『幸福桜』

「花見?」
「そう、この前いい場所見つけたんだ。もう満開のはずだから一緒に行こうぜ。」
ある暖かい春の日。もう桜も満開になっている時期だ。跡部は花見に行こうと宍戸を誘っ
た。
「そうだな。いいかも。」
「じゃあ、今日の夜な。あっ、でも、そこまで結構かかんだよ。あと2時間くらいしたら
出発しようぜ。」
「えっ、今日行くのかよ?」
「だって、桜はずっと咲いてるわけじゃないんだぜ。行こうと思ったら即実行だ。」
宍戸は決定力の強さに押されながらも、花見に行くことは嫌ではないので行くことに賛成
した。どこかは分からないが、跡部が連れて行ってくれるならきっといい場所なのだろう
と期待を胸に抱きながら、宍戸は立ち上がり、花見に行く用意を始める。
「分かった。じゃあ、今から用意しようぜ。」
「そうだな。」
というわけで二人は花見に行くために、必要なものを鞄に入れ、動きやすい服装に着替え
を始めた。

「はぁ・・・跡部、まだ着かないのか?」
「もう少しだ。お前、意外と体力ねぇんだな。」
「そんなことねぇけどよ・・・山道歩くってあんまねぇからさ。」
「俺はまあ慣れてるけどな。」
フライフィッシングが趣味の跡部は、山登りをすることになれている。だが、宍戸はそん
なことは滅多にしないので、急な山道を歩くのはなかなかキツイ。ハァ、ハァと息を切ら
しながら、宍戸は跡部のあとに一生懸命ついて行った。そして・・・
「着いたぜ。宍戸。」
「うわあ・・・」
もう日はすっかり暮れ、辺りは真っ暗だったが、そんなことは全く気にならないほど立派
な桜が二人の前に姿を現した。
「すっげぇ、デカイ。」
「綺麗だろ?たぶん樹齢500年はいってるんじゃねぇか。」
「へぇ。ホント満開だな。」
「もうちょっと近くで見ようぜ。」
二人は桜の花をもっとよく見るために、木の真下まで歩いて行く。真下に立ち、下から花
を見上げると全てがピンク色に霞んでいるように見えた。
「何かピンクの霧がかかってるみてぇ。」
「ああ。ここはな俺だけの秘密の場所だったんだ。」
「えっ、そうなのか!?」
「まあ、一人だけ先客がいたけどな。」
「俺なんかに教えてよかったのか?」
宍戸は不安気な表情で跡部に問う。秘密の場所を簡単に教えられてしまって悪いんじゃな
いかと感じたからだ。
「いいに決まってんだろ。ここ見つけた時、絶対宍戸と来てぇと思ったんだ。」
「マジで?」
「ああ。それでなその先客のジイさんがこの桜についての伝説を俺に話してくれたんだ。」
跡部はその場に腰かけながら、ここを見つけた時に居た一人の老人の話を宍戸に話し始め
る。宍戸も跡部の隣に腰を下ろした。
「この桜はな、『幸福桜』って言われてるらしいぜ。」
「幸福桜?」
「見ての通りかなり昔からあるらしいんだ。その伝説ってのがすごいんだぜ。」
跡部はもったいぶらしながら話を進める。宍戸は早くその伝説を聞きたくてしょうがない。
「それで、その伝説ってのはどんなのなんだよ?」
「この桜の下で契りを交わしたものは、現世でも来世でも永遠に結ばれる。」
「・・・・・。」
自信満々にそれも楽しそうに話す跡部を見て、宍戸は言葉を失った。それは何を意味する
かすぐに分かり、このあとのことが簡単に予測出来てしまったからだ。
「・・・一応、聞くけどさ、契りを交わすって、その・・・・そういうことするってこと
だよな?」
「たぶん、そうだろうな。」
「そっか。」
このあとに続ける言葉が見つからなく、しばらくの間、沈黙が二人の周りを包んだ。宍戸
はその沈黙の間にふとあることに気づく。
そういや、こんなに暗いのに今日は全然怖くねーな。何でだろう?
「跡部。」
「ん、何だ?」
「俺さ、今日、こんな明かりも全くないところにいんのに全然怖くねーんだよ。」
「へぇ、そりゃ珍しいな。」
「それから、何か今すげぇ変な感じがする。何にもしてねーのに心臓がドキドキしてくん
だ。」
「そりゃ奇遇だな。俺もだ。」
跡部はサラサラの黒髪にそっと触れ、キスをしながらその場に宍戸を押し倒した。
「宍戸、ここなら誰もいねぇし、この時間帯なら来ねぇだろ。伝説、試してみようぜ。」
「ああ。いいぜ。」
ふだんなら一瞬躊躇する宍戸だが、今回はそんな躊躇もなしに跡部の誘いを受け入れた。

「ふっ・・・ぅん・・・あっ・・・」
ボタンが外され、開かれた胸に跡部は唇を落としていく。一つ、二つ、三つ・・・綺麗な
ピンク色の花びらが宍戸の肌に落ちてゆく。
「はっ・・・跡部っ・・・そこ・・・」
「ここか?」
「あんっ・・・そ・・・もっと・・・」
「何だよ。今日はいやに協力的じゃん。」
「何でかな・・・いつもはこういうことされて・・・すげぇ恥ずかしいのに、今日は全然
そうは感じねぇんだよ。」
「ふーん。この桜の所為かもな。」
「んっ・・・あぁ・・・」
跡部の言う通り桜の所為なのか、二人ともいつもとは何かが違うと感じていた。宍戸はい
つもの羞恥心が全くない。宍戸の協力もあってか、跡部は宍戸の感じるポイントを次々と
見つけることが出来る。
「ひゃっ・・・あぁ・・・あっ・・・」
「宍戸、下も脱がしていいか?」
「う・・・うん・・・」
「それじゃ。」
軽く尋ねたあと、跡部はベルトに手をかけ、宍戸の穿いているものを全て取り去ってしま
った。息を乱しながら、宍戸は跡部のすることを何の抵抗もせずに受け入れる。
「あっ・・・あぁん・・!」
「今日は隠そうとしねぇんだな。」
「べ、別にいいじゃんか・・・!!跡部だって・・・その方がやりやすいだろ・・・」
「まあな。」
宍戸の幹にそっと口をつけ、根元から先まで丁寧に舐め上げる。その度に宍戸は腰を揺ら
し、高い声を上げる。
「やっ・・・あ・・ぅん・・・跡部っ・・・」
「綺麗な蜜、溢れてきてるぜ。」
「んんっ・・・・だって・・・気持ちい・・・い・・・」
「ホント、今日は素直だな。でも、そういう宍戸もいいぜ。」
「あっ・・・はぁ・・・あっ・・・ああ・・・」
「まだ、出すなよ。もっと、俺を楽しませてくれよな。」
「んっ・・・うあっ・・・でも・・・俺・・・そんな我慢出来・・ない・・・」
先だけを舐めたり、全て口に含んだりと好き勝手に跡部は宍戸のモノを弄ぶ。その跡部が
与える快感に宍戸はもう溺れかけていた。
「あっ・・・も・・ヤバっ・・・」
「出せよ。全部、飲んでやるから。」
「でも・・・くっ・・んん・・・・」
「大丈夫だ。いつものことだろう?」
「やっ・・・あっ・・・もうっ・・・・ああっ!!」
跡部がさっきよりも一際深く咥え込むと、宍戸はそのまま口の中へと蜜を放った。全てを
飲み干したあと、跡部は宍戸のソレから口を離す。
「何か・・・今日いつもより少し甘ぇな。」
「うそつけ・・・そんなわけあるか・・・!」
「いや、ホントだって。やっぱ、こういうとこですんといつもと違うんだな。」
「そう・・・なのかな・・・?」
不思議だなあと思いながら、宍戸は息を整えようと深呼吸をした。
「はあー・・・・」
「宍戸、後ろ慣らすけど、いいよな?」
「えっ・・・う、うん。」
率直に聞かれたので、さすがに宍戸も戸惑ってしまった。いきなり入れらるわけではない
ので、ある程度覚悟は出来ていたが、いつもとは違う感じに二人は同時に声を上げる。
『うわっ・・・!!』
「おい、宍戸。お前、何でもうこんなに濡れてんだよ。」
「んんっ・・・うそ・・・こんなの・・・おかし・・・」
「でも、こりゃいいな。何もつけないでこんなに濡れてんのって初めてだろ?」
「やだっ・・・何で・・・ひっ・・・あっ・・・」
もう十分に濡れているにも関わらず、跡部はじっくりと指で弄り、さらに濡らしてやろう
と舌を這わせる。
「うあっ・・・跡部・・・あっ・・・あぁ・・・」
「すっげぇぐちゃぐちゃだぜ。ここ。」
「やっ・・・くっ・・はぁん・・・」
「こっちの蜜もうまいぜ。」
「お前の・・舌・・・おかしい・・・」
「その舌で喘いでる奴はどこのどいつだよ?」
「くそ・・・ウルセ・・・もう・・・いい加減にいいだろ・・・!!」
いつまで経っても跡部が指や舌で弄るばかりなので、宍戸は我慢しきれなくなり、金色の
髪を掴み、涙声で訴える。
「もう・・・そんだけ濡れてりゃいいだろ・・・早く・・・お前と繋がりてぇ・・・」
「分かったよ。ほら、しっかりしがみついとけよ。」
跡部は体を宍戸に重ね、自分のモノをゆっくりと宍戸の中に挿入する。上着は初めの方か
ら脱いでしまっているので、全てが入った瞬間お互いの肌が直接触れ合った。
「あっ・・・ああっ・・・跡部!!」
「お前ん中、すげぇ気持ちいい。熱くて、濡れてて、しっかりと俺のを咥えてる。」
「はぁ・・・んっ・・・跡部・・・もっと・・・動いて・・・」
「大丈夫なのか?まだ、挿れてからそんな経ってないぜ。」
「大丈夫・・・だから・・・お願い・・・・」
「お前がいいなら、別にいいけど。」
珍しく宍戸自ら動いてくれと頼むので、跡部は少しずつ腰を動かす。焦らされるようなそ
の感覚に宍戸の腰も自然に動く。
「あぁん・・・あっ・・・跡部・・・もっと・・・」
「くっ・・・今日、すげぇ変な感じだ。」
「変って・・・何が・・・?」
「分かんねぇけど、何かがいつもと違う。」
跡部は宍戸の中で熱を感じながら、その何かを考えた。そのとき、意識のいかない上半身
にわざと神経を集中させてみた。すると、ありえないようなことを跡部はハッキリを感じ
取ることが出来た。
「宍戸、俺の胸のとこに手当ててみろ。」
「こう・・・?」
「それから、空いてる方の手を自分の胸においてみろ。」
「・・・・・うわあ。」
跡部が言ったことを実行すると宍戸もその不思議な現象を感じることが出来た。
「すげぇ・・・俺と跡部の心臓の動きが・・・全く同じだ・・・」
「なっ、すげぇだろ?何か、俺達本当に一つになったみたいだな。」
「ああ。・・・・んっ・・・跡部ぇ・・・」
心臓の音を感じることに意識を集中させていた宍戸だったが、跡部が少し動いたことによ
り、意識はまた結合部へと移っていく。
「今日は出来るとこまで、とことんやるつもりだけどいいよな?」
「ふっ・・・うん・・・俺も・・・跡部がもっとたくさん・・・欲し・・い・・・」
「俺もお前が今欲しくてたまんねぇ。このまましばらく繋がっていようぜ。」
桜の花が霞み、月も朧げである中で、二人は今目の前にあるお互いの姿をハッキリととら
え、体温を感じ、お互いに全てを求め合った。そして、何度も何度もその行為を繰り返し
快楽と熱を与え合い、気のすむまで契りを交わした。
「跡部・・・跡部っ・・・!!」
「宍戸っ・・・!!」
全てが溶け合い、一つになった時、二人はこのまま時が止まってしまえばいいと心の底か
ら願った。目の前が桜色に染まるのを感じながら・・・。

行為を終えたあと、跡部は持ってきたタオルを川の水で濡らし、宍戸の体を丁寧に拭いて
いる。
「冷たくないか?」
「ああ、大丈夫。つーかさ、あんなにヤッたのに今日は全然余裕なんだけど。」
「それは俺も思う。やっぱさ、この桜特別なんじゃねぇの?」
「だよなあ。伝説、本当だといいな。」
宍戸はうれしそうに笑いながら跡部に言った。跡部も柔らかい表情で笑っている。
「よし、こんなもんだろ。ほら、ちゃんと洋服着た方がいいぜ。春っつっても、夜はまだ
冷えるからな。」
「おう、サンキュー。そういえば、今日、ここで寝んのか?」
「一応、そのつもりで薄手の毛布は持ってきたけど。」
「そっか。じゃあ、寝ようぜ。さすがに寝ないと朝になって山下り出来なさそうだからな。」
「そうだな。」
跡部は鞄から毛布を出すとバサッと広げて、自分と宍戸の背中にかけた。そして、大きな
桜の木の幹に寄りかかり、お互いの肩に頭を傾け、目を閉じる。
「オヤスミ、跡部。」
「ああ。おやすみ。」
幸せそうな笑みを浮かべて、二人は眠りについた。日の出までは数時間しかないが、これ
以上なくリラックスし、ぐっすりと眠る。朝までにはすっかり疲れはとれてるだろう。

朝日が昇り、その穏やかな光によって二人は目を覚ます。
「ふあ〜、よく寝たー。」
実際に眠ったのは4時間程度だが、宍戸は何故だかよく眠れたと感じている。
「朝焼けの桜ってのもなかなかいいもんだな。」
「そうだな。でも、気持ちいいな。こんなに気持ちよく目覚ましたの久しぶりかも。」
そよ風が桜を散らす中で、宍戸は大きく背伸びをした。桜の中で気持ち良さそうに風に吹
かれている宍戸の姿はとても綺麗で、跡部はそんな宍戸を天女みたいだなあと錯覚する。
「お前、天女みたいだな。」
「はあ!?何言ってんだよ、跡部。」
「桜が散ってる中で、そう動いてるとそう見えんだよ。」
「ふーん。まあ、そう言われてやな気はしねぇな。」
照れながらも少しうれしそうな顔で宍戸は跡部に近づいていく。そして、軽く唇にキスを
し、跡部の手を取って、立ち上がらせた。
「もうそろそろ帰ろうぜ。跡部、飯は持ってきてねぇんだろ。ずっとここにいたら、腹減
っちまうよ。」
「そうだな。じゃあ、帰るか。」
「あっ、でも、ここに来た証拠みたいなの残しときたいから、何枚か花びら持って帰ろう
ぜ。」
「そりゃいい考えだな。」
跡部と宍戸は下に落ちている桜の花びらを何枚か拾い、持って帰ることにした。満開の花
を咲かせたこの木の下で、契りを交わした二人。あの伝説の通り、きっと、このあとも幸
せな日々を過ごすのであろう。

                                END.

戻る