『六年生の臨海学校』 〜エピローグ〜

本来泊まるべき部屋に、明け方近くになって六年生全員がそろう。少し早めに陸へと戻っ
て来た長次と小平太は、船で義丸に言われたことを他のメンバーに話した。
「味で気づかれるとは思ってなかったなあ。」
「さすが義丸さんと言ったところか。そう言われてしまったら、私達が見たもののレポー
トもまとめるのが筋だろうな。」
義丸が味で媚薬的効果があるということに気づいたと聞いて、伊作はひたすら感心し、仙
蔵は長次や小平太だけではなく、自分達もレポートをまとめた方がよいと提案する。
「でも、朝までそんなに時間がないぞ。」
「メモったものそのまま提出じゃダメなのか?」
「そうしたら、自分達で持ち帰って楽しむことが出来なくなってしまうだろう。何だ?朝
までに仕上げる自信がないのか?」
レポートにすることにあまり乗り気ではない文次郎と食満に向かって、仙蔵はほんの少し
馬鹿にしたような笑みを浮かべ、そんなことを言う。もともと負けず嫌いな二人は、そう
言われ、一気にやる気のスイッチが入る。
「そんなことあるわけないだろう。キッチリ夜明けまでに仕上げてやる!!」
「どっちが先に終えられるか勝負だ!!」
「望むところだ!!」
レポートにするのをどちらが早く終わらすことが出来るかを勝負のネタにしつつ、文次郎
と食満は目にも止まらぬ早さで筆を走らせる。そんな二人を横目に、仙蔵と伊作も自分達
が見てきたものをレポートにまとめ始めた。

長次と小平太以外も何とか夜明け前までには、レポートを完成させることが出来、それを
代表して仙蔵がまとめる。そして、お昼近くになり、兵庫水軍の海を後にするといったタ
イミングで仙蔵は、義丸にそれを手渡した。
「昨日は一日ありがとうございました。とても勉強になりました。」
「それは何よりです。」
「それで、これ、昨日兵庫水軍の方々から学んだことのレポートです。長次と小平太に提
出するようにと言われたと聞いたので。」
仙蔵の言葉を聞いて、義丸がこのレポートがどんな内容であるかを理解する。他のメンバ
ーにはバレないような態度でそれを受け取る。
「そうですか。忍術学園の生徒さんは皆勉強熱心ですね。」
「義丸、そんな要求してたのか?全然聞いてないぞ。」
「忍術学園の皆さんがわたし達のことをどんなふうに捉えているかが気になってな。せっ
かく勉強しに来てくれたんだから、ちょっとくらいこんな課題を出してもいいかなあと思
って。」
「悪いな。こいつが勝手にそんなこと言いだして。」
「いえいえ、臨海学校の総まとめとして書けてよかったです。」
レポートの提出を要求していたなど、全く聞いていなかった鬼蜘蛛丸は仙蔵達にそう声を
かける。しかし、仙蔵達からすれば、いろいろ仕込んでいたとは言えども、なかなか良い
モノを見せてもらったのは確かなのだ。感謝はすれど、レポートの提出が面倒などとは少
しも思っていなかった。
「それでは、私達は忍術学園に帰ります。」
「ああ、またいつでも来てくださいね。」
『ありがとうございましたー!!』
六年生全員で兵庫水軍の面々に頭を下げてお礼を言うと、忍術学園に向かって歩き出す。
六年生が見えなくなるまで見送ると、そこにいた兵庫水軍の面々は水軍の仕事にそれぞれ
戻っていった。

その日の夜、義丸は水軍館の部屋で寝る準備をしながら、忍術学園の六年生が書いたレポ
ートに目を通す。
「へぇ、若い奴らはこんなふうにしてるのか。」
と、そこへ鬼蜘蛛丸が風呂から戻ってくる。
「何読んでるんだ?義丸。」
「忍術学園の生徒さん達が提出してくれたレポートだよ。」
「ふーん、俺も読んでいいか?」
「どうぞ。」
どんなレポートが提出されているか知らない鬼蜘蛛丸は、別段怪しむこともなく机の上に
置いてあった紙を手にとる。軽く目を通すだけで、その内容が官能小説じみたものである
ことに気づき、鬼蜘蛛丸の顔は真っ赤に染まる。
「な、なっ・・・・」
「ああ、それは蜉蝣さんと疾風さんのだな。俺もさっき読んだけど、なかなかすごいこと
してるよな。」
「ど、どういうことだよ、これ!?」
「だから、忍術学園の生徒さんが書いたレポートだぞ?」
鬼蜘蛛丸の反応が面白いので、義丸はニヤニヤしながらそう返す。物凄い内容が書かれて
いると分かっていても、一度目を通してしまうとどんな内容かが気になって、読まないわ
けにはいかなくなってしまう。
「うわあ・・・」
「驚いてた割には随分真剣に読んでるじゃないか。」
「うっ・・・だ、だってよ・・・」
「若い奴らのだったら、水練組のがなかなか面白かったぞ。触手がどうこう書いてあった
んだけど、何のことだろうな?」
「ど、どんなだよ?それ。」
「読んでみたらいいんじゃないか。」
水練組のレポートを鬼蜘蛛丸に手渡すと、義丸は今読んでいるものの続きを読み始める。
ドキドキしながらも、鬼蜘蛛丸はそのレポートの内容を読み進める。そのレポートを読ん
でいて、鬼蜘蛛丸はふとあることに気がつく。
「・・・なあ、義丸。」
「何だ?」
「蜉蝣さんや疾風さん、舳丸や重のこういうレポートがあるってことは、もしかして俺達
のもあるのか・・・?」
「もちろん。しかも、俺達は小平太くんと長次くん二人で書いたものらしいから、他のも
のに比べてだいぶボリュームが多いぞ。」
「嘘だろ・・・」
昨日したことを思い出し、鬼蜘蛛丸はどうしようもないくらいの羞恥心でこの場から消え
てしまいたくなる。耳まで顔を染め、持っているレポートで顔を覆っている鬼蜘蛛丸を見
て、義丸は鬼蜘蛛丸をからかいたくなってしまう。
「読んでみるか?」
「よ、読めるわけないだろ!!うわあ、本当ありえねぇ・・・」
「昨日の鬼蜘蛛丸はすごく積極的で可愛かったもんな。長次くんの文章が上手くて、読み
返すだけで昨日のことがありありと思い出せるぞ。」
「そ、そういうこと言うな!!うう・・・恥ずかしすぎて死にそうだ。」
本気で恥ずかしがっている鬼蜘蛛丸を見て、義丸は何だかムラっと来てしまう。先程まで
昨日自分達がしたことのレポートを読んでいたので、もともとそういう気分になっていた
のだ。すすすっと鬼蜘蛛丸の後ろへ移動し、ぎゅっとその体を抱きしめる。
「なっ・・・ちょ・・・義丸!?」
「こんなレポートばっか読んでたから、何だかしたくなっちまった。昨日の鬼蜘蛛丸を思
い出すだけでも、結構クるし。」
「昨日もあんなにしたのに・・・」
「でも、鬼蜘蛛丸のココはちゃんと反応してるぞ?」
鬼蜘蛛丸も忍術学園六年生の書いたレポートを読んで、反応すべきところはしっかりと反
応していた。それを指摘されては、鬼蜘蛛丸は何も言い返せなくなってしまう。
「いいよな?」
「・・・勝手にしろ。」
意外と素直な鬼蜘蛛丸に少々驚きつつも、義丸はニヤリと笑って事を始める。忍術学園の
六年生は思ってもないことをするなあと思いつつ、鬼蜘蛛丸は義丸に流され、その身を完
全に義丸に任せてしまっていた。

忍術学園に帰った六年生の面々は、少し休んだ後、一番整理されている仙蔵と文次郎の部
屋に集まって、昨日の夜兵庫水軍の海でメモってきた内容を回し読みしていた。
「やはり、間切さんと網問さんはイメージ通りと言った感じだな。」
「鬼蜘蛛丸さんと義丸さんのは、なかなかすごいね。さすが、気づいてただけあるって感
じ。」
「舳丸さんと重さんは、やっぱ海の中なんだなー。」
「東南風さんと航さんは、ちょっと意外だな。航さんはまだしも、東南風さんがこんな感
じだとは。」
「蜉蝣さんと・・・疾風さんも・・・なかなか興味深い・・・・・」
ただいま、仙蔵は間切と網問のものを、伊作は義丸と鬼蜘蛛丸のものを、小平太は舳丸と
重のものを、文次郎は東南風と航のものを、そして、長次は蜉蝣と疾風のものを読んでい
た。自分の担当しているペアを生で見るのもなかなか楽しかったが、他のペアがどういう
ことをしていたかを文章で読むのもかなり楽しい。
「あれ?そういえば、留三郎は?」
「何か用具委員会の仕事があるとかで、出ていったぞ。」
「ふーん、せっかくこんなに面白いのが読めるのにね。」
「あの本に載っていた媚薬の効果の程は分かったし、今度は忍術学園で試してみるか?」
悪戯な笑みを浮かべながら、仙蔵はそんなことを言う。翌日普通に仕事をしていたところ
を見ると、一時的なものであるし、効果としてもそこまで問題になるようなことはないだ
ろうと考えてのことだ。
「酒はさすがに無理だろうが、菓子とかに混ぜるとかいうのはありかもしれねぇな。」
「ボーロでも作って・・・試すか・・・?」
「おー、それいいじゃん!!時間が出来たらやってみよう!!」
「五年生とか四年生の高学年組だったら大丈夫かもね。するんだったら、また手伝うよ。」
仙蔵の新たな提案に、他のメンバーもノリノリだ。今回の臨海学校で味をしめ、六年生の
悪戯心はさらに近くで働こうとしている。

あまり眠ることは出来なかったが、久しぶりの臨海学校はかなり楽しいものになったと、
そこにいる全員は満足そうに笑い、それぞれ感想を述べ合ったり、次の悪戯の計画をした
りするのであった。

                                END.

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