聖夜の贈り物 〜その3〜

クリスマス・イブの夜。岳人と忍足は一ヶ月ほど前から計画していたクリスマス温泉旅行
に来ていた。高校生になってから、二人ともアルバイトを始めたので、自分達で使えるお
金に少し余裕が出来たのだ。今回は少し奮発して、部屋に露天風呂がついている温泉旅館
に泊まることにした。二人だけで露天風呂を心おきなく楽しめると言うことで、豪華な夕
食を食べた後、二人は部屋についている露天風呂にゆっくりつかっている。
「やっぱ、温泉はいいよな。超気持ちいいし。」
「せやな。ここから見える雪景色とクリスマスツリーもメッチャ綺麗だし。旅館、ここに
して正解やったな。」
「おう。はあー、マジで極楽〜。外にあるから風がちょっと冷たいけど、温泉のおかげで
それがちょうどいい感じだしな。」
「ああ。ちょっと熱いくらいのお湯がこの季節にはちょうどええな。」
露天風呂ということで、外気はひどく冷たかったが、普通のお湯の温度が普通のお風呂よ
りいくらか高いので、二人は全く寒さを感じなかった。しばらくはそこから見える景色を
楽しんでいた二人だったが、そのうち岳人は景色を見ているだけでは飽きてきてしまう。
「侑士♪」
裸のまま岳人は忍足に抱きつく。いきなり抱きつかれ、忍足は一瞬バシャっとお湯の中に
沈んだ。
「ぶはっ、な、何やねん岳人!!いきなり抱きつくなや!」
「だって、暇なんだもん。景色も確かに綺麗だけどさ、俺はもっと侑士とイチャイチャし
たいの!」
「だからって、いきなり抱きついてきたら危ないやろ。」
背中に引っついている岳人をはがそうともせず、忍足はそのままの格好で、岳人に注意す
る。はーいと口だけの返事をするが、岳人は全く反省していない。抱きついたまま、岳人
はふぅーっと忍足の耳に息を吹きかけた。
「ひゃっ・・・って、岳人、何しとんねん!!」
「あはは、侑士、可愛いー。」
耳を押さえながら、忍足は真っ赤になって岳人に抗議する。しかし、岳人はケラケラと笑
うだけだ。
「あんまりそないな悪戯ばっかしてると、怒るで。」
「ゴメンゴメン。お詫びにたくさんキスしてやるよ。」
「はあ!?ちょ、何考えてんっ、待・・・」
忍足とイチャイチャしたくてうずうずしている岳人は、忍足を湯船の縁へ寄りかからせる
と、ちゅうっと唇にキスをする。初めは嫌がるような素振りを見せていた忍足だが、その
うちすっかり岳人に流されてしまう。
「は・・・ぅ・・・んん・・・」
唇にキスするだけでなく、岳人は頬や額など忍足の顔のいたるところにキスをしてやった。
それがどうしようもなく心地よく、岳人の唇が再び自分の唇に重なる時にはもう、忍足は
すっかりとろけていた。
「・・・・反則やで、こんなん。」
「侑士、顔真っ赤だぜ。ゆだっちゃった?」
「それ言うんやったら、岳人だって真っ赤やで。」
「だって、侑士、超可愛いんだもん。俺のキスでこんなにメロメロになっちゃって。」
「しょうがないやろ。・・・岳人にキスされんの、好きなんやから。」
恥ずかしそうに目をそらしながらそんなことを言ってくる忍足に、岳人はドキンとしてし
まう。今の忍足の言葉の方が反則だと思いつつ、顔がさらに赤くなっていくのを止められ
なかった。
「ヤバっ、マジでちょっとのぼせそう・・・」
「せやったら、そろそろ出るか?」
「そ、そうだな。まだプレゼント交換とかもしてねぇし。本気でのぼせて、何も出来なく
なるってのマヌケだし。」
「何やそれ?まあ、ええわ。ほんなら、出るか。」
「おう。」
温泉の熱さと忍足の可愛さにのぼせそうになりながら、岳人は湯船から上がった。それを
追うようにして、忍足も温泉から上がる。忍足も岳人に負けず劣らず心臓がドキドキして
おり、それことのぼせる一歩手前状態であった。
「はあー、冷たい風が気持ちいー。」
「ちょっと入りすぎた感があるもんな。」
「さっさと浴衣に着替えて、プレゼント交換しようぜ。今回のプレゼントはなかなかイイ
感じなんだぜ。」
「へぇ、そうなん?楽しみやな。」
「俺も侑士からのプレゼント楽しみにしてるぜ。」
脱衣室に用意しておいた浴衣に着替えつつ、二人はプレゼントの話をする。浴衣に着替え
ても芯まで温まった体は冷えることなく、ぽかぽかと冬とは思えない暖かさを二人に与え
ていた。
「プレゼント交換の前に布団敷いちゃおうぜ。後で敷くのめんどいし。」
「せやな。」
プレゼント交換が終わったら布団の上でゆっくりしようと、広い部屋の真ん中に布団を敷
く。使う使わないは別にして、しっかり二人分の布団を敷いた。
「よーし、準備完了!んじゃ、プレゼント交換始めようぜ!!」
「ああ。」
それぞれ用意したプレゼントを持って、二人は布団の上に座る。先にプレゼントを手渡し
たのは岳人の方だった。
「はい、侑士。メリー・クリスマス。」
「おおきに。開けてみてええか?」
「もちろん!」
長方形の箱にクリスマスらしいラッピングがされたそのプレゼントを、忍足は丁寧に開け
る。中には三種類のブックカバーとカセットレコーダーが入っていた。
「新しいカセットレコーダーやん!これ、ホンマにもらっちゃってええの?」
「当たり前だろ?侑士へのプレゼントとして買ったんだから。ブックカバーは、侑士、い
つも本読んでるし、カバーつけてるから、あったら使うかなあって思ってさ。」
「うわあ、メッチャ嬉しいわ。新しいカセットレコーダー欲しいと思ってたし、ブックカ
バーもワンパターンでもっと種類があったらいいなあて思ってところなんや。ホンマにあ
りがとな、岳人。」
もらったプレゼントを抱え、忍足は本当に嬉しそうな笑顔を見せる。こんなにもいい感じ
の笑顔が見れるとは思っていなかったので、岳人は何だかドキドキしてきてしまう。
「へへへ、喜んでもらえてよかったぜ!!ま、俺、いつも侑士見てるし、侑士の欲しがっ
てるものくらいはちゃんと分かるんだぜ。」
「さすがやな。それでこそ、俺の彼氏やで。」
自分の欲しいものをもらってご機嫌な忍足は、平気でそんなことを言う。そんな何気ない
言葉が嬉しくて、岳人の顔も自然と緩んでくる。あまりの嬉しさにこのまま忍足に抱きつ
いてしまおうかとも思ったが、まだプレゼント交換は終わっていないと、岳人はその欲求
を堪えた。
「今度は俺の番やな。」
「お、おう。」
「俺のプレゼントはこれやで。」
忍足が岳人に渡したのは、緑色のリボンがついた赤い小さな紙袋だった。その大きさから
アクセサリーであることは予測出来たが、どんなアクセサリーかは全く見当がつかない。
それを確かめようと、岳人はその袋を広げ、中身を出す。中には小さな箱が入っていた。
「何だろう?」
「開けてみぃ。きっと気に入ると思うで。」
「うん。」
箱のふたを開けると、中には羽根をモチーフにしたシルバーの指輪が置かれていた。それ
を見て、岳人は瞳をキラキラと輝かせる。
「うっわあ、この指輪超かっけー!!すっげぇ俺好みのデザインだし!!」
「はめてやるから、ちょっと貸してみ。」
箱の上に乗っている指輪を手に取ると、忍足は岳人の右手の薬指にそれをはめてやる。サ
イズもピッタリで、まさに岳人のために作られたのではないかと思われるほど、その指輪
は岳人の指にフィットしていた。
「超ピッタリだし!さっすが、侑士だな!!」
「せやろ。岳人はこういうのが似合うと思ってな。」
「すっげぇ嬉しいぜ!!サンキュー、侑士!」
自分好みの指輪をもらい、岳人はその場で跳ねんばかりに大喜びする。羽根がくるんと丸
まったようなデザインの指輪をじっと見ていて、岳人はふといいことを思いつく。
「なあなあ、侑士。」
「何や?」
「この指輪にさ、ちょっとキスしてくんねぇ?」
「何でや?」
「侑士からの愛が欲しいなあなんて。」
冗談っぽくそんなことを言ってくる岳人に、忍足は赤くなる。なかなか恥ずかしいことを
平気で言ってくるなあと思いつつ、忍足は岳人の右手を手に取った。そして、その指輪に
ちゅっと口づける。
「これでええの?」
「おう!」
忍足が指輪から唇を離すと、岳人はふっと笑いながら忍足を見て、右手を自分の口元へ持
っていった。そして、そのまま、忍足が今しがたキスをした場所にゆっくりキスをする。
「侑士の愛、バッチリ受け取ったぜ!」
そんなことを言いながら、岳人はニッと笑う。今の一連の岳人の行動に、忍足の心臓は壊
れそうなくらい高鳴っていた。
「侑士。」
「な、何?」
「ちょうどよく布団も敷いてあることだしさ、今度は俺が侑士にいーっぱい愛を注いでや
るよ。」
「岳人にしては、なかなかええ誘い文句やん。」
「その返事は、オッケーってことでいいのか?」
「まあ、クリスマスやしな。これもこのクリスマス旅行での醍醐味やろ?」
「言ってくれるじゃん。なら、思う存分やらせてもらうぜ。」
岳人の誘いに、忍足はかなり乗り気な様子で応じる。それならば、もうやりたいことをや
るしかないと、岳人は部屋の電気を消し、枕元に置いてあるランプをつけた。

岳人と忍足が温泉宿でイチャイチャしている頃、鳳は滝の家に招かれていた。クリスマス
前夜というのに、滝の家には滝以外の家族は誰もいず、いつもより静かな雰囲気であった。
「滝さん、今日は他の家族さん達はどうしたんですか?」
「んー、旅行に行ってるよ。俺がプレゼントしたんだ。」
「えっ!?滝さんは行かなくてよかったんですか?」
他の家族が皆旅行に行ってしまっているということを聞き、鳳は少し困惑したような様子
でそう尋ねる。しかし、滝はクスっと笑って、鳳の髪をくしゃっと撫でた。
「当然でしょ?みんなに旅行をプレゼントしたのはイブの夜に長太郎と二人っきりで過ご
すためだよ。」
「そ、そうなんですか・・・?」
「うん。だから、今日はこの家には俺と長太郎の二人だけ。好きなだけ好きなこと出来る
よ。」
意味ありげに笑い、滝はそんなことを言う。まさか自分と二人きりで過ごすためにそんな
ことをしているとは思わなかったので、鳳は少し赤くなりながら滝の顔を見た。本当に楽
しげに笑っている滝の顔を見て、鳳も何だか楽しくなってくる。
「何か滝さんがそういうふうにしてくれたことが、すごく嬉しいです!」
「俺もクリスマス・イブを長太郎と二人きりで過ごせてとっても嬉しいよ。」
二人きりで過ごせるということが、この上なく嬉しいと二人はお互いにその気持ちを口に
する。ゆっくりこの後の時間を過ごしたいと、二人は早めにシャワーを浴びてしまい、夕
食を食べる。夕食を食べ終わると、簡単に片付けをし、滝の部屋に戻った。部屋に戻ると
鳳は家から持ってきたケーキを出す。
「滝さん、デザートとしてケーキ食べません?姉さんがお土産に持って行きなさいって焼
いてくれたんですよ。」
「へぇ、さすが長太郎のお姉さんだね。どんなケーキ?」
「シュトーレンです。ドイツのクリスマスに食べるケーキらしいですよ。」
「そうなんだ。ブッシュ・ド・ノエルとかは有名だけど、シュトーレンは食べたことない
なあ。」
「家でちょっと味見してみたんですけど、結構美味しかったですよ。」
そんなことを言いながら、鳳は滝の部屋にある小さなテーブルに持ってきたケーキを出す。
すぐに食べれるように箱に入ったケーキは切られており、必要なのは皿とフォークだけだ
った。
「お皿とフォーク持ってくるからちょっと待ってて。」
「あ、はい。すいません。」
手づかみで食べるのはさすがに行儀が悪いと滝は皿とフォークを取りに行く。ついでに飲
み物もあった方がよいだろうと、滝はお茶も一緒に持ってきた。
「お待たせ。」
「ありがとうございます。」
持ってきた皿にケーキを乗せると、滝はお茶と一緒に鳳の前に置く。そして、自分の分も
皿に取ると、手を合わせていただきますをした。
「いただきます。」
一口それを口に含むと、ドライフルーツの爽やかな香りと粉砂糖の甘さが口いっぱいに広
がる。その二つの味が何とも言えないハーモニーを醸し、滝の舌を楽しませた。
「これ、すごく美味しい!」
「そうですか?よかったです、喜んでもらえて。まあ、作ったのは俺じゃないですけどね。」
「お姉さんにお礼言っておいて。こんなに美味しいケーキありがとうございますって。」
「それ聞いたら、姉さんすごく喜ぶと思いますよ。俺もちゃんと食べてみなくちゃ。」
家では味見程度だったので、鳳は目の前にあるケーキを一口サイズに切り、口へと運ぶ。
滝の言う通り、しっかり食べてみると中に入っているものの風味や味がよい感じにマッチ
していて、素直に美味しいと感じられた。
「確かに美味しいですね。ちゃんと食べるとまた違う感じがします。」
「なかなかいい感じのデザートだね。」
美味しいケーキをパクパクと食べていると、滝はふとあることに気がつく。
「あっ、長太郎。」
「はい。何ですか?」
「口に粉砂糖、ついてる。」
「えっ・・・?」
鳳の唇についた真っ白な粉砂糖を滝は自分の舌で舐め取る。一瞬何が起こったのか分から
なかった鳳だが、何をされたのかを理解すると、ボッと火がついたように顔が赤くなり、
バッと口を覆う。
「なっ・・・何するんですか!?」
「粉砂糖がついてたから、取ってあげたんだよ。」
「だからって・・・」
こんなことでここまで真っ赤になってしまう鳳が可愛いと、滝はくすくす笑う。
「本当、長太郎は可愛いなあ。」
「からかわないで下さいよ〜。」
「ゴメンゴメン。ほら、いつまでもそんな顔してないで、ケーキ食べちゃおう。」
「滝さんの所為じゃないですか、もう。」
ちょっと拗ねたような態度もまたツボだと、滝は顔が揺るむのを抑えられない。そんなや
りとりをしながら、デザートタイムを楽しむと、滝はふとプレゼントの話題について、鳳
に持ちかける。
「ケーキも食べ終わったし、そろそろプレゼント交換しない?」
「あっ、そうですね。プレゼントのこととかすっかり忘れてました。」
「本当に?せっかくのクリスマスなのに。」
「冗談ですよ。この日のためにいろいろ考えて用意したんですから、忘れるわけないじゃ
ないですか。」
ちょっと不満気な表情になった滝に、鳳は悪戯っ子のように笑いながらそんなことを言う。
とりあえず、用意したプレゼントを手元に持ってこようと二人はそれぞれプレゼントをし
まってあるところからそれを持ってきた。
「じゃあ、まずは俺からでいい?」
「はい。」
「メリー・クリスマス、長太郎。これ、俺からのプレゼント。受け取って。」
「ありがとうございます。」
「開けてみて。喜んでもらえると嬉しいんだけど。」
滝に促され、鳳はもらったプレゼントの包みを開ける。かなり大きなもののようで、ラッ
ピングされた状態では、それが何か全く見当がつかなかった。しかし、開けてみれば、そ
れが何であるかははっきりする。
「うわあ・・・・」
その中身を見て、鳳は感嘆の声を上げる。表面には半分が色鉛筆のタッチで、もう半分が
水彩絵の具のタッチのイラストが描かれていた。それを見て、鳳はその中身が水彩色鉛筆
であるということを理解する。しかも、そのイラストの下には『60色』とはっきりと記
されている。
「長太郎、水彩色鉛筆買い換えたいと思ってたんでしょ?だから、こんなプレゼントにし
てみたんだけど。」
「た、確かにそうですけど・・・水彩色鉛筆って普通の色鉛筆に比べたらすごく高いんで
すよ。それなのに、60色って、そんなにいっぱい・・・」
「色はたくさんあった方がいいじゃない。それともそのプレゼント、あんまり気に入らな
かった?」
あまり鳳が嬉しそうな顔をしていないので、滝はそんなことを尋ねる。しかし、鳳はぶん
ぶんと首を振って、そんなことはないということを表わす。
「い、いえ、全然そんなことないです!!・・・・ただ、こんなに高価なもの、本当にも
らっちゃっていいのかなあと思って・・・」
「当たり前じゃない。それは長太郎のためだけに用意したプレゼントだよ?長太郎が喜ん
でくれるなら、高価だとか高価じゃないとか関係ない。俺は、長太郎の嬉しがってる顔が
見たくて、それを選んだんだから。」
そんな滝の想いを聞いて、鳳は少し気後れしてしまったことを反省した。もらったプレゼ
ントをしっかりと抱きしめ、鳳は満面の笑みで滝にお礼の言葉を述べる。
「ありがとうございます、滝さん。このプレゼント、すごく嬉しいです。絵が描きたくな
ったら、是非これを使わせてもらいますね!」
「うん。」
鳳の笑顔を見て、滝も嬉しそうな笑顔になる。心を込めて選んだプレゼントを喜んでもら
えるというのは嬉しいことだ。喜んでもらえたという満足感を感じながら、滝はしばらく
鳳の顔を眺めていた。
「あっ、次は俺の番ですね。俺からのプレゼントはこれです。」
滝にじっと見られていることに気づいた鳳は、自分もプレゼントを渡さなければと、用意
していた花束を渡す。薄いピンク色と赤い花で作られた花束は芳しい香りを漂わせていた。
「わあ、綺麗。これ、ゼラニウムだよね?」
「はい。」
「これだけ匂いが強いってことは、センテッド・ゼラニウムだね。花言葉は確か・・・」
「『貴方あっての幸せ』です。」
滝が花言葉を思い出す前に、鳳がその花言葉を口にする。鳳の声でその花言葉が紡がれる
のを聞いて、滝は胸がトクンと高鳴るのを感じる。
「花言葉、知っててこの花選んだの?」
「はい。自分の想いがうまく伝わるような花がいいなあと思って。」
照れたように微笑みながら鳳はそう言う。それを聞いたら、この花束をプレゼントされる
意味は極めて強いものになる。
「それじゃあ、『貴方あっての幸せ』っていうのは、長太郎の気持ちなんだ?」
「はい。俺、滝さんと居るとすごく幸せですから。」
「長太郎・・・」
何て嬉しいことを言ってくれるんだと、滝は鳳の言葉に感動する。もらった花束を抱き、
その香りを大きく吸う。鳳の言葉を聞いた後では、その香りはひどく幸福感をもたらす香
りであると感じられた。
「ありがとう、長太郎。すっごく嬉しい。」
「喜んでもらえてよかったです。俺の素直な気持ちも伝わりましたし。」
「本当嬉しいことばっかり言ってくれるよね。」
鳳の放つ一つ一つの言葉が嬉しいと、滝は今のこの状況が非常に幸せだと感じる。もっと
もっと鳳に近づき、直接的に鳳を感じたいと、滝はおもむろに立ち上がり、部屋の電気を
消した。電気を消しても、クリスマスツリーの電球がピカピカと輝いているので、真っ暗
になってしまうということはない。
「滝さん?」
電気を消した滝はそのまま自分のベッドへと向かう。ベッドに腰掛けると、滝は鳳に向か
って手を差し出し、ニッコリと笑う。
「おいで、長太郎。」
クリスマスツリーの光が何とも言えない雰囲気を醸し出す中で、そんなことを言われれば、
滝が何を求めているかは容易に想像がつく。ドキドキと胸の鼓動が速くなっていくのを抑
えられないまま、鳳は滝のもとへゆっくりと近づいていった。

                to be continued(裏へ)

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