最高の誕生日を君に 〜9.29〜

心地よい微睡みの中、宍戸はゆっくりと目を開ける。真っ青な瞳が自分を見下ろし、髪を
かき上げるかのように、優しく額に手が触れた。
「起きたか。」
「お、おう・・・」
跡部の城で過ごすようになってだいぶ時間が経つが、いまだに跡部に触れられると、宍戸
の心臓は速いリズムを刻む。
「今日はどこかに出かける予定は?」
「えっ?特にねぇけど・・・」
「そうか。」
その言葉を聞いて、跡部は上機嫌な顔を見せる。何だかいつもと雰囲気が違うなあと思い
つつ、宍戸は布団から出る。
「おわっ!?あ、跡部っ、俺の服・・・」
「ああ、ほらよ。」
跡部との勝負が終わると基本的に気を失うように眠ってしまうので、ベッドで眠ると服を
着ていないことの方が多い。今回もその例にもれず、何も身に着けていない状態であった。
跡部から自分の服を受け取り、それを身に着けると、宍戸はベッドの端に腰掛ける。
「何か今日、跡部妙に機嫌よくねぇ?」
「そりゃそうだろ。だって今日はお前の誕生日だぜ?」
跡部にそう言われ、宍戸は部屋にある暦に目をやる。すっかり忘れていたが、確かに今日
は自分の誕生日であった。
「あー、確かにそうだな。つーか、去年軽く話しただけなのに、よく覚えてたな。」
「アーン?自分の一番好きな奴の誕生日を忘れるわけねぇだろ。しかも、去年は過ぎてか
ら言うもんだから、祝えなかったしな。」
「そうだったな。」
去年のことを思い出し、宍戸は苦笑する。跡部の誕生日は事前に知ることが出来、祝うこ
とが出来たが、その話をしたのが、自分の誕生日が過ぎて少ししてからだったため、跡部
はひどく悔しそうな反応をしていた。
「まあ、人の誕生日を祝うなんてこと今までにしたことねぇから、ちゃんと祝えるか分か
らねぇけどな。」
「そこまで気張ることでもねぇだろ。俺は別にいつも通りでいいと思ってるし。」
「いつも通りじゃつまらねぇだろ。」
「まあ、跡部がしたいようにすればいいんじゃねぇの?」
「ああ、そうさせてもらうぜ。」
そう言うと跡部はベッドから下り、ドアの方へ向かう。
「とりあえず、飯食いに行くぞ。もう昼も近いしな。」
「おう。」
宍戸が目を覚ましたのがだいぶ遅いので、もう朝食というより昼食に近い時間になってい
た。跡部の後をついて行き、城の中にある食堂に入ると、宍戸はそこに並んだ豪華な料理
に驚く。
「何だよこれ!?すげぇご馳走なんだけど。」
「当然だ。テメェの誕生日だからな。」
「つーか、跡部、この城から出られねぇのにどうやってこんな料理用意したんだよ?」
「俺様は魔王だぜ?これくらいのこと朝飯前だ。」
どのように用意したのかは分からないが、たくさんのご馳走を目の前に宍戸のテンション
は一気に上がる。席につくと、何から食べようとわくわくとした様子で、テーブルの上を
見回した。
「こんなにたくさんあると、どれから食べるか迷っちまうな。」
「好きなものを好きなだけ食べていいぜ。お前のために用意したんだからな。」
「おう!いただきます!!」
とりあえず近くにあるものから宍戸は手をつける。どの料理も宍戸好みの味付けで、こん
なに美味しいものを食べたのは初めてだと思わせるほどに、美味であった。
「どれもすげぇ美味い!!」
「そうか。」
「こんなご馳走食べたの生まれて初めてかも。」
「そりゃよかったな。お前、見かけによらずよく食うし、食べるの好きみてぇだったから
な。美味いものたくさん用意すりゃ喜ぶと思って。」
「よく分かってるじゃねぇか。次はどれ食おう?」
用意されたご馳走を次から次へと宍戸は口へ運ぶ。そんな宍戸を眺めながら、跡部も自分
の分として用意した料理を食べ始める。二人分にしては、かなり多い量を用意したので、
まだある程度残っている段階で、どちらも満腹になった。
「はあー、腹いっぱい。食い過ぎたー。」
「満足出来たか?」
「おう!美味いものたくさん食べれて、激満足だぜ。」
少々苦しそうにしながらも、実に嬉しそうな宍戸の笑顔を見て、跡部はホッとする。ご馳
走を用意したのは、誕生日を祝う内容として正解だったと、跡部自身も満足気な笑みを浮
かべる。
「少し休んだら、部屋に戻るぞ。」
「構わねぇけど、腹いっぱいすぎて、いきなり戦うとかは今は無理だぜ。」
「分かってる。つーか、誕生日なのに今日も勝負するのか?負けるのに。」
ニヤリと笑いながらそう言う跡部の言葉にカチンとくる。誕生日だろうと関係ない。宍戸
は跡部と勝負するためにここにいるのだ。
「誕生日だからこそだろ!腹がこなれてきたら、今日もたくさん相手してもらうからな!」
「いいぜ。望むところだ。」
勝負の仕方が仕方なので、跡部は乗り気な宍戸の言葉に胸を躍らせる。その場で軽く食休
みをすると、二人は跡部の部屋へと戻った。

部屋に戻ると、跡部は引き出しから小さな箱を取り出し宍戸に渡す。その箱はプレゼント
というよりは、小さな宝箱のようであった。
「宝箱?」
「誕生日プレゼントだ。開けてみろよ。」
「開けたらビックリ箱的な感じで、変なモンスターが出てくるとかねぇよな?」
「そんなガキみてぇなことするかよ。」
跡部の言葉を信じて、宍戸はその小さな宝箱をゆっくり開ける。中には小さな石のついた
指輪が入っていた。
「・・・指輪だな。」
「ああ。」
「これはどういう・・・」
宍戸が言葉を言い終える前に、跡部はその指輪を手に取り、宍戸の左手の薬指にはめる。
「ピッタリだな。まあ、当然だが。」
「・・・何でこの指なんだよ?これじゃまるで婚約指輪か結婚指輪じゃねぇか。」
「お前がそう思いたいならそう思ってもいいぜ。俺としては、勇者としては嬉しい強化ア
イテムみてぇなつもりだったんだがな。」
「強化アイテム?それじゃこの指輪、何か特別な効果があるってことか?」
左手の薬指にはめられたのは不本意だが、強化アイテムと聞けば話は別だ。指輪をまじま
じと眺めながら、宍戸はそんなことを尋ねる。
「まあな。」
「へぇ、どんな効果があるんだよ?」
「それは秘密だ。」
「教えろよ。あ、それとも強化アイテムとか言っといて、実は呪いの指輪みてぇなのじゃ
ねぇのか?跡部、仮にも魔王だし。」
「誕生日にそんなもん贈るわけねぇだろ。安心しろ。マイナスな効果は一切ねぇからよ。」
「まあ、一応その言葉信じといてやるぜ。つけときゃ効果も分かるだろうしな。」
マイナスな効果がないならと、宍戸は跡部からもらったその指輪をしばらくつけておくこ
とにする。こういう誕生日プレゼントをもらうのは初めてなので、照れくさくて文句のよ
うなことを言ってしまったが、内心はとても嬉しいと思っていた。
「さてと・・・」
「何だよ?」
「プレゼントも渡したし、腹もこなれてきたことだし、そろそろいつもみてぇに勝負する
か?」
そんな跡部の言葉を聞いて、宍戸の心臓はドキンと高鳴る。
「いいぜ。誕生日だからって、手加減とかするのはなしだからな!」
「そんなのするわけねぇだろ。むしろ、いつも以上に激しく責めてやるよ。」
魔王らしい笑みを浮べてそう言う跡部の言葉に、宍戸の胸はきゅんきゅんする。跡部との
勝負にそう簡単に勝てないことなど百も承知だが、それでも宍戸は跡部と戦うことが、何
よりも好きであった。ふと気がつくと、宍戸はいつの間にか部屋の壁際に追いつめられ、
跡部の腕から簡単には逃げられない状態になっていた。そして、跡部は戦いを始める合図、
即ち深い深い口づけを宍戸に施した。

しっかりと宍戸の身体を捉え、跡部は甘い甘い口づけを途切れさせることなく続けている。
もう一時間は経っているだろうか。他の部分には触れず、ただひたすらにキスを続ける。
跡部の口づけに宍戸の身体はすっかりとろけ、立っているのもやっとの状態だ。
(こんなに長くキスされるの初めてだ・・・どうしよう、すげぇ気持ちイイ・・・・)
今日はまだ特に拘束されていないので、宍戸はしっかりと跡部の背中に腕を回し、ぎゅっ
と跡部にしがみついている。戦っているということも忘れてしまいそうな気持ちよさに宍
戸はうっとりとした表情を浮かべていた。
「宍戸。」
そろそろキスは終わりにしてやろうと、跡部は宍戸の唇から自分の唇を離す。唇をつなぐ
透明な糸が切れ、宍戸の口の端に濡れた筋を作る。
「ふ・・・ハァ・・・何・・・?」
「いい顔してるじゃねぇか。キスだけでそんなになってたら、すぐ堕ちちまうぜ?」
「しょうがねぇだろっ・・・あんなに長いことキスされたの・・・初めてだし・・・」
「けど、俺様のキス、気持ちよかっただろ?」
それは事実ではあるが、口に出すのはあまりにも恥ずかしいので、宍戸は顔を紅潮させた
まま黙って頷いた。素直で可愛いなあと思いながら、跡部は口元を緩ませる。
「今のキスで、お前にとある魔法をかけてやった。」
「また・・・無理矢理気持ちよくさせるみたいな奴か・・・?」
「いや、今日はそんな強制的なもんじゃねぇよ。お前の誕生日だしな。」
「なら、どんな・・・」
「お前の気持ちに対応して感度がよくなるって魔法だ。お前が俺のこと好きって思えば思
うほど、気持ちよくなる。口に出そうが出すまいが、思うだけでな。そう思わなければ、
別に何の効果もねぇ。ただし、強く思えばそれだけ効果は大きくなるわけで、いつものと
は比べ物にならないくらいの感じ方になるぜ。」
「まあ、無理矢理じゃねぇなら・・・いつもよりはマシかな?」
その魔法の効果がどの程度のものか分からないが、普段ならかなり強制的な感じでかけら
れるので、それよりはいいかと思ってしまう。
「試しに少しでいいから俺のことを好きって思ってみろよ。」
「い、いきなりそんなこと言われても・・・・」
「俺はお前のこと好きだぜ。お前がどう思っていようともな。」
突然耳元でそんなことを囁かれ、宍戸の胸はきゅんとときめく。ときめくということは、
自分も跡部のことを好きだと思っている証拠で、言葉には出さないが宍戸はそのことを意
識する。
(うっ・・・やっぱ、俺、跡部のこと好きかも。)
そう思った瞬間、宍戸の全身にぞくぞくとした甘い痺れが走る。そのタイミングを逃さず、
跡部はちゅっと宍戸の首筋にキスをした。
「ふあっ・・・あっ・・・!!」
口づけられたところから沸き上がる言いようもない快感。こんな少しの刺激での想像を遥
かに超える感じ方に宍戸は困惑したような表情を見せる。
「どうだ?魔法の効果は?」
「こ、これくらい別に何ともねぇんだからな!」
間違いなく感じてしまったのだが、宍戸はいつも通り強がるようなセリフを放つ。こうい
うところは宍戸らしくてたまらないなあと思いながら、跡部はニヤリと笑い、宍戸の身体
をぐるりと反転させ、自分の腕の中におさめる。
「物理と魔法とどっちで責めようか迷ったが、今日は魔法メインで責めてやるよ。」
宍戸の下肢を覆っていた布を脱がしてしまうと、跡部は掌の上で光の玉を作る。パチパチ
と電気を放っているようなその玉を跡部は宍戸の下肢に近づける。
「やっ・・・何だよ、それ!?」
「お前のココを責めるためのモノだぜ。」
宍戸の下腹部に触れながら、跡部はそう答える。もともと物理的なものではないので、ま
だ触れていない宍戸の蕾から、その光の玉はいとも簡単に中へと入っていった。
「ひあっ・・・あああ―――っ!!」
中に入る瞬間は、見た目通りの刺激で、電気を流されているような感覚が宍戸を襲う。し
かし、それは痛みではない。入口と内側の神経を直接撫でられるような強い快感。すぐに
でも達してしまいそうな刺激に、宍戸はビクビクと身体を震わせた。
「今日はこれでじっくり中を責めた後、俺様のを存分に注いでやるからな。」
「こんなの・・・ダメ・・・・」
「少しでもよくなりたければ、俺のことを好きだって思えばいいんだぜ。簡単だろ?」
「うあっ・・・そんなこと言われても・・・・」
完全に光の玉が中に入ると、跡部は外側からそれを操る。内側を優しく撫でられる感覚や
敏感な部分で何かが弾けるような感覚。通常では決して味わうことが出来ない感覚に、宍
戸は甘い声を上げ続ける。
「んっ・・・あっ・・ああぁっ・・・!!」
「せっかくだし、こっちも弄ってやるよ。」
「やっ・・・ふあぁんっ!!」
中のものはそのままで、跡部はピンとたっている宍戸の胸の突起を抓む。敏感な場所を跡
部に触れられ、宍戸の頭の中は跡部でいっぱいになる。
(中もすげぇイイけど・・・跡部に直接触られるの・・・たまんねぇ。跡部に触られるの
好きだ・・・・)
そう思った瞬間、目の前が真っ白になるくらいの快感を感じる。声も出ないくらいの快感
に宍戸は白濁の雫を迸らせた。
「――――っ!!」
「ふっ、今、俺のこと好きって思ったんだろ?」
「・・・あっ・・・ハァ・・・はっ・・・・」
これが跡部の言っていた魔法かと宍戸は身を持って理解する。頭の奥が痺れ、全身が大き
すぎる快感に支配される。そして、意識は跡部のことで埋め尽くされる。
「もっと俺のことを考えろよ。」
「けど・・・」
「今イッたので、中がかなりトロトロになってるぜ。ほら、ちょっと開いてやれば、こん
なに蜜が溢れてくる。」
「んんっ・・・やっ・・・」
中に入れた光の玉の効果か、宍戸の蕾からは透明な蜜が溢れる。恥ずかしさと気持ちよさ
で宍戸はもう何が何だか分からない状態になっていた。
「中もいい具合になってるみてぇだし、そろそろ繋がろうぜ。」
蜜の溢れる宍戸の蕾に跡部は自身を押し当てる。容赦なく自分の内側へ入ってくるそれを
宍戸は拒むことが出来なかった。
「ああぁ―――っ!!」
(跡部の中に入れられたら・・・もうそれしか考えられなくなっちまう!)
「んっ・・・跡部っ・・・ああぁっ・・・・」
「どうだ?さっきの玉のおかげで、全然痛くはねぇだろ?」
「痛くないけど・・・逆によすぎて・・・んんっ・・・!!」
「俺もすげぇ気持ちイイぜ。ほら、中で大きくなってるのが分かるだろ?」
「ああぁっ・・・!!」
中で跡部が動くたび、宍戸は胸に回されている跡部の腕にしがみつき、ガクガクと下肢を
震わせる。熱くて、硬くて、大きな楔。それが自分の中で激しく蠢く。敵でありながらも
なくてはならない存在の跡部。そんな跡部と交わるたびに心を奪われていく。
(どうしよ・・・跡部のすごくイイ。跡部、好き・・・跡部の全部が・・・好き・・・)
素直に跡部が好きだと心の中で呟く。その途端に全身が溶けてしまいそうなほどの絶頂感
に包まれる。声にならない声を上げ、何度も果てる。そんな宍戸の様子に、跡部はこの上
ない愛しさを感じる。
「そんなに何度もイッて、そんなに俺様のことが好きなのか?」
「ん・・・好き・・・大好き・・・・ああぁんっ!!」
何度達してもおさまらない絶頂感に、宍戸の心はもうドロドロに溶けていた。もうこれが
跡部との勝負だということも忘れて、底のない快感にすっかり堕ちている。心の中だけで
なく、自らの言葉として跡部のことが好きだと表す。そのことがまた、跡部のかけた魔法
の効果を強めることとなった。
「俺もお前のこと好きだぜ。好きだなんて言葉じゃ、全然足りねぇくらいに。その顔も体
も心も・・・今は全部、俺のものだ。」
いつもは少々腹の立つ自己中心的な跡部の言葉も、今の宍戸にとっては跡部への想いを大
きくさせるものにしかならない。跡部への想いが強くなればなるほど、魔法の効果も強く
なる。
(こんなにずっと気持ちいいのが続いてるのに・・・いつもみてぇに気を失いそうになら
ねぇ・・・・ああ、もうずっと跡部とこうしててぇ・・・・)
「宍戸っ・・・」
一際強く体を抱きしめられた瞬間、ビクビクと痙攣する内側に熱い雫を放たれる。それが
跡部のモノだと理解すると、宍戸ももう何度目か分からない絶頂を迎える。
「ハァ・・・ハァ・・・あっ・・・跡部・・・・」
「・・・何だ?」
「跡部の・・・もっと欲しい・・・」
普段ならもう限界な状態であるが、今日は何故だがまだ余裕がある。それならもっと跡部
と繋がって、跡部を中で感じていたいと、宍戸はうっとりとしながらそうねだった。
「いいぜ。俺もまだまだやめる気ねぇしな。」
(まだ跡部としてられる・・・今日は最高の誕生日だ。)
甘い甘い多幸感の中、宍戸は心からそんなことを思う。跡部の魔法の効果だろうと構わな
い。とにかく果てしなく心地の良いこの時間を存分に楽しもうと、宍戸は心も体も全て跡
部に任せた。

結局、宍戸は気を失うことなく、いつもよりかなり長い時間、跡部との勝負を楽しんだ。
こんなことは初めてなので、宍戸は少々困惑していた。
「あんなにたくさんしたのに、結局今日は気を失わなかったな。いつもなら絶対途中でバ
テてるのに。」
「いいことじゃねぇか。気を失わなかったし、今日の勝負は引き分けってところか。」
「おおー!!マジか!!そうだよな、引き分けだよな!!」
いつもは完全に負け続けているので、引き分けという言葉を聞いて、宍戸のテンションは
一気に上がる。
「何かすっげぇ嬉しい!今日の跡部との勝負はすげぇよかったし、負けるってこともなか
ったし、本当いい誕生日だぜ♪」
「そこまで喜んでもらえるなら、こっちとしても嬉しいぜ。そうだ、昼は飯がメインだっ
たが、一応、バースデーケーキも用意してるんだぜ。」
「本当か!?」
「ああ、早速食べに行くか?」
「おう!!」
ケーキがあると聞いて、宍戸は嬉しそうに跡部の言葉に頷く。部屋から移動しようと歩き
出すと、ふと跡部は足を止める。
「どうした?」
「そういや、まだ言ってなかったな。」
「何を?」
「誕生日おめでとう。」
誕生日に言われる言葉としては、ごくごく普通の言葉なのだが、宍戸はその言葉を聞いて、
どうしようもなく胸が熱くなった。こんなにもこの言葉が嬉しいものだとは、今の今まで
感じたことがなかった。
「ありがとう。跡部に祝ってもらって、本当嬉しいと思ってるぜ。」
「そうか。」
照れくさそうにそう返す宍戸に、跡部は魔王とは思えないような微笑を浮べる。こういう
表情はずるいよなあと思いつつ、宍戸はほんの少し頬を染める。
「今年の跡部の誕生日は、去年よりもっともっと盛大に祝ってやるからな!」
「ふっ、楽しみにしてるぜ。」
跡部の誕生日までは、あと五日。今日祝ってもらったお返しに、跡部の喜ぶことを全力で
してあげようと考えながら、宍戸は跡部に向かって最高の笑顔を見せるのであった。

                                END.

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