に尋ねる。ボッと顔を赤くしながら鳳は、ボソボソと何かを呟いた。
「えっと・・・あの・・・」
「うん。」
「俺的には、すごくしたいんですけど、やっぱヤバイですかね?」
「それは長太郎が決めることだよ。俺が決めちゃうのもよくないでしょ。今日は長太郎の
誕生日だしさ。」
「それじゃあ、みんなが寝静まったころにしましょう。バレないように。」
「うん。分かった。じゃあ、そういうことは夜のお楽しみってことで。」
「はい・・・」
鳳からしたいと言ってくれたので、滝はニンマリと顔を緩ませる。バレンタインと誕生日
が重なった夜。なかなか楽しいことになりそうだと滝も鳳もドキドキしながら、残ってい
るケーキを食べ始めた。
公園に来たジローと樺地は、いつものお昼寝スポットに腰を下ろして日向ぼっこをしてい
る。その暖かさにやられ、ジローはすっかりスリーピングモードだ。
「ふあー、ここやっぱ気持ちE〜。超眠くなってきちゃった。」
「ウス。」
「なあ樺地。膝枕して〜。」
「ウス。」
やはり、いつものノリで膝枕をねだる。もちろん樺地は拒むことなくいつものように膝枕
をしてやった。
「今日の樺地の服ふわふわ〜。超気持ちE〜し。」
ジローにそう言われ、樺地はそういえば今自分は女の子の格好をしていたんだということ
を思い出す。それが何だか恥ずかしくて、樺地はほんの少し頬を赤らめた。
「どしたの?樺地。」
「別に・・・何でもありません。」
「あっ、そーだ!今日はバレンタインだから、樺地にチョコのプレゼントー。」
そう言いながらジローは鞄に入っていたポッキーを樺地の口元に差し出す。ちょっと驚い
たような顔をするが、その後はふっと微笑んで樺地は差し出されたポッキーを食べた。
「樺地、やっぱ笑った方が可愛いって!今の顔とか本当可愛いぜ!」
「そんなこと・・・ないです・・・」
「そんなことなくねぇって。跡部の前じゃそんなふうに笑わねぇだろ?」
「ウ、ウス。」
「へへー、じゃあ樺地のそんな顔知ってんのは俺だけなんだな。なんかうれC〜。」
自分だけが見られる樺地の笑顔、それが何だか嬉しくてジローはニヒヒと笑った。ジロー
にそう言われ、樺地は確かにこんなに素直に笑うことが出来るのはジローの前でだけでだ
なあと気づく。
「ジローさん・・・」
「何?」
「これ、自分からのバレンタインチョコです。ちょっとかぶっちゃってるかもしれません
が・・・・」
樺地は自分で買ってきたムースポッキーをジローに渡す。作ってもいいかなあと思ったが、
ジローの好みを考えるとこっちの方がよいと思ったのだ。大好きなムースポッキーをもら
い、ジローは素直に喜ぶ。
「マジマジ!?やったー、バレンタイン限定のムースポッキーだあ。サンキュー、樺地。」
「ウス。」
もらったムースポッキーを早速開け、ジローはそれを食べ出す。よく寝転がったまま食べ
られるよなあと感心していると、ジローはチョコレートのついていない先端を口に咥え、
笑顔で服を引っ張ってくる。
「はへへ(食べて)。」
「えっ・・・」
食べろと言っているのは分かるが、まるでポッキーゲームをするような形で食べるのはな
かなか恥ずかしい。しかし、ジローがわくわくとした瞳で見つめてくるので、樺地は食べ
ざるを得なかった。
「ウ、ウス。」
顔をかがめて、チョコクリームのついたポッキーの先端を咥える。次の瞬間、パッと逆側
の先端を離され、その代わりに頬に唇が当たるのが分かった。
「・・・・・」
「へへへ、チューしちゃったvv」
「なっ・・・ジローさん・・・」
「あはは、樺地照れてるー。かわE〜♪」
いきなりそんなことをされれば、こうなってしまうのは仕方がないと樺地は黙ってしまう。
しばらくそんな反応を見て、くすくす笑っていたジローだったが、いつの間にか静かな寝
息を立てて眠ってしまった。
「寝ちゃってる・・・」
本当に自由奔放な人だなあと思いながら、樺地はまた微笑む。2月とは思えないほどのポ
カポカとしたひだまりの中、樺地は何とも言えないふわふわした気持ちで、ジローの寝顔
をいつまでも眺めていた。
それぞれのバレンタイン。いつもとは違う乙女度満点の彼女側の積極性が、甘い甘いバレ
ンタインの楽しみを作るのであった。
END.