Promise Ring

風もだんだんと冷たくなってきた9月の後半。家までの帰り道に跡部は宍戸にふとあるこ
とを頼む。
「宍戸、ちょっと手見せろ。」
「何でだよ。手相占いでもすんのか?」
「違ぇーよ。ほら、左手出せ。」
「???」
宍戸は意味が分からなかったが、跡部の言う通り左手を差し出した。跡部は宍戸の左手を
じっと見て、何度も触ったりしてあることを確かめる。
「よし。分かった。」
「さっきから何なんだよ、跡部?」
「んー、何でもねぇよ。あっ、29日空けておけよ。帰りに寄りたいとこがあるから。」
「ああ。別にいいけど。」
マジで何なんだろうな。29日は俺の誕生日じゃねーか。跡部に限って特別に何かしてく
れるってことはねーだろうなあ。
そう9月29日は宍戸の誕生日だ。跡部は宍戸のためにプレゼントを買おうと考えている。
そのためにさっきの行動がどうしても必要だったのだ。それは宍戸の誕生日から五日後の
自分の誕生日にも関わるとても重要なもので、今、宍戸にバレてはいけない。
「じゃあな、跡部。」
「ああ。また、明日。」
宍戸と別れると跡部はいったん家に帰り、そのあと、ある店に向かった。

宍戸の誕生日当日、跡部は部活が終わったあと宍戸を連れて、ちょっと高そうなレストラ
ンに入った。宍戸はあまりこんなところには来ないので、かなり緊張気味だ。
「跡部、何だよここ・・・。」
「結構、いいもの揃ってるぜ。好きなもの頼めよ。今日は俺の奢りだ。」
普段なら、いくらお金を持っていてもコンビニで買う程度のものは、必ず誰かに奢っても
らうような跡部が奢ってくれると言っている。宍戸は驚きを隠せない。
「えっ、いいのかよ。」
「だって、今日はお前の誕生日だろ?これくらいは当然だ。」
「さ、サンキュー。えっと、じゃあ・・・」
頼むものを決めようとメニューを見るが、宍戸にはさっぱりどれがどんな料理なのか分か
らない。カタカナの名前の料理がずらっと並んでいる。
「・・・・・。」
「決まったか宍戸?」
「跡部・・・全然分かんねぇ・・・」
やっぱりな、という表情で笑うと跡部はメニューを指さしてどんな料理かを説明しだす。
あまりにも詳しいその説明に宍戸はあっけにとられた。
「じゃあ、これがいい。」
「分かった。デザートはどうするよ?」
「チョコケーキが食べたいな。」
「いいぜ。俺もそうするか。」
跡部はウェイターを呼ぶと次々に注文を言っていく。あまりにもスラスラとその名前を読
み上げるので、ちょっと尊敬ーと宍戸は心のなかで思った。注文したものはそんなに時間
を置かずに次々と運ばれてくる。
「うわー、すげぇー。」
見たこともない料理を目の前にして、宍戸は目を輝かせている。ドキドキしながらそれら
を口に運ぶと、今までに味わったことのない、素直においしいと感じられる味が口いっぱ
いに広がった。
「どうだ?うまいか?」
「うん、うん。すっげぇーうまい!!」
うれしそうに口にほうばる宍戸を見て、跡部もうれしそうな笑みを浮かべた。
「なあ、跡部。お前が食べてるのも味見したい。」
「俺はこれが一番好きなんだ。うまいぜ。」
フォークで自分の食べているものをさすと、跡部はそのまま宍戸の口に運ぶ。あーんと口
を開けている宍戸は、餌を待つ小鳥のようでとても可愛いらしい。
「これも、おいしーな。」
「だろ?そうだ。宍戸、お前に渡したいものがあんだよ。」
「何?食い物?」
「んなわけねーだろ。ほら。」
跡部はカバンの中から、綺麗に包装された小さな箱を取り出し、宍戸に渡した。
「何だよコレ?」
首をかしげて宍戸は箱を軽く振ってみる。音は特にしないようだ。
「開けてもいいぜ。」
「じゃあ・・・」
宍戸は少々荒っぽく包みを開ける。中からは6cmくらいの紺色の箱が出てきた。ふたを
開くとそこには小さな白い石のついたシルバーのリングがちょこんと置かれている。
「指輪?」
「バースデイ・プレゼントだよ。ほら、俺とおそろい。」
跡部はもう一つの箱を取り出し、自分の分の指輪を見せた。もらった指輪を見つめながら
宍戸はふとあることが頭をよぎる。
これが誕生日プレゼントかよ。それも跡部とおそろいって・・・。ん、ちょっと待てよ。
跡部の誕生日は確か五日後だよな。この指輪相当高いんだろうな。俺、そんな金ねーよ。
どうしよう・・・。
「何だよ宍戸。うれしくねぇのか?」
跡部の誕生日プレゼントのことを考え、不安気な表情の宍戸を見て、跡部は不機嫌そうな
声で尋ねた。
「いや、こんな高そうなものもらって、跡部の誕生日どうしようと思って・・・。俺、こ
んな高価なもの買えねぇよ。」
宍戸がうれしそうにしない理由を聞いて跡部はくすっと笑った。
「別にお前にそんな高価なもの期待しねぇよ。でも、そんなに何かしたいなら、その指輪
はめるかなんかして俺の誕生日まで身につけてろよ。ちなみにそれ、左手の薬指に合わせ
て買ったからな。」
「左手の薬指って、それじゃあ結婚指輪か婚約指輪じゃねーか!?」
「ああ。そうだな。」
「そうだなって。それじゃ、はめろったって学校につけて行けねーじゃん。」
「何でだよ。別にいいじゃねーか。」
「嫌だ。うーん、じゃあ、鎖つけて首にかけるってのはダメか?」
「いいんじゃねぇ?とにかく身につけて欲しいだけだし。」
「分かった。じゃあ、そうする。」
もらった指輪を宍戸は身につけるために鎖をつけ、首にかけることにした。ついでに跡部
は自分用の指輪を宍戸に渡す。自分の誕生日に渡してもらうという条件でだ。一通りプレ
ゼントタイムが終わるとまた料理を食べ始める。宍戸はおなかいっぱいおいしい料理を食
べ終えると照れながらもうれしそうな笑顔で、跡部にお礼を言った。
「サンキュー、跡部。すっげー、うまかったぜ!」
「そうか。じゃ、もう帰るか。」
今回は、どちらかの家に泊まるということはなしでそれぞれの家に帰っていった。

次の日から宍戸は本当にあの指輪を首に下げ、学校に来た。もちろん、クラスの女子やテ
ニス部の部員にどうしたのかと尋ねられる。その度に適当な言い訳をして、何とか誤魔化
した。そして、10月4日。跡部の誕生日の日がやってきた。
「跡部ー、今日誕生日なんだろー?俺らからのプレゼント♪」
岳人と忍足はささやかながらも跡部にプレゼントを用意してきたのだ。
「あーん?プレゼント?まあ、一応もらっといてやるよ。」
「もっと、うれしそうにしろよー!!」
「あー、無駄やって。跡部は宍戸のプレゼントしか喜ばんから。」
「んなことねーよ。さあ、さっさと帰るか。」
跡部はテニス部の部室から出ていった。
「俺も帰るか。」
そのすぐあとに宍戸も部室を出る。わざとタイミングをずらして、一緒に出ようとしない
のが彼ららしい。校門で待っている跡部と合流し、二人は一緒に帰る。
「宍戸、ちゃんと例のもの持ってきたよな?」
「ああ。それより、今日お前んち行っていいのか?跡部の母さんって家族でパーティーと
かするの好きそうじゃん。」
「確かにそうだけど、別に問題ねーよ。お前結構母さんに気に入られてるしな。」
「へぇ、そっか。」
この時の時間はちょうど6時くらい。家につくとすでにたくさんのご馳走と豪華なホール
ケーキが用意されていた。どれも跡部の母の手作りらしい。
「ただいまー。」
「お邪魔します。」
「おかえりなさい、景吾ちゃん。あら、今日は亮君も一緒なのね。」
「こんばんは。あのお邪魔しちゃってもいいですか?」
「ええ。全然かまわないわ。」
跡部の母はにっこり笑って、宍戸を迎え入れた。リビングに入るとおいしそうな匂いが一
気にたちこめる。
うわあ、すげー。さすが、跡部んちだな。俺の誕生日の時とは大違いだ。あっ、でも、今
年は跡部に豪華な夕食奢ってもらったんだっけ。
「父さんは?」
「今日も仕事で遅くなるって。」
「ふーん。じゃあ、宍戸。先に夕飯食っちまおうぜ。」
テーブルのイスに宍戸を座らせると、まるでワインを思わせるような赤いジュースをグラ
スにそそいだ。
「何ソレ?ワインか?」
「んなわけねーだろ、バーカ。」
「じゃあ、何だよ?」
「ルビーグレープフルーツのジュースだよ。酒なんか飲ませられるか。」
「あー、そう。・・・でも、うまいな。」
ちょっと残念そうにしながら宍戸はそのジュースを一口飲んだ。酸っぱいがほのかに甘味
のあるそれは宍戸の舌にはちょうどよかった。
「料理の方も食べていいぜ。」
「そうか。えっと、じゃあ、いただきます。」
豪華な食事の後、二人はそれぞれシャワーを浴び、跡部の部屋に行く。今日は、二人とも
デザインが同じ青系のシルクのパジャマを着ている。宍戸は結局、跡部の家に泊まること
になったのだ。
「はあー、さっぱりした。跡部、このパジャマすごい着心地いいな。」
「そりゃそうだろ。シルクなんだから。」
「そっか。それより、この前の指輪ちゃんと持ってきたぜ。」
「じゃあ、それをさ・・・」
跡部は宍戸にそっと耳打ちをする。宍戸は赤くなりながら頷いた。二人はお互いに指輪を
左手の薬指にはめあった。まるで、擬似結婚式だ。
「似合うじゃねぇか。」
「跡部だって似合ってるぜ。」
「コレがやっぱ一番うれしいぜ。なあ、宍戸。」
跡部は学校でたくさんのプレゼントをもらったが、そんなものには見向きもせず、宍戸に
はめてもらった指輪に口づけをした。宍戸は恥ずかしがって、跡部から視線を逸らした。
「自分で買ったんだろ・・・。」
視線を落としている宍戸のあごをぐいっと上げ、今度は宍戸にキスをする。
「じゃあ、他に何かくれんのよ?」
何かを期待しながら、跡部は笑った。指輪の箱を彩っていた赤いリボンを宍戸は手に取り、
自分の首に軽く巻きつけた。そして、座っている跡部のひざの上に座り、耳まで真っ赤に
して小さな声で呟く。
「もらうなら、もらえよ・・・アホ。」
腕を首に回し、抱きついてきた宍戸を跡部はしっかりと抱き締める。宍戸がそうとう恥ず
かしいのを我慢してしていることだということが、触れ合っている部分から伝わる鼓動の
速さで分かった。
「最高のプレゼントだぜ、宍戸。」
今までにない幸せそうな表情で跡部は、思いっきり微笑んだ。

柔らかく触りごこちのよいパジャマのズボンをもう宍戸は身につけていない。ボタンも止
まっているものはない。
「今日は俺の誕生日だ。リップサービスくらいしろよ、宍戸。」
宍戸は軽く跡部にキスをして、うなずきながらクスッと笑う。
「しょうがねぇな。」
跡部が耳たぶを形をなぞるように舐めるとゾクゾクとした感覚が宍戸の背筋に走る。
「んっ・・・あぁ・・・」
耳からだんだんと下にさがり、首筋や鎖骨に唇を落としていく。ピンクの突起に舌が触れ
た瞬間、宍戸は一段と艶っぽい声を上げる。
「あっ・・・はぁん・・・あっ・・・・」
「どうだ宍戸。どうして欲しい。」
「うあっ・・ちょっとだけ・・・噛んで欲しぃ・・・」
素直に答える宍戸に対して、言われた通りに軽く跡部は歯を立てる。
「あっ・・・あぁっ・・・!!」
「いい反応だな。なあ、今日はすごい優しくしてやりたい気分なんだよ。いいよな?」
「いいぜ・・・お前にしては、珍しいな・・・」
「なんとなくそういう気分なんだよ。」
優しくしたいという言葉通り、跡部はいつもするような痛みを覚えるようなことはせず、
舌で軽く触れたり、指ですっと宍戸のスィートスポットを撫でるだけだ。だが、それだけ
でも充分に宍戸は気持ちよさを満喫していた。
「ハァ・・・あっ・・あん・・・はぁっ・・・」
「宍戸、ちょっと起き上がって、ひざで座れ。」
「何・・・で・・?」
「いいから。それから、足を軽く開いて俺の肩につかまってろ。」
「うん・・・これでいいか?」
「ああ。」
跡部は潤滑剤をたっぷりと手につけ、宍戸の疼き始めている蕾にゆっくりと指を入れてい
った。痛みが伴わないその感じに宍戸は思わず、腰を揺らす。
「んっ・・・うあっ・・・あ・・・」
「痛くないか宍戸?」
「だいじょ・・・ぶ・・・ふあっ・・・んん・・・!!」
「お前のイイとこってどこだっけかな?」
「知る・・・か・・・!・・・くぅんっ・・・」
「まあ、いいや。どっちにしろ気持ちよくしてやるから安心しな。」
どこだっけと忘れたふりをしながら、跡部はしっかりと宍戸の敏感なところを探りあて、
器用に指を動かし、慣らしていく。
「あっ・・・やぁっ・・跡部・・・」
「そんなに耳元で喘がれると、こっちまでおかしくなってきそうだぜ。」
「だってぇ・・・はぁっ・・・ん・・・」
「そういやお前まだ一回もイッてねーじゃん。後ろだけでイッみるか?」
「後ろだけって・・・マジで・・・」
「前、何にも触らないで、イカせてやるよ。」
「くっ・・・あぁ・・・うぁ・・あっ・・・・」
とにかく後ろだけを弄り、前には決して触らない。それでも、次第にほぐされていくそこ
を刺激されて、宍戸は今にもイッてしまいそうな感覚に駆られる。
うわあ、このままだとマジで後ろだけでイキそう。何か今日の跡部は異常に優しいから、
逆にドキドキして興奮しちゃうんだよなー。
「あと・・べ・・・もっ・・イク・・・・」
「イッちまえよ。しっかり、顔見ててやるから。」
「見なくて・・・いい・・!・・・ふっ・・あぁっ!!」
やっぱ、この時の顔はいいねぇ。普段は意外とまともには見れねーんだよな。だいぶ、ほ
ぐれてきたし、もうちょっとアレをしてもらえば痛くないように挿れられるかな?
肩に寄りかかって、息を荒くしている宍戸を支えながら跡部は近くの戸棚の引き出しから
ある物を取り出す。
「宍戸、イチゴとメロンとオレンジどれがいい?」
「はあ?」
「何味がいいか聞いてんだよ。お前が好きな味選べ。」
「えーと、じゃあ、イチゴ。」
跡部はイチゴの味がするコンドームの袋を破り、自分のモノにつける。宍戸に口でしても
らおうというのだ。だが、そのままやらせるのは今回の目的に反するので、宍戸の好きな
味でやらせようと考えた。
「これなら、文句なしにしてくれるだろ?」
「ああ。・・・マジで今日、跡部優しいな。」
軽く微笑みながら、宍戸は躊躇しないで跡部の熱を口に含む。その瞬間、イチゴの甘い香
りがふわっと口の中に広がった。
ホントにイチゴだ。跡部ってどうしてこういろんな種類のゴム持ってるんだろうな?普通
に考えたらすっごい変なことだけど、跡部のコレ、甘くてうまい・・・。
「ん・・・うっ・・・んん・・・」
「大丈夫か、宍戸?」
「っはぁ・・・全然大丈夫だぜ。つーか、跡部の甘くておいしい。」
「そうかよ。じゃあ、もうちょっとしゃぶってろ。」
イチゴ味のおかげで宍戸は思う存分、跡部のモノを味わうことができた。ある程度までく
ると宍戸にストップをかけ、いったん起き上がらせる。
「もういいぜ、宍戸。」
「えー、もうちょっとしてたかった。」
「後は下の口で味わえよ。」
この言葉を聞いて宍戸はほのかに頬を赤く染める。跡部は潤滑剤を自分のモノにも垂らし、
なるべく宍戸に負担がかからないようにした。そして、ベッドの頭の木の部分に寄りかか
り、腕を差し伸べながら言った。
「今日は騎乗位でいこうぜ。」
「俺が・・・上に乗れってこと?」
「そうだよ。これくらいできるだろ?」
これくらいできるだろったって〜。要するに自分で挿れろってことだろ?そんなの急に言
われても、メチャクチャ覚悟がいるじゃねえか。
いろいろと考えながらも、宍戸は跡部の足をまたいだ。だが、やはり腰は下ろせない。
「う〜、やっぱ・・・怖ぇーよ、跡部。」
不安気に目を潤ませる宍戸に優しくキスをして、跡部はそっと頭を撫でながら、柔らかい
口調で囁く。
「大丈夫だ。全然痛くもないし、怖くもねぇよ。しっかり支えててやるから、ゆっくり腰
下ろしてみろ。」
宍戸は思い切ってゆっくりと腰を下ろした。心配していた痛みや違和感は全くなく、すん
なりと自分の中に跡部が入ってくるのが感じられた。
「あっ・・・あぁっ・・・」
「いいぜ。もっと奥までいけるだろ?」
「うっ・・・うあっ・・・あん・・・」
何なんだよ、これ〜!?痛くもないし、体勢も楽だし、すっげぇ気持ちイイじゃん。どう
しよー、ヤバイよこれは。
「宍戸、大丈夫そうだったら自分で動いてみろよ。イイところに自分で当てんだ。」
「ふっ・・ハァ・・・あっ・・・くぅ・・・」
「そうそうその調子だ。お前、うまいぜ。こっちの方が楽だろ?」
「ああ・・・すっげぇ・・・イイ・・・」
「じゃあ、俺はこっちを弄んでやるよ。」
「やっ・・・あぁっ・・・跡部っ・・・」
前も弄られて、宍戸の身体に熱い波が一気に押しよせる。跡部もいつもとは違う感覚があ
るのを感じていた。
「あと・・・べ・・・もう・・・ダメッ・・・」
「俺も今日は何か、いつもと違った感じでちょっとヤベェな。」
「じゃあ・・・一緒に・・・イこう・・ぜ・・・」
「ああ。一緒に・・・な。」
二人はお互いに口づけを交わすと、同時に果てた。心地の良い満足感で全身が満たされる
のを感じて・・・。

時間はすでに0時をまわり、日付は変わっていた。二人は親を起こさないようにこっそり
とシャワーを浴び、パジャマに着替えてもう一度部屋に戻ってくる。
「疲れたか宍戸?」
「ああ。でも、大したことねぇよ。」
「そうか。」
疲れているが、それは二人とも嫌な疲労感ではなくどちらかといえば満足感に近いものだ。
二人はベッドに座り、カーテンの開かれた窓を見る。
「静かだな。」
「ああ。でも、虫の鳴き声は聞こえるぜ。」
「もうすっかり秋だよな。そういえばさ、跡部。この前から気になってたんだけど、この
指輪についてる石って何?」
「これか?これはムーンストーンだ。」
跡部はうっすらと差し込んでいる月の光をその石に反射させ、キラキラと輝かせた。
「ムーンストーン?」
「ああ。この石はな、月の満ち欠けによって輝きが変化するんだぜ。意味は『二人の幸福
・希望・愛・永遠』ってな感じかな。」
「へぇ。何か、こういうの俺に送るってすげーお前らしいな。」
「それだけじゃないんだぜ。この石のパワーは。一般的にはLOVE石って言われてて、
普段は身につけて、さっきみたいなことをする時に枕元に置いたり、つけてたりすると、
さらに盛り上がることができるっつー効力を持ってるんだ。」
「お前、だから俺に身につけてろって・・・・。主にそっちが目的だったんだろー?」
「違ぇーよ。俺は本当にお前が・・・・」
途中まで言いかけて、跡部は口をつぐんだ。宍戸は跡部の顔がうっすらと赤く染まってい
るのに気づいた。
「何だよ?跡部。」
「な、何でもねーよ。」
「言えよー。気になるだろー。」
「しょうがねえな。」
跡部は珍しく恥ずかしがって、宍戸の耳元で小さな声で言った。
「俺は本当にお前が好きで好きでしょうがねーんだよ。今日だって、16歳初めての夜に
お前と一緒に居れてすげぇ幸せって思ってる。こんなこともう絶対言わねーからな!!」
思ってもみなかった跡部の言葉に宍戸はメチャメチャ恥ずかしくなった。でも、やっぱり
うれしくて自然と笑みがこぼれる。
「何、笑ってやがんだ。」
「だって、跡部がそんなこと言うなんて思ってなかったからさ。」
「うるせー。あー、言わなきゃよかったー。」
「いや、マジでうれしい。俺も跡部のこと・・・・大好きだぜ。」
無邪気に微笑みながら言う宍戸を見て、跡部は思わず抱き締めた。こんなに可愛い表情を
見せられたら誰でもイチコロだろう。
「お前、可愛すぎ。他の奴らにそんな顔見せんじゃねーぞ。」
「何だよそれ。でも、安心しろよ。こんな表情見せられんのは跡部だけだから。」
跡部の腕の中で宍戸はもう一度さっきの笑顔で笑ってみせる。二度目の攻撃に跡部は再び
くらっとしてしまった。
「あー、来年もこんなふうに誕生日過ごせたらいいな。どう思う宍戸?」
「跡部がそうしたいなら俺は別にいいぜ。確かに楽しかった。いろいろとな。」
「じゃあ、約束。指きりの変わりに誓いのキスで。」
「お前、ムチャクチャだな。まあ、いいや。宍戸亮は来年も跡部景吾と誕生日を過ごすこ
とを約束します。」
「いいな、それ。跡部景吾も宍戸亮とこれからずっと誕生日を過ごすことを約束します。」
「これからずっとかよ。」
「いいじゃねえか。」
クスクスと笑いあいながら、二人は口づけを交わす。お互いの背中に回された手につけら
れたシルバーの指輪が金色の月の光に照らされ輝ている。このムーンストーンの瞬きが二
人の願いを叶えてくれるだろう。こうして夜は更けていった。

                                END.

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