ほんのり小雪が舞う冬の日、今日は大曲の古書店ではなく、君島の教会へ集まることにな
っていた。門番と巡回者の仕事を終え、越知と毛利は白い息を吐きながら、他のメンバー
より少し遅れて君島の教会へと向かう。
「今日はホンマに寒いですね。」
「・・・ああ。」
「月光さん、大丈夫ですか?こないに寒いのに、今日はずっと外におったんで、メッチャ
冷えとるのとちゃいます?」
「・・・さして問題はない。」
明らかに反応が鈍い越知を心配して、毛利はそう声をかける。早く君島の教会へ行こうと、
越知の手を取ると、氷のような冷たさに毛利は驚く。
「うわっ、月光さんの手、メッチャ冷えとるやないですか!!とりあえず、早くキミさん
のとこ行きましょ!」
少し走るくらいの勢いで越知の手を引きながら、毛利は歩みを進める。凍えてしまいそう
なほどの寒さの中で感じる毛利の手の温かさ。そんな毛利の手のぬくもりにどうにかいつ
もの調子を保ちながら、越知は毛利に手を引かれるまま足を進めた。
君島の教会に到着すると、礼拝堂の椅子に座りながら、他のメンバーは雑談をしていた。
礼拝堂内の暖かさに、毛利は思わず声を上げる。
「ふあー、メッチャ暖かくて生き返りますわ!」
「おっ、お疲れー。ホンマ今日は寒いよな。」
「お疲れ様です!俺はそこまででもないんですけど、月光さんが冷え切ってまって。」
越知と毛利が到着したことに気づき、種ヶ島は声をかける。越知の手を引いたまま、毛利
は他のメンバーのいる椅子の近くに腰掛けた。
「毛利・・・」
越知も椅子に腰掛けるが、あまりに体が冷えていて耐えられないと言わんばかりに、毛利
に向かって腕を広げる。何をして欲しいとハッキリとは伝えていないが、毛利は越知の言
わんとしていることを理解し、腰掛けた椅子から立ち上がり、越知の膝に座る。そんな毛
利を越知はぎゅっと後ろから抱きしめる。
「いや、何してるんだし?」
当たり前のようにそんな行動を取る二人を見て、大曲は思わずツッコむ。
「月光さん、体が冷えやすいんで、こうして俺が湯たんぽ代わりになって暖を取ってもら
っとるんです。」
「でも、寿三郎も越知くんと一緒に外にいたのでしょう?」
「俺、体温高めですし、あんまり冷えないんですよね。」
「図体デカいのに子ども体温かよ。」
自分の体温で暖めているという毛利の説明に、君島や遠野は思っていることを素直に口に
する。
「全員揃ったことですし、温かいお茶でも淹れてきますね。」
教会内は暖かいとは言えども、身体の内側からも暖めた方がよいだろうと、君島はお茶を
淹れに席を立つ。君島が離席している間、残ったメンバーは今日の報告と軽い雑談をする
ことにした。
君島が戻り、淹れてきたお茶を配って座り直すと、種ヶ島が先程の雑談で聞いてみたいと
思っていた話題を振る。
「そういえば、『属性』ってあるやん?火水地風氷雷光闇のやつ。何だかんだ付き合い長
いのに、お互いに知らへんなあと思って気になっとるんやけど、教えてくれへん?」
つい最近大曲の店で読んだ本にそのような話が載っていたので、普段はそこまで気になっ
ていなかったが、せっかくなので聞いてみようと思い、種ヶ島はそう尋ねる。確かに自分
のパートナー以外の属性は知らないなと、そこにいるメンバーはその話題に乗ることにす
る。ただ、君島と遠野は、少しだけ顔をしかめていた。
「俺は『氷属性』だ。」
「俺は『火属性』でっせ。」
越知と毛利の属性を聞き、どちらもイメージ通りだと、そこにいるメンバーは思う。
「俺は『地属性』だし。」
「俺は『風属性』やで☆それっぽいやろ?」
こちらもイメージ通りだと頷く。やはり、見た目や性格に表れるのだなと思っていると、
ひどく言いづらそうに残りの二人が答える。
「私は・・・『闇属性』です。」
「スゲェ納得いってねぇけど、俺は『光属性』だ。」
『えっ!?』
君島と遠野の属性聞き、他のメンバーは驚いたような反応を見せる。
「キミさんと遠野さんは、光、闇の属性やろなあと思ってましたけど、逆だと思ってまし
た。」
「そうだな。」
「俺も逆やと思ってたわ。サンサンは優しい神父様やし、アツの店には結構ダークな服も
多いから、サンサンが光、アツが闇と思っとった。」
「だな。マジで知らなかったし。」
だからあまり言いたくなかったと、二人はそっぽを向いて口を閉じる。
「せやけど、サンサンとアツ以外はイメージそのままって感じやな☆ツッキーが『氷属性』
ってもメッチャ分かるーって感じやし、毛利が『火属性』なのも納得やわ。竜次もメッチ
ャ『地属性』って雰囲気やもんな。」
「確かにな。つーか、『氷属性』と『火属性』って、火が氷を溶かしちまいそうだけど、
相性的にはどうなんだ?」
大曲にそう聞かれ、越知はいつものセリフを返す。
「さして問題はない。」
「はは、ツッキーらしいな。まあ、ツッキーと毛利見ていて、確かに問題はなさそうやけ
ど、その属性ならではの話とかないん?」
「ありますよ。例えば今の状況とか。」
『今の状況?』
毛利の言葉に大曲と種ヶ島は声を揃えてそう聞き返す。
「月光さん、氷属性なんですけど、メッチャ冷え性なんですよ。俺が体温高めなんは、も
ともとの体質ってのもありますけど、火属性の力である程度調整できるんです。せやから、
ちょっと高めに調整して、月光さん温めるのに使ったりしとります。」
「これは本当に助かっている。火属性のおかげで、毛利が冷えてしまうこともないしな。」
そう言いながら、越知は腕の中にいる毛利をぎゅっと抱きしめる。毛利のポカポカした体
温が越知にとってはこの上なく心地よく感じられていた。
「なるほどなあ。確かにそりゃ便利やな。」
「逆に俺は火属性なんですけど、猫舌で。せやから、熱すぎる飲み物とかは月光さんが氷
属性の力でちょうどいい温度に冷ましてくれるんです。」
「お互いの属性の力で、弱点を補い合ってるわけか。相性悪いどころか、メチャクチャい
いくらいだし。」
大曲が感心していると、毛利はそろそろ飲めるくらい冷めただろうと思われる君島が用意
した紅茶を一口すする。
「熱っ!!全然冷めとらんかった。あー、舌火傷してもうた。」
「なるべく冷めづらいようにと思って、カップをそのような素材にしてみたのですが、寿
三郎には逆効果でしたね。すみません。」
「いや、キミさんのせいじゃないんで!」
「毛利、少し舌を見せてみろ。」
毛利が火傷をしたと言うのを聞いて、越知は毛利を自分の方に向かせ、そう口にする。そ
んな越知の言葉に毛利はべーっと軽く舌を出す。
(確かに舌の先が少し赤くなっているな。)
毛利の舌が赤くなっているのを見て、越知はその舌を舐めるように口付ける。氷属性の能
力を使い、自分の舌を氷のような温度にし、越知は直接患部を冷やす。
「んんっ・・・!」
『ちょっ!!』
さも当然のように毛利に口づける越知に、毛利以外のメンバーは驚き戸惑うような反応を
見せる。しばらく毛利の舌を冷やした後、越知はゆっくりと唇を離す。
「んはっ・・・ハァ、ハァ・・・」
毛利からすれば、深い口づけを他のメンバーの目の前でされているのと変わらないので、
顔を真っ赤にして軽く呼吸を乱す。
「十分に冷やし、毛利がしてくれるほどの効果はないが軽くヒールも加えたつもりだ。ま
だ痛むだろうか?」
「もう痛くはないですけど・・・他の先輩らの前で今のはちょっと・・・」
「何故だ?いつもしていることだし、治療は早いに越したことはないだろう?」
「ちょっ、月光さん!!」
本気なのか冗談なのか分からない越知の言葉に、毛利は恥ずかしさと困惑の混じった顔で
越知を見る。そんな毛利の動揺などつゆ知らず、越知は毛利が飲んでいた紅茶のカップを
手に取り、それにも氷属性の能力を使う。
「火傷はしないが、ぬるすぎない程度に冷ましておいた。これで問題なく飲めるはずだ。」
「あ、ありがとうございます・・・」
越知にカップを渡され、毛利はうつむきながらお礼を言うしかなかった。そんな二人のや
りとりを見て、種ヶ島は思わずツッコむ。
「いや、フラグ回収早すぎやろ!別に実践で見せて欲しいやなんて言うてないから!」
「越知のやつ、寒さでやられてんのか?」
「どうでしょうね?寿三郎を抱いて温まってますし、素の気もしますが。」
「勘弁しろし。」
突拍子もない越知の行動に種ヶ島以外も苦笑しながら思い思いのツッコミを口にする。恥
ずかしくて何も返せないと、毛利は黙ったまま、ちょうどいい温度になった紅茶を口に運
んだ。
「とりあえず、ツッキーと毛利が氷と火でも相性抜群ってのはよーく分かったわ。」
「逆にお前らはその属性ならではの話はあるのかよ?」
自分達に話が振られるよりは他のメンバーの話を聞く方がマシだと、遠野は大曲と種ヶ島
にそう尋ねる。
「俺ら?まあ、俺らは普段の雰囲気が属性そのものって感じやけど。」
「強いて言うなら、負の感情を使って作る菓子の見た目が結構宝石っぽいだろ?あれは、
地属性の影響があるかもしれねぇな。」
「宝石は鉱石ですし、地属性の影響というのは分かりますね。」
二人が作るお菓子を思い出し、君島はなるほどと納得するような顔を見せる。
「あっ、俺が使う『不会無』や『更互無』は風属性由来の能力やで☆」
「『不会無』と『更互無』って、透明人間になるやつでしたっけ?」
「そうそう。風は目には見えへんやろ?」
毛利の質問に種ヶ島は楽しげに答える。
「そういや、『不会無』とか『更互無』ってみんなに見せたことあった?」
「いや、名前は聞くことはあっても実際に見たことはないな。」
「確かにそうですね。本当に透明になどなれるのですか?」
越知と君島の言葉に種ヶ島はにぱっと笑う。
「せやったら、今見せたるわ!」
そう言うと、種ヶ島は自分には『不会無』を大曲には『更互無』をかける。半信半疑であ
ったが、すっと姿が見えなくなった種ヶ島と大曲にそこにいるメンバーは素直に驚く。
「思ったよりもしっかり消えるのですね。」
「おい、俺にかける必要はなかったんじゃねぇの?」
「えー、せっかくやから、『更互無』も見せたいと思て。」
「姿は見えないが、声は普通に聞こえるのだな。」
「まあ、姿を見えなくしとるだけやからな。」
見えていないのに会話はできるというのは変な感じだと、君島や越知は不思議そうに二人
が座っているはずの椅子を見る。
「このままやったら、俺らが何してても分からないやろ?」
「見えてねぇからな。だが、お前らもお互いに見えてねぇんじゃねーの?」
「んー、まあ、見えてへんけど、さすがに隣におったら触れば分かるし。」
「って、おい!どこ触ってるんだし。」
「はは、見えとらんから許してや。」
「デカ勘弁しろし。」
姿が見えないまま会話が飛び交っているのは実に不思議な気分だと、大曲と種ヶ島以外の
メンバーは何とも言えない顔をする。そんな他のメンバーの反応を見て、種ヶ島は楽しげ
に言葉を続ける。
「完全に見えとらんみたいやし、さっきのツッキーみたいにキスしてもええで☆」
「はぁ?しねーし。」
「そんなこと言うて、ホンマはしたいんやろ?」
「うるせーな。少し黙っとけ。」
大曲がそう言うと、種ヶ島はピタッと喋るのを止める。急に静かになったので、どうした
のだろうとそこにいるメンバーは首を傾げる。しばらくすると、口元を隠し、頬が赤く染
まっている種ヶ島と、何事もなかったかのように座っている大曲が姿を現す。
「お前ら絶対してただろ?」
「さあ、どうやろな?」
遠野の指摘に種ヶ島は誤魔化すような口調でそう返す。見えていなかったものの、種ヶ島
の反応を見る限り、大曲にキスをされていたのだろうなあと君島や越知、毛利は遠野の言
葉に心の中で同意する。
「俺らの属性の話はこれで終わりや。最後はサンサンとアツやで!」
「お前らは俺らと違って、思ってた属性と違うから興味あるし。」
予想とは真逆の属性であった君島と遠野の話が聞きたいと、種ヶ島も大曲も興味津々とば
かりにそう口にする。仕方ないと、君島は乗り気ではないながらも口を開く。
「私も遠野くんも、自分の属性に納得がいっていないんですよね。私はどちらかと言えば、
光属性のような生き方をしたいのですが・・・」
「俺は逆だな。光属性っぽい要素よりは、処刑や退廃的な雰囲気、暗さや醜さの中にこそ
美学があると思ってるし。」
「せやけど、生き方って点ではそういうふうにできてるんちゃうん?俺ら全員サンサンと
アツの属性、完全に逆やと思うてたし。」
「逆にその属性っぽさがあるなら聞いてみたいもんだな。」
本来の属性は逆であろうとも、普段の二人を見る限りでは、君島が光、遠野が闇に見える
と種ヶ島と大曲はそう口にする。
「そりゃありますよ。遠野くんが因果の処刑を行って、悪い因果を消し去ることができる
のは光属性の力が有るからですし。私は弱めることはできても完全に消し去ることはでき
ません。」
「君島は浄化の力がそれだな。君島の浄化の力は神や精霊との交渉で得たものっつーのが
よ。リアルな光属性だったら、その力を使うのに交渉なんていらねーし。そもそも交渉し
たり、力を使うのに対価が必要ってのが、闇属性ならではだろ。」
そう言われると確かにそうかもしれないと、信じられなかった二人の本来の属性への信憑
性が一気に高まる。
「せやけど、キミさんが浄化の力を使えるようになりたいと思うたのは、遠野さんのため
なんですよね?」
「それはまあ・・・そうですね。処刑というやり方は気に入りませんが、子ども達を救う
ことができるのは間違いないので。それに、光属性であるがゆえに、穢れの影響を受けや
すくダメージが大きいんですよ。」
「それは仕方ねーだろ。まあ、君島が浄化してくれるようになったから、思いきり処刑で
きるようになって、助かってるがな!」
イキイキとした表情でそんなことを言ってくる遠野に、君島はほんの少し心をかき乱され
る。
「私も・・・遠野くんを浄化できるようになったことで、リアルに光属性のようなことが
できるようになって、少し嬉しいと思ってます。」
「おっ、言うじゃねーか!でも、お前の浄化、メチャクチャ痛てぇけどな!」
光属性らしいことができるという君島の言葉に、遠野は闇属性らしさを強調するような言
葉を返す。
「浄化なのに痛いって大変やな!ツッキーは毛利の浄化痛かったりするん?」
「いや、ただただ心地よいだけだな。」
「いいんだよ!俺はそんなふうに浄化されるのが最高に好きなんだからよ!あと、浄化の
ときに闇属性全開のお前と交わって、闇と一体になれる感じがスゲェ好きだぜ!」
闇属性に憧れ、その属性の生き方をしたいと思っている遠野にとっては、闇属性を高めた
上で行われる君島の浄化はこの上なく魅力的なものとして感じられていた。
「光属性のようにありたいと言っているのに、いちいち闇属性を強調するようなこと言う
のやめてもらえます?」
「だって、俺は君島の闇属性っぽい部分が一番好きだと思ってるんだからよ。しょうがね
ーだろ。」
それを聞いて、大曲や種ヶ島、越知や毛利はふっと吹き出す。理想とする生き方は真逆だ
としても、君島が闇属性、遠野が光属性であることは、間違いなく良い影響を生んでいる
と、そこにいる全員が思っていた。
「お前達の話を聞いて納得したことがある。」
「何だよ?」
越知が発した言葉に遠野は聞き返す。
「君島と遠野は『悪意』が見えない。処刑や浄化で暴力的な要素を含んでいるはずなのに、
何故だろうかと不思議に思っていた。だが、今の話を聞いて分かった。お前達がそのよう
な行為をするのは、『悪意』ではなく『救済』が目的だからなのだな。」
「へぇ、俺と君島は『悪意』が見えねぇのか。そりゃ初耳だな。」
「それはちょっと嬉しいですね。」
「まあ、お互いに抱いてる感情がややこしすぎて『悪意』が入る余地なさすぎやからな。
実際、二人がしとるんは不幸な子ども達を助けるっていうだいぶ高尚なことやし。」
「確かにそうですね!さっすが、キミさんと遠野さんや!」
そう言われるのは悪い気分ではないと、君島と遠野は顔を見合わせてふっと笑う。
「ま、俺が素直に闇属性だったら、こんなに君島に惹かれてはなかったと思うし、そう考
えると光属性でよかったかもしれねぇな!」
「確かに私が光属性で、遠野くんが闇属性だったら、私は遠野くんのことをただ嫌いでう
っとおしい人としか思ってなかったかもしれませんね。そうなると、今のように子ども達
を救うことはできなくなるので、遠野くんの言う通りこれでよかったのかもしれません。」
改めて考えてみると、今のこの状態がベストであるかもしれないと君島も遠野も自分の属
性を前向きに捉える。
「サンサンもアツも、今のままで属性的な相性は抜群ってことやな!はは、何やみんな属
性的な相性も良くて安心したわ☆」
「ま、このネタで話せたのは悪くなかったんじゃねーの?」
「確かにそうだな。」
「キミさんと遠野さんの話、ホンマ興味深かったですわ。種ヶ島さんの『不会無』と『更
互無』が実際見れたのもオモロかったですし。」
「自分の属性をプラスに捉えられるようになったのは大きな収穫ですね。」
「だな。俺も初めて光属性でよかったと思えたぜ。」
種ヶ島の思いつきの質問から盛り上がった自分達の属性の話。その話を通して、それぞれ
のパートナーとの絆や相性を再確認し、そこにいるメンバーは皆良い気分になる。
優しい火が冷たい身体を温め、熱すぎる飲み物は氷で穏やかに冷やされる。宝石のような
お菓子に風は喜び、見えない風は地の腕に捉えられる。偽りの光は偽りの闇に救われ、本
物の光は闇と一つになることを悦ぶ。様々な属性がお互いに惹かれ合い、補い合い、交じ
り合う。ありのままの自分でいられることを嬉しく思いながら、暖かな教会の中では楽し
げな笑い声が響くのであった。
END.