六時限目の特別授業

小難しい単語があいつの口から次から次へと出ては消えていく。初めての授業のときは、
聞きなれない名前や単語のオンパレードで、眠くて仕方がなかった。だけど、今はそんな
ことはない。どんなに難しい話でも眠くなるような内容でも、あいつの声が聞こえる。と
きどき目が合う。それだけで胸がドキドキする。普通の大学生活を送るはずだったのに、
あいつのせいで出来なくなった。数ヶ月前のあの日。そこから俺のキャンパスライフは、
入学前に想像していたものとは全く違うものになった。

(教職で取らなきゃいけねぇけど、哲学の授業とか激眠くなりそうだなあ。)
入学直後のオリエンテーションや履修登録が終わり、実際に授業が始まる。宍戸はあまり
興味はないのだが、教職課程を取るために必要な哲学の授業に向かっていた。
「あっ、宍戸じゃん。」
「おー、岳人、ジロー。お前らもこれから授業?」
「うん。次のコマは体育だから、頑張って参加するー。」
「体育か。いいなあ。」
「お前は?」
「俺は哲学。教職課程で必要でさー。」
「うわあ、俺には絶対無理な授業だ。おっと、体育は着替えがあるから早く行かねぇと。
行くぞ、ジロー。」
「またねー、宍戸。」
「おう。」
(体育か。うらやましいなー。)
岳人とジローを見送り、そんなことを考えながら、宍戸は次の授業の教室へ向かう。教室
のある棟に入るが、入学して間もないためその教室がどこにあるのか分からない。
「あれ、どっちに行きゃいいんだろ?」
もうそろそろ授業が始まってしまう時間ではあるが、棟内で迷ってしまう。おそらく階は
あっているだろうというところで、うろうろしていると後ろから声をかけられる。
「おい。」
「えっ・・・あっ、はい!」
「お前、今年の新入生だな。」
「そ、そうです。」
声のする方向を振り返ると、金髪で青い目の男が立っていた。
(うわー、すげぇ綺麗な顔の教授だな。結構若そうだし、英語か何かの教授か?)
「教室が分からなくて困ってるって感じか?」
「は、はい。」
「何の授業だ?」
「え、えっと、哲学の・・・」
「ああ、それなら俺の授業だ。ついて来い。」
「あ、ありがとう・・・・ございます。」
たまたまこれから受ける授業の教授に会い、宍戸は事なきを得る。
「お前、名前は?」
「宍戸亮です。」
「宍戸か。覚えたぜ。」
振り返りつつ、笑みを浮かべながらそんなことを言う哲学の教授に、宍戸は何故だかドキ
ドキしてしまう。
(哲学の教授って、もっとお堅い感じかと思ってたけど、全然違うんだな。)
授業の内容はさておき、教授はなかなかよさそうだなーと考えつつ、宍戸は教室に入ると
一番前の席に座る。それと同時に始業のチャイムが鳴った。
「この時間の授業を担当する跡部だ。今日は概要と導入を説明する。」
概要と導入の説明だけでも、かなり眠くなりそうな内容であったが、宍戸はほんの少しわ
くわくしていた。廊下ではちらっとしか見れなかったが、跡部の顔は見れば見るほど魅力
的に感じられた。思わず跡部の顔に見入っていると、ふとした瞬間に目が合う。それが不
思議と嬉しくて、宍戸はそれだけでもこの授業に出る価値があるなあと考えていた。
「今日の授業はこれで終わりだ。次の授業から本格的な内容に入るからな。」
終業のチャイムが鳴ると、教室にいた生徒は次々に外へと出ていく。もう少し跡部を見て
いたくて、ゆっくり片づけをしていると、宍戸は再び跡部に話しかけられた。
「宍戸。」
「あっ、跡部先生。」
「次の時間、授業はあるのか?」
「今日はこの授業で終わりですけど・・・」
「なら、これから俺の研究室に来い。俺も今日の授業はこれで終わりだ。」
何故自分が研究室に呼ばれるのかは全く理解出来ないが、宍戸は跡部の言葉に頷いた。鞄
を持ち、前を進む跡部について行く。跡部の研究室は、文学部棟の一番上の階の一番奥に
あった。
「失礼します。」
跡部の研究室に入ると宍戸はその中の様相に驚く。教授の研究室というと、割と殺風景で
たくさんの本が所狭しと並んでいるというイメージであったが、跡部の研究室はどこかの
お金持ちの家の書斎のようであった。
「荷物は適当に置いとけばいいぜ。」
持っていた荷物を壁際に置くと、宍戸は高そうな木の本棚に並んでいる本を眺める。日本
語ではない本もたくさんあるようで、タイトルが読めないものがいくつもあった。
(すげぇな。難しそうな本がたくさんあるぜ。)
自分には理解出来ない本なんだろうなと思いつつ、宍戸はゆっくりと部屋の奥へと進んで
いく。一番奥にある本棚のところまで行くと、それ以上進めなくするかのように跡部の手
で遮られた。顔の横に置かれた手から視線を跡部の顔の方に移すと、まるで壁ドンをされ
ているような状況に宍戸はドキッとしてしまう。
「跡部・・・先生?」
「なあ、宍戸。」
「あの・・・俺、何かまずいことしました?」
「いや。どうしてそんなこと思う?」
「何か・・・跡部先生の雰囲気が、さっきと違うなあと思って。」
ドギマギと戸惑うような反応を見せる宍戸に、跡部はふっと口元に笑みを浮かべる。こう
いう表情もたまらない。もっとたくさんの宍戸の表情を見たい。廊下で宍戸を見かけた時
からどうしようもないくらいに宍戸に心を奪われていた。理由など分からない。しかし、
どうしても宍戸を手に入れたくてたまらない欲求が跡部の中で大きくなっていた。
「今からお前に伝えることは、冗談でも嘘でも脅しでもない。単純に俺が今心の底から思
っていることだ。」
「・・・・・・。」
「俺はお前を好きになった。たった一目見ただけで。こんな気持ちになったのは生まれて
初めてだ。」
「っ!?」
真っ青な瞳に見つめられ、そんな告白をされ、心臓が壊れそうなほど高鳴る。何か言わな
ければと思うが、全く言葉が思い浮かばなかった。
「俺にこんなことを言われてお前はどう思う?」
「あっ・・・えっと・・・・俺、男だけど・・・」
「それがどうした?そんなの関係ねぇだろ。」
「でも・・・」
「お前には関係あるのかもしれねぇけど、悪いな。そんなのを気にしてやれる程度の気持
ちじゃねぇんだよ。俺はお前が欲しい。どうしようもないくらいに。」
次から次へと紡がれる跡部の言葉に、宍戸の頭はかなり混乱していた。今日会ったばかり
の教授に告白されている。しかも、同性の教授にだ。ドキドキして顔が熱くなり、呼吸も
ままならない。やっとのことで宍戸は口を開き、跡部を見ながら呟いた。
「そんなこと言われても・・・俺、どうしたらいいか・・・分かんねぇ。」
「一つだけ確認してやる。今、お前は俺に告白されて、気色悪いと思ってるか?それとも
悪くないと思ってるか?」
「・・・嫌だとは、思ってない。」
それを聞いて、跡部は自信に満ちた笑みを浮かべる。
「だったら、答えは簡単だ。今からお前は俺の恋人だ。先生なんてつけなくていい。敬語
じゃなくていい。お前が俺を好きになるのは、これからでもいいわけだからな。」
嬉しそうに笑う跡部の顔が宍戸の目には、ひどく魅力的に見えた。少々強引ではあるが、
跡部に告白されて嫌ではないのは確かだ。もうどうにでもなれと、宍戸は跡部のその言葉
に頷いた。

大学の授業は五時限目までであったが、宍戸は五時限目に授業があるときもないときもそ
の時間が終わるまで大学に残っていた。空いている時間は、別の授業の宿題をしたり、岳
人やジローと遊んだりしていた。そして、五時限目の時間が終わると、跡部の研究室へと
向かう。
「失礼します。」
研究室に入るときは、他の学生と同じようにそう言いながら入る。研究室の中では、いつ
ものように跡部がデスクに座ってノートパソコンに何かを打ち込んでいた。
(もう何度も来てるけど、まだドキドキするな。)
荷物を置いて、デスクの後ろにあるソファに座る。キーボードを打っている音が止まると
跡部の座っている椅子がくるっと回った。
「さてと。」
すたすたと扉に向かい、かちゃりと鍵を閉める。ソファに座っている宍戸のもとへ戻って
くると、その隣に座った。もともとは休憩用の一人掛けのソファであったが、宍戸が来る
ようになってから、二人掛けのソファに変えたのだ。
「今日もちゃんと来たな。」
宍戸の長い髪に口づけながら、跡部は嬉しそうにそう呟く。跡部が髪に触れるだけで、宍
戸の顔は熱くなっていく。
「宍戸。」
宍戸の頬に触れ、跡部はゆっくりと唇を重ねる。唇全体を食むようにキスをした後、舌を
捉えるように絡める。甘いキスをしながら、跡部は宍戸のシャツのボタンを外していった。
唇が離れると同時にシャツの前を開かれ、宍戸の頬は赤く染まる。
「今日も・・・するのか?」
「ここまできて、しないはねぇな。何だよ、嫌なのか?」
「そんなことねぇけど・・・」
まだ少し恥ずかしいといった表情で、宍戸は跡部から視線を逸らす。相変わらずイイ表情
を見せてくれるなあと、跡部の頬は自然と緩む。
「今日はちょっといつもとは違う感じでしてみるか?」
「いつもとは違う感じ?」
「ちょっと準備するから、下自分で脱いどけよ。」
そう言うと跡部はデスクから何かを持ってくる。その間に宍戸は下に穿いていたものを全
て脱ぎ去った。
(こういうことするのまだ慣れねぇけど、嫌ではねぇんだよな。いつもと違う感じって、
どういうことだろ?すげぇドキドキする。)
羞恥心と期待感を同時に感じながら、宍戸は跡部が戻るのを待つ。
「ちゃんと言う通りに脱いでるな。えらいぜ。」
「何持って来たんだよ?」
「まあ、そう慌てるなって。俺がいいって言うまで、ちょっと目瞑ってろよ。」
何されるかは分からないが、宍戸は素直に目を閉じる。宍戸が目を閉じると、跡部は宍戸
の手首と足首に短い鎖のついた枷をつける。膝を曲げ、足を開くような状態で手首と足首
を枷で繋がれ、宍戸はその状態から体を動かすことが出来なくなった。
「いいぜ。」
「なっ・・・!?」
目を開いてみると、いつの間にかあられもない姿で拘束されている。恥ずかしい部分を跡
部に見せつけるようなその状況に、宍戸の体は一気に火照り出す。
「やっ・・・こんな格好・・・・」
「全部丸見えで最高だぜ。」
「こんな恥ずかしい格好・・・嫌だ・・・」
「今更だろ。それに嫌だって言ってるわりには、ココは反応してるみたいだぜ?」
開かれた足の中心で、蜜を溢しながらそそり立っているそれを跡部はつっと指でなぞる。
「んっ・・あっ・・・!!」
「こんな恥ずかしい格好させられて、感じてるんだろ?」
「ち、違っ・・・」
「心配するな。いつも以上に気持ちよくしてやるからよ。」
そう言いながら、跡部はソファから下り床に膝をつく。そして、宍戸の足の間にあるソレ
を口に含んだ。
「ああっ・・・やあっ・・・!!」
「お前のコレが口に入ってると思うだけで、すげぇ興奮するぜ。」
「やっ・・・ふあっ・・・ダメっ・・・あ・・んっ・・・」
跡部の唇が舌が敏感な熱に絡んでいく。たまらず身を捩ろうとするが、手足を拘束されて
いるためそれは叶わない。宍戸のより弱いところを探るかのように、跡部は口でそれを弄
った。
(跡部の口、すげぇ気持ちいい・・・腹のあたりゾクゾクして・・・)
「あっ・・・うあぁ・・・跡部ぇ・・・・」
あまりの気持ちよさに宍戸は呼吸を乱し腰を浮かす。口の中でより大きくなる宍戸の熱を
存分に味わいながら、跡部はさらに激しく宍戸の熱を責め立てる。
(気持ちイイっ・・・気持ちイイ・・・・もう、ヤバイ・・・!)
「ひあっ・・・跡部っ・・・イクっ・・・――――っ!!」
ビクビクと下肢を痙攣させ、跡部の口の中に濃いミルクを放つ。宍戸の放った蜜を一滴残
らず飲み干すと、跡部はまだビクビクと震えるそれから口を離す。
「まだまだ終わらせないぜ。宍戸。」
絶頂の余韻にハァハァと呼吸を乱す宍戸を見ながら、跡部はニヤリと笑う。そして、再び
宍戸の熱を口に含み、先程よりも強くそれを吸った。
「ひぅっ・・・!!あああぁ―――っ!!」
達したばかりの非常に敏感になっているそれにさらに大きな刺激を与えられ、宍戸はガク
ガクと腰を揺らす。それでも跡部は口を離さない。それどころか、小さな穴をぐりぐりと
舌で刺激し、更なる放出を促すかのように強く吸い上げる。
「ああぁっ・・・ああっ・・・あああぁ―――っ!!」
(何だよこれ!?イク時の感じが全然おさまんねぇ。いや、でも・・・もっとヤバイのが
・・・・っ)
長く続く絶頂感をさらに上回るような大きな波が来るのを宍戸は感じる。もちろん跡部も
そのことに気づいていた。
「やだ・・・跡部っ・・・ひっ・・・ぁ・・・―――――っ!!」
声にならない悲鳴を上げながら宍戸は再び達する。ビクンビクンと大きくその身を震わせ、
熱い蜜を跡部に与える。
「随分と激しくイッたみてぇだな。」
手の甲で口を拭いながら、跡部は満足気に言う。あまりに大きすぎる快感に宍戸は放心状
態で跡部の顔を見た。
「口でされるのそんなによかったのか?」
「・・・・・」
まだ言葉を発することは出来ないため、宍戸は黙ってこくこくと頷く。
「お前は本当に可愛いな。今度はこっちでよくしてやるぜ。」
「んん・・・・」
跡部の指がさらけ出されている入口に触れると、宍戸はふるりと震える。
「せっかくだから、キスしながらしてやるよ。」
「んっ・・・んむっ・・・・」
指を中に入れると同時に跡部は宍戸の口を塞ぐ。指が中の上側を弄れば、舌が上顎をなぞ
る。ぐるりと抉られるように指が動くと、舌全体を舐められるように絡みつかれる。入口
を出たり入ったりするような動きになれば、舌も同じような動きをする。上の口と下の口
を同時に同じように弄られ、宍戸の頭の中はもうドロドロにとろけていた。
「んっ・・・ふっ・・・ぅ・・・んんっ・・・!」
(上も下もこんなに弄られたら、本当おかしくなっちまう・・・・)
ただひたすらに気持ちいいその状態に、宍戸は拘束されていることなどすっかり忘れ、跡
部の与えてくれる快感に体の奥底まで浸っていた。
「さてと、そろそろいいよな。」
跡部の唇が離れると、宍戸はまだ足りないといった表情を見せる。
「そんな顔するなよ。手加減出来なくなるぜ。」
「そんなの・・・いつもしねぇだろ・・・・」
「分かってるじゃねぇか。」
手枷と足枷は外さないまま、跡部は宍戸をソファの上にうつ伏せにさせる。腰を高く突き
上げ、顔から胸にかけてはピッタリとソファに触れている。かなり恥ずかしい体勢ではあ
るが、宍戸にとってはそんなことはもうどうでもよくなっていた。
「いい格好だぜ、宍戸。」
「んっ・・・さっさと、しろよ。」
「アーン?どういう意味だそれは。」
「早く・・・」
早く跡部自身を中に入れて欲しいと、宍戸は疼く腰を揺らす。誘っているようなその動き
に跡部はゴクリと喉を鳴らす。
「すげぇエロいぜ。今のお前。ほら、どうして欲しいか言ってみろよ。」
「焦らすなよ・・・早く、俺の中・・・跡部ので掻き回して・・・・」
スイッチの入った宍戸は羞恥心よりもより気持ちよくなるための行動を優先させる。本当
にたまらないと、跡部は宍戸の腰を捉え、十分に高められた熱を宍戸の中に挿れる。
「うあっ・・・あああぁ・・・・っ!!」
「まだ、全部入ってないぜ。」
「ふっ・・・うっ・・・」
ぐっ・・・
「んあぁ・・・っ!!」
「これで全部だぜ。すげぇ締め付けてくるな。」
跡部自身が奥の奥まで入り、宍戸の内側は大きく収縮する。しばらくその感覚を味わった
後、跡部は宍戸の中を擦り始める。それと同時に自分自身も擦れるため、跡部も熱い吐息
を漏らす。
「ハァ・・・宍戸。」
「あっ・・・跡部ぇ・・・んんっ・・・・」
「この体位、たまんねぇな。簡単に奥まで入れられるし、すげぇやらしい感じだし。」
「跡部・・・気持ちイイ・・・?」
「当然だろ。お前とこんな深いところで繋がってるんだからよ。」
「ああぁっ・・・そこっ・・・」
「ああ、ココだな。ココ擦られると、お前も気持ちいいんだろ?」
「んっ・・・イイっ・・・」
「それなら・・・」
お互いにより気持ちよくなろうと、跡部は宍戸の敏感なところを激しく責める。触れ合え
ば気持ちよくなる場所が擦れ合い、二人はさらに深く繋がっていく。
「ハァ・・・跡部っ・・・んっ・・・ああぁっ・・・!」
「宍戸、好きだぜ。お前の全部が好きだ。」
繋がりながら囁かれるその言葉は、宍戸にとっては何よりも強力な媚薬だった。胸の奥が
熱くなり、身体の奥から甘い疼きが全身へと広がる。跡部の呼吸が乱れ、一際深く跡部の
モノが突き刺さると同時に熱い雫が中に放たれる。跡部で自分の中が満たされていくよう
な感覚に宍戸はうっとりと瞳を閉じて果てる。この瞬間は何度味わっても最高の瞬間だと
思いながら、気だるい幸福感にその身をゆだねた。

もう外はすっかり暗くなっているが、宍戸はまだ跡部の研究室のソファでまったりしてい
た。
「跡部。」
「どうした?」
隣に座っている跡部に頭を預けながら、宍戸は跡部の名を呼ぶ。
「跡部はさ、俺から全部奪っちまったよな。ファーストキスも初エッチも普通の大学生活
も。」
「不満か?」
「いや、全然。むしろ、全部跡部が初めてでよかったなと思ってるくらいだぜ。」
照れながらもそんなことを言う宍戸に跡部の胸はひどくときめく。一目惚れ同然で付き合
うことになったが、宍戸を知れば知るほどより好きになっていく。
「好きだぜ、宍戸。」
「・・・・そ、そういうこと言われ慣れてねぇから、まだ、恥ずかしい。」
「だったら、慣れるまで言ってやるよ。」
「べ、別にいい。俺ばっか言われてたら、何か不公平だし・・・」
「なら、お前も言えばいいじゃねぇか。それともまだ、好きまではいってねぇって?」
冗談めかしてそう言うと、宍戸は恥ずかしそうに跡部を睨む。告白されたばかりの時は、
好きかどうかなんて分からなかったが今は違う。跡部のすることなすこと、全てにドキド
キしてしまい、毎日跡部に会えるこの時間が楽しみで仕方がない。これが好きでないと言
ったら嘘になる。
「・・・・好きじゃないわけねぇだろ。」
「なら、好きなのか?」
「・・・好き。」
宍戸の声でその言葉を聞くと、予想以上に胸がドキドキし、いてもたってもいられなくな
る。ぐいっと宍戸の腕を引き、自分の腕の中へ収めるとぎゅっとその身を抱きしめた。
「わっ・・・」
「お前はずるいな。その一言で、俺をどうしようもないくらい夢中にさせちまうんだから
よ。」
「跡部だって・・・そうじゃねぇか。教授だとか男同士だとか、本当どうでもよくなるく
らい・・・好きで好きでしょうがなくさせちまうんだから。」
「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇの。」
余裕に満ちた笑顔でそんなことを言う跡部であるが、内心はもう嬉しくて嬉しくて、どう
にかなりそうな心境であった。お互いに好きと言い合った後で、ドキドキしてむずむずし
て、宍戸はそのくすぐったさから別の話題を跡部に振る。
「跡部はさ、どうして大学の教授になったんだ?」
「唐突な質問だな。まあ、好きなことはとことん極めたくなる性質でな。」
「哲学が好きってことか?」
「まあな。」
「変わってるよな。あんな難しいのが好きだなんて。」
「確かに基本的には難しいが、結構面白い話だってあるんだぜ?」
「例えば?」
「プラトンの饗宴とかは面白いぜ。男同士のカップルで作った軍隊は最強になるだとか、
師匠が好き過ぎてそういうことに誘ってみたけど全然手出されなくて、悔しいけどそこが
また好き・・・みたいな話とか。」
「へぇ、何かすげぇ話だな。」
「まあ、その時代は妻の他に男の恋人がいて当たり前の時代だからな。」
それは知らなかったなあと、宍戸は驚くような反応を見せる。
「気になるけど、俺、あんまり読書得意じゃねぇんだよな。きっと途中で眠くなっちまう。」
「だったら、俺が読み聞かせてやろうか?分かりやすくアレンジして読んでやるぜ。」
「それ、いいな。俺、跡部の声好きだし。」
「なら、時間があるときにな。」
「おう、楽しみにしてるぜ!」
どんな理由であれ、二人でいられる時間が長くなるのはどちらにとっても嬉しいことだ。
そんな約束をすると、宍戸はふと時計を見る。
「あっ、そろそろ俺帰らねぇと。」
「そうか。送ってやろうか?」
「いや、大丈夫。今日はまだそんな遅くねぇし。」
「気をつけて帰るんだぞ。」
「おう。」
名残惜しいがずっとここにいるわけにもいかない。帰る支度をすると、宍戸はくるっと跡
部の方を振り返る。
「跡部。」
「何だ?」
「また、明日な。明日も六時限目の授業、楽しみにしてるぜ。」
とびきりの笑顔で宍戸はそんなことを言う。この大学に六時限目の授業などない。自分と
跡部だけの特別授業。宍戸はそんな意味を込めて跡部と二人で過ごす時間をそう表現した。
「俺も楽しみにしてるぜ。遅刻するんじゃねぇぞ?」
「当たり前だろ!この大学で一番楽しみな時間なんだからな!じゃあな、跡部。」
「ああ、また明日な。」
明日また会うことを楽しみに、宍戸は跡部の研究室を出て行った。跡部と付き合うように
なってから、大学がどこよりも楽しい場所になった。普通とは少し違う大学生活も宍戸に
とってはこの上なく充実したものになっていた。

他のやつらとはだいぶ違うキャンパスライフだが、俺はそれに満足してる。明日が来るの
が待ち遠しい。こんなに毎日が楽しくなるなんて思わなかった。待ってろよ、跡部。明日
もたくさんイイことするんだからな。

                                END.

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