Beautiful Girl?

ただいまは夜中の1時。自宅にある部屋で跡部はいくつかのもの調合して、何かを作って
いる。
「あいつらに作れて俺が作れねぇわけがねぇ。」
あいつらとはおそらく青学の乾と不二のことだろう。跡部が今必死で作ろうとしているも
の。それは、『性転換の薬』。ついこの間、青学の顧問が持って来たマフィンを口にし、自
分を含め、レギュラーメンバーが女の体になった事件からヒントを得、作ってみようと思
ったのだ。不思議な色の煙がもくもくと立ち昇りその薬が完成した。
「出来たぞ。でも、効果があるかどうかはまだ分かんねぇからな。明日実験してみるか。」
跡部は出来た薬を二つのビンに分けた。その時、跡部は突然強い目眩に襲われる。目眩と
いうか強い眠気だ。おそらく薬を作っている時に出た煙の副作用であろう。跡部はその場
に倒れ込んだ。その衝撃で机の上のビンが一つ倒れる。蓋が外れ、ピンク色をした液体が
跡部の体に降り注いだ。跡部は既に深い眠りに落ちている。そんなことに気がつくはずが
なかった・・・。

「う・・うぅ・・・あれ?もう朝か。」
起き上がろうと思うと体が重い。今日は休みなので、特に問題はなかったのだが、自分の
部屋に戻って全身が映る鏡を見て、跡部は目を疑った。
「なっ!?これは・・・・」
一度は見たことある姿だが、今なっててよい姿ではない。跡部は慌てて薬を作っていた部
屋に戻る。そこには昨日作った薬のビンが倒れている。それも中身がない。おそらく自分
が眠っている間にこぼれてしまったのだろうとすぐに分かった。
「あー、アレがかかっちまったからこうなったのか。でも、効果はバッチリみたいだな。」
少しは驚いたものの自分の作った薬の効果がしっかりあったということが分かり、くすっ
と笑った。効果はどうせ今日一日だろうと軽く考えて、また自分の部屋へと戻る。
「そうだ、どうせだったらこの姿で宍戸とデートするってのもおもしろそうだな。」
そうと決めたら早速行動を起こす。宍戸の携帯に電話して、自分の家へと来るように言っ
た。
「もしもし、宍戸か?」
『う〜、何だよ跡部?こんな朝早く。』
宍戸はまだ眠っていたようで、寝起きの声で不満気に答えた。
「今から、俺の家に来いよ。おもしろいもの見せてやる。」
『はあ?おもしろいもの?俺、まだ眠いー。』
「俺の家に来たら眠気なんてぶっ飛んじまうよ。ちゃんと来いよな。」
ポチッ
宍戸の答えを聞く前に跡部は電話を切った。こうすると宍戸は来ざるをえない。出かける
準備でもするかと跡部は財布や何やらを鞄に入れ始めた。
「ったく、何なんだよ跡部の奴。いきなり来いって言われても困るっつーの。」
ぶつぶつと文句を言いながらも宍戸は出かける用意をする。軽くトーストを食べ、玄関を
出る。跡部の家に行った後、どこかに出かけることも考えてそれなりな用意もしていった。
「ちょっと、跡部んち行ってくる。」
「いってらっしゃい。」
こんなに朝の早い時間にも関わらず、宍戸の母は何の疑いもなしに宍戸を送り出した。宍
戸は小走りで跡部の家へと向かった。

ピンポーン・・・
『はい、跡部です。』
「宍戸ですが、景吾君に呼び出されまして・・・・。」
『分かりました。すぐに開けます。』
宍戸はしょっちゅう跡部の家に来ているので、名前を言えば大抵すぐに門を開けてもらえ
る。家の中に入ると宍戸はまっすぐに跡部の部屋へと向かった。
「何の用だよ?あと・・・うっわああ――!!」
跡部はただいま着替え中。宍戸は思わずドアを閉めた。そう跡部は女の体になっているが
故、宍戸はそれを見て驚いたのだ。
「何、そんなに驚いてんだよ?早く入って来いよ。」
「は、入って来いって言われても・・・・」
「裸なんていつも見てるじゃねぇか。何今更照れてんだよ?」
「だって、お前の体女になってる・・・・。」
ドアをはさんで、跡部と宍戸は会話をする。宍戸が入って来ようとしないので、跡部はそ
のままの格好で自らドアを開け、宍戸を無理やり部屋の中に入れた。
「うっわ、ちょ、お前服着ろよ!!服!!」
顔を赤面させ、宍戸は跡部から目をそらす。その反応が面白くて、跡部はなかなか服を着
ない。くすくす笑いながら、宍戸の顔をわざと自分の方へ向けさせたりする。
「そんなに動揺するなんて、お前意外とやらしいんだな。」
「どっちがだ!!」
「まあ、いつまでもこんな格好しててもしょうがねぇしな。監督に買ってもらったアレが
また役に立つなんて思わなかったぜ。」
跡部はこの間の一件で太郎に買ってもらった下着をつけ、女物の服を着る。そんなことを
している跡部を見て、宍戸はあれ?と疑問に思った。どうしてここに女物の服があるのか。
それも跡部の着れるサイズの服が。
「何でこの部屋女物の服が置いてあんだよ?まさか、お前女装趣味があるとか・・・・」
「んなわけねーだろ。バーカ。これはお前に着せるために買った服だ。」
「はあ!?何だよそれ!?」
「はは、細かいことは気にすんな。それより、折角こんな姿になっちまったんだからよ、
出かけようぜ。宍戸。」
普通は外出したくなくなるのが当然の反応だろうが、跡部は違う。おもしろそうだし、こ
のまま家に居るのはもったいないと宍戸をデートに誘う。宍戸はもちろん困惑するが、た
ぶん嫌だと言っても無理やり連れ出されることは分かっている。しょうがねぇなあという
顔をして、別にいいぜと了承した。
「でもさ、マジでその姿で出かけんのか?恥ずかしいとか思わねぇの?」
「何で恥ずかしいなんて思うんだよ?女になったって俺様の美しさは変わらねぇだろ?」
自信満々にそういうので、宍戸は言葉を失ってしまう。確かに宍戸から見ても、スタイル
抜群の金髪・青い瞳の超絶美人だということは疑う余地もない。だが、自分でそういうこ
とを言うのはどうかと思ってしまう。
「お前がそれでいいなら、別にいいや。で、どこ行くんだよ?」
「さあな。それは出かけてから決めようぜ。」
というわけで、二人は出かけて行った。執事やメイドにこのことがバレると厄介なので、
正面の玄関ではなく、跡部の家族しか使わない裏口から二人は外へ出た。

街に出た二人は特にどこへ行くということもなく、ぶらぶらと歩いて行く。ただ、歩いて
いるだけなのだが、宍戸からすれば、いつもとはあまりにも違いすぎる跡部の様相にドキ
ドキしてしょうがなかった。
う〜ん、勢いに乗せられてついてきちまったが、これってかなりドキドキなことだよな。
いつもは俺のがどちらかと言えば、女役っぽい感じでデートするけど、今回はどう見ても
跡部の方が女だもんなぁ。・・・それにしても、跡部は何でまたこんな姿になってんだ?
根本的な疑問を抱えつつ、宍戸は平静を装って跡部の隣を歩く。しばらく歩いて行くと跡
部が思い出したように宍戸に話しかけた。
「そうだ、宍戸。」
「な、何?」
「俺、まだ朝飯食ってねぇんだよ。どっかそのへんの喫茶店でも入らねぇ?」
「ああ。別にいいけど・・・。」
女になっていても、全く口調は変わらない。声はいくらか高くなっているのだが、そのし
ゃべり方のために普段と大して変わらないんじゃないかという感じを起こさせる。しかし、
顔や体を見るとやはり完璧な女の子。そんなギャップに宍戸はなかなか慣れることが出来
ない。
「おっ、こことかよさそうだな。」
「何か・・・すげぇ高そう。」
「俺が奢ってやるよ。入るぞ。」
「あ、ああ。」
跡部は高級感あふれる喫茶店を見つけ、そこに入ろうと宍戸を誘う。中に入ると普通の喫
茶店とは少し違う落ち着いたクラシックな雰囲気が漂っていた。
「二名様ですね。」
店員の口調も落ち着いている。二人は窓辺の明るい席へと案内された。メニューを渡され、
何を注文するかを考える。しかし、そのメニューに書いてあった値段を見て、宍戸は絶句
した。
「宍戸、お前は何食う?」
「跡部・・・これはちょっと高すぎねぇか?」
「あーん?そうでもねぇだろ。俺は朝食セットみたいなのを頼むけど、お前は?」
「えっと・・・」
値段が高すぎてどれが食べたいかなんて決められない。ただ、一つだけ目にとまったもの
があった。そんなにゴテゴテしてないが、キレイに盛り付けられたベリー系のパフェ。赤
とピンクの色合いが宍戸の目にはとてもおいしそうに見えたのだ。だが、その色合いから
宍戸はあることを思った。
このパフェって絶対女が頼むようなものだろうなぁ・・・。
見るからにキレイで可愛い感じのベリーパフェはどう見ても女性向のように宍戸には見え
た。食べたいと聞かれたらこれだが、自分が食べるには合わないんじゃないかと考えてし
まう。
「決まったのか宍戸?」
「えっ、えっと・・・・」
跡部はメニューを見ている宍戸の視線がどこにいっているのかをしっかりと見極めていた。
「お前、そのパフェが食べたいんだろ?俺が頼むんだから別に怪しまれねぇよ。それでい
いな。」
「は?え・・・うん。」
跡部にそう言われ、宍戸はとっさに頷いてしまう。跡部が軽く手を上げると、ウェイトレ
スが注文を取りにやってきた。
「お待たせいたしました。」
「朝食セットを一つと、ベリーパフェを一つ。」
「そちらのお客様は?」
「えっ・・・」
「彼にはミントティーを。」
「かしこまりました。デザートは食後でよろしいでしょうか?」
「いや、食前で。」
「かしこまりました。」
今の注文の仕方はどう見ても跡部がパフェを頼んだようにしか見えない。宍戸はすごいな
あと感心しながらも、ふと口調の違いに気づいた。跡部は自分のことを『彼』と言った。
いつもなら『こいつ』とか『そいつ』とかしか言わないのに、『彼』とは何だ?初めて聞
いたぞと宍戸は目を丸くする。
「跡部、口調が違う。」
「他人の前では、男の言葉使ったら怪しまれるだろうが。お前の前だけだ。今の姿でこう
しゃべるのは。」
「ふーん。あっ、それよりミントティーなんて頼んじゃっていいのか?それも結構高ぇだ
ろ?」
「どうせお前飲むだろ。それに俺が奢ってやるって言ってんだ。金のことは気にしなくて
いい。」
「そっか。」
「おまたせしました。朝食セットとベリーパフェ、ミントティーです。」
今の時間は空いているので、すぐに注文した品が持ってこられた。跡部の前に朝食セット
とパフェが置かれ、宍戸の前にミントティーが置かれる。ウェイトレスが向こう側に行っ
たのを見計らって跡部はパフェを宍戸の前にやった。
「サンキュー、跡部。」
「へぇ。結構キレイな色してんなそのパフェ。デザートとしては合格だな。」
「何言ってんだよ。わあ、このパフェ超うめぇ。」
「よかったじゃねぇか。」
一口口にした宍戸の感想を聞き、跡部はふっと微笑んだ。その表情を見て、宍戸は一瞬ド
キっとする。
「何か、今の跡部の笑った顔、いつもと違う。」
「はぁ?どう違うんだ?」
「いつもはこういうとき笑っても、どこかキツイっていうか半分からかい入ってたり、そ
んな感じの笑い方なんだけど、今の違う。」
「その言い草メチャメチャ失礼だな。」
「何つーのかな?・・・可愛い?」
宍戸から『可愛い』という言葉を聞いて跡部は皿の上にフォークを落とした。まさか、そ
の言葉は宍戸の口から聞くとは思わなかったからだ。キレイとか美人とか言われるならま
だ分かる。だが、『可愛い』とは予想していなかった。
「あっ、もしかして跡部照れてる?」
「て、照れてるわけねぇだろ!?」
「顔、真っ赤だぜ。」
跡部が意外な反応をするので、宍戸はからかってみる。だが、それが跡部の逆鱗に触れた
ようだ。跡部は向かい合わせに座っている宍戸の胸ぐらをつかみ、無理矢理キスをした。
窓際の一番明るい席。外からその光景は丸見えだ。宍戸は必死で抵抗しようとするが、女
になっても変わらない跡部のキスのテクニックにたじたじ。しばらく、そのままの状態で
いると宍戸の方が赤くなり、からかわれる対象となった。
「な、何すんだよ〜。」
「お前があんなこと言うからいけねぇんだ。今はお前の顔のが真っ赤だぜ。」
「あんなことされたら当たり前だろ!!ここ、そ、外から丸見えだし・・・・。」
「でも、この時間だ。人はあんまりいねぇみたいだぜ。」
「そうだけどさぁ・・・・」
もうすっかり跡部のペースだ。宍戸は暑くなってきてしまった体を冷やそうとパフェに乗
っているアイスクリームを口に含む。思った以上に濃い味のバニラにちょっと驚く。
「このバニラすげぇうまい。パフェってこんなにおいしかったっけ?」
「本当か?俺にも一口くれよ。」
朝食セットを食べ終えた跡部はデザートが少し欲しいと宍戸にパフェを貰おうと考えた。
宍戸は何の躊躇いもなしにスプーンに乗せたアイスを跡部の口に運ぶ。
「本当だ。なかなかいけるな。このパフェ。」
「だろ?あっ、何だったら跡部もこれ食うか?残ってる奴半分こしようぜ。」
「お前が頼んだ奴だろ?いいのかよ?」
「おう。だって、金はどうせ跡部が払うんだろ?」
「まあ、そうだけどな。」
そんな会話をしながら、二人は残っているパフェを半分ずつ食べた。かなりおいしいよう
でどちらの顔も嬉しそうな笑顔があふれている。二人は気づいていないが、客の少ないこ
の時間帯。ウェイトレスやウェイターの視線は二人に釘付けだ。美少女・美少年のカップ
ルがこんな朝っぱらからイチャイチャしていたら、見てしまうのは当然であろう。

喫茶店を出ると、二人はいろいろな店を回り、服やら飾りやらを買った。買ったのはもち
ろん跡部なのだが、買ったものは全て女物の服やアクセサリー。宍戸は何のつもりだろう
と疑問を持ちながらも、そんなに気にしなかった。女になっているのだから、そういうふ
うなのが欲しくて当たり前なのだろうと素直に納得してしまっているのだ。だが、跡部が
そんなふうに思って買っているはずがない。おおかた、宍戸に着せるとか女の姿なら怪し
まれないからとかそんな理由で買ったのであろう。たくさんの買い物を終えると、二人は
跡部の家の近くにある公園に向かう。夕方まではここでくつろごうという考えなのだ。
「あっ、跡部。あそこの木の下とかよくねぇ?いい感じに日陰になってるし。」
「そうだな。いったんあそこで休むか。」
二人は大きな木の下まで歩いて行った。たくさんの葉のおかげで日陰ができ、暑過ぎもせ
ず、寒すぎももしないちょうどよい環境を作り出している。そこまで行くと、跡部は宍戸
を先に座らせた。その後、自分が腰を下ろし、そのまま宍戸の膝に頭を乗せ横になる。
「何だよ跡部。」
いきなりそんなことをされ、宍戸は心臓が止まるかと思った。普段はこんなことはしない。
それも今は女になっている。いつもとは違う雰囲気と態度に戸惑っていると跡部はそのま
まの状態で宍戸を見上げ笑う。
「何、そんなに動揺してんだよ?別に女になってるけど俺は俺だぜ。少し眠いから寝かせ
ろ。あっ、俺が眠ってるからって変なことするんじゃねーぞ。」
「しねーよ!!本当に寝ちゃうのか?」
「ああ。薬の副作用。強い眠気みたいだな・・・・」
「薬?」
「・・・・・。」
跡部は本当に眠り込んでしまった。宍戸は『薬』という言葉にすごく引っかかるものがあ
ったが、すっかり夢の中に落ちてしまった跡部に聞くことは出来ない。はぁと溜め息をつ
き、跡部の顔に視線を落とす。
「本当に寝ちまった。・・・・それにしても、すげぇキレイな顔してんよなぁ。まつ毛長い
し、肌白いし。男ん時の顔と大して変わってないはずなのに、全然雰囲気違う。」
そんな独り言も今の跡部には全く聞こえていない。そっと髪の毛に触れると、思った以上
に柔らかいので、少しドキッとする。
「髪も超キレイ。俺、跡部が女だったとしてもきっと惚れてたんだろうな。性格も結構好
みだし。」
そんなことを考えていると自然に顔が緩んでくる。跡部と一緒に居て、ここまで落ち着い
ていろんなことを考えられることはそう滅多にないので、宍戸は何となく嬉しくなってし
まう。そのうち宍戸も眠たくなってきてしまった。座ったままの状態でうとうとしている
うちにすっかり夢の中。二人が眠りについてからしばらくすると、今度は跡部が目を覚ま
す。
「・・・あれ?あー、そうか寝ちまったんだっけ。ん?何だよ、宍戸の奴も寝ちゃってる
じゃねぇか。」
座ったまま眠っている宍戸を見て、跡部はふっと笑った。そのままではキツイだろうとい
うことで今度は自分が座り、自分の膝を枕にさせ宍戸を寝かせた。
「可愛い寝顔してやがる。これじゃあ、カップルっていうより百合みてぇだな。」
そんなことを考えながら、宍戸の髪を撫でていると宍戸が嬉しそうに笑う。どうやら相当
いい夢を見ているようだ。そんなこんなですっかり時間は過ぎ、もう空は夕焼け色に染ま
っていた。
「宍戸、そろそろ帰るぞ。起きろ。」
「ん・・・んー・・・あれ?俺なんでこんなふうに寝てんだ??」
「俺が起きたらお前も寝てたからな。わざわざ逆にしてやったんだ。」
「そっか。あんがとな。あー、何かすげーいい夢見た。」
「俺様の膝で寝てたんだから当然だろ?」
「あー、それで何かいい匂いがしてたんだな。跡部ってさ、香水つけてるのもあるけど、
すげぇいい匂いするよな。俺、跡部の匂い好きだぜ。」
無邪気に笑いながらそんなことを言う宍戸を見て、跡部は何だか照れてしまう。それを誤
魔化そうとすっと立ち上がり、帰る用意をする。服についてしまった草や土を軽くはたい
て落とすと宍戸に手を伸ばした。
「ほら、もう帰るぞ。さっさと立て。」
「おう。・・・なあ、今日の跡部の手、すげぇあったけぇぞ。」
いつもなら自分より冷たい跡部の手が温かいと宍戸は意外だという顔をする。だが、すぐ
に笑顔になって立ち上がった。
「何かたまにはこういうのもいいな。跡部、そのまま女でいれば?」
「そうはいかねぇよ。つーか、もうそろそろ戻るだろうし。それに俺が女のままだったら
お前が困るだろ?」
「何でだよ?」
「さあな。自分で考えろ。」
からかうような口調でそう言うと、宍戸は普通に考える。どういう意味かが分かると宍戸
は顔を真っ赤にして黙ってしまう。
「分かったみてぇだな。ほら、ぼさっとつったってねぇでさっさと行くぞ。」
「なっ、跡部のアホ!!俺、そんなことねぇからな!!」
「うそつけ。今日もどうせ泊まるんだろ?夜にはちゃんと男に戻るから安心しろよな。」
「そんなことないって言ってんだろ!!」
女になっていようがやはり跡部は跡部だ。宍戸はそんな跡部にふりまわされまくり。跡部
は笑いながら、宍戸は真っ赤になって怒鳴りながら、手を繋いで家へと帰る。そんな不思
議なカップルは今日もとても仲がよい。

家に帰った跡部は宍戸を自室に残し、昨日薬を作った実験室に入った。あの薬を宍戸に使
おうと思ったのだが、残っていたもう一つビンがない。机の下を見てみると、蓋があき、
液体がこぼれたビンがあった。どうやら、跡部が出かけている間に飼い猫がこの部屋に入
り落としてしまったようだ。
「ちっ、しょうがねぇ。今日は諦めるか。でも、まあ、あんだけいろんな服を買ったんだ。
別に男のままだって構わねぇよな。」
とことんプラス思考の跡部は宍戸を女にすることを諦め、男のままで女装をさせ、しよう
と考える。跡部が男に戻るまであと数時間。そんな思惑に全く気づかず、宍戸は部屋で大
人しく跡部が戻ってくるのを待っているのであった。

                                END.

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