Best Partner

「練習開始!!」
たくさんのテニスコートがある場所でそんな声が響いた。ただいま全ての授業が終わり、
部活が始まったところだ。だが、レギュラーメンバーの人数が明らかに足りない。確かに
三年はもうそろそろ引退ではあるが、ここまでいないのは珍しいことだ。
「跡部さん、ダブルスの練習をしたいんですけど宍戸さん知りませんか?」
「ああ、あいつ、4時間目に頭が痛ぇとか言って早退しちまったぜ。あとで見舞いに行っ
てやんねぇとな。」
「そうですか。じゃあ、滝さんは?」
「滝は知らねぇな。違うクラスだし。」
「滝は今日休みだよ。風邪引いたとか言ってたけど。」
二人の話に口を挟んだのはジローだ。今日は珍しくちゃんと起きて部活に参加している。
それを聞くと鳳は明らかに困ったような顔をした。
「じゃあ、今日の練習どうしようかな・・・。」
レギュラーメンバーの中の三人がそんなやりとりをしていると向こうの方から岳人がパタ
パタと走って来た。
「なあなあ、侑士来てる?さっきから探してるんだけどいないんだよなあ。」
「また、さぼりか?あいつ。ったく、しょうがねぇ奴だな。ちょうどいい、向日、鳳がダ
ブルスの練習したいっつーんだ。つき合ってやれ。」
「分かった。もし侑士が来たら教えろよな。」
「ああ。しっかり走らせてから教えてやるぜ。」
というわけで、岳人は鳳とダブルスを組み、練習をすることになった。練習をするにも相
手が必要なので跡部はこのペアの相手として、側にいたジローと樺地を組ませる。どちら
も凹凸ペアになってしまうが、やってみるとなかなかバランスは取れているようだ。
「あっ!」
鳳が球を取り逃すと岳人は前衛から一気に後衛に走っていき、いつものハイジャンプでボ
ールを打ち返す。この俊敏な動きと正確さはさすがだ。
「これくらい取ってやるー!!って、あれ?」
ジローも岳人が打った球を打ち返そうとしたが、球が意外と高くもう一歩のところで届か
なかった。それを後衛の樺地が重い打球で打ち返す。
「い゛い゛――っ!!」
「うわっ!!」
鳳はかろうじてラケットに当てるがネットに引っかかってしまった。
「15−0。芥川・樺地ペア。」
そんなふうに試合形式で練習をしていると、やっと忍足がやってきた。それを跡部は見逃
さない。
「忍足。」
ギクッ!!
「あ、跡部・・・。」
「今まで何やってたんだ?あーん?部活はとっくに始まってんぞ。」
「ちょ、ちょっと委員会で・・・。」
「俺様が生徒会長だってこと忘れてんのか?忍足。今日集まりがある委員会なんて一つも
ねぇよ。どうせどっかでさぼってたんだろ?」
「うっ・・・」
跡部はもう何でもお見通しだ。忍足はもう下手な言い訳は出来なくなってしまった。跡部
はそんな忍足にバッチリ罰を与える。
「外周10周して来い。今すぐにだ。」
「10周!?それは少し多すぎやで・・・。そ、それに宍戸もまだ来てないやん。」
「宍戸は体調不良で早退した。それに、あいつは授業はさぼっても俺様の部活を正当な理
由なしに休んだことなんて一度もねぇよ。そんなことすんのはお前とジローくらいだ。」
確かに宍戸は午後の授業をさぼることはあっても、部活には必ず参加する。跡部はそれを
知っていた。余計なことを言ってしまったと忍足はさらに閉口する。しかも、今日はジロ
ーがしっかりと部活に来ている。さぼらなければよかったと遅いとは分かっていても、思
わずにはいられなかった。
「ほら、さっさと走って来い。それとも20周にして欲しいのか?」
「わ、分かった。でも、岳人もきっと待ってるだろうし、もうちょっと減らしてくれても
ええやん?」
素直に忍足が言うことを聞かないので、跡部はしだいにイライラしてきた。この際だから
もっとイジメてやろうと跡部はあることないことをペラペラと話し始める。
「向日?向日ならお前はもういらないってくらいに鳳と仲良ーくダブルスの練習してるぜ。
ほら、見ろよ。」
今はちょうどハーフタイムでどちらのペアもいったんベンチに座り、休んでいた。あの後、
岳人・鳳ペアは反撃を開始し、ジロー・樺地ペアを逆転することが出来た。そのため、二
人は嬉しさからか本当のダブルスパートナーであるかのように仲よさげに話をしている。
まあ、もともとダブルスプレイヤー同士であるので、調子が出てくれば得点が取れるよう
になるのは当然であろう。だが、忍足はそんな二人の様子を見て、少なからずショックを
受けていた。
「じょ、冗談やろ?」
「さあな。向日に直接聞いてみればいいじゃねーか。そんなことよりさっさと走って来い
よ。早く行かねぇとホントに20周にするぞ。」
「・・・・・。」
忍足は重い足取りで、外周を走り始めた。それと同時にテニスコートでは、後半戦が始ま
る。この試合は岳人・鳳ペアからのサービスだった。
「一球・・・入魂!!」
いつものスカッド・サーブで鳳はサービス・エースを決める。それを見た岳人は大はしゃ
ぎだ。
「すっげー!!さっすが鳳。やるぅ。」
「ありがとうございます、向日先輩。じゃあ、次いきますよ。」
楽しそうな二人のやりとりは嫌でも忍足の耳に届いてしまう。走っていて息が切れていく
のもあるのだが、それ以上に気持ちがもやもやして何となく泣きたくなってしまう。
確かにさぼったのは悪いと思うで。でも、そんなに鳳と仲良くすることないやん。ホンマ
に俺、岳人に見放されてしもたんやろか・・・?
もう10周走り終えるころには、忍足はヘトヘトだった。フラフラとした足取りでコート
に戻ってくると、今度は岳人が忍足のことを見つける。
「あっ!!侑士。やっと来たー。何してたんだよ?遅いぞー!!」
「ハァ・・・ハァ・・・ちょっと遅れてきたくらいで、跡部が10周も走らせるんやもん。」
「それぐらい分かれよー。全く侑士はしょうがないなあ。」
「っ!?」
何気なく岳人は言ったのだが、その言葉に忍足はひどく傷ついた。さっきの今でそんなこ
とを言われたらいつもとは違うものとしてとらえてしまう。このあと、二人は一緒に練習
をするが、どうもいつもの調子が出ない。岳人からすればたまにはこんなこともあるだろ
うと楽観的にとらえてるのだが、忍足は違った。岳人に嫌われたと思い込み、一人でへこ
んでいる。そんなこんなで部活の時間は過ぎていった。

今日は岳人が部室の鍵当番なので、みんなが帰ってしまっても最後まで残らなければなら
なかった。それを分かっていてなのか岳人はいつもよりだらだらとシャワーを浴びたり、
備え付けのパソコンで遊んだりと余計なことをしまくりだ。全員が帰ったころに着替えを
始める。全員といってももちろん忍足を除いてだ。
「さあてと、着替えるか。後は鍵しめて帰りゃいいんだよな。ちょっと待ってろよ侑士。」
「ああ。」
岳人が着替え終わるのを忍足はパソコンのイスに座り待っている。黙っているが、心の中
は今日の部活のことでいっぱいだった。仲良さげに話していた岳人と鳳を見てから、もや
もやとした気分が抜けない。こんな気持ちになることがあまりないので、忍足はどうすれ
ばいいか分からなかった。
「よっし、終わり。窓の鍵しめてあるし、パソコンの電源もちゃんと消えてるよな。待た
せてゴメンな。じゃあ、帰ろうか。」
部室内の点検をすると岳人は鞄を持ち、忍足の前へ行く。忍足はまだどこか憂鬱そうな表
情だ。だが、岳人はそんな忍足の変化にほとんど気づいていない。早く帰ろうといつも通
りの笑顔で手を差し伸べる。忍足はこのまま帰るのがどうしても嫌だった。こんなもやも
やとした気分のまま帰りたくない。次の瞬間、それが行動に現れる。忍足はイスに座った
まま岳人の制服の裾を掴み、岳人の想像していなかったような言葉を口にした。
「岳人・・・。」
「何?どうしたの、侑士?」
「ここで・・・せぇへん?」
「へっ!?」
岳人は耳を疑った。忍足からこんなことを言うなんてありえない。だが、本気で言ってい
るのならこんなにもおいしい状況はない。それも今日は自分が鍵当番なので、たとえ少し
くらい遅くまで残っていても怪しまれない。どういう心境の変化か知らないがそんなこと
を突然言い出す忍足に一応岳人はもう一度確認をとった。
「それ、マジで言ってんの侑士?」
「嫌か?」
今にも泣いてしまいそうな表情で忍足は岳人を見る。そんな表情に岳人はノックアウトだ
った。
「いや、全然嫌じゃないんだけどよ、侑士こういうとこですんのすごい嫌がるじゃん。だ
から、ホントにいいのかなあと思って。」
「今日は・・・そういう気分なんや。なあ、しよ?岳人。」
「お、おう。」
いつもは聞けないような誘い文句に岳人はドッキドキだ。念のため部室の鍵はしめておい
て、あたりに誰もいないかを確認する。もう一度ロッカーのある部屋に戻ると、岳人は忍
足にソファに座らされた。何で自分が座らなきゃいけないんだろう?と疑問に思っている
間に忍足は無言で岳人のズボンのジッパーに手をかける。そして、そのまま岳人のモノを
口でし始めた。
「うあっ・・・侑士・・・いきなり。」
「ぅん・・・んん・・・んっ・・・・」
何々!?今日の侑士どうしちゃったのー!!うっわあ、やべぇ。よく分かんないけど、か
なり今おいしい状況!?てか、気持ちよすぎだよ〜。
「侑士、今日どうしたの?いつもの侑士じゃないよ・・・」
「んっ・・・ふ・・んん・・・」
「くっ・・・まあ、いいや。たまにはこういう日もあってもいいかもね。」
楽観的な岳人は忍足が何も答えなくとも、今の状況が楽しいからという理由でそれ以上言
及しない。忍足が夢中になってやってくれるので、自然と頭はぼーっとしてきてしまう。
そんな気持ちよさに酔いしれながら、限界が近づくのを感じる。このままでは忍足の口を
汚してしまうと離させようとしたが、忍足は決して離そうとはしなかった。
「ハァ・・・侑士、俺、そろそろヤバイ・・・離して・・・」
「んんっ・・・ん・・・」
「うあっ・・・もう・・・っ!!」
「んっ!!・・・んっ・・・んん・・・」
放たれた熱を忍足は飲み込む。だが、そんなに慣れてはいないので、やはりむせてしまう。
やってしまったと岳人は忍足の口を拭って、抱きしめながら謝る。
「うわっ、ゴメンな、侑士!!ホントゴメン!!」
「岳人は・・・何も悪ない。俺が・・勝手にやったんやから。」
「でも、やっぱり・・・」
「ホンマに大丈夫やって。それより、先進もう?」
「・・・そうだな。じゃあ、今度は俺が侑士にしてやるよ。」
今度は岳人が忍足を座らせ、ズボンと下着を取り去ってしまう。ワイシャツが短いので、
隠すということは不可能だ。その上、岳人はソファの上に足を乗せるように指示した。
「こないな格好・・・恥ずかしい・・・」
「平気だよ。俺しか居ないんだから。それにこうした方がやりやすいんだよな。」
「岳人以外に居て・・たまるか・・・ひゃっ・・ぁ・・・!!」
忍足の話も聞かず、岳人はどんどん進めていく。忍足は声がそれほど出ないようにと口を
両手で覆った。それでも、岳人の舌や唇がいいポイントに触れると堪えきれない声が漏れ
てしまう。
「あっ・・・やぁ・・・岳人っ・・・ん・・・」
「今日の侑士、何かいつもより色っぽいよね。何があったか知らないけど、すごくいいぜ。」
「んんっ・・・別に・・何も・・あらへん・・・」
鳳に嫉妬していたなんて言えない忍足は思わずこんなことを言ってしまう。岳人からする
とどんな理由であれ、こんな忍足を見れるのはいいことだと実に楽しそうだ。下に穿いて
いたものは全て脱がしてしまったので、岳人は忍足のモノを口に含みながら、後ろも同時
に慣らす。二つの場所を同時に弄られ、忍足はさらに大きな反応を示した。
「うっ・・・あぁっ!!・・・あっ・・・岳人っ・・・そんなっ・・・」
「気持ちイイだろ?一緒にやれば痛くないし。」
「アカン・・て・・・これじゃ・・・はっ・・ああっ・・・」
「やっぱり痛い?」
心配そうな表情で岳人は忍足を見上げる。当然痛いわけがない。違う意味で忍足は切羽詰
っていた。
「痛いわけないやん・・・でも・・これっ・・・・」
「何?」
「あっ・・・良すぎや・・・気持ちよくて・・・・ヤバイっ・・・」
「なら問題ないね。」
忍足の言葉を聞いて、岳人は笑いながら行為を続ける。忍足の頭にはもう今日の部活のこ
となど一欠けらも残っていない。むしろ、他のことを考えている余裕など全くないに等し
い。岳人にされるだけされて、忍足はそんなに時間を置かずに達してしまった。
「くあっ・・・ああ――っ!!」
「んっ・・・」
さっきの忍足と同じように岳人も忍足の放った熱を何の躊躇いもなしに飲み込む。忍足は
ソファにもたれてすっかり脱力していた。荒い息遣いが部室に響く。
「なあ、侑士。このあとどうする?ソファに乗ったままじゃ出来ないよな?」
「ハァ・・・岳人の好きにしてええよ。確かにソファじゃ無理やな。」
「ちょっと冷たいかもしんないけど、床でいい?」
「ああ。じゃ、下りたほうがええな。」
忍足は自らソファを下り、床へと仰向けになった。岳人は背中が痛くないようにと忍足の
下にクッションを敷いてやる。
「背中痛いの嫌でしょ?」
「おおきにな、岳人。」
二人は笑いながら口づけを交わすと一つに繋がる。忍足は一瞬だけ顔を歪めたが、岳人が
気遣うように動くのであっという間にその表情はとろけるようなものになる。
「ふ・・・あぁ・・・あっ・・・あん・・・」
「気持ちイイぜ、侑士。」
「ああ・・・岳人・・・・俺のこと・・・好きか?」
「好きに決まってんじゃん。好きじゃなきゃこんなことしねぇよ。」
「よかった・・・・」
忍足はぎゅうっと岳人に抱きつく。そんな忍足にちょっと驚く岳人だが、本当に可愛いな
あとクスクス笑って、頭をポンポンと撫でてやる。
「今日の侑士はすげぇ甘えん坊だな。でも、可愛くていいと思うぜ。」
「ホンマ・・・?」
「うん。俺はどんな侑士も好きだぜ。今日みたいな誘い受で甘えん坊の侑士も最高。」
「岳人・・・。」
こんなことを言われれば、今日のことはどうでもよくなってしまう。跡部の言っていたこ
とは全て嘘だったと身をもって知った。岳人はちゃんと自分のことを一番に考えてくれて
いると身体全体で感じる。それが嬉しくて忍足は最高の笑顔を浮かべて、岳人に言う。
「やっぱ・・・俺の一番は岳人やな。」
「当たり前だろ?」
岳人も笑いながらこう返す。もう一度口づけを交わすと二人はほとんど同時に果てた。し
ばらく余韻に浸ったあと、今度こそ本当に帰る用意をする。もう外はすっかり真っ暗だが、
たまにはこんなになるまで残るのもよいなあと二人とも思うのであった。

次の日はレギュラーメンバーはバッチリ全員そろっていた。
「鳳、昨日はすまんかったな。」
「何のことですか?忍足先輩?」
「いや、別に。さあてと、今日もはりきっていこか。」
「何か昨日とえらいやる気の違いだな、忍足の奴。」
「やる気があることはいいんじゃねぇの?よっしゃ、俺も昨日出来なかった分、たくさん
やるかー。跡部、一緒に打とうぜ。」
昨日のことがあり、今日の忍足はやる気満々だ。昨日、部活に出ることが出来なかった宍
戸もかなり気合が入っている。
「何かみんなやる気満々だねー。どうしたの?」
「さあ。跡部ー、俺今日も樺地とダブルス組むー。いい?」
「あー、もう勝手にしろ。全く、本当気分屋ばっかだなこの部活は。なあ、樺地?」
「ウス。」
こんなことを言っているが、跡部も本当は嬉しくて仕方がない。何だかんだ言ってもみん
ながやる気を出して、部活をやってくれるのは嬉しいのだ。みんなでコートに入ろうとし
た時、鳳が忍足に声をかけた。
「忍足先輩。」
「ん?何や鳳。」
「忍足先輩、うらやましいっスね。昨日、向日先輩と練習してたんですけど、向日先輩、
暇さえあれば忍足先輩の話ばっかするんですよ。それ聞いてたら、忍足先輩すごく愛され
てるんだなあって思って、ちょっとうらやましいなあって思っちゃいました。」
それを聞いて忍足は嬉しそうに笑う。昨日鳳に嫉妬していたのが本当にバカらしく思えた。
「そないなこと言っても、滝も口を開けば自分の話ばっかやで?」
「そうなんですか!?」
「そりゃもう。今度詳しく聞かせたるわ。」
楽しそうに笑いながら、忍足は鳳をからかう。そんなことをしていると向こうのコートか
ら自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「侑士ー、早く来いよ!!試合始まるぜ。」
「ああ。今行く。」
忍足は向こうのコートに向かって駆け出した。今日も氷帝学園テニス部は平和である。

                                END.

戻る