221号室の二段ベッドの下で、千歳と橘は幾度も口づけを交わす。ここが合宿所の部屋
だということが、いつもとは違う緊張感をもたらす。
「ハァ・・・千歳・・・」
「桔平、ほんなこつむぞらしかぁ。」
どちらもドキドキと胸を高鳴らせながら、お互いの顔を見る。千歳の言葉に軽く頬を染め、
橘は千歳から視線を外す。
「桔平、こっち見なっせ。」
「恥ずかしか・・・」
「まあ、こぎゃん場所でこぎゃんこつするんはなかなかスリルがあるばい。」
くすくす笑いながら、千歳は橘の穿いているものを全て脱がしてしまう。
「ちょっ・・・千歳っ!!」
「桔平のココ、やらしか形になっとるばい。そぎゃん時間もかけられんし、俺のと一緒に
してもよか?」
「えっ・・・?」
「こういうことばい。」
千歳自身も下に穿いているものを脱いでしまい、ある程度高まっている自身の熱を橘の熱
に重ねる。そして、どちらの熱もその大きめの掌に収めるようにぎゅっと握る。
「うあっ・・・」
「桔平のも熱かねー。ちゃんと気持ちよくさせるけん、任せて欲しか。」
自分の熱が橘の熱に触れていることにドキドキしながら、千歳はその手を動かし始める。
敏感な熱同士が擦れ合い、手だけでするのとはまた少し異なる快感が生まれる。
「あっ・・・ち、千歳っ・・・・」
「ハァ・・・これは思った以上に、気持ちよか・・・」
「んっ・・・ああっ・・・ふっ・・あ・・・・」
熱の先からじわじわと蜜が溢れ出し、千歳の手の滑りをよくする。次第に濡れていく熱は
より感度を増し、二人の呼吸を乱していく。だんだんと強くなる快感に、千歳はより強く
熱を握り、激しくその手を動かす。
「うあっ・・・千歳っ・・・そぎゃん強くされたら・・・!!」
「ほんなこつたまらんばい・・・桔平も気持ちよかろ?」
千歳のそんな言葉に橘はこくこくと頷いて答える。ほどなくして、橘は限界を迎える。
「ハァ・・・も・・・あからんっ・・・千歳っ・・・!!」
千歳の肩を掴みながら、橘はビクンとその身を震わせ、熱く濃い蜜を溢す。そんな橘の声
や表情、触れている掌から伝わる熱の動きに興奮し、千歳も橘とほぼ同時に達する。
「ハァ・・・桔平と俺ので手べたべたばい。」
「それは・・・しょんなか・・・」
「ばってん、ココ弄るには都合よかよ?」
恥ずかしそうにしながら息を乱している橘の双丘の奥につつっと指を移動させながら、千
歳はそんなことを呟く。ぬるぬるに濡れた指でそこに触れられ、橘の下肢はビクンと跳ね
る。
「桔平、ビクッてしよる。むぞらしか〜。」
「せからしかっ・・・するんやったら、早よせぇ・・・」
「そぎゃんココを弄って欲しいと?しょんなかなー。」
からかうような口調で千歳はそう言いながら、くぷんと触れている蕾の中に指を入れる。
二人分の精液は潤滑剤の役割を果たし、千歳の指をスムーズに橘の中へと運ぶ。
「んっ・・・」
「おっ、わりと簡単に入るばい。」
「んんっ・・・ちょっ・・・そぎゃんいきなり奥に・・・」
「桔平、このへんが好きち思うばってん、間違うとる?」
「あっ・・・ああぁっ・・・!!」
奥に入れた指を動かし、千歳は橘の弱い部分を責める。あからさまに良い反応を見せる橘
に千歳はニヤリと笑って、濡れた音を立てながらそこを執拗に弄る。
「ひあっ・・・あっ・・んっ・・・そこばっか・・・やめっ・・・・」
「んー、ばってん桔平たいぎゃ気持ちよさそうな顔しとるばい。」
「う・・ぁっ・・・ちとせっ・・・!!」
甘く濡れた声で名前を呼ばれ、千歳はゾクゾクしながら橘の内側をほぐしていく。だいぶ
柔らかくなったと感じ、指を抜きながらふと橘の顔に目をやると、千歳の心臓は大きく跳
ねる。今にも零れてしまいそうなほどに目に涙を溜め、快感と興奮で呼吸は乱れている。
暗くてハッキリとは分からないが、いつも以上に顔は赤く染まっているように見える。そ
して、涙の溜まったその瞳は、何かを伝えるかのように千歳の瞳を射抜いていた。
「桔平。」
「ハァ・・・千歳・・・」
「どうして欲しいか教えて欲しか。」
「っ!!」
「桔平・・・」
橘の耳元で千歳は妖しく囁く。身体がゾクゾクと痺れ、顔が熱くなる。胸の高鳴りを抑え
られないまま、橘は口を開く。
「お前のを・・・早く、・・・・れて・・欲し・・ぃ・・・」
「最後の方が聞き取れんばい。もっとハッキリ言ってくれんね。」
分かっているだろうと橘は千歳を睨む。しかし、黙っている限りは千歳は何もしようとし
ない。こんな状態は耐えられないと、橘は千歳の首にぎゅっと腕を回し、顔を引き寄せる
ようにして、耳元で呟いた。
「千歳・・・さっさと挿れろ・・・・」
そんなことを耳元で囁かれ、千歳はドキンとしながらも顔を緩ませる。橘の脚を大きく開
くと、その中心に熱く滾る楔を押しつけ、その身を進めた。
「うあっ・・・ああっ・・・!!」
その瞬間、橘の口から堪えきれない甘い声が漏れる。悦んでいるいるかのようにぎゅうぎ
ゅうと締めつけてくる橘の中を堪能しながら、千歳は熱い吐息を漏らす。
「そぎゃん挿れて欲しかったと?」
「お前がっ・・・焦らすから・・・・」
「ばってん、桔平ん中、たいぎゃ気持ちよか。この感じ大好きばい。」
「俺も・・・」
「何て?」
「俺も・・・お前と繋がってるこの感じ・・・好きばい・・・」
ぎゅっとしがみつかれているため顔は見えないが、橘のそんな言葉を聞いて千歳の胸はき
ゅんきゅんと高鳴る。
「そぎゃんむぞかこつ言われたら、加減出来なくなるとよ?」
「構わん・・・好きにしたらよか・・・」
「桔平は声抑えめにな。一応、合宿所やけん。」
「・・・分かっとる。」
橘が頷くのを確認すると、千歳は大きく動き出す。自らも気にするほどに大きな熱で内側
を擦られ、橘は思わず声を上げてしまいそうになる。
「んっ・・・ふあっ・・・・!!」
「気持ちよかね?」
「気持ちよか・・・良すぎて・・・声、やっぱり・・・我慢出来ん・・・」
「やったら、こうしておけばよか。」
しがみついている橘の腕を緩めさせると、千歳は自らの唇で橘の口を塞ぐ。そして、その
まま橘のさらに奥を堪能する。
「んっ・・・んんっ・・・んんっ・・・!!」
あからさまな声は出なくなったが、ほんの少し開いた唇の隙間から漏れるくぐもった声が
千歳の耳に響く。これはこれで堪らないと、千歳は橘の味を存分に味わいながら、好きに
動く。
「んんっ・・・ぁ・・・んぅっ・・・!!」
千歳の背中に回されている腕に力が入り、脚が千歳の腰を捉えるように絡みつく。そろそ
ろイキそうであることを察した千歳は、一旦唇を離し、橘に声をかける。
「桔平、どぎゃんしてイキたい?」
「お前の・・・奥に・・・欲し・・・・」
「ばってん、それだと中に出すことになるとよ?それでもよかね?」
「よか・・・なあ、千歳・・・早く・・・・」
もっと奥に来て欲しいと橘は色に満ちた顔でねだる。そんな橘が可愛くて仕方ないと思い
ながら、千歳は橘の最奥を突く。
「うあっ・・・んむっ・・・・―――っ!!」
思わず大きな声を上げそうになる橘の唇を千歳は再び塞ぐ。最奥を突かれ、橘は一際大き
くその身体を震わせて達する。それと同時に、心地よい橘の中で千歳もとろけるような多
幸感に身を任せて果てた。
(やっぱり桔平とするんは最高ばい。)
(後処理がちょっと面倒なんてこと、どーでもよくなるくらいよかったな・・・)
そんなことを考えながら、胸の鼓動が少し落ち着いてくるまで、二人はしばらく身を重ね
たままでいた。
千歳や橘がそんなことをしている隣の空き部屋では、銀と財前が二段ベッドの下の段で向
かい合っていた。
「師範。」
「何や?」
「師範のコレ、口でしたいんっスけどしてもええですか?」
銀の大きくなっている熱に軽く触れながら、財前はそんなことを言う。あまりに率直な提
案にドギマギとしながらも、銀は頷く。
「えっと・・・別に構わんで。せやけど、ワシも財前はんのしてやりたいと思うとるんや
が・・・」
「けど、あんまり時間はかけられないっスよ。」
「あっ、ほんなら、同時にしたらええんやないか?」
「同時にって・・・シックスナインみたいにするっちゅーことっスか?」
「確かそないな名前だった気ぃするな。」
思ってもみない銀の提案に財前はドキドキしてしまう。しかし、それが嫌かと聞かれれば
返事は否だ。むしろ、こんな場所でしたことのないことをするという状況にいつもとは異
なる興奮を覚える。
「師範がそれでええんなら、ええですよ。」
「嫌やったら嫌言うてもええんやで。」
「嫌やないです。むしろ、わくわくして、メッチャドキドキしてますわ。」
これから楽しいことが出来るというような表情で財前は笑ってみせる。そんな財前の表情
に銀はドキッとしつつも、さりげなく財前が下に身につけているものを脱がしてしまう。
「ちょっ・・・師範!」
「脱がさないと出来ひんやろ?」
「そうですけど・・・せやったら、俺も。師範、仰向けに寝てといてください。」
足に引っかかっているズボンと下着を引き抜くと、財前はそれらをベッドの下の方に置い
ておく。そして、仰向けに横になった銀の肩のあたりを跨ぐように膝をつき、銀の着物の
帯の下に手をかける。
「師範は着物なんで、出しやすいっスね。」
大きくなっている熱を下着の中から出され、目の前に何も身につけていない下肢を晒され
る。部屋の電気はついておらず、ベッドの下でカーテンも閉めているため、かなり暗いの
でハッキリとは見えないが、銀はその状況にかなり興奮していた。
「財前はん。」
「何です?」
「してもええか?」
「っ!!・・・はい。」
銀の言葉にドキドキしながらも財前は頷く。財前の了解も得たので、銀は目の前の財前の
熱にゆっくりと舌を這わせる。
「あっ・・・」
敏感な熱に与えられるあからさまな刺激に、財前は下肢を揺らし声を漏らす。銀に先手を
取られ、自分だけされるのは不公平だと、財前も目の前にある大きな熱をパクンと口に含
んだ。
「・・・っ!!」
声は上げないものの財前に熱を咥えられ、銀はビクッとその身を震わせる。負けていられ
ないと、銀も財前の熱をその口に収める。
「んっ・・・んんっ・・・!!」
銀の口の中の熱さと快感に腰を揺らしながら、財前は銀の熱をもっと奥まで咥え込む。
(師範のやっぱ大きい・・・せやけど、口ん中全部いっぱいになる感じ、好きやな。)
その大きさと熱さを堪能するかのように、財前は頭を上下に動かし、吐精を促すかのよう
に吸い上げる。あまりの気持ちよさにうっとりとしながら、銀も財前の熱に舌や唇を使っ
て刺激を与える。
(こないに気持ちええと、すぐに達してしまいそうや。ワシだけ先に達してしまうのもア
レやし・・・)
軽く呼吸を乱し、銀は自分だけ先に達しない方法を考える。うっすらと目を開けると、財
前の双丘が目に入る。このまま挿れるための準備もしてしまおうと、その双丘に手を添え、
利き手の指をその中心に入れる。
「んんっ・・・ちょっ・・・師範っ・・・!!」
思ってもない刺激に、財前は思わず口を離し、銀の方を振り向く。
「一緒にした方が気持ちええやろし、挿れたくなったらすぐに挿れられるやろ?」
「けど・・・両方されたら、そんなにもたへんです・・・」
「財前はんが上手すぎて、ワシもそないにもたへん。せやからこれでおあいこや。」
苦笑しながらそう言った後、銀は再び財前の熱を咥え、中に入れている指を動かす。
「ひあっ・・・ああ・・・んっ・・・!!」
このままだと自分だけ達かされてしまうと、財前も再度銀の熱を咥える。しばらくどちら
も夢中になって相手のモノを咥え、お互いに快感を与え合う。
(アカン、どっちもメッチャ気持ちええ・・・口ん中も気持ちええ感じして、ホンマそん
なにもたへん・・・)
(やっぱり財前はん、上手いなあ・・・気持ち良すぎや。)
どちらもこの上ない気持ちよさを感じながら、胸を高鳴らせる。程なくして、どちらにも
限界が訪れる。
「んぅっ・・・んっ・・・んん――・・・っ!!」
「・・・っ!!」
ビクビクと下肢を震わせ、どちらも相手の口の中に熱い蜜を放つ。放たれた蜜を少しも溢
すまいと、二人は口を閉じたまま、その雫を飲み込んだ。大好きな相手の蜜が喉を通り、
自分の体の中に入っていく。その感覚が堪らず、二人はしばらく息を乱しながら、その感
覚に浸る。
(ホンマ、メッチャええ気分や。)
(一回達ったけども、やっぱり財前はんと繋がりたいなあ・・・)
「ハァ・・・師範・・・」
体を起こし、財前は銀の横にペタンと座る。そして、銀の唇にちゅっとキスをした。
「あっ、さっきまで師範の咥えてた口でキスしちゃってすんません。嫌っスよね?」
「いや、全然嫌なことないで。それ言うなら財前はんも同じやろ?」
「確かに。別に全然嫌やないっスわ。」
くすくすと笑いながら、財前はそんなことを口にする。笑っている財前の顔はやはり可愛
らしいなあと思って眺めていると、少し恥ずかしそうな表情でうつむきながら、着物の袖
を掴まれる。
「あの・・・」
「何や?」
「師範が後ろの方も弄っとったんで、メッチャ挿れて欲しいんスけど・・・ええですか?」
少し驚いたような反応をしながらも、銀は優しく笑って頷く。
「ええで。ワシもそうしたいと思っとったところや。」
「ホンマですか?」
「ホンマや。」
「ほんなら・・・」
銀もそうしたいということであれば遠慮はいらないだろうと、財前は銀の腰のあたりを跨
ぎ、膝をつく。銀の着物の帯に手を置き、緊張しながら財前は銀の顔を見る。
「このまま挿れてもええですか?」
「えっ・・・だ、大丈夫やが、その感じでええんか?」
騎乗位のような体勢になっていることに、銀はドキマギとしてしまう。
「大丈夫です。ただあんまり慣れてはないんで、上手くいくかは分からないっスけど・・・」
「ゆっくりでええからな。」
「はい・・・」
大きく深呼吸をすると、財前は自分で双丘を広げ、銀の熱にゆっくりと腰を落とす。銀の
指で解されたそこは、しっかりと銀の熱を飲み込んでいく。
「ハァ・・・んっ・・・あっ・・・ふあっ・・・・」
「大丈夫か?財前はん。」
「んっ・・・大丈夫・・・っス・・・・」
「辛かったら無理せんでもええで。」
「そないに心配せんでも・・・ええですって。けど、師範のやっぱ大きいっスね・・・」
「やっぱり痛いんか?」
「いや・・・メッチャ気持ちええっスわ。」
ニっと口元に笑みを浮かべて、財前はそんなことを口にする。そんな財前の表情と言葉に
銀はゾクっとしてしまう。
「頑張って動きますけど・・・上手くいかんかったら、師範も手伝ってください。」
「もちろんや。」
「んっ・・・ハァ・・・師範っ・・・」
言葉通り、財前は銀の上で腰を揺らす。銀の熱が奥に入る度に財前のそこはぎゅっとその
熱を締めつける。自分の上で腰を身体を上下させ、艶めかしく喘ぐ財前の姿に銀は釘付け
になっていた。
「あっ・・・しは・・んっ・・・あ・・ぁんっ・・・」
「気持ちええで・・・ホンマに・・・」
「俺も・・・気持ちええです・・・」
「財前はん・・・少しだけ手伝ってもええか?」
「はい・・・」
財前の腰を掴み、銀は財前の動きに合わせてもう少し奥へ入るように腰を上げる。さらに
イイ場所に当たるようになり、財前は先程よりも甘い声を漏らす。
「ふあっ・・・ああぁんっ・・・!!」
「こっちの方がええやろ?」
「メッチャええです・・・さすが、師範や・・・」
「まあ、こないな感じやとすぐに達ってしまいそうやけどな。」
財前の弱い場所を何度も突くように銀は財前の動きを手伝う。あまりの気持ちよさに絶頂
感が一気に高まり、その動きはさらに激しくなる。
「ハァ・・・あっ・・・師範っ・・・俺、もう・・・」
「ワシもそろそろ・・・」
「んっ・・・ああぁ―――っ!!」
「くっ・・・ぅ・・・・っ!!」
一際大きく腰が動き、ビクビクと下肢が痙攣する。とろけるような快感の中、お互いの放
った滴の熱さを感じ、二人はしばらくの間お互いの顔を眺めていた。
軽く後始末をして、問題ないことを確認すると、銀と財前は身支度を整えて部屋の外へ出
る。部屋を出たところで、隣の部屋にいた千歳と橘に鉢合わせた。
『あっ。』
「銀さんと財前もお楽しみだったと?」
「べ、別にちょっと話してただけっスわ。」
「千歳はんと橘はんこそ、何でこないなとこにいるん?」
「いやー、あぎゃん話しとったけん、どうしてもしたくなって・・・」
「ち、千歳っ!!」
何を素直にぶっちゃけているのだと、橘は真っ赤になりながら千歳を叱る。まあ、そうだ
ろうなと予想していた銀と財前はくすっと笑った。
「財前は誤魔化してるばってん、ズボンの後ろ前が逆になっとーよ。他ん奴らに気づかれ
る前に直しておいた方がよかち思うばい。さっきはそぎゃんことなかったんに、不思議や
ねー。」
ニヤニヤとした表情でそんなこと指摘してくる千歳に、財前は慌ててズボンを見る。確か
に千歳の言う通り、ズボンは後ろ前逆になっていた。部屋着でかなり緩めのズボンであっ
たため、穿いた感じでは気づけなかったのだ。
「あっ!!」
「よく気づいたな千歳。」
「トイレで直してくるんで、師範や先輩らは先に戻っといてくださいっ!!」
真っ赤になって慌てた様子で財前はトイレに駆け込む。
「ここで待っているのも財前が可哀想だから、先に部屋に戻るか。」
「そうやな。」
「桔平と存分にイチャイチャ出来たけん満足ばい。桔平、銀さん、おやすみばい。」
銀と橘は同室のため、一足先に千歳は自分の部屋へと戻る。ご機嫌な様子で部屋に戻って
行った千歳を見ながら、銀と橘は苦笑する。
「全くあいつは・・・」
「千歳はんらしいな。」
「ところで、石田達は本当に話をしていただけなのか?まあ、財前のあの様子を見る限り
ではそうではないんだろうが。」
からかうような口調で橘は銀にそう尋ねる。困ったように笑いながら、銀は歯切れの悪い
言い方で答える。
「どうやろな。そこはまあ想像通り言うか・・・橘はん達のことも秘密にしておくから、
ワシらのことも他の者には黙っといてな。」
「はは、了解だ。」
そんな会話をしながら、銀と橘は217号室へと戻った。銀と橘が部屋へ戻ってからしば
らくして、財前がトイレから出てくる。
(先輩ら部屋に戻ったんやな。はあー、まだドキドキしとる。俺も部屋戻って、風呂でも
入りに行こ。)
もう一度ズボンが正しい方向になったかを確認すると、財前は205号室に戻る。205
号室では、日吉が机で本を読み、海堂が筋トレをしていた。戻ってきた財前を見て、日吉
と海堂はいつもとはちょっと違う財前の雰囲気に首を傾げる。
「どこ行ってたんだ?」
海堂の質問に財前は少し面倒くさそうに答える。
「別にちょっと自主練してきただけやで。」
「お前がこんな時間に自主練なんて珍しいな。」
本を読むのを一旦止め、日吉はそんなことを言う。いつもとは雰囲気の違う理由が気にな
り、ちょっと探りを入れたいと思っていた。
「自主練言うても大したことはしてへんけどな。」
「どんなことしたんだ?」
「師範と一緒にメンタルトレーニングや。」
確かに銀と一緒となれば、座禅を組んだり瞑想をしたりするのが容易に想像出来るので、
日吉も海堂もそれで納得しかける。
「お前、他の四天宝寺の先輩には結構冷たい感じだけど、石田さんにはわりとデレてるよ
な。」
「はぁ!?べ、別にそないなことあらへん!師範は他の先輩らと違うて、尊敬してて学べ
ることがぎょーさんあるから・・・」
日吉の何気ない言葉に、財前は顔を真っ赤にして慌てた様子を見せる。そんな財前に、日
吉と海堂はきょとんとしてしまう。
「じ、自主練して汗かいたから、風呂行ってくるわ!」
日吉と海堂の反応を見て恥ずかしくなった財前は、着替えを持ってそそくさと部屋を出て
行く。こういう反応を日吉は別の人物で見たことがあったし、海堂はどういうときにそん
な態度を取るか何となく理解出来た。
「なあ、財前の奴、本当に自主練してきただけだと思うか?」
「いや・・・たぶん違うと思う。」
「いつもとは雰囲気が違って見えたのはそういうことか。宍戸さんや忍足さんもたまにあ
あいう態度取ることあるもんな。」
宍戸や忍足にあるタイミングで会うと同じような態度を取られることを思い出し、日吉は
ほんの少し恥ずかしくなりながらボソッと呟く。
「えっ?」
「いや、何でもない。本当財前は石田さんに懐いてるよな。お前が乾さんに懐いてるみた
いに。」
「は!?な、何でそこで乾先輩が出てくんだよ?」
「さあな。さて、本の続きでも読むか。」
海堂が動揺しているのを後目に、日吉は再び本を読み出す。自分の読みが間違っていなけ
れば、財前をからかってやれるなと思いながら、日吉はくすりと笑った。
END.