合宿所の大浴場で、四天宝寺の数人が入浴していた。たまたま入るタイミングが一緒にな
った千歳、銀、白石は、洗い場に横に並んで座り、それぞれ髪や体を洗っている。そこへ
湯船に入っていた金太郎がやってきて、白石に飛びつく。
「白石ー!!」
「うわっ!!いきなり飛びついたら危ないで、金ちゃん。」
「ほんなこつ、白石と金ちゃんは仲良かね。」
「そりゃそうやで!ワイ、白石のこと大好きやもん。」
「はは、愛されとるなー、白石はん。」
こんなやりとりは日常茶飯事なので、誰も照れることなくそんな会話をする。困り顔で笑
いながら、白石が身体を洗っていると、金太郎は白石に抱きついたままで、隣に座ってい
る銀と千歳のある部分をじっと見ていた。
「どないしはった?金太郎はん。」
「銀と千歳は体もでっかいけど、ちんちんもでっかいな!」
『っ!!??』
「ちょっ、金ちゃん!!」
見たままを口にする金太郎の言葉に、白石は笑いを堪えながら注意をする。困ったような
表情を浮かべながら、銀と千歳は顔を見合わせる。
「金ちゃんはほんなこつ小学生のごたる。」
「まあ、去年いうか今年の初めはまだ小学生やしな。」
「せやけど、改めて見ると金ちゃんの言う通り、銀も千歳も平均以上というかホンマ大き
いよな。」
「白石まで何言うとっとね。」
銀と千歳の腰元に視線を向けながら白石も金太郎と似たようなことを言い出す。金太郎が
言うなら仕方ないと思えるが、白石がそれを言うのはさすがにと千歳も銀も呆れる。
「・・・いや、ホンマ財前も橘くんもすごいな。」
しみじみとそんなことを言い出す白石に、銀と千歳の顔は赤くなる。
「財前と金髪の兄ちゃんがすごいってどういうことや?銀と千歳の話やろ?」
「な、何でもなかよ!!金ちゃん!!」
「白石はん、金太郎はんのいるところでそないな話はよくないで。」
「あっ、金ちゃん、向こうに越前くんがいるで。」
「ホンマに!?コシマエー!!」
少し離れた場所に越前がいるのを見つけ、白石はそんなことを言って金太郎をこの場から
離れさせる。
「いや、だって通常時でそれやろ?そういうときはもっと大きくなるって考えると、正直
メッチャ痛そうって思ってまうんやけど。ほら、金ちゃんはそこまでやないし。」
金太郎が離れたことで、白石は素直に思っていることを話す。白石の言葉を聞いて、千歳
はしばし考える。
「うーん、確かに初めは少し痛そうな感じはあったばってん、何度かしてればそこまでで
はなかち思うばい。」
「まあ、橘くんはな。ケンカとかも強そうやし、男らしいから痛みとかには強そうやと思
うんやけど。財前は・・・」
「そもそもにして、銀さんがそういうことしてるいうんがいまだに信じられんばい。」
かなり気になることだと、白石と千歳は銀を見る。白石の言葉を聞いて、銀は黙ってその
ときの財前を思い出す。自分が覚えている限りでは、痛そうにしているところは見たこと
がない。そういうときの財前のことを考えてしまったため、銀は図らずも反応しそうにな
ってしまう。ここでそれはまずいとシャワーで水を出し体に浴びる。
「ヌン。」
「うっわ、急にどないしたんや!?」
「冷たくなかと?銀さん。」
当たる飛沫がかなり冷たいので、白石も千歳もかなり驚く。
「そないな話は、ここではアカンと思うねん。ただ、さっきの話やが、痛そうにしてるよ
うなところは見たことない気がするな。」
熱くなる顔を冷やしながら、銀はそんな話をする。それはすごいと白石と千歳は目を丸く
する。
「へぇ、財前すごいな。そないに痛みに強いタイプには見えへんけど。」
「ほんなこつ痛くなかか、痛いのも好きか・・・どっちかね?」
「実はえらい我慢しとるとかやないとええんやが・・・」
白石の言った痛そうという言葉が引っ掛かり、銀は心配になってくる。それならば、自分
もそうかもしれないと千歳も少し不安になる。
「白石ー、一緒に湯船入ろうやー!!」
と、リョーマとのやりとりを終えた金太郎が再度白石に声をかける。
「もう少しで洗い終わるからちょっと待っとってな。」
金太郎に声をかけられ、白石は慌てて体についている泡を流す。流し終えると、隣にいる
千歳と銀をおいて、白石は金太郎のいるところへ向かった。
「白石が変なこと言うけん、ちょっと心配になってきたばい。後で桔平に直接聞いてみる
か。」
「ワシも財前はんに確認したいが・・・急にこないなこと聞いたら怒られるやろか?」
「銀さんやったら大丈夫ばい。」
とりあえず、お風呂から出たら本人達に尋ねてみようと、千歳と銀はさくっと湯船に入り、
大浴場を後にした。
「銀さん達の部屋、今桔平おるかね?」
「どうやろなあ。たぶんおると思うが。」
大浴場から自室に向かっていると、途中で財前に会う。
「あっ、師範。と千歳先輩。」
「俺はついでな感じばいね。」
「そんなことないっスわ。というか、千歳先輩の部屋は過ぎとりますけど。」
「桔平のとこに行こうち思って。」
橘の部屋イコール銀の部屋だ。銀の部屋に行くのはちょっと羨ましいと、財前は自分も銀
の部屋に行きたいと言い出す。
「師範、俺も師範の部屋行ってもええですか?」
「ん?別にええけど・・・」
さっきの今で財前を前にし、銀はドギマギしている。三人で217号室に向かい、そのド
アを開けると中には橘しかいなかった。
「あれ?桔平しかいないとね?」
「ああ。千石は他の山吹のメンバーと出かけて、真田は風呂に入りに行ったぞ。」
「ちょうどよかったばい。聞いてくれんね、桔平。さっき風呂でな・・・」
銀や財前が部屋にいることなどおかまいなしに、千歳は大浴場で金太郎や白石に言われた
ことを話す。
「どぎゃん話しとるとね。」
金太郎は仕方ないにしても、白石までそんな話をしてくるとはと、軽く顔を赤らめながら
橘は呆れたようにそう呟く。
「ばってん、白石がメッチャ痛そうなんていうけん、実は桔平も痛いの我慢してるのかも
ち思って・・・」
「お前、石田や財前がいる前で何言って・・・」
「銀さんも同じこと言われとったとよ?」
「はっ?」
「ちょっ・・・千歳はん!!」
千歳と橘の会話を聞いていたので、財前は思わず聞き返すような言葉を漏らす。こんなと
ころで巻き込まれるとは思っていなかったので、銀は焦ったような反応を見せる。
「しかも財前が痛そうなとこ見たことないち言うとったし。」
「えっ・・・ちょっ・・・!?」
話の流れから痛い痛くないとはそういうときの話で、財前は顔を真っ赤にして銀を見る。
「銀さんもわりと大きいばってん、痛くないっちゅーことは、もしかして銀さんが初めて
じゃなかと?」
『っ!?』
千歳の言葉を聞いて、銀も財前も大きな衝撃を受ける。全くもってそんなことはないのだ
が、焦ったような様子で財前は否定する。
「な、何言うとるんスか!?アホなこと言わんといてもらえます?」
「ほんならなして大丈夫と?」
「千歳先輩には教えるわけないでしょ。師範、ちょっと来てください!」
銀に変な誤解をされるのは嫌なので、財前は銀をつれて部屋を出る。出て行く二人を見送
った後、橘は軽く溜め息をついて千歳をたしなめる。
「千歳、あんまり後輩をからかってやるな。」
「別にそぎゃんつもりはなかよ。」
「石田も困ってただろ?」
「本当のことしか言っとらんばい。それより、桔平は痛いの我慢してるとかなかと?桔平
は痛いのに、自分だけ気持ちよかなるんは申し訳なかち思って。」
そういうことをそんなに率直に聞いてくるのはどうかと思いつつ、橘は何と答えようかし
ばし考える。正直なところ、痛いと感じていたのは本当に初めだけで、今は基本的には痛
みよりも快感の方が上回る。それをそのまま伝えればよいだけなのだが、何となく恥ずか
しく、なかなか言葉に出来ない。
「・・・別にお前が心配してるようなことはなか。」
「ほんなこつ?」
「た、確かに初めてのときとか・・・あまり慣れてなかときは痛かったばってん、今は問
題なか。」
「それ聞いて安心したばい!」
それならばよかったと千歳はぎゅっと橘に抱きつく。
「お、おい、千歳・・・」
「桔平。」
「どぎゃんしたと?」
抱きつきながら肩に顔を埋めてくるので、橘は心配そうに声をかける。
「怒らんで聞いて欲しいばい。」
「だから、どぎゃんしたと?」
「・・・エッチしたかぁ。」
「っ!!」
会話の内容が内容だったので、千歳はそういう気分になってしまう。千歳にそんなことを
言われ、橘は顔を赤く染めつつ、千歳と同じ気持ちになる。しかし、ここは合宿所だ。そ
うしたいからといって、簡単に出来るものではない。
「気持ちは分かるばってん、ここは合宿所だからな・・・」
気持ちが分かると言われ、自分だけがそんな気分になっているわけではないことに気づき、
千歳は顔を上げ、才気煥発の極みを発動させる。
「今から2分後、1分間・・・」
「は?何で今、才気煥発の極みさせとっと?」
「廊下に誰もいないタイミングばい。その間で、空き部屋に移動するばい。」
たくさんの中学生メンバーがいるこの合宿所では、廊下に誰もいないタイミングなど、就
寝時間などを除いてかなり限られる。どうしても橘とイチャつきたい千歳は、才気煥発の
極みでそのタイミングを見計らった。
「移動する部屋は221号室。その隣はたぶん銀さんと財前が使ってるはずたい。」
「そぎゃんことまで分かると?すごいな。」
「よし、行くばい!桔平!」
「お、おう。」
その時間が来ると千歳は橘の手を引き、急いで部屋を移動する。千歳が予測した通り、移
動している間は廊下に誰もいなかった。さすがだなあと感心していると、トイレの隣の空
き部屋にさっと連れて行かれる。
「これで桔平と二人きりばい。」
空き部屋に入ると千歳はすぐに鍵をかける。そして、二段ベッドの下に橘を誘い、カーテ
ンを閉めた。狭いベッドの中で、かなりその気になっている千歳を前にし、橘はドキドキ
と胸を高鳴らせる。
「こぎゃんことしてバレないとね?」
「俺と桔平は夜いつも一緒に練習してるばい。今日も練習してるだけだと思われるだけた
い。」
「まあ、確かに・・・」
「桔平、してもよか?」
「しょんなかなあ。今日は特別練習ってことにするばい。」
何だかんだで橘もしたい気持ちはあるので、困ったように笑いながら千歳に向かって腕を
伸ばす。そんな橘をベッドに押し倒すと、千歳は嬉しそうに目の前の唇にキスをした。
千歳が言っていた通り、銀と財前は空き部屋である222号室にいた。暗いままのこの部
屋で、財前は部屋の鍵をかけ、銀の前に黙って立っている。
「すまんな、財前はん。怒ってはるよな?」
「・・・別に怒ってはないっスわ。」
「せやけど・・・」
怒っていないと言いつつも財前の声はいつもよりかなりテンションが低かった。もともと
そこまでテンションの高くはない財前の声色がそうなると、相当不機嫌か怒っているかの
ように聞こえる。
「師範は・・・」
「何や?」
「千歳先輩が言ってたことどう思います?」
「千歳はんが言ってたこと・・・どれやろ?」
「俺にとっての初めてが師範じゃないって話です。」
財前の口からその言葉を聞いて、銀の心臓はドキンと跳ねる。違うとは思っているものの
もし本当にそうだとしたら、ショックであるのは間違いない。
「財前はんのことやから、ワシが口出せることやないとは思うが・・・ちょっと、いや、
かなり・・・ショックやなと思う。」
「何でですか?」
「うーん、言葉にするのは難しいんやが・・・財前はんが他の者とそないなことしたこと
あるんが、嫌やなと思て。こない独占欲みたいな気持ち、煩悩中の煩悩やと思うんやけど。」
銀の言葉を聞いて、財前は銀に気づかれないように口元を緩ませる。表情を戻すと財前は
銀にぎゅっと抱きつき、上目遣いで銀を見上げる。
「そこは心配せんでもええです。後にも先にもあんなことするんは、師範だけっスわ。」
「そうなんか。」
ホッとしたような表情になる銀を見て、財前の胸は高鳴る。そして、銀の心配していたこ
と、そのときに痛いか痛くないかについて話し出す。
「それから、師範の心配してることも全然平気っスから。確かに師範のは俺も大きいなと
思いますけど、別に痛いとは思わないっスわ。」
「ホンマか?我慢してたりせぇへん?」
「我慢なんてする柄じゃないんで。初めからある程度平気だったんは・・・まあ、ネット
とかで見て、ちょっと興味本位でそっち側も自分で弄ったことがあるっちゅーか・・・そ
れが思いのほか良くて・・・って、感じっスわ。」
「・・・・・」
かなり恥ずかしい告白をしているのは分かっているが、銀がかなり気にしている上、他の
人としたことある疑惑を千歳が出していたこともあって、財前はそんなことを話す。思っ
てもみない財前の話を聞いて、銀の顔は真っ赤に染まる。
「これで師範の心配しとったこと、解決しました?」
「えっ・・・あ、ああ。せやな。」
「さすがにこないな話聞いたら、引きますよね。」
「そないなことあらへん。」
「・・・人よりそーいうこと好きなの自覚しとるんスけど、それは師範相手のときだけな
んで。せやから、俺のこと嫌いにならんといてください。」
さすがに引かれるようなことを話し過ぎたと、財前は少し不安げな表情を浮かべ、そんな
ことを口にする。しっかり抱きつかれている状況と、思ってもみない告白、そして、嫌い
にならないで欲しいと懇願する表情。どれも銀には刺激が強すぎた。ドキドキと鼓動が速
くなり、下肢の熱が反応してしまう。
「嫌いになんてなるわけないやろ。むしろ、ワシの方が謝らんといかんな。」
「さすがにこの状態だと丸分かりっスね。」
銀の熱が下腹に当たるのを感じて財前はクスっと笑う。何とかそれを鎮めようと、財前の
体を抱き締めながら、銀は般若心経を唱え出す。
「ちょっ・・・何でこの状況で般若心経なんスか。」
「いや、少しでも鎮めよう思て。」
銀の声で般若心経が紡がれるのを聞くのは好きなので、しばらくそのまま聞いていたのだ
が、銀の熱は治まることはなくよりその主張を増していく。
「師範、やっぱアカンっスわ!」
「えっ!?何でや?」
「師範の全然治まらんし、こないな状況続いたら、般若心経聞いて反応する感じになって
まう。」
そんな財前の言葉を聞いて、銀は般若心経を唱えるのをやめ、財前から手を離す。銀の腕
が離れると、財前は銀の手を引いて、もう少し部屋の奥へと移動する。
「このままやとお互い部屋に戻れへんし、今したいと思う事するのが一番手っ取り早いっ
スわ。」
「せやけど、さすがにそれは・・・」
空き部屋とは言え、ここは合宿所の部屋だ。合宿所でそういうことをするのは気が引ける
と銀は困惑するような表情になる。しかし、財前は引き下がらなかった。
「その状態じゃ、どう考えても部屋に戻れんでしょ。それに、師範のせいで俺も同じよう
になっとるんですけど。」
そう言われ、銀は素直に財前の熱のあたりに視線を向ける。嘘ではない財前の言葉に銀は
責任を感じてしまう。
(もとはと言えば、ワシがあないなこと言い出したからやしなあ。)
「財前はん。」
「はい。」
「なるべくバレんように、静かにするで。」
「誤魔化すのなら得意っスわ。」
銀がやる気になったので、財前はニッと笑って自信満々にそんなことを言う。使われてい
ないベッドのカーテンを開け、銀と財前はその中に入る。部屋の鍵はかけているものの、
念のためベッドのカーテンも閉め、二人はこっそりキスをした。そして、熱くなってしま
った熱を鎮めるために、そっと身体を重ね合わせた。
事が終わると、銀と財前、千歳と橘は部屋から出る。ちょうど同じタイミングでどちらも
廊下に出た。どちらのペアもスッキリした表情で、互いの顔を見る。何をしていたかなど
聞かなくても分かるので、お互いに深く追求はせず、それぞれ自分の部屋へと戻る。次の
日からしばらくの間、『空き部屋からお経が聞こえる』『幽霊の声が聞こえる』といった噂
が立ったが、それはまた別のお話。
END.