サンタの饗宴 〜その3〜

「うわー、本当いろんなジャンルの本がいっぱいある。図書室にないようなものもたくさ
んあるよ。」
「CDもすごいですよ。たぶん日本じゃ売られてないものもあるんじゃないですか?」
棚の中に並んでいる本やCDを見ながら滝と鳳は、そんな会話を交わす。こんなプレゼン
トをもらえるとは思っていなかったので、どちらもかなり喜んでいる。自分の好みのもの
を見つけてはそれを取っていくと、二人はベッドの横の台に置いていった。
「取りあえずこんなもんかな。」
「すごいですね。こんなに読むんですか?」
「んー、何かおもしろそうだったからさ。長太郎だって、結構な量取ってるじゃない。」
「跡部さんが遠慮するなって言ってましたし、本場の音を聞くのもいいなあと思って。」
自分の好みのものを存分に選び出すと、満足した様子で二人はベッドの端に座った。特に
することがないので、暇を持て余していると、滝の目にグランドピアノが映る。
「そうだ、長太郎。ピアノ、聞かせてよ。」
「ピアノですか?いいですよ。」
「今日はクリスマス・イブだし、クリスマスっぽい曲を聞かせて欲しいな。」
「分かりました。じゃあ、クリスマス・ソングメドレーで。」
滝のリクエストを受け、鳳はピアノのあるところまで歩いて行く。ピアノのふたを開け、
黒い椅子に座る。そして、ゆっくりとクリスマスらしい曲を鍵盤を叩くことで奏で始めた。
明るい曲から静かな曲まで、様々なクリスマス・ソングを組み合わせて、鳳はピアノを弾
いてゆく。その音色は、滝にとって、とても心休まるものであった。
ポロン〜♪
鳳が最後の音を奏でると、滝は大きな拍手を送る。たくさんのクリスマス・ソングを聞き、
クリスマス気分は最高に高まってきていた。
「すごくよかったよ、長太郎。」
「ありがとうございます。」
滝にピアノの演奏を褒められ、鳳は照れ笑いを浮かべる。ベッドから立ち上がり、滝は鳳
に近づく。
「長太郎のピアノを聞くのも素敵だけど、そうすると話が出来なくなっちゃうんだよね。」
「そうですね。だったら、何かCDかけます?クリスマスだし、この建物自体も教会みた
いなんで、賛美歌とかどうです?」
「いいんじゃないかな?俺はあんまりそういうのに詳しくないから、長太郎が選曲してよ。」
「はい。任せてください。」
ニッコリと笑って答えると、鳳は一つのCDをデッキに入れ、再生ボタンを押した。普通
の家には絶対にないような音楽機器が備わっているので、スピーカーから流れてくる音は
実に荘重であった。
「何か厳かなムードたっぷりって感じだね。」
「そうですね。こんなにいい音で聞くとまた格別ですよ。」
「長太郎は、キリスト教っぽいものが結構好きだよね。首にかけてるクロスもそうだし、
宍戸から聞いたんだけど、全国大会の青学戦の前日も教会にいたんでしょ?」
「はい。本当別にクリスチャンではないんですけど、何故か落ち着くんですよね。自分で
も不思議なんですけど。」
「前世が敬虔なクリスチャンだったんじゃない?その感覚が今も残ってて、そう感じると
か。」
「うーん、よく分からないですけど、もしかしたらそういうこともあるかもしれませんね。」
賛美歌によって、何となく心が洗われるような気分になりながら、二人はそんなことを話
す。鳳自身、何故ここまでキリスト教系のモチーフに惹かれるのかは分からなかった。し
かし、落ち着くのは確かなのだ。
「でもさ、本当のクリスチャンだったらこういうのって御法度なんだよね。」
「こういうのって、何ですか?」
鳳の問いに滝は行動で示す。この雰囲気に何の警戒感も持っていない鳳の唇を滝はさっと
奪った。あまりの突然のことで鳳はポカンとしてしまう。
「こういうこと♪」
笑顔でそんなことを言われ、鳳は自分が何をされたかハッキリと理解する。
「なっ・・・いきなり何するんですか!?」
「何って、キスだよ?」
「そ、それは分かってますけど・・・」
ふしゅ〜と真っ赤になって、鳳はうつむいてしまう。あまりにも可愛い反応をしてくれる
鳳を見て、滝はくすくす笑った。
「長太郎は、俺とこういう関係なのはいけないことだと思う?」
「そりゃ思わないですけど・・・」
「だったら今さら照れることないじゃん。」
「それとこれとは話が別ですよ〜。いきなりキスされたら恥ずかしくなるに決まってるじ
ゃないですか。」
ちょっと怒ったような口調で鳳はそんなことを言う。それを聞いて、滝は声を立てて笑っ
た。何故笑われているのか分からず、鳳は困惑してしまう。
「な、何で笑うんですか!?」
「だって、長太郎、超可愛いんだもん。そんな初々しい反応されるといろいろ悪戯したく
なっちゃうよ?」
「へっ・・・?」
何を言っているのかよく分からないというような顔をしている鳳のサンタ帽子を滝はそっ
と外してしまう。そして、露わになった耳を軽く甘噛みし、ふぅっと優しく息を吹きかけ
てやる。その瞬間、鳳の体はビクッと跳ねた。
「ひゃっ!!」
「いい反応。おもしろいからもう一回・・・」
「わああっ、ちょ、ちょっと待ってくださいっ!!まだ、心の準備が・・・」
「くく・・・あはははは!!」
本気で慌てている鳳を見て、滝は大爆笑。まさかここまでよい反応をしてくれるとは思っ
ていなかった。
「えっ・・・あ・・・?」
「冗談だよ、長太郎。」
「なあ!?」
「あんまりにも長太郎が素直な反応返してくるから、ついからかいたくなっちゃって。」
「ひ、ひどいですよ〜!!」
半分涙目になりながら、鳳は滝を睨む。そんな顔も滝にとっては可愛いとしか思えなかっ
た。
「ゴメンゴメン。それじゃ、お詫びに長太郎の言うこと何でも聞いてあげる。」
「本当ですか?」
「うん、本当。」
「それじゃあ・・・」
今度は自分が滝をドキドキさせてやろうと、鳳は何を言おうか考える。滝のことだから、
ちょっとやそっとじゃ驚かないだろうと、なるべくすごいことがよいと、鳳は一生懸命考
えた。
「今日はクリスマス・イブなんで・・・」
「うん。」
「いつもより激しくしてください。」
ニッコリ笑顔でさらっとそんなことを言う。それを聞いて、滝はピシッと固まってしまっ
た。
「えっ・・・?」
「ダメですか?」
今度はうるうるした瞳で滝の顔を見る。そんなことを言われれば、滝も少なからず動揺し
てしまう。
「えっと、その・・・俺は別に構わないんだけど・・・・さっき心の準備が出来てないっ
て言ってたのに、急にどうし・・・」
滝の言葉を遮り、鳳はちゅっと滝の唇にキスをした。しかも、滝がした時よりもかなり長
い時間だ。突然態度の変わった鳳を目の当たりにし、滝の心臓は飛び出してしまいそうな
ほど、激しく高鳴っている。
「ちょ、長太郎・・・?」
あまりにも動揺しすぎて、何を言えばよいのか分からなくなってしまう。顔が真っ赤にな
り、服の上からでも心臓がドキドキと速くなっているのが分かる。そんな滝を見て、今度
は鳳が笑い出した。
「ふふ、滝さんすごい心臓ドキドキいってますよ。顔も真っ赤ですし。」
「えっ・・・?」
「さっきのお返しですよ。ビックリしましたか?」
「・・・本当、マジ驚いた。」
「これでおあいこです。」
仕返しが出来たと鳳は満足気だ。しかし、あんな鳳を見て、滝はいろいろと我慢が出来な
くなっていた。
「長太郎。」
「はい、何ですか?」
「さっきのはちょっと反則だよ。」
「えっ?どういう意味っスか?」
答えるよりも前に滝は体が動いていた。自分より一回りも大きな鳳の体をドサッとベッド
に押し倒す。
「こういうこと。長太郎があんまり可愛く誘ってくるから我慢出来なくなっちゃった。」
「うーん、やっぱアレはやりすぎでしたか?」
「やりすぎというか、あんなこと言われたらこうせずにはいられないよね。」
「今回は俺が煽ったのもありますし、別に構わないですよ。」
「いいの?」
「はい。俺があんなこと言わなくても、こういうことするつもりだったでしょう?」
「うっ・・・それは否定出来ない。」
「本当のとこ・・・アレって半分は本当の気持ちだったりするんですよね。だから、俺は
全然構いません。」
平気な顔でそう言っているように鳳は装っているが、その顔は恥ずかしさからか真っ赤に
染まっていた。そんな鳳を見て、滝はより煽られる。
「それじゃ遠慮なくしちゃうよ?」
「・・・はい。」
どちらの心臓も期待と興奮でドキドキと速くなっている。お互いが着ているサンタ服の赤
がより二人の気分を高めていっていた。

跡部につれて来られた部屋に入り、宍戸はその入り口で呆然と立ち尽くしていた。その部
屋は、とても室内とは思えぬような様相だった。
「何だよ・・・この部屋。」
「すげぇだろ?」
「だって、これどう見ても野外だぜ?周り森だし、星も見えるし・・・」
宍戸が見ている景色は、森に囲まれた原野という感じであった。天井にはたくさんの星が
輝いており、それはまさに満天の星空そのものであった。
「今の3D技術はすごいんだぜ。室内でもこんだけ本物みてぇに見えるんだからな。」
「3D?じゃあ、今見えてるのは全部映像だってことか?」
「まあ、簡単に言っちまえばそういうことになるな。」
「すげぇ・・・」
あまりにリアルなその映像に宍戸は感嘆の声を上げる。どんなに目を凝らして見ても、そ
れは森としか見えず、天井は空にしかみえない。こんな部屋を用意出来るなんて、さすが
跡部だなあと思いながら、宍戸は部屋の中心へと歩き出した。
「・・・・・・」
部屋の中心にあるものを見て、宍戸はしばし言葉を失う。周りを森で囲まれた原野の中心
にあったのもの、それは絶対に野外にはないような豪華なダブルベッドであった。
「これはどうよ・・・?」
「ああ、これか。原野の中にベッドがあるってのも、なかなかおもしろいんじゃねぇかな
って思ってよ。」
「いや、おかしいだろ。」
「だってよ、どんなに外に見えてたってここは一つの部屋なんだぜ?床でやるなんて、俺
は真っ平だ。せっかくのクリスマス・イブなんだからよ、寝心地いいベッドでやりてぇだ
ろ?」
「そりゃそうだけどよ・・・」
しかし、これはあまりにも不自然すぎるだと思いつつ、宍戸はそのベッドに腰かけた。跡
部の言う通り、確かにそのベッドは絶妙な弾力と柔らかさを持っており、寝心地はかなり
よさそうだと容易に想像が出来る。
「・・・まあ、確かに悪くはねぇかもな。」
「だろ?とりあえず靴脱いで、このベッドに乗ろうぜ。」
「そうだな。」
二人は靴を脱ぐとふわふわのベッドに体を預ける。喋っていないとその部屋は、完全に無
音になり、どこか人のいない原野にいるという感覚をよりリアルなものにさせていた。
「激静かだな。」
「ああ。この雰囲気を味わうために無音状態にしたからな。」
「そっか。何かすげぇ変な感じ。この建物自体には他の奴らもいるのに、ここにいると、
どこか他の場所に跡部と二人きりでいるような感じがする。」
「そうだな。」
本当に原野にいるような感覚を感じ、宍戸は跡部の存在をしっかり確かめていたいと、寝
転がりながら、きゅっと手を握る。その手を取って、跡部は横になっていた体を起こし、
宍戸の体も起こした。
「テメェから手握ってくるなんて、どういう風の吹き回しだ?」
「何か静か過ぎて跡部に触ってねぇと怖ぇんだよ。」
「ふっ、可愛いじゃねぇの。だったら、もっと触れ合っていようぜ。」
そんなことを言いながら、跡部は宍戸の背中を抱き、顔を傾ける。宍戸は反射的に目を閉
じ、小さく口を開いた。跡部の唇が宍戸の唇に重なる。
(うわあ、超ドキドキしてきた・・・)
まだ唇が触れ合うだけのキスだが、それだけでも宍戸の体温は部屋に入る前よりも確実に
高くなっている。何度か触れるだけのキスがあった後、もっと深い繋がりを求めるかのよ
うに跡部の舌が宍戸の口内に侵入する。
「ふっ・・ぁ・・・」
その瞬間、宍戸の体がピクッと震える。しかし、嫌がってもいないし、離れようともしな
い。それどころか、跡部のキスに応えるかのように自ら舌を絡ませる。
「んっ・・・んん・・・ぅ・・・」
必死で舌を絡めようとしている宍戸の表情を、跡部は瞳を開けてしっかりと観察する。い
つもの意地っ張りで負けず嫌いな宍戸とは全く違う表情に、跡部はどうしようもなく興奮
してくる。
(宍戸のこんな顔見れるのは、俺だけだろうな。)
そう思うと、自分だけが宍戸にとって特別な存在であることがよりリアルに実感出来る。
気分が高揚してくるのに任せて、跡部は飽きるまで宍戸の唇を貪った。
(ハァ・・・長ぇ・・・)
あまりに長いキスに宍戸はくらくらしてくる。しかし、それは全く嫌な感じではない。む
しろ、跡部の愛情が存分に感じられ、どんどん気持ちよくなっていく。
「ハァ・・・だいぶ気分がよくなってきたぜ。」
「・・・そうだな。」
「ふっ、テメェの顔、真っ赤でその服と対して変わらねぇぜ?」
「うっ・・・だって、跡部のキス、超気持ちいいから。」
「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇの。さてと、そろそろ本番行くか?」
「率直だな。ま、別に断るつもりはねぇけど。」
ニッと笑って宍戸は言う。ほどよく赤く染まった頬がよりその表情を魅力的にしている。
「そうだ。その前に・・・」
何かに気づいたように声を上げ、跡部は枕のすぐ横にあるボタンをポチっと押した。する
とふわふわとした綿のようなものが星空から落ちてくる。
「・・・雪?」
「ああ。雪だ。もちろん本物じゃねぇけどな。」
「星があんなにたくさん見えるのに、雪が降ってる。」
天井を見上げながら、宍戸は呟いた。自然界では絶対に見ることの出来ない光景に宍戸は
目を輝かせる。
「本物じゃねぇから、冷たくもねぇし凍えることもねぇ。けど、綺麗だろ?」
「おう。」
「今日はこの景色の中でするからな。」
トサッと宍戸をベッドに押し倒しながら跡部は言う。満天の星空から降る雪の結晶。そし
て、サンタクロースの格好をした跡部。どれも宍戸の目にはキラキラと輝いて見えた。そ
れが何だか気分を高揚させ、跡部とこれからすることに大きな期待感を持たせてくれる。
「今日はクリスマス・イブだ。いっぱい気持ちよくさせてくれよな、跡部!」
満面の笑みを浮かべながら、宍戸は跡部に抱きつく。まさか宍戸からこんな言葉を聞ける
とは思っていなかったので、跡部はふっと口元を緩ませた。
「当然だ。最高に気持ちよくさせてやるから、楽しみにしてろよ?」
そんな言葉を合図に、二人の聖夜が始まった。

                     to be continued

※この後の続きの話は、全てUnderになります。

戻る