世界一大きな花束を

ひまわりが満開になるような暑い夏の日。毛利はとある人物を探していた。適当に歩いて
いると、その人物が合宿所内のカフェに入っていくのを見つける。その人物を追いかける
ように毛利はカフェに入った。
「この暑いのにホットの紅茶かよ。」
「アーン?別にいいだろ。」
各々好きな飲み物を頼んだ跡部と宍戸はすぐ側の空いていた四人掛けのテーブルに座る。
二人の後を追うように入ってきた毛利は適当な飲み物を頼んで、二人の座っている席に座
った。
「氷帝の坊ちゃん達、ちょっと一緒してもええかな?」
「別に構いませんけど、そんな慌てた様子でどうしたんです?」
かなり慌てた様子で注文を行っていたため、跡部は優雅に紅茶を飲みながらそう尋ねる。
「いやー、坊ちゃんに頼みたいことがあって。」
「俺に頼みごと?何ですか?」
「あんなー、もうすぐ月光さんの誕生日やねん。それでおっきな花束あげたいと思たんや
けど、せっかくならドーンと花火とか贈れたらええなあと思て。ほんで、氷帝の坊ちゃん
ならそういうのも出来るんやないかと思て頼みに来たんや。」
「まあ、跡部なら余裕だよな。」
「近くで花火をとなると、コーチ達の許可が必要かもしれないが、出来るか出来ないで言
えば出来ますね。」
「ホンマ!?ほんなら、こんなふうな花火を・・・」
花火を上げることが可能だということを聞いて、毛利はどんな花火を上げて欲しいかを跡
部に説明する。毛利の計画を聞いて、それはなかなか楽しそうだと跡部はかなり乗り気に
なる。
「表向きは俺が企画した納涼花火大会ってことで、見る場所も準備して基本的にはそこで
見てもらう。屋上はそのときは立ち入り禁止にして、先輩達だけ屋上で見るってのはどう
ですか?」
「それはええね。俺も月光さんも身長が高いから、花火とか見るときはどうしても気を使
ってまうから。」
苦笑しながら毛利はそんなことを言う。越知の身長を思い出し、確かにそうだよなあと跡
部と宍戸は納得してしまう。ふと壁にかかっていたカレンダーを見て、宍戸は思ったより
も時間がないのではないのかと心配になる。
「結構日数ないみてぇだけど、本当に出来るのかよ?」
「俺様を誰だと思ってやがる。前日に言われたって可能だぜ?」
「さっすが、氷帝の坊ちゃんや!あっ、でも、お礼というかそれを開催させられるだけの
資金とかはないんやけど・・・」
花火を上げたいという気持ちだけで跡部に頼んでみたが、ふとそういう面が心配になって
しまう。しかし、跡部は全くそんなことは気にしていなかった。
「そこは気にしなくてもいいですよ。先輩達には世話になってるんで。先程も言った通り、
表向きは俺が企画したってことにするんで。先輩はちゃんと青メッシュ先輩を祝ってあげ
ることに集中してください。」
「ホンマおおきに!!一応、月光さんには内緒やから、そこのところはよろしくな。」
「分かってますよ。宍戸も他の奴らに喋るんじゃねぇぞ。」
「分かってるって。それにしても、打上花火を誕生日にプレゼントするとか発想が跡部み
たいですごいですね。」
「あはは、まさか実現出来るとは思ってへんかったけどな。」
照れたように笑いながら、毛利は宍戸の言葉にそう答える。紅茶を口にしながら、毛利を
見ていると、跡部は毛利が花火以外にも越知に何かをプレゼントしようとしていることに
気づく。
「先輩、花をあげたいなら、名古屋星徳の一年がフラワーアレンジメントが得意なんで、
聞いてみるといいですよ。」
「へっ!?俺、そないなこと言ったっけ?」
「それくらいインサイトでスケスケですよ。」
「ホンマ坊ちゃんには敵わんなあ。おおきに。ちょっとそっちの方はあの留学生の子に相
談してみるわ。」
自分の買った飲み物を飲み干すと、毛利はガタンと席を立つ。跡部のアドバイス通り、蔵
兎座に相談しに行こうとカフェを出て行った。
「跡部、本当こういうの好きだよな。派手な企画っつーかなんつーかよ。」
「アーン?楽しんでもらえるならそれに越したことはねぇだろ。」
「まあ、元氷帝の部長の誕生日だし、俺もやれることがあれば協力するぜ。」
「そうだな。この話を知ってるのは俺とお前だけだ。協力してもらうぜ。」
「おう!」
せっかくなので、自分達も越知の誕生日を祝ってやりたいと、跡部と宍戸は残っている飲
み物を口にしながら、これから数日間どういう準備をするか話し合った。

カフェを出た毛利は合宿所の花壇にやってきた。中学生の何人かがこの花壇の花を世話を
していて、蔵兎座もそのメンバーの一人だったはずだと考えてのことだ。夕方も近いこの
時間、今日の夕方の水やり当番は蔵兎座だったようで、蔵兎座が一人で花壇に水やりをし
ていた。
「あっ、先輩、コンニチハ。」
「こんにちは。今日は一人で水やりなん?」
「そうデス。今日は他の先輩は用があるみたいで。」
「ふーん。それなら、ちょうどええわ。一緒に水やりしたるから、ちょっと相談に乗って
欲しいことがあるんやけど。」
「先輩がボクにですか?」
「自分、フラワーアレンジメントが得意やって聞いたんやけど合っとる?」
「はい!フラワーアレンジメント好きデス。」
嬉しそうにそう答える蔵兎座に、毛利はほんわかとした気分になる。それならばと、相談
したいことの本題に入る。
「もうすぐ月光さんの誕生日で、花束をあげたいんやけど、どんな花の花束がええかなあ
と思て。」
「こんな花を使いたいとかありマスか?」
「夏真っただ中だし、ひまわりはあった方がええかな。後は、月光さんが青が好きやから
青い花あると嬉しいかも。他はちょっと思い浮かばへんなあ。」
「ツキさんとは、どの先輩ですか?」
「ああ、俺とダブルス組んでる髪に青メッシュの入ってる背の高い先輩や。」
「Oh、あのカッコイイ先輩デスね!月、青・・・あっ、ムーンダストという花はどうデ
スか?」
越知の名前と青い花というイメージから蔵兎座は『ムーンダスト』という花の名前を出す。
しかし、毛利にはそれがどんな花か分からなかった。
「ムーンダストって、どんな花なん?青い花なんかなってのは分かるんやけど。」
「青いカーネーションの名前デス。花言葉は確か『永遠の幸福』だったと思います。プレ
ゼントにはちょうどよいと思いますが。」
「へぇ、名前も月光さん感あって、花言葉も素敵やね。それもろたで。出来れば、あと一
種類くらいあるとええんやけど・・・」
花壇に水をあげながら、毛利はうーんと考える。蔵兎座もしばらく考え、スマホを出し、
ポチポチと何かを調べ出した。
「毛利先輩、誕生日の先輩は何日デスか?」
「へっ?月光さんの誕生日が何日かってこと?」
「はい。」
「8月15日やで。」
「8月15日・・・ありました!誕生日花というのがあるんですけど、8月15日は『モ
ントブレチア』という花らしいデス。その花を入れるのはどうでしょう?オレンジ色のカ
ワイイ花ですよ。」
スマホに映し出された画像を蔵兎座は毛利に見せる。そこには、小ぶりの可愛らしいオレ
ンジ色の花がいくつも花開いていた。
「わあ、かわええ花やね。俺、オレンジ色好きやし、ひまわりと青いカーネーションとそ
れで花束作れたらよさそうやね!」
「花束もいいかもしれないですけど、カゴやボックスにフラワーアレンジメントとして作
るのはどうでしょうか。そのまま飾れますし。よければ僕に作らせてクダサイ。」
どんな花を使えばいいか聞きたかっただけであるが、思ってもみない蔵兎座の申し出に毛
利は目を輝かせる。
「ええの?」
「はい!頑張って作ります!」
「ほんなら、お願いしようかな。花は俺が買うてくるから、それで頼まれてくれる?」
「分かりました!頑張りマス!」
自分の特技が役に立つという状況に、蔵兎座は嬉しそうに返事をする。中学生に協力して
もらいながら、越知によいプレゼントが渡せそうだと、毛利はニコニコしながら、水に濡
れ、夕日に照らされている花々を眺めた。

そして、迎えた8月15日。跡部主催の納涼花火大会があるということで、合宿所にいる
メンバーは皆、指定された見学会場へと向かう。越知ももちろんそのつもりだったのだが、
こういうイベントごとには人一倍テンションが上がり、はしゃいでいそうな毛利がなかな
か部屋から出ようとしない。
「毛利、体調でも悪いのか?」
「いえ、全然元気ですよ!」
「それなら、何故出かけようとしない?今日は合宿所内で花火大会があると聞いているが。
お前はそういった催しは好きだろう?」
「はい、今日という日を一番楽しみにしとったのは、たぶん俺ですわ。せやから、もう少
し待ってから移動します。」
毛利の意図していることが分からず、越知は少々困ったような反応をする。しかし、何か
考えがあってのことだろうと、越知は毛利が動き出すのを待った。
「そろそろええかな。待たせてしまってすんません。花火、見に行きましょ。」
「ああ。」
やっと毛利が動き出したので、越知は毛利と共に部屋を出る。同じ階に部屋がある他の高
校生メンバーは既に移動しているようで、廊下は静まりかえっていた。花火を見る会場は
外に出て、少し歩いたところという話を聞いていたが、毛利が向かったのは全く違う方向
であった。
「毛利、どこへ行く?花火が行われる会場はそちらではないぞ。」
「屋上ですよ。」
「屋上は今日は立ち入り禁止だと聞いたが・・・」
「俺と月光さんはええんです。これを企画した坊ちゃんがそう言うてくれてるんで。」
「そうなのか?」
「はい。」
なかなか納得いかないところがあるが、越知は特に注意もせず屋上へと向かった。屋上へ
と繋がるドアには『立入禁止』の貼り紙が貼ってあり、当然のことながら、開けてみても
誰もいない。
「もうそろそろ始まりますね。」
「そのようだな。」
屋上から見える合宿所の寮からは少し離れた場所では、他のメンバーが集まり、まるで夏
祭りのような雰囲気になっている。これならば、屋上に自分達がいることなど誰も気にし
ないであろうと、毛利はホッとしたような表情になる。
「月光さん。」
「何だ?毛利。」
「これから始まる打上花火は月光さんへの誕生日プレゼントなんです。月光さんの誕生日
に大きな花があげたくて、俺が月光さんの後輩の坊ちゃんに頼みました。」
「大きな花・・・それが打上花火ということか?」
「はい!ここなら、他の子らが俺らが前にいるから見えなくなるとか気にせんでもええで
すし、打上花火の内容も月光さんが喜んでくれるもんだと思います。」
「毛利・・・」
信じられないことだが、毛利が嘘を言っているとは思えない。どのような言葉を返せばよ
いか迷い、言葉を紡げないでいると、花火が上がる音が越知の耳に響く。
「おっ、始まったみたいですよ。」
ドーンと大きな花が空に咲くのを見て、越知はその美しさに目を奪われる。これが自分へ
の誕生日プレゼントなど信じられないが、それが事実だとすれば、何て贅沢なプレゼント
だろうと感動する。
「さすがに数はそんなに上げられんらしいですけど、ところどころで変わった形とかでっ
かい花火は打ち上げられるってことらしいんで、ちゃんと見ててください。」
「ああ。」
色とりどりの花火が次々と打ち上がったかと思えば、テニスボールの形であったり、猫の
形であったり、ハートの形であったりと様々な形の花火が夜空に浮かぶ。そんな花火に越
知は釘付けであった。花火大会のも中盤に差し掛かったあたりで、毛利はこっそりと越知
の後ろに移動する。そして、あらかじめ準備してあったもう一つのプレゼントを手にする
と後ろから越知に声をかける。
「月光さん。」
毛利に名前を呼ばれ、越知はそちらの方を振り返る。後ろ手に何かを持ちながら、毛利は
楽しそうな笑顔を浮かべていた。
「この後、三尺玉のメッチャでっかい花火が上がるんです。せやけど、月光さんは俺の方
を見といてください。」
「どうしてだ?」
「すぐに分かります。」
越知の後ろでひゅぅーっと空高く花火が上がっていく音が響く。それと同時に毛利の後ろ
でもいくつかの花火が上がるのが見えた。次の瞬間、体の奥を震わせるようなドーンと大
きな花が咲く音が響き渡る。その大きな花は見えないが、越知の目の前には予想だにして
いなかった光景が広がっていた。
「誕生日おめでとうございます!!月光さん!!」
満面の笑みでたくさんの花が生けられた大きなハートのボックスを差し出している毛利の
後ろに『Happy Birthday 月光さん!』という文字がハッキリと浮かんで
いる。それは花火で作られた越知の誕生日を祝うメッセージであった。三尺玉という大き
な花火と同時に打ちあがったために、そのメッセージに気づいているのは、越知とそれを
準備したメンバーだけだ。あまりに衝撃的な光景に越知は言葉を失っていた。
「ハッピーバースデーの花火、ちゃんと見えました?」
「あ、ああ。」
「今ので分かりました?この花火大会が月光さんの誕生日を祝うためのもんやって。」
「あまりにも驚きすぎて、何を言ったらいいのか・・・」
「月光さんが喜んでくれはったなら、それだけで十分です。あと、これも月光さんへの誕
生日プレゼントです。」
そう言いながら、毛利は手にしていたプレゼントを越知に手渡す。ハート型の箱に、ひま
わりとムーンダストとモントブレチアがバランスよく可愛らしく生けられている。ひまわ
りを中心に、自分の好きな色と毛利の好きな色の花が混じり合うようなそのプレゼントを
見て、越知の胸はひどくときめき、鼓動が速くなる。
「とても綺麗だな。綺麗というより、可愛らしいと言った方が合っているかもしれないが。」
「俺もこの感じメッチャ気に入っとるんです!夏らしいひまわりと月光さんの好きな青色
の花と俺の好きなオレンジの花がイイ感じになっとって。」
「ああ。そうだな。」
「ちなみにこれに使うてる花の花言葉なんですけど、ひまわりが『憧れ』『あなただけを
見つめる』、この青いカーネーションはムーンダスト言うらしいんですけど、これが『永
遠の幸福』、このオレンジのがモントブレチアっちゅー月光さんの誕生日の誕生花で『素
敵な思い出』って意味らしいですわ。どれもええ花言葉やと思いません?」
せっかくなので、花言葉もちゃんと知っておこうと毛利はプレゼントに使われている花の
花言葉を覚えてきていた。
「このプレゼントには、その花言葉の意味が込められているのか?」
「はい!もちろんです!月光さんは俺の憧れで、ずっとそばで見ていたいと思うとります
し、月光さんにはいつでも幸せでいて欲しいです。それから、月光さんと一緒にたくさん
素敵な思い出が作れていったらええなあと思ってまっせ。」
何の躊躇いもなく照れもなく、そんなことを言ってくる毛利の言葉に越知の胸がいっぱい
になる。毛利からもらったプレゼントを片手で抱え、もう片方の手で毛利の頭を優しく撫
でる。そして、自然と溢れてくる微笑みを浮かべながら、心からの感謝の言葉を口にした。
「ありがとう、毛利。花火もこの花も最高の誕生日プレゼントだ。」
越知の嬉しそうな顔を見て、毛利もどうしようもなく嬉しくなる。
「さっきの三尺玉、最後の方にもう一発上がるらしいんです。今度は月光さんも見てくだ
さいね。」
先程はバースデーメッセージを見せるために、見られなかった大きな大きな花火を今度は
越知にも見て欲しいと毛利はそんなことを言う。花火大会はクライマックスを迎え、いく
つもの色とりどりの花が大きく夜空に咲いていた。そして、毛利の言っていた特別大きな
花が蕾を携え、空高く昇っていく。
ヒュ―――・・・・
越知の前に立ち、毛利はくるっと振り返る。大きな花が開く直前に、毛利は大きな声で越
知に想いを伝える。
「月光さん、大好きでっせ!」
言い終わった瞬間、毛利の真上で黄金色の花が咲く。金色の雨が降り注いでいるかのよう
に夜空に咲き誇る大きな花。毛利の笑顔と世界で一番大きな花束。夢のような光景に越知
は目を細める。パラパラと金色の光が消えると、越知はゆっくりと毛利に近づき、ぎゅっ
とその体を抱き締めた。
「ありがとう、毛利。俺もお前のことが大好きだ。」
「月光さん・・・」
毛利が顔を上げ、越知の顔を見上げると、越知はそのまま自身の唇を毛利の唇に落とす。
唇が触れ合った瞬間に、花火大会のラストを飾る何発もの大きな花火が打ち上がった。両
手には到底収まらない大きな花束を誕生日プレゼントとして受け取り、越知は毛利とのこ
のかけがえのない時間を心の中に刻み込むのだった。

そんな二人からは見えない場所で、跡部と宍戸はこっそり越知と毛利の様子をずっと窺っ
ていた。窺っているだけでなく、花火と一緒に写るように何枚も写真を撮っていた。
「何となく分かってはいたけど、ここまでハッキリ見せつけられるとちょっと照れるな。」
花火を見ながら、かなりいい雰囲気になっている越知と毛利を見て、宍戸は顔を赤らめな
がらそう呟く。こんなことは予測済みなので、跡部は余裕の表情で撮った写真を確認する。
「計画としては大成功なんじゃねぇの?」
「まあな。いい写真もたくさん撮れたし。」
「いい写真選んで、印刷して、アルバム作ってやろうぜ。俺らからのプレゼントってこと
で。」
「おっ、それはいいかもな。」
スマホではなく、跡部が用意したカメラで撮ったので、二人から見てもかなりよい雰囲気
の写真が何枚も撮れていた。それをアルバムにしてプレゼントしたら、きっと越知も喜ん
でくれるだろうと跡部はそんなことを提案する。もちろん宍戸のその提案には大賛成であ
った。
「さてと、花火も終わったことだし、先輩達に気づかれる前に戻るか。」
「そうだな。」
越知や毛利に気づかれないように、跡部と宍戸はこっそり屋上を後にする。花火の余韻に
浸り、二人の世界に入っている越知と毛利は、跡部と宍戸が近くにいたことなど、全く気
づいていなかった。

誕生日当日に二人の邪魔をしてはいけないという思いと、アルバムの準備をする時間が必
要だったということから、跡部と宍戸は次の日に越知の部屋を訪ねる。部屋のドアをノッ
クすると、越知がドアを開けた。
「どうした?わざわざ部屋を訪ねてくるとは、何か用があるのか?」
同じ学校の後輩であるが、中学生が部屋を訪ねてくることはそう滅多にないことなので、
越知は意外そうな顔で二人を出迎える。
「一日遅れですが、これ俺達からの誕生日プレゼントです。これを渡しに来ました。」
綺麗にラッピングしたアルバムを跡部は手渡す。ラッピングされているために、それが何
か越知には予想がつかなかった。
「そんなに気を使わなくてもいい。しかし、準備してくれているというのなら、有り難く
もらっておこう。」
「たぶん、気に入ってもらえると思います。『素敵な思い出』なんで。」
昨日毛利が口にしていた花言葉を宍戸は口にする。『素敵な思い出』とはどういうことか
と、越知は不思議に思いながらも、二人にお礼を言う。
「ありがとう。後でゆっくり開けさせてもらう。」
「それじゃ、俺達はこれで。」
「一日遅れちゃいましたけど、誕生日おめでとうございます。」
軽く頭を下げると、跡部と宍戸は越知と毛利の部屋を後にする。二人からもらったプレゼ
ントを手にし、越知は部屋のドアを閉めて、中へ入る。
「今の後輩の坊ちゃん達ですか?」
「ああ。誕生日プレゼントだと言って、これをもらった。」
部屋の中にいた毛利は、越知が戻ってくるとそんなことを尋ねる。あの花火大会を開催し
てくれただけでも十分なのになあと思いながら、毛利は越知が手にしているプレゼントに
目をやる。
「何が入っとるんですかね?開けてみません?」
「そのつもりだ。」
越知自身もそのプレゼントが何なのか非常に気になっているので、ゆっくりと丁寧に包装
紙を開ける。
「アルバム・・・ですか?」
「そのようだな。」
どうしてアルバムなのかよく分からないが、越知はその表紙をめくり、中身を見る。中に
入っている写真を見て、越知の心臓はドキンと跳ねた。毛利もその写真に目を落とすと、
驚いたような表情を見せる。
「これ、昨日の・・・」
「いつの間にこんな写真を撮っていたのだろう。」
「うわー、ハッピーバースデーの花火、こないになっていたんですね。」
「そのときの三尺玉の花火はこんなにも大きいものだったのだな。」
一枚一枚アルバムをめくっていくと、昨日の夜の出来事が全て写真に収まっていた。どの
写真も美しい花火と笑顔を浮かべている自分達が写っており、昨日の幸せな時間がまざま
ざと思い出される。
「ちょっと恥ずかしいですけど、メッチャええプレゼントですね!」
「そうだな。」
「ホンマ『素敵な思い出』って感じですわ。」
毛利のその言葉を聞いて、宍戸が言っていた言葉の意味を理解する。確かにこれは『素敵
な思い出』で間違いないと、越知は納得した。
「あの二人には、再度礼を言っておかないとだな。」
「はい。本当月光さんの後輩はええ子ですね!」
「お前と一つしか変わらないがな。」
「あはは、確かにそうですね!」
そんなやりとりをしながら、越知はもう一度そのアルバムを眺める。一年に一度の誕生日
をこんなにも幸せな気持ちで過ごせたことが嬉しくて、越知の顔には自然と笑みがこぼれ
る。
「お前からもらったこの花も、お前と共に見た打上花火も、それを残したこの写真も、全
てが宝物だ。こんなにもたくさんのもので、俺の誕生日を祝ってくれてありがとう。」
「俺も月光さんの誕生日、たくさん祝えてよかったです!また祝わせてもろてもええです
か?」
「ああ、もちろんだ。」
越知の言葉に毛利の顔にも花が咲いたような笑顔が浮かぶ。ハートの上に咲く毛利の想い
を込めた花々は、二人の心を幸せな気持ちで満たし、お互いを想う気持ちを何倍にも大き
くして、夜空に咲く大輪の花火のように大きく花開くのであった。

                                END.

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