Regulators of Ecclesia ��

毛利から今日は人の出入りが多そうだということを聞いて、越知は今日は門番の仕事を多
くしようと、朝から街の入口に立っていた。
(確かに毛利の言っていた通り、今日はこの街に入ってくる者が多いな。)
門の前に立つ大きな越知の姿を見て、この街に入ってくる者は一瞬足を止める。しかし、
街に入ってくる人物に越知は話しかけることはない。
(多少の悪意を持って入ろうとする者もいるが、この程度であれば、さして問題はない。)
一瞬足を止める間に越知はその人物を一瞥し、悪意があればその視線で消し去る。犯罪を
起こす直前のような大きな悪意でなければ、片目で見るだけで十分であった。小さな悪意
であれば消し去る際の抵抗はほとんどないに等しいので、特に気負うことなく越知は淡々
と処理をしていく。
(だいぶ入ってくるものは少なくなったが、いつもよりはまだ多そうな雰囲気がある。午
後もここで仕事をするとしよう。)
今日は巡回はせずに門番の仕事をしようと考えていると、よく知った声が耳に入る。
「月光さん!」
声のする方に目をやると、毛利がニコニコしながら自分の方へ走って来ていた。
「どうした?」
「いや、これと言って特に用事があるわけやないんですけど、月光さんに会いに来ました!」
「そうか。」
表情はほぼ変わらないが、毛利のその言葉に越知の心は少し跳ねる。
「朝からここに立っとるんですか?」
「そうだな。毛利の言っていた通り、今日は入ってくる者が多い。事前にその情報を聞い
ていて助かった。」
「いえいえ。あ、でも、月光さんの役に立てたならよかったです。そういえば、月光さん、
お昼食べました?」
「いや、まだだが・・・」
「ほんなら、一緒におにぎり食べません?月光さん今日は門のところにおるやろなーと思
って作って来ました!」
手に持っていたカゴをパカっと開き、毛利は作ってきたおにぎりを越知に見せる。そこに
は二人で食べるには少し多いくらいのおにぎりがぎっしり詰まっていた。
「美味しそうだな。」
「お腹空いとったらしんどいと思うんで、好きなだけ食べてください!」
「ありがとう。いただくとしよう。」
今は人通りがほとんどなくなっているので、越知は毛利が作ってきてくれたおにぎりを一
つ手に取る。自分の手にちょうどいい大きさのおにぎりを越知はゆっくりと口へと運ぶ。
(まだ温かい。お昼の時間に合わせて作ってきてくれたのか。)
穏やかな温もりを感じられる温度に海苔の香りとほどよい塩味。そして、ゴロゴロと大き
な具が越知の口の中を幸せにする。
「美味いな。」
「よかったでっせ!俺も食ーべよっと。」
毛利も昼食はまだとっていなかったので、越知と一緒に作ってきたおにぎりを食べる。立
ちっぱなしではあるものの、お昼休憩のような状況なので、毛利は越知に話しかける。
「月光さんはホンマすごいですよね。朝からずーっとここに立っとって、入ってくる人監
視しとるとか、俺やったら途中で飽きてまって無理ですわ。」
「向き不向きはあるだろうな。たまたま俺が向いていただけという話だ。街に入る前に
『悪意』を消してしまえば、治安が乱れるリスクを減らすことも出来るしな。」
「ホンマそれすごいですよね!門番やったり、巡回したりで、ちょっとした悪意であれば、
月光さんマッハで消してまうもんね。この街の平和を守っとる言うても過言やないんちゃ
います?」
キラキラとした瞳で越知を見上げながら、そんなことを言ってくる毛利に少し恥ずかしさ
を感じながら、越知はふっと口元を緩ませる。
「俺だけでなく、大曲や種ヶ島、君島や遠野の働きのおかげでもあるだろうがな。ただ、
この街を守りたい、平和であって欲しいという気持ちは人一倍あると自覚している。」
「さすが月光さんやね!そう思って守れとるんですもん。ホンマ尊敬しますわ。」
「この街の平和を願う気持ちが強いのは、お前のおかげだぞ、毛利。」
「えっ!?何でですか?」
思ってもみないことを言われ、毛利は驚いたような顔を見せる。
「俺はお前と共に過ごすことの出来るこの街が好きだ。だから、この街は平和であって欲
しいと思うし、心からこの街を守りたいと思っている。」
「月光さん・・・」
越知のその言葉に毛利は素直に感動してしまう。言葉を続けられずに越知の顔を見上げて
いると、越知の大きな手がふわっと頭に触れる。
「もし、俺がこの街を守っていると思うのであれば、お前もこの街を守っていることにな
る。お前の浄化の力がなければ、俺はこの仕事を続けることは出来ない。何よりもお前が
いるからこそ、『悪意』を消すというこの力を使いたいと思っているのだから。」
越知の穏やかな微笑みとその言葉に、毛利の胸はいっぱいになり、涙が溢れそうになる。
「月光さんがそないなこと言うから、メッチャ泣きそうや。」
「お前は意外と泣き虫だからな。」
「泣き顔見られるの恥ずかしいんで、ちょっと食べるのに集中しますわ。」
泣きそうになっているのを誤魔化すかのように毛利はおにぎりを口に頬張る。そんな毛利
を愛おしく思いながら、越知も残りのおにぎりを食べる。カゴいっぱいのおにぎりを二人
で食べきると、心地よい満腹感にどちらもホッと一息つく。
「ちょっと多かったですかね?」
「いや、ちょうどよかった。」
「ほんならよかったです。ふあー、腹一杯になったら何や眠くなってきましたわ。」
大きな欠伸を一つし、毛利はその場に腰を下ろす。
「月光さん、もう少しだけここにおってもええですか?」
「さして問題はない。」
「ありがとうございます。」
しばらく越知と話していた毛利であったが、眠気がピークに達し、コテンと越知の足に寄
りかかりながら眠ってしまう。
(眠ってしまったか。だが、毛利が触れていることで、悪意の残滓が消えていく。この状
況、悪くないな。)
眠っている毛利が触れていることで、悪意を処理したために越知の中に溜まっていた残滓
が強い力で浄化される。そんな心地よさに身を任せながら、越知は門番の仕事を再開した。

仕事中に耳にしたという種ヶ島の情報をもとに、大曲と種ヶ島は知らない誰かの葬儀に来
ていた。姿を見せるつもりはないが、万が一バレてしまったときのために、どちらも喪服
を身につけている。
「盗みには絶好の機会なんやけどな。この場はいつものルールで行くで。」
「あいよ。不謹慎なのは分かってるけど、まあ、そこまで悪いようにはしてねぇしな。」
この場にいる参列者の負の感情を盗むため、種ヶ島は自分には不会無を、大曲には更互無
をかける。姿が透明になり、誰からも見えなくなった二人は、落ち着いた足取りでそこに
いる者の負の感情を盗んでいく。但し、この場で一番多い感情は盗まなかった。
(意外といろんな感情があるもんだな。)
(強い感情持っとるのこの人なんか。さすがにここまで強いとアレやから、ほんの少し減
らしておいた方がええな。)
その場の負の感情を盗むことで、二人は故人の人間関係を垣間見る。少し悪趣味だと理解
しているが、自分達が盗みを働くことで、残された者がただ悲しみや後悔を抱えるだけで
なく、前向きに生きていける手伝いをしているという自覚もあった。
「そろそろ十分やな。竜次の方は?」
「こっちも十分盗れた。撤収するか。」
「せやな。」
周りには聞こえないような小声で話し、大曲と種ヶ島はその場から立ち去る。葬儀をして
いる場所から十分に離れると、種ヶ島は不会無と更互無と解く。盗んだ感情に思いを馳せ
ながら、二人は言葉少なめに大曲の古書店へと帰る。
「とりあえず、着替えるか。」
「せやな。」
大曲の古書店の奥の座敷で二人は普段着に着替え始める。着替え終わると、少し休憩と言
わんばかりに腰を下ろす。
「やっぱ、ああいう場所では『悲しみ』は盗まんでも、いろんな感情があるもんやな。」
盗んだ負の感情でいっぱいになった巾着袋を眺めながら、種ヶ島はそう呟く。葬儀という
場は『悲しみ』という感情が一番多い場所ではあるが、二人は決してその感情を盗むこと
はしなかった。誰かが死んで、残された者が悲しむ。それはごく当たり前のことであり、
それを盗むことは故人が生きた証を盗むのと同義になるので、二人はそういう場では『悲
しみ』は盗まないというルールを決めていた。
「でもまあ、今回はマシな方なんじゃねーの?きっと善く生きてたんだろうな。参列者の
中で一番多かったのは、後悔だったし。生きているうちにああしておけばよかった。こう
していればよかったってな。」
「確かに嫌われてる人のとかはすごいからな。ツッキーが処理した方がええんちゃう?み
たいな悪意に近い感情も結構あったりして。今回はそういうんはほとんどなかったから、
ホンマええ人やったんやろなー。」
巾着を軽く振ってジャラジャラとさせながら、種ヶ島はしんみりとそう口にする。
「そういえば、俺が盗った中にはなかったんだけどよ、強すぎる感じのはあったか?」
「ああ、一人おったで。さすがに強すぎやったから、ちょっとだけ減らさせてもろたわ。」
基本的に『悲しみ』は盗まないルールにしているが、例外的に後追いしてしまいそうなほ
どの『強すぎる悲しみ』については、少しだけ盗んで減らしてもオッケーとしている。
「へぇ。やっぱ奥さんとか子どもとかか?つっても今回は子どもももう大人だったけどよ。」
「いや、亡くなった人と同じくらいの年齢の紳士やったな。見た目そこまでには見えへん
かったんやけど、悲しみの感情が強すぎて圧倒されるくらいやったわ。」
「そうか。きっと生前仲が良かったんだろうな。」
「ホンマにな。亡くなった人のこと、大好きでメッチャ大切やったんやろな。」
感情を盗むときにその感情の大きさや付随する感情も読み取ることが出来るので、切なそ
うに笑って種ヶ島はそう口にする。種ヶ島のその表情を見て、大曲も何だか切ない気持ち
になってしまう。そんな大曲に種ヶ島はあることを聞いてみる。
「竜次はもし俺が先に逝ったら、ちゃんと悲しんでくれる?」
「は?そんなの当たり前だし。つーか、そんなこと想像もしたくねーな。」
種ヶ島にそう言われ、一瞬そういうことを想像してしまう。それはあまりにも悲しすぎる
と、大曲は顔をしかめてそう返す。
「お前はどうなんだよ?」
「えっ?竜次が俺より先に死んだら?無理無理、そんなん耐えられへんわ。」
いつものチャラい口調で笑いながら、種ヶ島はそう口にする。
「いや、だって、別にありえねぇことではねぇだろ。」
「やって、俺、竜次がいないと生きていけへんもん。あ、生活が出来ないとかそういう意
味とちゃうで。精神的な面でってことで。竜次が死んだら、俺もすぐに後追ってまうわ☆」
他人はそうさせないために、強い悲しみは減らしているにも関わらず、自分は絶対無理だ
と明るい口調でそう話す。そのテンションと言っていることの差に、大曲は苦笑する。
「お前、テンションと言ってる内容があってねぇし。重すぎかよ。」
「竜次と出会う前やったら、一人でも全然余裕で生きていけたで?せやけど、もう出会っ
てしもたからなあ。竜次がおらへん世界なんて考えられへんわ。」
「ったく、勘弁しろし。」
重すぎほどの種ヶ島の言葉に、大曲はどうしようもなく種ヶ島が愛おしくなってしまう。
座ったままぎゅっと種ヶ島を抱きしめると、種ヶ島も嬉しそうに大曲の背中に腕を回す。
「竜次。」
「何だし?」
「俺、ホンマに竜次のこと大好きやで。」
「そうだろうな。さっきの話聞いてたら分かるし。」
「俺を長生きさせたかったら、竜次も長生きしなきゃアカンで。」
種ヶ島のその言葉を聞いて、大曲はポカンとした後、ふっと笑う。
「お前こそ。俺をおいて勝手に死ぬなんて、許さねぇからな。」
「はは、竜次もなかなか言いよるやん。ええで☆二人でうんと長生きしよな。」
少し大曲から離れ、嬉しそうに目を細めながら種ヶ島はそう口にする。そんな種ヶ島の笑
顔に大曲は胸を撃ち抜かれる。種ヶ島の口にした約束に同意するかのように、大曲は種ヶ
島の唇に想いを込めて口づけた。

礼拝堂で今日届いた手紙を整理していると、いくつかの紙袋を提げた遠野がやってくる。
「よお、孤児院のガキに送る服、持ってきてやったぜ。」
「ありがとうございます。後で送る手配をするので、そこに置いておいてください。」
『因果の処刑人』でないときの遠野は、仕立て屋であるため、こうして定期的に子ども用
の服を寄付していた。
「何してるんだ?」
「今日届いた手紙を整理しているんです。この前助けた兄妹からも手紙が届いてますよ。
読みますか?」
「おう。」
「私はもう読みましたが、彼らは里親に引き取られたようですね。写真を見る限り、特に
問題はなさそうです。」
「フン、俺が悪い因果を処刑してやったんだ。幸せになるのは当然だな。」
子ども達の手紙を読みながら、遠野は自信満々にそう言う放つ。君島の言う通り、手紙と
一緒に送られてきた写真の中の子ども達は眩しい笑顔を浮かべていて、助けたときの暗い
面影はなく、とても幸せそうであった。
(助けた奴らのこういう顔が見れるのは悪くねぇ。)
「なあ、これ以外に助けたガキからきた手紙はねぇのか?」
「まだいくつかありますよ。」
そう言いながら、君島は孤児院や里親のところから届いた手紙を遠野に渡す。手紙が渡さ
れると、遠野は一通一通その手紙に目を通す。
(何だかんだ言って、遠野くんは助けた子ども達のことをすごく気にかけてくれているん
ですよね。)
真剣に手紙を読んでいる遠野の横顔を見て、君島はそんなことを思う。手紙を全て読み終
えると、遠野はその手紙を手にしたまま立ち上がる。
「この手紙もらっていいよなぁ?ちょっと地下室に寄らせてもらうぜ。」
「いいですよ。私も手紙の整理が終わりましたし、遠野くんが持ってきてくれた服を送る
手配をしてきますね。」
「分かった。また後でな。」
君島が服を持って教会を出ていくのを見送ると、遠野は地下室へと向かう。地下室に下り
ると、遠野は処刑をする部屋とは別の部屋に入る。そこは、頻繁に教会に出入りしたり泊
まったりする遠野のために君島が用意した部屋であった。そのため、部屋の内装や置いて
あるものは遠野好みのものになっている。
「さてと、この手紙もしまっておくか。」
そう呟くと、遠野は棚にある髑髏が施されたゴシック調の宝箱を出す。その宝箱をテーブ
ルの上に置くと、すぐ側にある椅子に腰掛ける。見た目こそダークな雰囲気の漂う宝箱で
あるが、その中には今までに『因果の処刑』によって助けた子ども達からの手紙や贈り物
が丁寧にしまわれていた。この宝箱にしまう前にもう一度今日届いた手紙を読んでおこう
と、遠野は再度手紙を開いて読み始める。
(遠野くんが持ってきてくれた服、予想よりスムーズに引き渡せましたね。)
遠野が地下室の部屋で、もう一度手紙を読見始めたところで、君島は用事を済ませて教会
へと戻ってくる。遠野は地下室へ行くと言っていたため、君島はそのまま地下室へ向かう。
(手紙を持っていましたし、処刑部屋ではなくきっと遠野くんの部屋の方ですよね。)
遠野が手紙を自分の部屋の宝箱に大切にしまっていることを君島は知っていた。今日届い
た手紙もきっとそうするのであろうと予想し、君島はまっすぐ遠野のいる部屋へと向かう。
遠野のために用意した部屋とは言えども、管理は基本的に君島が行なっているので、特に
ノックなどせずに君島はその部屋のドアを開ける。
ガチャっ
ドアを開けて君島の目に飛び込んできたのは、子ども達から届いた手紙や写真を見ながら、
穏やかで優しい微笑みを浮かべている遠野の姿であった。その微笑みは、とても処刑とい
う名の暴力で因果を消し去ること生業としているとは思えないほど、美しく慈愛に満ちた
ものであった。そんな遠野の姿を見て、君島の胸はひどく高鳴る。
「おっ、帰ってきたんだな。」
「ええ。遠野くんが持ってきてくれた服、きちんと送っておきましたよ。」
「ありがとな。」
君島の姿を見つけ、遠野はいつも通りの雰囲気で君島に声をかける。君島もいつも通りを
装っているが、先程見た遠野の姿が忘れられず、ドキドキと鼓動が速くなっていた。
「相変わらず、その趣味の悪い箱に子ども達がくれたものをしまっているのですね。」
「うるせー。趣味が悪いは余計だろ。」
「箱の見た目はさておき、子ども達から受け取ったものを大切にとっておいているのは、
いいことなんじゃないですか?遠野くんがそんなことをしているのは、意外だとは思いま
すけどね。」
「お前、いちいち一言多いんだよ。」
動揺していることを隠すかのように、君島はからかい口調でそんなことを言う。チラリと
宝箱の中を見ると、その中はしっかりと整理されており、遠野がその中身を心から大切に
していることが垣間見える。
(ああ、遠野くんは本気で子ども達の幸せを望み、喜んでくれているのか。普段とのギャ
ップがひどくて、心がかき乱される。)
そんなことを考えながら、君島は複雑な表情で遠野を見る。
「何だよ?何見てやがる?」
「いえ・・・ほんの少しだけ、あの子ども達が言っていたことが理解出来た気がして。」
「はあ?」
本気で意味が分からないと、遠野は首を傾げる。先程見た優しい微笑みは、子ども達が夢
の中で見た『女神様のような』遠野を垣間見た気がして、君島は無意識に遠野のことをさ
らに好きになる。自分の中で処理出来ない感情を持て余し、君島はどうしようもなく遠野
に触れたくなる。
「遠野くん。」
「っ!!」
一言名前を呼ぶと、君島は強めに遠野を抱きしめる。そして、戸惑う遠野の頬に優しく触
れると、そのまま軽くキスをする。唐突な君島の行動に混乱し、遠野はほんの少し赤くな
りながらその理由を問う。
「いきなり何なんだよ?」
「さあ、私にも分かりません。」
誤魔化すためではなく、それは君島の本心であった。自分でも制御不能な行動をとってし
まうほど、遠野に惹かれている。それは君島の理性ではどうすることも出来ない衝動であ
った。
「本当意味分かんねぇ。まあ、別に嫌ではねーけどな。」
困惑しながらもクスっと笑い、遠野は君島を抱きしめ返す。どちらも制御不能なトキメキ
を抱えながら、しばらく抱き合ったままでいた。

今日は少し時間に余裕があったので、越知、毛利、大曲、種ヶ島、君島、遠野の六人は日
が暮れた後、大曲の古書店に集まることになった。全員揃うと、いつも通り、近況報告や
ちょっとした情報交換を行う。
「今日は人の出入りがかなり多かったが、特に問題はなかった。」
「それは何よりです。そういえば、越知くんが見つけてくれた孤児の兄妹ですが、里親に
引き取られ、今は特に問題なく幸せに過ごしていますよ。」
「そりゃよかったですね!そういう報告聞くと嬉しくなりますよね!月光さん。」
「ああ。」
「写真も送られてきたぜ。ほら。」
「おや、その写真、持ってきていたのですね。」
せっかくなので越知や他のメンバーにも見せてやろうと、遠野はその兄妹から送られてき
た写真を持ってきていた。心からの笑顔を浮かべているその写真を見て、そこにいるメン
バーの顔はふっと緩む。
「ツッキーも毛利もサンサンもアツもみんな頑張っとるやん?せやから、俺と竜次で、え
えもん作ってきたで☆」
この場が穏やかな雰囲気になったのを見計らって、種ヶ島はテンション高くそんなことを
言い出す。
「ええもんって何です?」
「ほら、俺ら負の感情の結晶使ってお菓子作れるんは知っとるよな?いろんな効果のある
やつ。みんなへの労いの気持ちを込めて、専用のお菓子を作ってきたんや。」
「怪しく思うのはしょうがねぇと思ってるからよ、食う食わねぇは任せるし。けど、食っ
たら食ったでそれなりに楽しめると思うぜ。」
強制ではないことを大曲が言うので、とりあえずそこにいるメンバーは、大曲と種ヶ島か
らお菓子を受け取る。
「うっはあ、メッチャキレイなお菓子ですね!」
「見た目はな。ただどんな効果がつけられているか分からない。食べる食べないは慎重に
なった方がよいのではないか?」
見た目のよさにテンションの上がっている毛利に対し、越知は冷静さと慎重さを崩さない。
それは大曲と種ヶ島のカラフルな悪意がいつも以上ににぎやかな色になっていることに気
づいているからだ。
「かなり怪しい気はしますが、少し気にはなりますね。」
「おっ、だったら試してみるか?毒が盛られてようと、お前の浄化の力があれば問題ない
しな!」
「はは、さすがに毒は盛ってないから大丈夫やで☆」
「俺達を何だと思ってるんだし。」
遠野の言葉に種ヶ島と大曲は苦笑しながらそう返す。反応は各々異なっているが、渡され
たお菓子に興味を持っているのは間違いなかった。
「とりあえず、それは俺らからのプレゼントってことで☆好きにしてええからな。」
このお菓子を食べるか食べないかは帰ってから決めようと、大曲と種ヶ島以外の四人はパ
ートナー同士でアイコンタクトを交わす。最終的には全員食べるだろうと予想しながら、
種ヶ島は楽しげな笑みを浮かべて、お菓子を手にする他のメンバーを眺めていた。

                                END.

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