制服パニック!?

「うーん、どうしよう・・・」
滝は只今悩んでいる。机の上に雑誌を広げ、それを眺めながら頬づえをついている。その
雑誌にはいくつも女の子の制服。表情からするとそれを見て楽しんでいるようには到底見
えない。
「確かに楽しいだろうけど、少しは裏方のことも考えてよねー。」
滝がこんな雑誌を見ている理由は文化祭にあった。もうすぐ行われる文化祭で、滝のクラ
スは性別を入れ替えた劇をすることになっている。つまり、女の子が男の子の役をやり、
男の子が女の子をやるという劇だ。話の内容としては学園物で、衣装は基本的に制服。し
かし、ヒロインをやる男の子がかなりの長身で、クラスメートの制服では入らないのだ。
それ以前に氷帝学園の制服を衣装として使うわけではない。衣装係になっている滝はどん
な制服を使うのか、またそのヒロインの制服をどう調達するかに頭を悩ませ考えている。
「たぶん買うのは無理だろうな。むしろ、作った方が安上がりかも。」
クラスの出し物なので、それほどお金はかけていられない。大きなサイズを作ってもらう
となると特注になるので、無駄にお金がかかってしまう。だったら、もとからあるものに
手を加え、自分でサイズを調節してしまった方が安くすむであろう。
「問題はどうやってサイズを確認しながら作るかだよなあ。役者として出る人達はその練
習で忙しいから無理だし、だからってこのクラスに同じくらい大きい人はいないし・・・
うーん・・・」
作ろうと決めたものの、今度はどうやってサイズをあわせるかが問題になってしまう。衣
装係はとにかく作ればいいのだから大丈夫だと思っていた滝だったが、今更になって、頭
を使いまくらなければならないことに気づく。はあっと溜め息をつきながら、その雑誌を
閉じると、滝は帰る用意を始めた。
「全然思いつかないや。あとはうちに帰ってから考えよう。」
最後に雑誌をしまい、教室を出ようとした瞬間誰かにぶつかる。それも自分よりかなり身
長の高いもののようだ。
「うわっ!!」
「あっ、すいません!!って、滝さん?」
思わず倒れそうになるのを支えられ、滝をその顔を見上げる。そこには鳳の顔。何故、三
年の校舎にいるのかは分からないが、その顔見た瞬間、滝の頭にあるアイディアが浮かん
だ。ヒロイン役の男の子はちょうど鳳と同じくらいの身長だ。
「長太郎!!」
「は、はい!」
いきなり名前を呼ばれ、怒られでもするのかと思った鳳は萎縮する。
「お願い!!ちょっと協力して。」
「えっ・・・?」
「今、文化祭のことでちょっと悩んでることがあって、長太郎じゃなきゃ協力してもらえ
ないんだ。」
自分でなければ協力出来ない、それも悩んでいると聞いてしまっては、協力しないわけに
はいかない。優しい鳳のこと、滝の頼みにすぐに頷いた。
「何があったか分かりませんけど、困ってるなら助けます。何をすればいいんですか?」
「ありがとう、長太郎。次の休み暇かな?」
「はい、大丈夫ですよ。」
「それじゃあ、うちに来てくれる?詳しいことはそこで話す。」
「分かりました。あっ、よかったら今日一緒に帰りませんか?今、宍戸さんに借りてたC
Dを返しに来たんですけど、いなかったんで帰ろうと思ってたところなんっスよ。」
「うん。いいよ。」
どんな協力をして欲しいかはまだ話さず、いつも通りに話をしながら滝は鳳と帰った。あ
まりにも理想的な体型をしている鳳を眺め、衣装係としての仕事を進めることが出来るの
を嬉しく思いながら、滝は話をする。悩んでるわりには楽しそうだなあと疑問に思いなが
らも頼ってもらえるのが嬉しいと鳳も思うのであった。

その週の休み、滝は鳳を家に招く。あれからどの制服を使うかを決めたり、材料を買った
りと着々と準備は進んでいた。
「それで、今日は俺は何をすればいいんです?」
「んー、とりあえずそこに座って待ってて。」
まずはサイズを測らないとということで、滝は裁縫箱からメジャーを出した。そして、そ
れを持ち、鳳の前まで来るとニコッと笑いながらこう言った。
「それじゃあ、まず服脱いで。」
「へっ?な、何でですか?」
「いろいろ測りたいんだ。ちょっと大きめの服を作んなくちゃいけなくてさあ。」
いきなり服を脱げと言われたらそりゃ驚いてしまうだろう。しかし、服を作ると聞いて、
鳳は滝がどうして自分に協力を求めたかを理解した。滝に言われた通り素直に上着を脱ぎ、
計りやすいようにズボンのベルトも外す。
「こんな感じでいいですか?」
「うん。それじゃ、まずバストからね。」
メジャーを使って滝は上から順番にサイズを測っていく。普段、メジャーで測られるなん
てことは滅多にないので、なんだかくすぐったくて鳳は測っている間、ずっとクスクス笑
っていた。
「なんか、くすぐったいですよ。」
「ちょっと我慢して。もう少しで終わるから。」
正確な数値を紙にメモり滝はそれをもとに布を切ってゆく。既製のものから作ろうかとも
考えたがサイズ的にやはり無理があるので、初めから作ることにしたのだ。滝が作業をし
ている間、鳳は暇つぶしに滝の部屋にあった本を読んでいた。読書が趣味な滝の部屋には
なかなかおもしろそうな本がたくさんあるのだ。しかし、普段読み慣れていない本を読ん
でいたため眠くなってきてしまう。
「よっし、こんな感じかな?あとはスカートか。長太郎、これどう・・・あれ?」
上着が出来上がったと鳳に見せようと思ったのだが、振り向くと鳳はすっかり眠ってしま
っている。見せるのはあとにして今は寝かせてあげようと上から布団をそっとかけてあげ
た。鳳が眠っている間になんとか作業を終わらせてしまおうと滝はもくもくと制服を作る。

「完成ー!!」
かなりの時間がかかってしまったが、何とか形にはなった。その声が聞こえたのか鳳は目
を覚ます。
「う・・・んん・・・」
「起きた?長太郎。」
「あっ、えっと・・・俺、寝てました?」
「うん。可愛かったよVv」
「すいません。あの・・・今何時ですか?」
「えっと、4時半ちょっとすぎかな?」
思った以上に時間が経っていたことに驚き、鳳はガバっと起き上がる。布団が落ちると寝
る前と同じ上着を脱いだ状態。そのこともすっかり忘れていて、二重に驚いた。
「わあっ!!」
「あはは、落ち着いてよ長太郎。まだ寝ぼけてるでしょ?」
「す、すいません滝さん。それで、その作らなきゃいけない服って出来たんですか?」
「うん。出来たよ。サイズ、ちゃんとあってるか分からないからちょっと着てみてくれな
い?」
「はい!分かりました。」
元気よく返事をする鳳だったが、渡された服を見て固まる。これはどう見ても女の子が着
るセーラー服。これを着れと言われても頷いていいのか悪いのか。滝がどういう服を作る
かまでは聞いていなかったので、困惑しまくりだ。
「えっと・・・これってセーラー服ですよね?」
「そうだよ。うちのクラス男女入れ替えの劇をやるんだ。それで、主人公の役をやる子が
長太郎くらいの身長でさ。普通に売ってるのじゃ無理だから作ることにしたってわけ。」
「そうですか。でも・・・俺、きっと似合いませんよ?」
「大丈夫だって。とにかく着てみて。」
まずはサイズがピッタリかを確かめたいと滝は鳳に今出来上がったばかりのセーラー服を
着せた。しっかり測って作っただけあり、サイズはピッタリ。それも意外に鳳はそのセー
ラー服を着こなしている。
「うん。バッチリだね。」
「ちょっと袖とか長くないですか?」
「それはわざと。ちょっとぶかぶかってしてる方が可愛いじゃん。」
鳳に着せることを前提にして作ったため、その制服は滝好みな着こなしになるように仕上
がっている。スカートは普通の女子が穿いているのよりも少し長めに、そして、上着の袖
も手の甲が隠れるくらいの長さに仕立て上げた。
「何かスカートって変な感じですよね。」
「でも、長太郎すごく似合ってるよ。」
「そうですか・・・?でも、俺的には滝さんの方が似合うと思いますけど。」
「じゃあ、着てみようか?」
「えっ?」
ヒロインの制服は自分で作らなければならなかったが、他の役の衣装は買ったものでも十
分だった。設定的に二種類くらいの制服は用意していいということだったので、滝は衣装
袋の中からブレザーの制服を取り出した。そして、ぱっぱとそれに着替えてゆく。
「俺が着るとこんな感じ。」
完璧に女の子の制服を着こなし、滝は鳳の方を振り返って笑いながら言った。あまりの似
合いっぷりに鳳はしばし言葉を失う。
「・・・・・。」
「長太郎?」
「滝さん、メチャクチャ似合いますね・・・。」
「そう?てか、俺が出演者の方になれなかったのってその所為なんだよねー。男女入れ替
えってことは結構ウケ狙いじゃん?でも、俺がこういう格好したら普通に女子に見えて面
白みに欠けるからって外されちゃった。」
残念そうに滝はそんなことを語る。本当は裏方ではなくお芝居自体に出たかったらしい。
「でも、まあ、しょうがないか。それに衣装係になったおかげで長太郎のセーラー服姿も
見れたしね。」
あまりにも楽しそうに話す滝を見て、鳳はなんとなく恥ずかしくなってしまう。立ってい
ても落ち着かないので、少し気持ちを落ち着かせようと滝のベッドにポスンと座った。そ
んなことはお構いなしに滝は滝で衣装袋の中をガサゴソとあさっている。
「あっ、これなんかつけたら可愛いかも。」
「何してるんですか滝さん?」
滝のしてることが気になり、鳳は声をかける。悪戯な笑顔を浮かべて滝は手に何かを隠し、
鳳の前までやってきた。
「さーて、俺は何を持ってるでしょう?」
「そんなの分かりませんよ。」
「じゃーん、見て見て可愛いでしょ?ちょっと少女趣味かなーとは思ったけど、ウケ狙い
だったらこれくらいやらなきゃね。」
滝が鳳の目の前に出したものは、可愛らしいウサギのぬいぐるみにひらひらのレースがつ
いたリボン。それを鳳につけて写真を撮ろうと考えたのだ。
「でも、これってこの格好にはあわなくないですか?」
「そんなことないよ。長太郎、少し大人しくしててね。」
滝はバッチリ鳳にそれらをつけようとした。さすがにそれは勘弁と鳳は軽い抵抗を試みる。
「ちょっ・・・滝さん、それはさすがに嫌ですよ〜。」
「少しの間だけだから。」
「やめてください〜。」
「長太郎。」
バタバタと抵抗をしていると急に鋭い目つきになり、滝を鳳は見下ろす。その視線に鳳は
すっかり固まってしまった。
「お姉様の言うことはちゃんと聞きなさい。」
ゆったりと妖しげな口調で言われ、鳳はすっかり抵抗する気をなくしてしまう。滝はブレ
ザーの女子制服を着ている。それも普段から妖艶な雰囲気を醸している滝のこと、こんな
台詞を言われれば、黙らざるを得ないだろう。
「・・・はい。」
「よし、いい子だね。」
鳳が抵抗をやめると滝はふりふりのリボンを鳳の頭に結び、ウサギのぬいぐるみを持たせ
た。これがまた、鳳のセーラー服姿に合う。そんな鳳の姿に滝はメロメロ。カメラつきの
携帯でその姿を何度も撮影した。
「長太郎、ホント可愛いね。どうせだったら、このまましちゃう?」
「な、何言ってるんですか!!・・・こんな格好でなんて・・・恥ずかしいです・・・。」
冗談で言ったのに耳まで真っ赤になる鳳を見て、滝はドキドキしまくり。本当に飽きさせ
ないなあと思いながら、またおふざけでドサッとベッドに座っている鳳を押し倒した。
「えっ!!滝さん・・・ちょっ・・・!!」
「ふふ、このまま食べちゃおうかな。」
もうどうしていいか分からない鳳は真っ赤になって、今にも泣きそうな顔をしている。こ
んな顔も好きだなあと思いながら、キスくらいならいいだろと滝は顔を近づけた。そして、
唇が重なった瞬間・・・・・
「萩之介ー、夕御飯出来たわよー!お友達の分も用意してあるから早く来なさーい。」
ドッキーン
キッチンの方から母親の声。さすがにこれには滝も驚かされた。当然、それ以上に鳳もビ
ックリしている。心臓をバクバクさせながら、滝は鳳から離れた。
「ビックリしたー。さすがにこんなとこ見られるのはヤバイよね。」
「心臓止まるかと思いました。」
「夕飯かぁ。さすがにこのままじゃ行けないよね。」
「そうですね。あの、俺も夕飯御馳走なっちゃっていいんですか?」
「もちろんだよ。じゃ、着替えて行こうか。」
「はい。」
制服のまま夕飯を食べに行くわけにはいかないので、二人ともさっきまで着ていた服に着
替えた。
「よし、じゃあ行こうか。」
「はい。」
「長太郎。」
「何ですか?」
「微調整したいからさ、あとでまたあの服着てくれる?」
「別に・・・いいですよ。」
「それからさっきの続きもね。」
クスッと笑いながら、滝は鳳の耳元で囁いた。またもや鳳の顔はゆでだこ状態だ。しかし、
これだけ滝に振り回されながらも、鳳は意外とこういうのも楽しいなあなどと思っている
のであった。

                                END.

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