ピーンポーン
「あれ?こんな時間に誰だろ?」
部屋で本を読んでいた滝は、インターホンが鳴ったのを聞き、玄関へ向かう。既に時計の
針は9時を回っている。こんな遅い時間に誰が訪ねてきたのだろうと不思議に思いながら、
滝は玄関のドアを開けた。
「はい、どちらさまですか?」
「あ、あの、遅くにすいません。」
「長太郎?どうしたの?こんな時間に。」
玄関の前に立っていたのは鳳であった。こんなに遅くに訪ねてくるとは珍しいと意外だと
いうような顔をする。
「えっと、今、少し時間ありますか?」
「うん。全然暇だけど。」
「ちょっと、俺と一緒に来て欲しいところがあるんですけど・・・・」
控えめに鳳はそんなことを言う。こんな時間に一緒に来て欲しいところとはどこだろうと
疑問に思いながらも、滝は軽く頷いた。
「いいよ。どこ行きたいの?」
「それは後で言います。」
滝が頷くと、鳳はホッとしたような表情になる。何か相談事でもあるのかなあというよう
なことを考えつつ、滝は暗い夜道を鳳と並んで歩き始めた。しばらく歩いて行っても鳳は
黙ったままでいる。いつもとは少し様子の違う鳳を少し心配しながら、滝も何も言わずに
歩き続けた。
鳳が滝を連れて来た場所は、民家から離れ、今の時間は全く人気のない河川敷であった。
こんなところに来て、何をするのだろうと不思議に思いながら、滝は鳳が何かを言うのを
待つ。
「いきなりこんなところに連れてきちゃってゴメンナサイ。」
「別に平気だよ。でも、どうしたの?こんなところに連れてきて。」
「今日って、滝さんの誕生日ですよね?」
「あっ・・・」
そういえばそうだったと、滝は今更ながら思い出す。今日が自分の誕生日であることなど
すっかり忘れていた。
「あー、そんなことすっかり忘れてた。」
「本当ですか?」
「うん。だから、長太郎、わざわざうちまで来てくれたの?」
「はい。本当は学校で出来たらよかったんですけど、どうしても二人きりがよくて。」
だから、こんな時間に外に連れ出す形になってしまったのだと鳳は弁解する。鳳は滝に誕
生日プレゼントとして、どうしてもプレゼントしたいものがあったのだ。
「そっか。」
「誕生日おめでとうございます、滝さん。」
照れる滝に向かって、鳳はニッコリと笑いながら祝いの言葉を述べた。今日始めて聞いた
その言葉に、滝は何だかどうしようもなく嬉しい気持ちになる。
「ありがとう、長太郎。」
「あの・・・俺からのプレゼント受け取ってもらえますか?」
「もちろんだよ。」
せっかくのプレゼントを受け取らないわけがないと、滝は笑顔で頷く。すると、鳳は持っ
てきていた鞄の中からあるものを出した。鳳が鞄から出したもの、それは艶やかな光沢を
放つバイオリンであった。
「形のあるものとどっちがいいかすごく迷ったんですけど、こっちの方が俺の気持ちが伝
わりそうだったから・・・」
「最近、長太郎が一生懸命練習してるって言ってた曲って・・・・」
「はい。これが俺からのプレゼントです。」
そう言いながら、鳳はその楽器を顎に当てた。ざわざわと草木が揺れる音だけが響くこの
静かな河川敷に、澄んだバイオリンの音がメロディーを奏で始める。
〜〜〜〜〜♪ 〜〜〜♪ 〜〜〜〜〜〜〜〜♪
秋が深まるこの季節にふさわしい静かで穏やかな音色。それは、滝の心に深く深く染み込
んでゆく。鳳は最近、部活の終わった後の音楽室でも家に帰ってもとあるバイオリン曲を
練習していると言っていた。それが、今自分のために奏でられているこの曲だったという
ことを知り、滝は心から感動する。
(うわあ、テレビで音楽をプレゼントされるとかは見たことがあるけど、あれって、こん
なに嬉しいことだったんだ。)
一生懸命バイオリンを演奏する鳳を見て、滝はあらためて自分は鳳のことが本当に好きな
んだなあと感じる。バイオリンを聞きながら感じる嬉しさ、幸福感、愛おしさは絶対に鳳
以外では感じられない、心の中で滝はそう確信する。そう思うと、今にでも強く抱き締め
てあげたいという衝動に駆られる。しかし、それは、演奏が終わるまで我慢だ。せっかく
鳳が今日まで練習してきた曲を途中で止めることはしてはいけないと、滝はその穏やかな
音色の心地よさに全身の感覚を傾けた。
〜〜〜♪ 〜〜〜〜・・・♪
風が消えるように曲が止まると、辺りは柔らかな雰囲気の静寂に包まれる。そんな中で鳳
はバイオリンを下ろし、照れ笑いを浮かべて滝にぺこりとお辞儀をした。
「そんなに上手くなかったかもしれないですけど、気持ちはいっぱい込めたつもりです。」
「ううん、そんなことない。すごく綺麗だったし、本当に心から感動した。」
あまりにも嬉しくて、いい言葉が出てこないと多少のもどかしさを覚えながらも滝は素直
な感想を鳳に伝える。それを聞いて、鳳も嬉しそうに笑った。
「気に入ってもらえてよかったです。」
「本当にありがとう、長太郎。すごく素敵な誕生日プレゼントだったよ。」
さっきしたかったことをここぞとばかりに滝は行動に表す。ありがとうの気持ちを込め、
ぎゅうっと鳳を抱き締める。しばらく黙ったままそうしていると、滝はもっともっと鳳に
触れたいという気持ちが次第に強くなってくる。
「あの・・・滝さん。」
「何?長太郎。」
「えっと、さっきのプレゼント以外に何か俺が今あげられるもので、欲しいものってあり
ますか?」
自分の心を見透かされているような質問に、滝は思わず苦笑する。今、鳳はバイオリンし
か持ってきていない。普通に考えれば、もう鳳があげられるようなものは一つもないのだ。
しかし、あえてあるとするならば・・・
「長太郎が今、俺にあげられるものだよね?」
「はい・・・。」
「俺、今、長太郎自身がすごく欲しい。」
肩に顔を埋めながら、滝はボソっと呟いた。ぴったりとくっついている体から、鳳の心臓
がドクンと速くなったのが分かる。きっと顔は真っ赤になっているに違いないと、そんな
ことを考えながら、滝は鳳の返事を待った。
「それも誕生日プレゼントとしてあげます。・・・・受け取ってください。」
相当緊張しているのか、その声は上擦っていた。本当に可愛いことを言ってくれるなあと
滝は顔を上げ、軽く鳳の唇に口づける。
「ありがとう。」
そう言うと、滝は鳳の手を引き、どこからも死角となっている橋の下へと移動した。
人影のない橋の下で滝は何度も口づけを繰り返す。気分が盛り上がると滝は鳳の服を脱が
しにかかる。
「本当に・・・こんなとこでするんですか?」
「うん。大丈夫だよ。ここならどこからも見えないから。」
「でも、声が・・・」
「長太郎のそういう声、俺は大好きだよ。今日は誕生日だから、たくさん聞かせて。」
耳元で響く滝の声が鳳に魔法をかけた。シャツの前を開いて、首筋から順に跡をつけてゆ
く。少しの痛みとそれを上回る気持ちよさに鳳は思わず声を上げる。
「んっ・・ぁ・・・」
「俺のだって印。いっぱいつけちゃった。」
「滝・・さん・・・・」
だんだんと熱くなってく体に鳳は呼吸を乱してゆく。ズボンの上から少しずつ勃ち始めて
いる熱をマッサージするように触れてやると、ヒクンと体を震わせ、さきほどより色っぽ
い声を出す。
「ひっ・・あ・・・」
「直接触ってなくても感じるんだね。もうこんなに大きくなってる。」
「あっ・・やぁん・・・・」
解すように揉みしだけばしだくほど、その部分は硬くなっていく。手に伝わるそんな感覚
を滝はじっくり楽しんだ。直接触られるときとは違う服が擦れる快感に、鳳は次第にその
高みへと追いつめられてゆく。
「やっ・・・滝さんっ・・・」
「このままじゃ、下着汚れちゃうね。どうする?脱がせて欲しい?」
「はい・・・汚れちゃうのは嫌です・・・・」
このまま達してしまい、下着が汚れるのは不快だと、切羽詰まった呼吸で鳳は言う。それ
ならと滝はズボンを下着を取り去ってしまい、露わになったそれに視線を落とし、ふっと
笑う。
「ふふ、本当にすぐにでも溢れちゃいそうだね。」
「やっ・・恥ずかしいですよ・・・見ないでください・・・」
ひくひくと先走りの蜜を溢れさせている鳳のそれを見て、滝は舌なめずりをする。もちろ
ん見ているだけで満足出来るわけがない。身をかがめ、蜜を舐め取るかのようにちゅっと
それにキスをする。
「あっ・・・ダメです・・・滝さんっ!」
「どうして?」
「んっ・・・そんなことされたら・・・出ちゃいます・・・」
「出していいよ。長太郎の全部が俺へのプレゼントなんだから。」
そう言いながら、滝は先程よりも奥まで咥え込んだ。そんなことをされれば、当然鳳は耐
えられなくなる。
「あっ・・・あぁんっ!!」
喉を仰け反らせ、鳳は滝の口の中に白い蜜を放つ。放たれたものを余すことなく飲み込む
と、滝はうっとりとして鳳を見上げる。
「ホント最高。ケーキなんかより全然イイ。」
「ハァ・・・ハ・・・本当ですか?」
「うん。」
「滝さん。」
「何?」
「俺、早く滝さんと繋がりたいです。」
「うん。」
「それが、俺が滝さんにあげられる精一杯のプレゼントですから・・・」
「長太郎・・・」
どうしてこういうときにこんなにも嬉しいことを言ってくれるのだろうと、滝はきゅんと
胸が熱くなる。早く繋がりたいのは山々だが、いきなり入れるのはさすがに無理だろうと
まずは指でしっかりと慣らす。感じるポイントを擦ってやれば、それだけ早くそこは解れ
ていくと、滝はそのポイントばかりを的確に捉え、刺激を与えた。
「あっ・・・あ・・ぅ・・・んぁ・・・」
「長太郎が痛いのは嫌だからさ、ちゃんと慣らさないと。」
「ひっ・・ぅん・・・あっ・・・滝・・さ・・・ん」
鳳の反応に滝も次第に耐えられなくなってくる。それを誤魔化すかのように滝は何度も鳳
の唇にキスをした。
「ふ・・・んん・・ン・・・」
「ハァ・・・長太郎。」
「んっ・・・ぅ・・滝さ・・・」
息をつく少しの合間にお互いの名前を呼ぶ。そんなことをして、十分に気分を高め合うと
二人はいったん口を離した。
「そろそろ大丈夫だよね?」
「はい・・・」
「俺も早く長太郎と繋がりたいよ。一つになって一緒に気持ちよくなろう?」
コクンと頷いて、鳳は滝の首にぎゅっと抱きついた。それを合図に滝は自身の熱を鳳の中
にゆっくり埋め込む。鳳の抱きつく腕の力が強くなるのを感じながら、滝はさらに奥へと
身を進めていった。
「うあっ・・・・」
「っ・・・ちょっと、キツイけどイイ感じかも。」
「んっ・・・あっ!!」
滝が動けば鳳はそれ相応の反応を返す。ゆっくりした動きをしばらく続けていくと、繋が
り合っている部分がじわじわと熱くなり、何とも言えない快感が二人の体を包む。
「あっ・・ん・・・滝さんっ・・・」
「長太郎・・・」
堪えきれず漏れる声はどちらもひどく濡れている。乱れる呼吸の中、鳳は必死で言葉を紡
ごうとする。
「滝さ・・ん・・・俺・・・・」
「何・・・?」
「俺・・・今すごく・・・嬉しいです・・・」
「ハァ・・どういうこと・・・?」
「滝さんが生まれた・・日に・・・こんなふうに一緒に・・・」
「うん。」
「一つになれて・・・すごく気持ちよくて・・・・」
「うん。」
「滝さんに喜んでもらえて・・・」
「長太郎・・・・」
もう何も言わなくてもいいと、滝は鳳に優しく口づける。じわりと胸に広がる温もり。言
葉がなくとも全てが伝わる。こんな幸せはないと滝は最高の微笑みを鳳に向けて、心を込
めて一言呟いた。
「ありがとう。」
その一言に全ての気持ちがつまっていた。その笑顔を見て、鳳は本当に滝に出会えてよか
ったと感じる。この日がなければ、自分は滝と出会っていない。体だけではなく、日だま
りにも似た暖かな心地よさを心の中で感じ、鳳は滝を全身で感じながら果てた。
「――――――っ!!」
「・・・・っ!!」
お互いの思いを全て放ったときの声は、夜風によって掻き消される。しかし、その思いは
確かに二人の心に刻み込まれるのであった。
火照った体が冷たい夜風によって冷やされる感覚を心地よく思いながら、滝と鳳は河辺寝
転がり、空に浮かぶ星々を眺めていた。
「綺麗だね。」
「はい。」
そんな星々を見ながら、滝はふと呟いた。
「もし、今日長太郎が俺んちに来てくれなかったら、俺、何もせずに誕生日を終えてたん
だなあ。」
「普通自分の誕生日忘れたりしないですよ。」
くすくす笑いながら、鳳はそんなことを言う。本当にどうして忘れていたんだろうなあと
滝もつられて笑った。
「でも、もうこれからは絶対にそんなことはないよ。」
「どうしてですか?」
「こんなにいい誕生日を過ごせたんだもん。絶対に忘れるわけないじゃん。」
キッパリとそう言いきる滝の横顔を鳳はじっと眺める。いい誕生日を過ごせたという言葉
が、鳳にとってはとても嬉しいことだった。思わず顔が緩んでしまう。そんな鳳を滝は見
逃さなかった。
「今日の長太郎、本当楽しそうな顔してるね。」
「当たり前じゃないですか。滝さんが生まれた日ですよ?」
「俺の誕生日、そんなに嬉しい?」
「はい!俺、これからも毎年、滝さんの誕生日祝うつもりですから。覚悟しておいてくだ
さいね!!」
「本当に?そりゃ嬉しいなあ。」
毎年祝う宣言をされ、滝は純粋に嬉しいなあと感じる。誕生日はある程度の年になると、
それほど嬉しいものではなくなると言うが、これなら毎年の誕生日が楽しみになると、滝
は来年の誕生日が今からすごく楽しみだと思った。
「俺も長太郎の誕生日は、しっかり祝ってあげるからね。楽しみにしててよ。」
「はい!!」
そんなことをお互いに約束し合うと、滝はふと腕時計に目を落とす。時計の針は11時半
を指していた。黙って家を出てきてしまったので、これはマズイと慌てて立ち上がる。
「うわあ、時間なんて全く気にしてなかった。ゴメンね、長太郎。」
「あっ、俺は大丈夫ですよ。先輩の家に泊まりに行くって親には言ってあるんで。」
「本当?てか、長太郎、初めから俺んちに泊まるつもりだったの?」
「いえ、こういうふうになってもいいようにと思って。」
照れながら鳳は言う。そんな鳳の言葉になかなかやるなあと滝は心の中で感心した。
「じゃあ、今日は俺んちに泊まっても何ら問題ないってことだね。」
「そうなりますね。」
「それじゃ、今日は一緒に寝よう。俺のベッドだとちょっと狭いけどね。」
「はい!」
素直に頷く鳳を本当に可愛いなあと思いながら、滝は鳳の手を取った。さすがに涼しくな
ってきたので、温もりが欲しくなったのだ。
「じゃ、帰ろうか。」
「そうですね。」
鳳も滝の手を握り返し、ニッコリと頷く。一年に一度の誕生日。そんな自分の誕生日をす
っかり忘れていた滝だったが、鳳のおかげで、それは心にも体にも嬉しいプレゼントがた
くさんの最高の誕生日となるのであった。
END.