Cuters’ afternoon

「侑士。」
「何や、岳人?」
昼休みが終わる頃、岳人は何気なく忍足に声をかける。
「今日の五時間目のアレ、超だるくねぇ?」
「確かにな。でも、授業よりはマシやない?」
「でもさぁ、絶対聞いててもつまんないって。侑士、一緒にサボろうぜ。」
岳人のいうアレとは二ヶ月にいっぺんくらい行われる全校集会だ。それも、最近何やら女
生徒の痴漢被害が多いということで、『痴漢撃退講座』なるものをやるらしい。岳人から
すれば、そんなものは女子だけやればいいと思っているのだが、中身は全校集会の一環。
当然、男子も出なくてはいけない。
「うーん、確かに俺らが聞いても意味なさそうな内容やからなぁ。」
「だろ?だから、屋上にでも行ってまったりくつろごうぜ。」
「せやな。先生達が教室に来る前に移動しとくか。」
「おう!さっすが、侑士。話分かるじゃん!!」
確かに意味のない全校集会に出るのはだるいと忍足もサボることに賛成だ。担任やその他
の先生に見つかったら困ると早めに屋上へと移動する。昼休みの間だったら、屋上へ行っ
ても別に怪しまれはしない。
「到着。」
ガチャっ
『うわっ!!』
屋上の前まで来ると目の前にある扉がひとりでに開く。これには岳人も忍足も驚いた。も
ちろんドアを開けていきなり人がいるとは思わなかったので、開けた側もひどく驚いてい
る様子だった。
「が、岳人に忍足・・・?」
「何だ宍戸かよ。」
「何やってんだ?こんなところで。もう昼休み終わるぞ。」
「五時間目のアレ、サボろうかなあ思て。跡部達は真面目に出るん?」
「まさか。今日の全校集会ってあれだろ?何だったけ?あー、そうそう、『痴漢撃退講座』
ってやつ。」
「あんなもん出ても意味ねぇだろ。五限は図書館にでも行って時間を潰す。」
「宍戸は?」
「俺も跡部と一緒。別に読みたい本なんてねぇけど、暇だからな。」
屋上から出て行こうとはしているが、跡部も宍戸も五時間目の全校集会はサボるらしい。
氷帝テニス部レギュラーメンバーは意外とサボリ魔が多いのだ。
「それじゃ、先生に見つからんようにな。」
「お前らもヘマすんじゃねぇぞ。屋上、鍵はかけておいた方がいいと思うぜ。」
「おう。じゃあな。」
跡部達を見送ると、岳人と忍足は屋上へ出て、扉の鍵を閉めてしまった。これで、屋上に
邪魔者は入って来れない。
「うーん、やっぱ屋上は気持ちいいな。」
「天気もいいし、絶好の日向ぼっこ日和やん。」
「日向ぼっこ日和っておもしろい表現使うな。普通は日光浴日和とかそういう感じじゃね
ぇ?」
「そうか?この日差しだったら、日光浴言うより日向ぼっこやん。」
「確かにそうだけどな。まあ、いいや。侑士、あっちの柵の方行こうぜ。あそこ、超眺め
いいんだ。」
忍足の表現がおもしろいと岳人はクスクス笑う。もっと眺めのいいところへ行こうと岳人
は忍足の手を引っ張って、柵のあるところまで進んだ。そろそろ紅葉が始まるのか、遠く
に見える山は薄っすらとその身の色を変化させていた。
「ホンマにここ、眺めいいなあ。」
「だろ?俺、結構ここお気に入りなんだぜ。」
屋上から見えるいい景色を見ながら岳人は楽しそうに笑う。つられて忍足も思わず顔をほ
ころばせた。
キーンコーンカーンコーン
「あ、五時間目始まった。」
「ま、俺らには関係ないけどな。」
「せやな。」
これで完璧にサボりだと二人は顔を見合わせて笑う。悪いことだとは分かっていてもこう
いうのはなかなか楽しい。しかも、二人でサボっているとなるとその楽しさは倍増する。
「さてと、何して時間潰そうか?」
「一時間って結構長いもんなあ。」
「あっ、そうだ!!」
「どないしたん?何かおもろいことでも思いついたんか?」
「俺らだけで、痴漢撃退講座やろうぜ!」
「は?」
岳人の意味の分からない提案に忍足はハテナを頭に浮かべる。
「俺が痴漢役で、侑士がされる役。侑士は俺からどうやって身を守るかを考えるってわけ。」
「ごっこ遊びやな。」
「ごっこ遊びか・・・うーん、確かにそうとも言えるかもしんないけど・・・」
「何や?」
「あっ、ううん別に。じゃ、早速開始〜。」
ごっこ遊びという言葉に岳人は引っかかったが、まあいいやとそんな遊びじみたことを始
める。忍足もただの遊びと考えていたのだが、いざ触られてみるとかなり微妙な感覚だ。
「わっ・・・!」
「さて、侑士どうする?」
「こんなん手を外せばいいに決まってるやん。」
そう言いながら岳人の手を外そうと後ろに手を伸ばすと逆の手でつかまれてしまう。
「残念でしたー。」
「そこまで大胆にする痴漢いないと思うで。」
「分かんねぇよ。いるかもしれねぇじゃん。ほらほら、早く抵抗しないともっと触っちゃ
うぞ。」
「わああ、岳人っ、ちょっ、やめ・・・」
片腕をつかまれたまま忍足はさらに触られてしまう。何とか手を外そうと思うのだが、後
ろ手に手をつかまれているという体勢は何とも動きにくい。これは困ったと忍足は対策を
考える。
「なあ、岳人、ホンマにやめてぇな。」
「やだよ。口で言ってやめるわけねぇだろ。」
「お願い。」
何とか岳人にやめさせようと忍足はわざと誘いかけるような口調でそんなことを言う。こ
のセリフに一瞬ぐっときてしまった岳人だが、こんなとこでやめてしまってはおもしろく
ない。そのセリフを誘いの言葉と受け取り、さらに大胆な行動に走った。
「そんなんじゃ、逆効果だぜ侑士。そんなこと聞いたら余計にしたくなっちまう。」
「えっ・・・?わあっ!!待っ・・・岳人っ、そんな・・・」
「ほらほら、いいのか侑士?」
さっきまで後ろにあった両手を前に回し、岳人は忍足のズボンのベルトを外しにかかる。
焦る忍足だが、ここまでされると思っていなかったのでそれこそ対処法が分からない。あ
わあわと何も出来ないでいると、後ろよりももっと直接的に感じる部分に触れられてしま
った。
「あっ・・・・」
その感覚に忍足は思わず声を漏らす。思った以上に素直な反応をするので、岳人の胸はド
キンと高鳴った。冗談でやっていたのだが、これではやめられなくなってしまう。
「侑士・・・痴漢にここまでされちゃ大変だぜ。」
「やっ・・・あ・・・やめてっ・・・・」
「だったら、手外すなりなんなりすればいいじゃん。」
「ハァ・・・ぅあっ・・・岳人っ・・・!」
震える手を岳人の腕に添えるものの引き剥がすまではいかない。あくまでもごっこ遊びな
のも分かっているし、設定が痴漢とその被害者というのも頭では理解している。しかし、
身体は正直で、岳人に触られるというのはやはり気持ちイイのだ。
「んっ・・・あ・・・」
「侑士、これじゃ、イメクラだぜ。」
「イメ・・・クラ・・・?」
「そ。だって、痴漢とその被害者がここまでなったらイメクラ以外の何ものでもないじゃ
ん。ま、俺としてはこんなのもなかなかいいと思うけどな。」
そんなことを笑いながら指摘する岳人の言葉を聞いて、忍足の顔は羞恥の色に染まった。
まさかイメクラと言われるとは思っていなかった。しかし、よくよく考えてみるとこんな
場所で痴漢撃退講座を二人きりでやるなど初めからそれを目的としてするようなものだ。
どうしてそれをなんの疑いも持たずにしてしまったのだろうと、忍足はさらに恥ずかしく
なってしまう。
「やだ・・・何や・・・・メッチャ恥ずかしい・・・・」
「それならここでやめるか?」
そんな気は全くないのに岳人は冗談っぽく言ってみる。すると忍足は案の定、首を振って
それを否定する。
「嫌やっ・・・こんなとこでやめるなんて・・・・ちゃんと・・・」
「ちゃんと・・・何だよ?」
「ここまでしたんなら・・・・ちゃんと最後までしてや・・・」
「随分、大胆なこと言ってくれるじゃん。それならお望み通り。」
もう設定など丸っきり無視。お互いにして欲しいことしたいことを口にし行う。忍足が自
らして欲しいと言ってきたので、岳人はそれに従い、もっと気持ちよくなれるようにとす
っかり熱くなった忍足のモノにさらに刺激を加える。
「あっ・・・く・・・ぁんっ・・・」
「マジ、イカせちゃっていいの?」
「そういうこと・・・聞くなや・・・・聞かんでも分かるやろ?」
「まあね。ただ、学校だからどうかなーって思って。」
「今更何言っとんねん・・・てか、ここは早く終わらせたいんやけど・・・・」
「了解。じゃ、遠慮なくさせてもらうぜ。」
早く終わらせて欲しいという忍足のリクエストを聞いて、岳人はさっきよりも性急に攻め
てやる。それに応えるかのように忍足の反応はさらに大きくなった。
「ふ・・あっ・・・岳人っ・・・あ・・・」
「そろそろ限界じゃねぇ?すげぇ手が濡れてきてるもん。」
「そんなん・・・いちいち言わんでええわ・・・・んっ・・・」
「別に言ったっていいじゃん。」
「そういうの言われんの・・・・ホンマに恥ずかしいんやで・・・」
「でも、そう言われたら、また興奮するだろ?」
悪戯に笑いながら岳人はそんなことを言う。図星をさされたようで、忍足はさらに余裕を
失ってしまう。
「岳人がそないなこと言うから・・・ホンマに余裕なくなってまうやないか・・・・」
「でも、嫌じゃないんだろ?」
「そうやけど・・・・」
「じゃあ、問題ないない。さあてと、そろそろこれっていう刺激が欲しくない?」
「そりゃ・・・な・・・」
「じゃ・・・・」
あんまり焦らすのも可哀想だと、岳人はとどめの一発とばかりに今までよりも強い力を持
って、忍足の熱を擦る。その瞬間、忍足の意識はふっと真っ白になった。ガクンと膝の力
が抜ける。それを支えるかのように岳人は右腕でしっかりと忍足の身体を抱いてやった。
「おっと。」
「ハァ・・・ハァ・・・・」
忍足の身体が倒れないようにと支えようとする岳人だが、やはり体格の差がある。このま
まだと自分も倒れてしまうとゆっくりとその場に腰を下ろさせた。屋上の柵にもたれなが
ら忍足は荒くなっている呼吸を整えようとゆっくり深呼吸をした。
「大丈夫か?侑士。」
「ああ・・・何とかな・・・・」
「よかった。でも、侑士、痴漢にあったら危ねぇな。あそこまで好き勝手にやらせちゃう
んだもん。」
「誰にでもあんなことさせるわけないやろ。相手が岳人だったからそこまでやらせてやっ
たんやで。」
「あはは、そりゃそうだよな。誰にでもさせてたら俺が許さねぇもん。でも、可愛かった
ぜ。さっきの侑士。」
あんな姿を可愛いと言われ、忍足は赤くなってうつむいてしまう。それを見て、岳人はま
た可愛い反応を見せてくれてるじゃんと笑った。
「もう、そんなに笑うなや。」
「ゴメンゴメン。だって、ホント侑士おもしろい反応ばっかするんだもん。」
「ヒドイなあ。俺、疲れたからちょっと寝るわ。岳人、肩かして。」
「寝んのかよ?せっかく二人でサボりに来てるのに。」
「岳人があないなことするからいけないんやろ。とにかくおやすみ。」
隣に座る岳人の肩に頭を乗せると忍足は本当に目を閉じてしまった。本当はいろいろ話を
したかったのになあと残念がる岳人だが、忍足の寝顔を見るのも悪くないかと素直に肩を
貸してやる。ポカポカ陽気の屋上は、まさに昼寝にもってこいの環境。忍足はすぐに夢の
中へ落ちていった。
「マジ寝ちゃったし。まあ、いっか。」
忍足の寝顔を横目に見ながら、岳人は穏やかな日差しを受け日向ぼっこを楽しむ。忍足の
言っていた『日向ぼっこ日和』はあながち間違っていないなあと岳人は一人笑うのだった。

五限の終わりを告げるチャイムが鳴るのを聞いて、岳人は忍足を起こした。さすがにHR
までサボってしまうと担任に怒られてしまう。忍足はまだ夢見心地のまま岳人に手を引か
れ、廊下に続く階段を下りた。
「ふあ〜、よく寝た。」
「何ジローみたいなこと言ってんだよ?あれ?跡部に宍戸。」
「あー、お前ら今戻りか?」
「おう。やっぱサボってよかったぜ。侑士がな・・・・」
「わああ、何説明しようとしてんねん岳人!!」
岳人がさっきあったことを普通に二人に話そうとするので、忍足は慌ててその言葉を遮る。
あんなことを言われるなんてたまったもんじゃない。
「何、そんなに慌ててんだよ?」
「べ、別に何でもあらへん!」
「ふーん。それより俺達図書室でな、ちゃんと痴漢撃退講座やったんだぜ。でも、宍戸の
場合は撃退するどころかむしろ受け入れ・・・・」
「だあー、何言ってんだ跡部ー!!」
『・・・・・・』
どうやら跡部や宍戸も同じようなことをしていたらしい。そんな話を聞くと岳人と忍足は
顔を見合わせて爆笑した。当然笑われている宍戸は真っ赤になって怒る。その怒りは跡部
に対してでもあり、笑いまくっている岳人や忍足に対してでもあった。
「大変やったんやなあ、宍戸。」
「ウルセー、さっさと自分の教室戻れ!!」
「あはは、何だ跡部達も俺達と変わんねぇじゃん。」
『えっ?』
流れで岳人はそんなことを言ってしまった。これはヤバイと思って忍足は岳人の手を引き、
一気に教室までダッシュ。それを唖然とした顔で見送りながら、残された二人はさっきの
岳人や忍足のように顔を見合わせて笑う。
「あいつらもきっと俺達と同じようなことしてたんだな。」
「ああ。だから、忍足あんなに焦ってたのか。よっし、さっきの仕返しに部活でからかっ
てやろう。」
「そりゃ楽しそうだ。さてと、俺達も教室に戻らねぇとな。」
笑われた仕返しにからかってやると宍戸は悪戯心いっぱいに笑う。跡部も少しいじめてや
れと同調した。サボり魔なこのメンバー。場所が違ったとしてもすることは同じのようだ。

                                END.

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