とある街の一角。そこには同じ目的を持つ者が集まった一つのギルドがあった。しかし、
その目的はそのギルド内のメンバー以外には知られていない。彼らの目的は、ネガティブ
なエネルギーの調整と浄化。これはそんな彼らの一風変わった当たり前の日常の物語。
街の中心にある古書店の奥にある座敷で、各々特殊な能力を持った六人が集まり、雑談と
いう名の情報交換をしていた。
「で、今日は何かしなきゃいけねぇことはあるか?」
この古書店の店主である大曲はそこにいるメンバーにそう尋ねる。
「いつものように街を巡回していたところ、ボロボロの服を纏った幼い兄妹がいた。その
場で食べ物を与えたものの、怖がらせてしまったようだ。君島、対応をお願い出来るだろ
うか?」
「分かりました。あとで場所など詳細を教えてください。」
「ああ。」
「結構対応してるけど、なかなか減らねぇもんだな。」
「ある程度は仕方ないですよ。」
普段はこの街の門番兼巡回者として働いている越知は君島にそう伝える。君島は街の外れ
にある教会の神父であり、孤児を見つけた際の対応を担っていた。遠野は普段は仕立て屋
をしているが、それとは別の顔があった。
「ツッキー自体が対応する案件はあるん?」
「今日は二件ほどある。まだ猶予はありそうだが、早めに対応するに越したことはないか
らな。」
「俺らが対応した方がええとこがあったら教えてな。」
「今のところは大丈夫だ。」
越知が対応すべきことがあるかを尋ねているのは、特に決まった職を持たず、その時々で
仕事を変えている種ヶ島だ。そのフットワークの軽さと天性のコミュニケーション能力の
高さが、このギルドの中では非常に役に立っていた。
「そういえば、ちょっと小耳に挟んだんですけど、今日、西の広場でちょっとしたお祭り
みたいなんがあるらしいですわ。あと、北の方の路地裏で、何や集会があるらしいですよ。」
他の五人よりは少し年下の毛利は、遊び人で普段は自由に遊び回っている。しかし、それ
ゆえ、他のメンバーの知り得ない細かい情報を持ってくることが多かった。
「へぇ、オモロそうやん!どっちも人が結構集まりそうやな。」
「だな。二手に分かれて勝負するか?」
「ええな!後でどっちに行くか決めよか。」
毛利の情報を聞いて、大曲と種ヶ島は楽しげにそんな会話を交わす。似たようなことを目
的としているが、大曲と種ヶ島のすることは、越知や君島、遠野がすることとは少し温度
感が違っていた。
「これで今日の予定はだいたい決まりましたかね。」
自分と遠野が対応すべきことは、なるべく早く行った方がよいので、君島はそうまとめて
この集まりを終わらせようとする。
「ああ。」
「ええんちゃう?ほな、解散やな。」
越知と種ヶ島が頷くと、その場は解散となる。越知は毛利と、大曲は種ヶ島と、君島は遠
野と、自分達のすべきことをする場所へと向かい始めた。
「休みの日に対応せなアカンってことは、今回も結構ヤバめな"悪意"なんですよね?」
越知と一緒に歩きながら、毛利はそう尋ねる。
「そうだな。普段の巡回では対応出来ないレベルではある。」
「俺は全然そないなこと分からんので、月光さんのその能力、ホンマ尊敬しますわ。」
純粋に尊敬の眼差しを向けてくる毛利をチラリと見て、越知は心の中で呟く。
(能力だけで言えば、お前の方がすごいんだがな。)
しかし、それを口に出しても毛利はそんなことはないと否定するので、越知はあえて口に
出さなかった。毛利のその能力があるが故に、越知は問題を抱えることなく、この仕事を
続けられている。
「・・・・・・」
人通りの少ない道で、少し先に一人の人物がいる状態で越知は立ち止まる。そのことに気
づき、毛利は足を止め、こそっと越知に耳打ちする。
「あの人が今回のターゲットですか?」
「ああ。」
毛利には特に目立ったところのない人物に見えているが、越知には全く違う姿が見えてい
た。その人物を覆い隠してしまいそうなほどのどす黒いもや。そのもやの正体が越知が対
応すべき『悪意』であった。薄く小さいものであればそれほど問題はないが、ここまで濃
く大きなものであると、その人物は犯罪を犯す可能性が極めて高くなる。十分な距離を取
ったまま、越知は長い前髪をかき上げ、両目でそのもやを睨みつける。
「・・・・っ。」
前を歩いている人物に纏わりついていたもやは、越知の眼光によって一瞬で消え去る。し
かし、『悪意』のもやが消え去ると同時に越知の身体に痺れるような衝撃が走る。それは
消え去る前の『悪意』の抵抗とも言えるようなもので、大きな『悪意』を消し去る際には
どうしても避けられないものであった。
(予想以上に抵抗が大きいな・・・)
顔には出していないが、越知はしばらく動けず、声も出せなくなっていた。そんな越知の
手を毛利はぎゅっと握る。
「大丈夫ですか?月光さん。」
本人にそんなつもりはなくとも、毛利には強力な浄化能力が備わっている。そんな毛利に
触れられ、越知の身体の異常は一気に軽くなる。
「・・・ああ、大丈夫だ。」
「月光さん結構しんどいんとちゃいます?あんまり無理せん方が・・・」
「いや、今日はもう一件も処理をしておきたい。」
「せやけど・・・」
顔や言葉に出ていなくとも、毛利は越知の変化を敏感に感じとっていた。心配そうに見上
げてくる毛利を見て、越知は毛利の頭を撫でるように手を置く。
「だったら、次のところへ行くまでの間、俺に触れたままでいてくれないだろうか。お前
に触れられていると、"悪意"の残滓の影響が軽くなるからな。」
「分かりました!せやったら、月光さんの腕、ぎゅうってしといたりますね!」
そんなことで役に立てるならと、毛利は腕を組むように越知の腕にしがみつく。先程より
もしっかりと毛利が触れたことにより、越知の身体は一層軽くなる。
「次のところへ移動するぞ。」
「はい!」
腕を組んでいるような状態のまま、二人は歩き出す。長い脚で足早に歩いていると、先程
『悪意』を消した人物を追い越すことになる。追い越しざまに越知はチラリとその人物を
確認する。二人の大きな姿を見て、その人物はビクッとして立ち止まる。
(もう大丈夫そうだな。)
驚いてはいるものの、『悪意』を感じないその表情を見て、越知はホッと胸を撫で下ろす。
毛利に触れてもらっていることもあり、次の場所へ到着するまでには、越知はすっかり回
復していた。しかし、次のターゲットの姿を見つけ、越知の顔はこわばる。
(この前見たときよりも、明らかに大きくなっている。)
先程は纏わりついていることが分かるレベルの大きさであったが、今、目の前にいる人物
の『悪意』はその人物自身が見えなくなるほどに濃く、周りにいる人物も覆い隠してしま
いそうなほどの大きさになっていた。これは早急に対処しなければならないと、越知は覚
悟を決める。
「月光さん!」
「どうした?」
「俺には見えてへんのですけど、今回の方がアカン感じですよね?このまま、月光さんに
触れたままでおってもええですか?」
微細な越知の雰囲気の変化を感じとり、毛利はそんな提案をする。『悪意』の残滓の影響
に毛利を巻き込んでしまう可能性もあるが、あそこまで大きくなっている『悪意』に対応
するためにはその方が安心だと、越知は申し訳なさそうに頷く。
「お前の体に影響が出てしまう可能性も否めないが、そうしてもらえると助かる。」
「大丈夫です!ほんなら、月光さんの手、握っておきますね!」
毛利の手に触れたまま、越知は先程と同じように前髪をかき上げる。越知の眼光を受け、
非常に大きな『悪意』は、霧が晴れるかのように消え去る。しかし、その大きさと濃さゆ
えに越知に降りかかる抵抗も大きく、越知は小さくうめき声を上げる。
「ぐっ・・・!!」
全身が痺れ、息が苦しくなる。毛利に触れられていなければ、気絶していたかもしれない
ほどの衝撃であった。そんな越知の様子を見て、毛利の瞳の色が変わる。
「月光さん、ちょっとこっちに来てください。」
越知の身体を両手で支えながら、毛利は路地裏の奥へと越知を連れていく。突然雰囲気の
変わった毛利を見て、越知は毛利がレム状態になっていることに気づく。
(先程より浄化の力が明らかに高まっている。出先でレムの状態になることはあまりない
のだがな。それほど俺の状態がよくないということか。)
レム状態の毛利にしっかりと触れられているため、越知は何とかそこまで歩くことが出来
た。人のいないその場所まで移動すると、毛利は越知を壁に寄りかからせるようにして座
らせる。
「ここ、ホンマに全然人が来おへんところなんです。せやから安心してください。」
「ああ・・・」
「さすがに外じゃ最後までは出来へんですけど、より触れ合った方が月光さん元気になり
ますもんね。」
普段の毛利とは違う妖しい笑みを浮かべながら、毛利は越知の首に腕を回し、少し激しめ
のキスする。先程の大きな『悪意』の残滓の影響で自由に体を動かせなくなっている越知
は、毛利のその口づけを受け入れる他なかった。
(残滓が身体の中から消えていく。心地いい・・・)
毛利の浄化の力は無意識下で強い力を発揮する。レム状態は寝ている状態とほぼ変わらな
いので、ハッキリと意識のあるいつもの状態より数倍浄化の力が強くなる。さらに、深く
交わるほどにその効果は高まるので、深い口づけは今出来る方法としては、ベストな浄化
の方法であった。
「ん・・・んんっ・・・」
「ん・・・」
しばらく毛利のキスを受けていると、身体の痺れも息苦しさも問題ないレベルまで治まっ
てくる。そろそろ大丈夫だということを伝えるために、越知は毛利の頭を軽く撫でる。
「ふはっ・・・月光さん・・・」
「お前のおかげで、かなり楽になった。ありがとう。」
越知のその言葉を聞いて、毛利はレム状態からいつもの状態へと戻る。
「あっ、え、えーと・・・俺、もしかして寝とりました?」
「そうだな。おかげで助かった。」
レム状態のときの記憶はあやふやになることが多いのだが、全く覚えてないというわけで
もない。そのため、さっきまで越知とキスをしていたということは理解していた。
「月光さんの役に立てとるなら、よかったです・・・」
恥ずかしそうにそう口にする毛利を越知は愛らしいと思う。座ったまま、毛利をぎゅっと
抱きしめながら耳元で囁く。
「かなりよくなったが、まだ完全に浄化されたわけではない。家に帰ったら、先程の続き
をしてもよいだろうか?」
越知のそんなお誘いに毛利の胸は高鳴る。耳まで真っ赤にしながら毛利は頷いた。
「俺が月光さんについた悪いもん全部消したりますわ!それが俺の出来ることやもんね!」
「ああ、楽しみにしているぞ。」
ふっと微笑むような表情を見せる越知に毛利はキュンキュンしてしまう。もうしばらく休
んだ後、二人は自分達の家へ向かって歩き出した。
「小規模な祭りとちょっとヤバめな集会かー。どっちもなかなかええのが盗れそうやな。
竜次はどっちがええとかある?」
「特にねーけどよ、お前は集会の方に行きてぇんだろ?」
「はは、さっすが竜次やな!俺のことよう分かっとるやん!」
「だったら、俺は祭りの方でいいし。」
「決まりやな!じゃ、どっちがええのを盗ってこれるか勝負や。」
「望むところだし。」
表向きは古書店の店主とフリーターの大曲と種ヶ島であるが、ギルドの中では盗賊とシー
フという別の顔を持っていた。盗賊とシーフと言っても、二人が盗むのは金目のものでは
ない。人が持つ負の感情。それが二人の狙うお宝であった。毛利から聞いた情報をもとに
大曲は西の広場へ、種ヶ島は北の方の路地裏へと向かう。二人のいる場所からは西の広場
の方が近いので、大曲の方が先にその場所へ辿り着いた。
(へぇ、思ったよりにぎわってるし。人も結構多いな。)
これはなかなかイイものが盗れそうだと、大曲はふっと口元を緩ませる。少し歩いている
と、癇癪を起こしながら地面に寝転がり、バタバタしながら泣きわめいている子どもとか
なりイライラしている様子の母親を見つける。
(手始めに盗っておくか。)
そんなことを考えながら、大曲はその親子に近づき、わざと子どもの腕を自分の足に当て
させる。古書店の店主にしては、見た目が少しヤンキーっぽいこともあり、大曲の姿を見
て、その母親の顔色はさっと青ざめる。それを大曲は見逃さなかった。
「おっと・・・」
子どもを避けるふりをして、大曲はトンと軽くそのは母親にぶつかる。子どもと母親に触
れたことで、大曲はその二人が今持っていた負の感情を盗む。
(癇癪、イライラ、焦り、緊張、罪悪感に恥ずかしさ・・・思ったより盗れたな。)
「あ、すみません!!」
「いや、特に問題ないんで。おい、ボウズ、あんまり母ちゃんを困らせるんじゃねぇぞ。」
にっと笑いながら、大曲は先程まで泣きわめいていた子どもの頭を撫でる。大曲に負の感
情を奪われたその子どもは、キョトンとしながら大曲を見る。そして、ご機嫌な様子で母
親に抱きついた。母親の方も先程まで感じていたイライラや焦りは一切なくなり、穏やか
な様子でその子どもと手を繋いでその場から立ち去った。
「どれも悪くねぇな。」
大曲も種ヶ島も盗んだ感情を宝石のような結晶にして実体化することが出来る。手の中に
あるそれを腰つけている巾着にしまって、大曲は次のターゲットを探し始めた。
(次は・・・おっ?)
にぎやかな道を少し進むと、一人でわんわん泣いている幼い少年を見つける。その少年に
近づき、大曲は声をかける。
「どうした?迷子にでもなったか?」
「おかあさん、いなくなったー!!」
(やっぱ、迷子か。)
幼い少年に目線を合わせるようにしゃがみ、ポンポンと頭を撫でる。その瞬間、大曲の手
の中にいくつかの結晶が現れる。
(まずは、コイツの不安、寂しさ、混乱ゲットだ。さてと次は・・・)
「仕方ねーから、一緒に探してやんよ。」
大曲に負の感情を奪われたその少年はきゅっと大曲のズボンを掴み、落ち着いた様子でお
礼を言う。
「ありがとう・・・」
辺りを見回し、大曲は自身の特別な能力を使い、周りの人の感情を読む。子どもがいなく
なれば『心配』の感情が大きくなるはずだ。
(見つけた。)
この近くにいる人物で、特に『心配』の感情が大きくなっている人物を見つけ、大曲は心
の中でそう呟く。
「お前の母ちゃんはたぶんこっちだ。行くぞ。」
「う、うん!!」
幼い少年の手を引き、大曲はその人物のもとへ向かう。その人物の前まで行くと、その少
年が声を上げる。
「あ、おかあさん!!」
嬉しそうな少年とは裏腹に、迷子の少年の母親は明らかに動揺するような表情になる。
(そりゃそうだよな。こんな強面の奴が迷子になってる自分の子どもと手を繋いでたらそ
りゃビビるだろ。)
しかし、それは大曲にとってはプラスでしかなかった。これから盗もうと思っている負の
感情の種類が増えるからだ。別に誘拐しようなどとは思っていないので、大曲は当然のよ
うに母親に少年を引き渡す。引き渡す際に一瞬だけ母親の手に触れ、大曲は母親の感じて
いた負の感情を抜き取った。
「あ、すみません。ありがとうございます。」
「ありがとう、おにいちゃん!」
「ああ、もう迷子になるんじゃねーぞ。」
ひらひらと手を振ると、もう片方の手をゆっくりと開き、今しがた盗んだものを確認する。
「心配、動揺、罪悪感・・・順調だな。もう少し回って集めるか。」
まだまだ集められそうだと、大曲はご機嫌な様子でその広場を歩き回る。一方その頃、種
ヶ島は北の路地裏で、見た目にも少し怖い人物がたくさん集まっているさまを楽しげに眺
めていた。
(なかなかの雰囲気やなあ。これは盗り甲斐があるわ。)
血気盛んな人物が集まっており、グループによってはかなり緊張感のある雰囲気であった。
ちょっとしたきっかけで言い争いが始まり、今にも手が出そうというグループの近くに種
ヶ島はすっと近づき、彼らの持つ負の感情を盗む。巻き込まれたくはないので、『不会無』
という自身の姿を消す能力を使い、誰にも気づかれることなく、種ヶ島は盗みを働く。
(怒りに敵意に反感、虚栄心に恐怖なんかもあるんか。大量やな☆)
ここに集まっているメンバーは何かしらそういう感情を抱えているので、種ヶ島は姿を消
したまま、次々に負の感情を盗んでいく。
(おっ、もう巾着パンパンやん。今日はこれくらいにしとこか。)
人数もそれなりにいて、感情の種類も様々あるので、種ヶ島の腰についている巾着袋はす
ぐにいっぱいになる。種ヶ島が負の感情を盗んでいったこともあり、その集会は非常に和
やかなムードになっていた。
(こんだけ平和なムードになっとったら、この辺りに住んどる人への迷惑にもならんやろ。
さーてと、俺は竜次のとこに帰ろかな。)
路地裏から出ると、種ヶ島は『不会無』を解く。腰巾着をジャラジャラと鳴らしながら、
種ヶ島は大曲との待ち合わせ場所に向かって歩き出した。
「おっ、竜次、もう戻っとったんやな。」
種ヶ島が待ち合わせ場所に到着すると、既に大曲が待っていた。
「ああ。つーか、北の路地は結構離れてるのに、随分戻ってくるの早ぇーな。」
「わりとすぐいっぱいになったからな。」
「へぇ。ちょっと盗ってきたもん見せ合うか。」
「ええな。今日はホンマ大量やったで!」
種ヶ島の巾着には、溢れんばかりの負の感情の結晶が入っていた。
「スゲェ量だな。こっちはそこまでは多くねぇけど・・・」
大曲が見せた巾着の中には、数は種ヶ島ほど多くないものの、非常に美しい輝きを持つ結
晶がいくつもあった。
「メッチャ純度高いのあるやん!すごいな。」
「祭りっつーことで、ガキも多かったからな。ガキの感情は単純だから、純度は相当高い
と思うぞ。」
「なるほどなー。これはだいぶええ勝負やない?」
「そうだな。種類や数はお前の方が圧倒的だけど、純度で言えばこっちも負けてねーし。」
現時点では勝負はまだ分からないと、どちらも自信満々な笑みを浮かべる。
「勝負の決着は帰ってからやな☆」
「ここからどう加工して、どんな味にするかも重要だしな。」
「はは、今夜もメッチャ楽しみやわ!」
「同感だし。」
集めた負の感情の結晶は、基本的に加工を施し、いつものプレイにちょっとしたスパイス
を加えるためのお菓子にすることが多かった。集めたものをどう加工するかにもセンスが
問われる。そこが勝敗を決めるポイントだと、大曲も種ヶ島も楽しげに話しながら、どの
ような加工を加えるかの構想を練り始めた。
越知から孤児と思われる兄妹がいたという場所を聞き、君島と遠野はその場所へと向かう。
越知の言っていた通り、その場所では幼い兄妹がうずくまっていた。
「おい、ガキ。黙って俺達について来い。」
『・・・・・・』
雑な声がけをする遠野を呆れたように制止し、君島は間に入る。遠野に声をかけられ、う
ずくまっていたその兄妹は顔を上げる。
「ちょっと遠野くん。そんな言い方でついてきてくれるわけないでしょう。すまないね。
私はこの街の外れにある教会で神父をしています。君達を助けたいのですが、教会までつ
いてきてくれるかな?」
優しく話しかける君島の言葉に、その兄妹は黙って頷く。フンとそっぽを向きつつ、遠野
はその兄妹をじっと見て、処刑が必要かどうかを確認する。
(なかなか難儀そうなもんが憑いてやがる。フッ、処刑しがいがあるな。)
君島に連れられ、その幼い兄妹と遠野は街外れの教会へと向かう。君島の管理する教会に
到着すると、君島は二人に食事を与え、軽く体を清めた後、遠野が仕立てて納めている真
新しい服に着替えさせる。少しの間、礼拝堂の椅子で待たせながら、君島は二人から少し
離れた場所で、遠野に確認を行う。
「あの子たちは、遠野くんが行う対処が必要ですか?」
「ああ。必要だな。強力なカルマが憑いてやがる。」
「分かりました。必要であるならば、仕方がないですね。」
遠野の行う対処、即ち『因縁の処刑』はあまり見ていて気持ちのよいものではないので、
君島はあまりそれが好きではなかった。しかし、それが必要であるならば、間違いなくし
ておいた方がよいものだ。小さく溜め息をつきながら、君島は椅子に座っている子ども達
に魔法をかけ、ぐっすりと眠らせる。それは遠野の処刑が終わるまでは決して目を覚ます
ことがない非常に強力な魔法であった。
「いつもの場所に連れて行くぞ。」
「ええ。いつも通り、対処が終わるまではこの教会への出入りが出来ないよう結界を張っ
ておきますね。」
「ああ。」
遠野が処刑を行う場所ヘ二人は子供達を運ぶ。教会の地下にあるその場所は、君島と遠野
しか知らない存在を隠された特別な場所であった。真っ白なシーツが敷かれたベッドに子
ども達を寝かせると、遠野は少し離れて子ども達に向かって手をかざす。
「さあ、公開処刑の始まりだ!!」
遠野がそう口にすると、眠っている兄妹の上に、錆びた鎖でその体を繋ぎ止められている
異形化した怨霊のような姿の何者かが姿を現す。見た目にも醜悪なそれが、遠野が処刑す
べき『家系的な悪い因果(カルマ)』が実体化したものであった。
「処刑法其ノ十三ギロチン!!コイツらの不幸の元凶であるお前をギッタギタに斬り刻ん
でやるよ!!」
悪い因果を消し去るために習得した十三の処刑法を模した魔法を遠野は次々と食らわせて
いく。遠野が処刑法を撃ち込むたびに、古い陶器が砕けるような硬い音と断末魔のような
低い声が響く。異形の体が遠野の処刑法で削られていくたびに、どす黒い液体が溢れ出し、
返り血のように遠野に降りかかる。そのどす黒い穢れのような液体を浴びながら、遠野は
ひどく興奮した様子で目を輝かせて処刑を続ける。
「処刑法其ノ八ウィッカーマン!!燃えろ燃えろ!!ヒャッヒャッヒャーッ!!」
そんな遠野を君島は少し離れた場所から、引いた様子で見守っている。
(何度見ても、正気の沙汰とは思えませんね・・・)
眼鏡を指で上げながら、君島はそんなことを心の中で呟く。処刑法の数字が小さくなるほ
ど、子ども達の上の異形はボロボロに崩れていく。ずっとテンションが高いまま処刑法を
繰り出している遠野であるが、この処刑法の魔法は体力をひどく消耗し、呪いにも似た因
果の穢れを全身で受け止めていることもあり、遠野の呼吸はだいぶ乱れていた。
「ハァ、ハァ・・・処刑法其ノ一切腹!!さっさとコイツらから離れて消え失せろ!!」
最後の処刑法の魔法を放つと、子ども達とその異形を繋いでいた鎖が砕け散る。それを確
認すると、二度とその因果が子ども達に影響を与えにように、遠野は優しい光の魔法で子
ども達の周りを覆う。
「介錯は済んだ・・・これで処刑は完了した。」
処刑を終えると、遠野は疲労感から膝をつく。そんな遠野に近づき、遠野の肩をポンと叩
くと、君島はまだ寝たままの兄妹を抱き上げる。
「お疲れ様です。この子達のことは私に任せて、休んでいてください。あとで浄化してあ
げますから。」
「ああ・・・」
力を使い果たした遠野はベッドに寄りかかり、ぐったりとしながら体を休める。この状態
の遠野に会わせるわけには行かないので、君島は子ども達を抱いたまま、先程までいた礼
拝堂に戻って行った。
「んん・・・あれ?」
「目を覚ましたか?二人ともよく眠っていましたね。」
礼拝堂の椅子に二人を座らせると、君島は二人にかけていた魔法を解除する。目を覚まし
た子ども達に優しく声をかけると、君島はこれからのことについての話をする。
「お二人には私が運営している孤児院に入ってもらう予定です。住む場所も着るものも食
べ物も何も心配することはありません。望むのであれば、新しい家族を紹介することも出
来ますよ。」
「もうお外で寝たりしなくてもいいの?ごはんもいっぱい食べれる?」
「ええ、もちろんです。もうそんな思いはさせません。」
「ありがとう、神父さま!」
君島の言葉を聞いて、兄の方は本当に嬉しそうな笑顔を浮かべながらそう口にする。それ
を見て、妹の方も笑顔になるがふと気になっていることを口にする。
「あの、もう一人のお兄さんはどこ?」
それが遠野のことを指していることに気づき、君島は誤魔化すような言葉を紡ぐ。
「あ、ああ、彼は急用が出来て帰ってしまいました。」
「そっか。あのお兄さんにもお礼を言いたかったのにな・・・」
「どうしてですか?」
二人に対して、遠野がしたことは二人には知られていないはずだ。不思議に思い、君島は
そう尋ねてみる。
「さっき眠っていたときにあのお兄さんが出てきたの。」
「あっ、ぼくも!!」
「夢に・・・」
「あのキレイなお兄さんがもう大丈夫だから、幸せになれよって頭をなでて言ってくれた
の。」
「神父さまって『キミジマ』って名前?ぼくの夢の中では、お兄さん、あとはキミジマに
まかせておけば絶対大丈夫だって言ってた!」
それを聞いて、子ども達が嘘を言っているわけではないし、実際遠野が言いそうなことで
はあると思い、君島はそれを信じざるを得なかった。
「すごくやさしく笑ってて、女神さまみたいだった!」
「そうそう!お兄さんだって分かってるんだけど、すごくキレイだった!」
「そ、そうなんですね・・・」
先程君島が見ていたのは凄惨とも言える因果の処刑の光景であり、それはにわかに信じら
れない話であった。しかし、君島がこのような話を聞いたのは初めてではなかった。
(遠野くんの処刑を受けた子ども達は、みんな似たようなことを言うんですよね。)
「だから、神父さま、ぼくたちのかわりにお兄さんにお礼を言っておいてほしい。」
「わたしからもお願いします!」
「え、ええ。必ず伝えておきますね。」
納得いかないところがありつつも、純粋な眼差しでそう言われ、君島は慌てて笑顔を作っ
て頷く。しばらくすると、事前に連絡しておいた孤児院の職員がこの兄妹を迎えに来る。
その職員に兄妹を引き渡すと、君島は教会の扉を閉め、大きく息を吐く。
(さてと、早く遠野くんのところに行ってあげないとですね。)
そんなことを考えながら、君島はゆっくりと遠野のいる地下室へ向かって歩き出した。
END.