心満意足

今日は1月25日。銀の16歳の誕生日だ。平日ではあるが、銀は駅で待ち合わせをして
いた。
「師範。」
そんな銀のもとへやってきたのは、暖かそうな私服に身を包んだ財前であった。
「おはようさん。」
「待ちましたか?」
「大丈夫やで。」
銀も財前も今日は学校を休み出かける予定を立てていた。銀の誕生日にデートがしたいと
財前が提案したのだ。
「平日なんで、師範がオッケーしてくれるなんて思わなかったっスわ。師範、真面目です
し。」
「それ言うなら、財前はんもやろ?」
「今日はお笑いの授業ばっかなんで、休めてむしろ好都合っスわ。」
「なるほどな。まあ、たまにはこういうんもええかと思ってな。ワシも誕生日には財前は
んと過ごしたいと思っとったし。」
財前の言葉にくすっと笑いつつ、銀はそんなことを言う。そんな銀の言葉を聞いて、財前
の顔は軽く赤く染まる。
「と、とりあえず、早よ電車に乗りましょ。」
「せやな。」
ドキドキしているのを誤魔化すように財前は早く出かけようと銀を促す。こういう態度の
財前も可愛らしいなあと思いながら、銀は顔を緩ませ、少し前を歩く財前の後を追った。

平日の通勤・通学の時間を過ぎた時間帯であるため、電車は空いていた。そんなガラガラ
の電車の座席に、隣合わせになるように二人は座る。
「そういえば、昨日財前はん以外のメンバーが誕生日プレゼント渡しに来たで。」
「昨日?誕生日は今日なのにっスか?」
「白石はんがな、誕生日当日の今日は財前はんとお祝いするやろと思って、邪魔したらア
カンから他のメンバー誘って来たと言うとった。」
「さすがっスね、白石さん。」
「まあ、今日ワシが財前はんとデートするってことは、金太郎はんから聞いたらしいけど
な。」
そういえば、金太郎には部活のときにそんな話をしたかもしれないと財前は思い出す。そ
れを聞いて気を遣ってくれるところは、さすが元部長だなと財前は感心する。
「ほんなら、今日は存分に師範の誕生日祝えますね。」
「はは、せやな。」
「あっ、でも、ホンマは誕生日当日にみんなに祝って欲しかったとかないっスか?」
「みんなには昨日祝ってもらえたから大丈夫やで。それに、誕生日は好きな人と過ごした
いやろ?」
自分の誕生日に銀に言ったようなことを銀が言っているのを聞いて、財前の胸はときめき、
顔が熱くなる。
「師範。」
「ん?どないしたん?」
「今日も、師範の部屋に泊まってもええですか?」
今日もギリギリまで銀と一緒にいたいと、財前はそんなことを尋ねる。銀としては、財前
が泊まることは全く問題ないのだが、明日も平日なのが気になっていた。
「せやけど、明日も学校あるやろ?大丈夫なんか?」
「もう一日くらい平気っスよ。ていうか、千歳先輩とかしょっちゅう授業サボっとったや
ないですか。」
「はは、確かにな。財前はんが大丈夫なら、全然かまへんで。」
「ありがとうございます。」
(ホンマ可愛らしい顔で笑うなあ。)
財前の可愛らしい笑顔を見て、銀の顔も緩む。
「そんなにじっと見んといてもらえます?」
あまりに銀が嬉しそうに自分を眺めてくるので、財前は恥ずかしそうにそんなことを言う。
「いや、今日の財前はんの格好がオシャレで、その暖かそうな帽子も、赤いマフラーも、
ふわふわのついたコートもえらい可愛らしいなあと思ってな。」
「なっ・・・!?」
嬉しそうな顔も可愛らしいが今日の格好は一段と可愛らしいと、銀は素直にそんなことを
口にする。電車の中で今日の格好を褒められ、財前は顔を真っ赤にする。
「ちょっ・・・こないなとこで何言うとるんスか!?」
「見たままの感想を言っただけやで。」
「師範のせいで、絶対他の人には見せられん顔になっとる・・・」
「はは、確かに少し赤くなってさっきよりも可愛らしいで。」
「〜〜〜〜っ。」
何度も可愛いを繰り返す銀に、財前は何も言えなくなってしまう。そうこうしているうち
に乗り換え予定の駅に到着する。
「降りる駅やで。財前はん。」
「師範と一緒やと、ホンマ電車に乗ってる時間あっという間っスわ。」
「せやな。ほな、行こか。」
「はい。」
電車から降りると、二人は目的地へ向かう電車に乗り換える。乗り換えてからはそこまで
時間はかからないので、今度はドアの側に立ったまま、目的地に着くのを待った。

目的地の駅に着くと、二人は改札を出て、今日訪れる予定の場所に向かって歩き出す。
「公園の入口自体はわりとすぐみたいですけど、目的の滝までは結構歩くみたいっスね。」
「ほんなら、ゆっくり散策しながら歩いて行こか。」
「はい。」
今日の二人のデートの内容は、日本の滝100選にも選ばれているような大きな滝を見に
行き、近くの茶屋で足湯に入り、ご飯を食べるというようなものであった。ゆっくりと公
園内の道を歩いて行くと、途中でお寺を見つける。
「ほう。こないなところにお寺さんもあるんやな。」
「寄って行きます?」
「ちょっと寄ってみたい気ぃはするけど、今日の目的は滝やしなあ。」
「別にええんやないですか?時間はぎょーさんあるし、今日は師範の誕生日なんで、師範
のしたいこと全部すればええですよ。」
「そうか。ほんなら、ちょっとお寺さんに寄ってみよか。」
「はい。」
良さげな雰囲気のお寺を見つけ、銀はわくわくとして様子でそこに寄ろうと財前を誘う。
銀が喜んでくれるならと、財前もご機嫌な様子でついて行く。お寺の敷地内にはいくつか
の御堂があり、銀と財前はそれを順番に回っていく。どの御堂も良い雰囲気を醸し出して
いるので、財前はそれを眺める銀と共に写真に収めていった。
「いやー、ええお寺さんやったな。」
「あの赤い橋とかよかったっスよね。」
「せやな。この前降った雪がちょっと残っとって綺麗やったしな。」
「写真もぎょーさん撮ったんで、後で一緒に見ましょ。」
「それはええな。楽しみや。」
「ちょっと休憩して、また滝目指して歩きますか。」
「うむ。付き合うてくれて、おおきにな。」
「いえ、師範が喜んでくれるんやったら、何でもいくらでも付き合いますよ。」
銀が満足そうな笑顔を浮かべているので、財前も嬉しくなる。近くの休憩所で少し休んだ
後、二人はまた歩き出した。滝まではまだ結構な距離があるのだが、自然の多い公園の道
を二人で喋りながら歩くのが楽しく、もともとテニスで鍛えていることもあり、どちらも
苦もなくその道のりを進む。
「そろそろ見えてくるんとちゃいますか?」
「せやな。音は聞こえるようやけど・・・」
30分程歩いた先で、水の落ちる音が耳に入る。ひんやりとした風が頬に触れ、雪の残る
景色が目の前に広がる。
『わあ・・・』
雪の花が咲く木々の向こうに見える大きな滝。予想していたよりも美しい景色に二人は目
を奪われる。
「メッチャ綺麗や。」
「想像以上やな。」
「とりあえず、写真撮らな。」
この綺麗な景色を残しておきたいと、財前はスマホで何枚も写真を撮る。銀もこの景色を
目に焼きつけておきたいと、目を輝かせてしばらくその滝を眺めていた。
「まだ雪も残っててメッチャ寒いっスけど、ホンマ来てよかったっスわ。」
「ワシもそう思うで。」
「こないに綺麗な景色、師範の誕生日に師範と二人で見れたのがメッチャ嬉しいです。」
目を細めて嬉しそうに口元を緩ませながら、そんなことを言う財前に、銀はドキンとして
しまう。財前と二人でこの景色を見たという証を残したい。銀はふとそんなことを考える。
「財前はん。」
「何ですか?」
「一つ頼みたいことがあるんやけど、ええやろか?」
「もちろんええですよ。」
「この滝をバックに、ワシと財前はんが写った写真を撮ってもらいたいのやけど・・・」
銀がそんなことを言ってくるとは思っていなかったので、少々驚きながらも財前は頷き、
スマホのカメラをインカメラにする。そして、銀の腕を引いて、滝が背景となるような位
置に移動すると、自撮りをするようにスマホを構えた。
「ほんなら、撮りますよ。師範、笑うてください。」
腕を組むようにくっついてきている財前にドキドキしながら、銀は財前のスマホを見なが
ら笑顔を作る。同じように財前も照れたような笑みを浮かべていた。カシャっという音が
響き、財前はスマホを下げ、撮った写真を確認する。
「なかなかええ感じに撮れたんやないっスか?」
「どれどれ・・・うむ、確かにええ写真やな。」
「師範とツーショとか、あんまり撮らないんでちょい恥ずかしいっスけど、ええですね。
あっ、撮った写真は後でまとめて師範にも送りますね。」
「それはありがたいなあ。楽しみにしとるで。」
「綺麗な滝も見れたし、師範と写真も取れたんで、そろそろ茶屋の方に移動しますか。」
「せやな。足湯もあるんやろ?楽しみやな。」
「はい。結構体冷えてるんで、温まりたいっスわ。」
綺麗な景色を見て、写真も撮れて満足した二人は、すぐ側にある茶屋へと移動する。
「平日だからか、わりと空いてますね。」
「せやなあ。あっ、向こうが足湯の席っぽいで。」
「ホンマですね。端っこが空いてるんで、そこにしましょ。」
真ん中よりは端の方が良いと、銀と財前は足湯の端の席で、向かい合わせに座る。靴下を
脱ぎ、ズボンを濡れないところまで捲り上げると、どちらもテーブルの下にある足湯に足
をつけた。
「はあー、メッチャあったかくて気持ちええっスわ。」
「これはかなり温まるな。」
「あっ、ここでも結構滝の音聞こえるんスね。」
「確かにそうやな。滝の音聞きながら足湯につかれるなんて贅沢やな。」
足湯はテラス席に比べると滝から離れてはいるが、建物自体がかなり滝の近い場所にある
ため、滝の落ちる音が二人の耳に届く。足湯の温かさと滝の音。心も身体も癒されながら、
二人はしばらくの間くつろいだ。
「師範、ご飯どうします?ここで食べる予定っスよね。」
「そのつもりやで。軽食もお膳もデザートもあるんやな。迷ってまうな。」
メニューを見ながら、銀は少し困ったように笑う。
「今日は師範の誕生日ですし、ちょっと豪華にしません?」
「確かにその方が誕生日感あるな。ほんなら、ワシはこのそばのセットにしよか。」
「なら、俺はこっちのうどんのセットにしますわ。」
「それも気になっとったんや。ちょっと味見させてもらってもええやろか?」
「ええですよ。それなら、俺も師範のちょっと味見させてもらいます。」
それぞれ単品の料理ではなく、小鉢や季節のご飯がセットになっているものを頼む。注文
したものが来ると、二人はあることに気がつく。
「この席だと、机の幅が狭くて向かい合わせだと、ちょっと食べづらいっスね。」
「せやな。財前はんの隣に移動してもええか?」
「もちろんええです。」
お盆に乗せられたそばのセットを財前が注文したセットの横に移動させると、自分自身も
財前の隣に移動する。
「これならええ感じに食べれるな。味見するんもしやすいし。」
「そうっスね。」
「ほんなら、いただきます。」
「いただきます。」
どちらも手を合わせ、食事前の挨拶をする。それぞれ頼んだものを口に運ぶと、その美味
しさに舌鼓を打つ。
「うむ、美味いな。」
「これもゆずの風味がええ感じです。一口食べます?」
「せやな。ほんなら、一口味見させてもらおか。」
自分の箸で一口もらおうとした銀であったが、その前に財前が一口分のうどんを銀の口元
へ差し出す。
「どうぞ。」
「おおきに。」
差し出されたうどんをパクッと口に含み、銀はお礼を言う。財前に食べさせてもらったこ
とが何だか嬉しくて、自然と口元が緩んでしまう。
「これも確かに美味いな。財前はんに食べさせてもろたから、より美味しく感じるわ。」
「別に俺が食べさせたからって味は変わらんでしょ。」
少し照れたような様子で、財前はそう口にする。お返しに自分の食べているものも一口あ
げようと銀は一口分のそばを財前の口元に持っていった。
「ワシのも一口どうや?」
「えっと・・・ありがとうございます。」
戸惑いつつも財前は銀の差し出してくれたそばを食べる。
「美味いやろ?」
「はい。美味しいです。」
もぐもぐと口を動かしながら、財前は恥ずかしそうに頷く。そんな財前の様子を見て、銀
はニコニコと笑う。
「温かい足湯につかって、財前はんとこないに豪華で美味しいご飯が食べれとる。ホンマ
幸せな誕生日やで。」
「師範が喜んでくれとるなら、俺もええ気分です。」
「おおきにな、財前はん。」
「いえ。ていうか、今日はもっと師範のこと喜ばせる予定なんで。」
「ほう。そりゃ楽しみやな。まあ、無理はせんといてな。」
どちらも良い気分で、昼食を食べ進める。美味しいご飯に心地よい足湯。そして、それを
一番好きな人と共有出来る嬉しさ。まるで極楽のようだと思いながら、二人はこの幸せな
ひとときを満喫した。

誕生日デートを存分に楽しむと、二人は銀の家へと帰る。夕食やケーキを食べ、二人きり
の誕生日パーティーを楽しんだ。まったりとくつろいでいるタイミングで、財前は自分の
鞄から銀へのプレゼントを取り出す。
「師範。」
「ん?どないしたん?」
「師範、誕生日おめでとうございます。あと、いつもありがとうございます。何がってわ
けやないんですけど、誕生日っちゅー節目に感謝伝えとこう思て。」
そんなことを口にしながら、財前は銀に誕生日プレゼントを渡す。誕生日プレゼントと共
に感謝の言葉を伝えられるとは思っていなかったので、銀は嬉しさで胸の中が温かくなる。
「おおきに。ワシも財前はんにはいつも感謝しとるで。」
「これ、誕生日プレゼントです。保存媒体何にしようか迷ったんですけど、一応CDに焼
いてきました。データの方がよければ送るんで言うてください。」
「CDいうことは、音楽か何かなんか?」
「はい。師範、座禅とか瞑想とかするやないですか。そのBGMによさそうな曲、色々調
べて作ってみました。」
「さすが財前はんやな。後で聞いてみてもええか?」
「もちろんです。」
財前が作ったという曲をもらって、銀は嬉しそうに笑う。作曲が得意ということは知って
いたが、座禅や瞑想のためのBGMまで作れるとは思っていなかったので、銀は素直に感
心する。
「これ聞いて、座禅するの楽しみやな。CDはパソコンでも聞けるんやっけ?」
「聞けますよ。試しに流してみます?」
「ほんなら、お願いしようかな。」
銀のパソコンを借り、CDを入れて曲を流す。座禅や瞑想用のBGMのため、リラックス
出来るような落ち着いた雰囲気の曲になっており、その音楽は銀の耳に心地よく響いた。
「ええ感じの曲やな。」
「そこまで長くはない感じなんで、ちょっと長めに座禅したいときとかは、リピートして
聞いてください。」
「リピート?どうやればええんやろ?」
「ここを押せば大丈夫です。」
パソコンの画面を見せ、財前は銀にリピートの方法を教える。しばらくこの曲を流してお
くのもよいと、銀は曲が流れているのを止めることはしなかった。
「今日は財前はん、泊まる予定でええんやな?」
「はい、師範がよければそのつもりっスけど。」
「ほんなら、お風呂入る用意しよか。一人暮らしの風呂やからちょっと狭いけど、一緒に
入ろか。」
「えっ!?」
突然の銀の誘いに財前は驚く。戸惑っているような財前の反応に、銀は言葉を続ける。
「もちろん嫌やったら断ってもかまへんで。」
「あ、えーと・・・一緒に、入りたいです。」
「無理せんでもええんやで。」
「いや、無理なんてしとらんです!」
「はは、ほんなら、一緒に入ろうな。出た後の服は、すぐ着れるように着物でもええか?」
「はい、ええです。」
銀と一緒に入浴することになり、財前はドキドキと胸を高鳴らせる。U―17の合宿所な
どで一緒に入浴することは何度もあったが、二人きりで入浴することはほとんどなかった。
(アカン、メッチャドキドキしてきた。いや、けど、同性なんやし、風呂一緒に入るくら
い当たり前にあるやろ。)
そわそわとしている財前を横目に、財前は浴槽にお湯を溜めたり、タオルや着替えを用意
したりとテキパキと入浴する準備をする。ほどなくして、お湯が溜まったことを知らせる
音が二人の耳に入る。
「お湯溜まったみたいやな。ほんなら、入りに行こか。」
「はい。」
緊張しながらも、財前は銀と一緒にバスルームへ向かった。
「あっ、脱いだ服はそのかごに適当に入れてくれといたらええで。」
「了解っス。」
ドギマギとしながら、財前は服を脱ぎ、脱衣所に置かれているかごに脱いだ服を入れる。
「さすがに脱ぐと寒いな。早よ中に入ろか。」
「そ、そうっスね。」
一足先に風呂場に入る銀を見て、財前はドキドキとしてしまう。着ているものを全て脱ぐ
と財前も風呂場に入る。
「ホンマは洗ってから湯船に入るのがええのかもしれんけど、今日は寒いし、先に少し入
った方がええな。」
湯気の上がる湯船から手桶でお湯を掬うと、銀はかけ湯をし湯船に入る。手桶を財前に渡
すと、財前にも湯船に入るように促す。
「狭くてすまんが、何とか二人で入れるくらいのスペースはあるで。財前はんも入るとえ
え。」
「はい。それじゃ、失礼します。」
財前もかけ湯をして、銀と向かい合わせになるような形で湯船に入る。二人で入れるほど
の大きさはあるが、銀の体が平均よりも大きいこともあり、二人で入っているとどうして
もどこかが触れてしまう。
「財前はんの体、結構冷たいな。しっかり温まるとええで。」
「あっ、冷たい足とかくっつけちゃってすいません。低体温なんでどうしても冷えてまっ
て・・・」
「大丈夫やで。ある程度温まるまで浸かって、それから体とかは洗おうな。」
「はい。」
しばらく湯船に浸かった後、お互いに背中を流すような形で髪や体を洗う。もう一度湯船
に入ろうとしたとき、銀は財前にとある提案をする。
「財前はん。」
「何です?」
「湯船に入るときな、向かい合わせやなくて、こうここに入って欲しいんやが・・・」
先に湯船に入り、足の間にスペースを作り、銀は財前にそこに入って欲しいと頼む。明ら
かに密着度が高くなるその提案に、財前はドギマギしながらも銀の頼みならと頷いた。
「ええですよ。」
再びかけ湯をすると、財前は銀に指定された場所に座るように湯船に入る。かなり密着す
るその状態に鼓動が速くなるのを抑えられないでいると、銀の腕が財前の身体を包む。
「っ!!」
「シャンプーの匂いか、財前はん、メッチャええ匂いやな。」
髪に銀の鼻や唇が触れているのを感じ、財前の心臓は大きく跳ねる。あまりにドキドキし
すぎて何も言えないでいると、銀の大きな手がふわっと内腿に触れる。
「ふあっ・・・!」
この状況でそんな刺激を受け、財前は思わず声を上げてしまう。そんな財前の声を聞いて、
銀は困惑したような声でボソッと呟く。
「アカンな・・・」
「な、何がですか?」
「今、メッチャ財前はんとしたいと思うとる。」
銀からそんなことを言うことはあまりないので、財前は多少戸惑いつつも素直に嬉しいと
思ってしまう。
「すればええやないっスか。」
「せやけど、こないな場所で・・・」
「別に風呂ならええでしょ。大浴場ってわけでもないですし。」
「ホンマにええんやな?」
低い声で耳元でそう囁かれ、財前の身体はビクッと跳ねる。財前もすっかりその気になっ
ているため、銀の顔を見上げ甘い声で誘う。
「ええです。してください。」
財前から許可を得ると、銀は内腿に置いていた手を撫でるように動かし、逆の手で胸の突
起に触れる。
「ふあっ・・・あ・・んっ・・・・」
「財前はん・・・」
普段はいくつものピアスがついている耳に唇をあて、銀は穴の開いている耳を食む。
「んっ・・・師範っ・・・!」
手を動かすたびに、唇を動かすたびに、財前の身体は跳ね、バシャっと水音を響かせる。
財前の下肢にふと目を落とすと、既にその熱は熱く大きくなっていた。そのことに気づく
と銀はそれに触れたいという欲求に駆られる。そこに触れれば、財前が今よりももっと良
い反応を見せてくれることを知っているためだ。
「師範・・・」
「どないしたん?」
「ココも触って欲しいです・・・」
「はは、ワシもちょうど触れたいと思っとったところや。」
お湯の中の熱に触れ、銀はそれを優しく擦り出す。そして、財前が特に感じる部分を少し
強めに擦り、財前の反応を確かめる。
「はっ・・・あっ・・・師範、そこ気持ちええ・・・っ」
「ここらへんか?もうちょっと強い方がええか?」
「ああっ・・・しはっ・・ん・・・ひあっ・・・ああぁっ・・・!!」
銀に与えられる快感に、財前は素直に声を上げ、無意識に腰を揺らす。財前が腰を揺らす
たび、銀の熱も財前の双丘で擦られ、絶え間ない気持ち良さを感じていた。
「ハァ・・・あっ・・・師範・・・んっ・・・」
だんだんと高まっていく絶頂感とお湯の熱さで、財前の肌は桜色に染まり、顔は赤く色づ
く。
(師範の手も体も息も熱くて、メッチャ気持ちええ。頭ふわふわしよる。)
うっとりと銀に身を任せて、財前は高まる気持ち良さを存分に味わう。次第に呼吸は乱れ、
下肢が震えてくる。それと同時に、銀の呼吸も乱れてきていた。
「ふあっ・・・師範・・・あっ・・・俺、もぉ・・・」
「ええで。そのままイっとき。」
「んんっ・・・はっ・・・ああぁ―――っ!!」
銀の腕に中で財前はビクビクと跳ねる。一際大きな刺激が加わったことで、銀もほぼ同時
に達していた。財前の身体をぎゅっと抱き締め、銀も達するほどの快感の余韻に浸る。
「ハァ・・・ハァ・・・すんません。お湯、汚してしもうて。」
「気にせんでもええで。そろそろ上がって、続きはベッドの上でしよか。このままやとの
ぼせてしまいそうやしな。」
「はい・・・」
立ち上がろうとするが、足に力が入らず財前はポスンと銀の方に倒れるように寄りかかる。
「おっと、大丈夫か?財前はん。」
「何や足に力入らんくて・・・すいません。」
「謝らんでもええで。ワシのせいやしな。ベッドまでは運んでやるから安心しぃや。」
「ありがとうございます。」
財前を抱き上げ、一旦脱衣所まで運び、軽くタオルで拭いた後用意していた着物を羽織ら
せる。浴槽のお湯を抜くと、銀も同じように軽く体を拭き、着物を羽織った。この後する
ことを考え、きちんと着付けはせず、ただ羽織っているだけの状態で、銀は再び財前を抱
き上げ、自分のベッドへと運んだ。

財前をベッドに寝かせると、銀は飲み物を取ってくる。
「さっきのでのぼせとるとアカンからな。」
「ありがとうございます。」
一旦、体を起こしスポーツドリンクを飲むと、財前は再び仰向けに倒れる。はだけた着物
を敷くような形で横になっている財前を前に、銀はゴクリと喉を鳴らす。同じように着物
の前が完全に開いている状態の銀を見て、財前もひどく胸を高鳴らせていた。
「師範、ホンマに着物似合いますね。」
「財前はんだって、似合うとるで。着物を羽織って見えとる肌が綺麗で、すぐにでも触れ
たくなっとる。」
ベッドに上がり、銀は財前に覆いかぶさるような形でベッドに手をつく。先程の続きをす
る気満々の銀にドキドキしながらも、それが嬉しくて財前は目を細めて笑う。
「今日は師範の誕生日なんで、俺の全部あげますわ。好きなだけ受け取ってください。」
「そないなこと言われると、余裕なくなってまうで。ただでさえ、こないにドキドキしと
るのに。」
「せやけど、俺のこと欲しいんでしょう?」
「欲しくない言うたら嘘になるな。ほんなら・・・」
「何です?」
「財前はんの気持ち良さそうな顔、ぎょーさん見せてや。ワシの手で気持ち良さそうにし
てる財前はん、メッチャ好きなんやで。」
「っ!!」
自分で煽っておきながら、銀にそんなことを言われ、財前の顔は真っ赤に染まる。そんな
財前を心から可愛らしいと思いながら、銀は財前の唇に自分の唇を重ねた。そして、その
まま利き手を財前の下肢へ移動させ、財前と繋がるための準備をする。
「んっ・・・んんぅっ・・・」
深い口づけをしたまま、閉じた蕾に指を挿れ、ゆっくりとほぐしていく。上の口と下の口
を同時に弄られ、財前はその快感にとろけていく。
「ん・・・ぁ・・・はっ・・・・んんっ・・・んぅ・・・・」
時折、ピクンと肩を震わせ、口づけの合間に甘い吐息を漏らす。そんな財前の反応を楽し
みながら、銀は長い時間をかけて内側をほぐし、甘い甘い口づけを与え続ける。
(そろそろええ感じやな。)
だいぶ柔らかくなったそこから指を抜き、唇を離す。弱すぎず強すぎない快感を与え続け
られた財前の表情はすっかりとろけたものになっていた。
「ハァ・・・しはん・・・」
そんな財前の顔を見て、銀の熱は一気に高まる。
(財前はんのこないな顔、やっぱり好きやな。早よ繋がりたくなってまう。)
「財前はん。」
「師範・・・もう我慢出来ひん。早よ師範のください・・・」
挿れても大丈夫か確認しようとしたところでそんなことを言われ、銀はぞくっとしてしま
う。そんなセリフは反則だと思いながら、財前の足を広げ、抱えるようにして大きくなっ
ている熱をその中心に押し当てる。
「んっ・・・」
「挿れるで。」
「ひあっ・・・師範っ・・・あっ・・・んんっ・・・・!!」
「・・・・っ!!」
敏感な部分が擦れ合い、深い部分で繋がる。どちらもゾクゾクと痺れるような快感が全身
を駆け巡る。財前の内側はより深く銀の熱を取り込もうとぎゅうぎゅうと動き、その動き
に合わせるように、銀の熱も奥へ奥へと入っていこうとする。そんな相乗効果での刺激が
二人の快感をさらに高めていく。
「ハァ・・・気持ちええな。」
「んっ・・・俺の中、ええですか・・・?」
「うむ。とけてしまいそうなくらい、気持ちええで。」
「それ聞いて・・・嬉しいです・・・」
気持ち良さにとろけた表情のまま、嬉しそうに笑う財前の顔を見て、銀の熱はさらに熱く
なる。そんな財前をもっと気持ち良くさせてやりたいと、銀はゆっくりと動き、財前がよ
り感じてくれる場所を探る。
「ひあっ・・・あんっ・・・しは・・んっ・・・!!」
「ええとこがあったら、教えてな。」
「そんなん・・・分からんです・・・師範と繋がってたら、ずっと気持ちええんで・・・」
「はは、せやけど、ココが特にってところもあるやろ?」
「ほんなら・・・」
「何や?」
「師範のぎょーさん奥に欲しいです・・・何度も突いて、俺ん中師範でいっぱいにしてく
ださい・・・」
財前のおねだりに銀は図らずも興奮してしまう。それが財前の望みならと、先程より激し
く動き、財前の奥を突く。
「あっ・・・ああっ・・・師範っ・・・んっ・・・はぁ・・んっ・・・!!」
「これは・・・ワシも結構クるな。」
「んっ・・・奥、師範の当たって・・・気持ち・・いっ・・・あっ・・・!!」
先程よりも明らかによい反応を見せる財前に、銀は顔を緩ませる。激しく動くことで自身
の快感も大きくなり、次第に息が乱れてくる。
「ああっ・・・師範っ・・・しは・・んっ・・・ひあっ・・・ああぁっ・・・!!」
「ハァ・・・もう・・・結構アカンかもしれんな。」
「あっ・・・師範の・・・中に・・・奥に・・・くださいっ・・・」
「くっ・・・財前はんっ・・・・!!」
一際奥に銀の熱が届いたと思った瞬間、銀の熱が震え、熱い雫が放たれているのを感じる。
欲しかったもので満たされる感覚に、財前は今までで一番大きな波が来るのを感じ、甘い
絶頂を迎える。
「師範っ・・・・――――っ!!」
絶頂の余韻に震えながら、体をぴったりと重ね合わせ、二人はしばらく繋がったままでい
る。部屋には二人の呼吸音が響き、パソコンからは財前の作った曲が延々と流れ続けてい
た。

軽く後始末をし、着物をしっかり着付けると、二人はベッドの上でくつろぐ。
「今年の誕生日も財前はんと一緒に過ごせて、ホンマにええ一日やった。おおきにな。」
「お礼を言うんは俺の方です。誕生日っちゅう一年に一度の大事な日に、俺と過ごしてく
れて、ぎょーさん祝わせてくれて、ありがとうございます。」
こんなにも想われていることが嬉しくて、銀は財前を抱き寄せ、優しく頭を撫でる。
「ホンマ、幸せやな。」
「そないにしみじみ言われると、ちょっと恥ずかしいっスわ。」
「せやけど、心から思っとることやからなあ。」
「師範、もう一回お祝いしてもええですか?」
抱き寄せられながら、財前はもう一度銀の誕生日を祝う言葉を言いたくなり、そんなこと
を尋ねる。もちろん構わないと銀は頷いた。銀の首に腕を回し、銀の厚い唇にキスをする。
そして、はにかむような笑顔で財前はその言葉を口にした。
「師範、誕生日おめでとうございます。何度祝っても足りないくらい、師範の誕生日は俺
にとって大事な日っスわ。」
「おおきに。せや、これは完全にワシのわがままなんやが、一つ聞いてもらえるやろか?」
「何です?」
「来年も再来年も、誕生日は財前はんと過ごしたいと思うとる。もちろん、財前はんがえ
え言うてくれたらの話やけどな。」
「そんなん当たり前やないっスか。師範の誕生日は、俺が毎年全力で祝ったります。」
「はは、おおきにな。これから毎年こないな幸せな誕生日が過ごせると思うと、わくわく
するわ。」
少し未来の約束をし、銀は本当に嬉しそうに笑う。そんな銀の顔を見て、財前も胸がとき
めき心の底から嬉しくなった。
「師範の誕生日が終わるまでは起きておくつもりっスけど、もう結構眠いっスわ。」
「今日はぎょーさん歩き回ったし、さっきのアレもなかなか体力使うからなあ。」
「もっと師範と話してたいのに、すいません。」
「ワシのことは気にせんで、ゆっくり休んだらええ。」
デートで歩き回り、心ゆくまで体を重ね、心地よい疲労が溜まっている財前はかなり眠く
なっていた。日付が変わるまでは、何とか起きていたものの、時計の針が0時を回ると、
財前は銀の隣でぐっすりと眠りにつく。気持ち良さそうに寝息を立てる財前を眺め、銀は
ふっと微笑む。
「誕生日が終わっても、こないに可愛らしい寝顔を眺めてられるんは幸せなことやな。」
財前の寝顔を眺めていると、心地よい音楽が流れていることに銀は気がつく。そういえば、
ずっとつけっぱなしだったと、銀はパソコンの側まで移動する。改めて財前の作ってくれ
たその曲に耳を傾けていると、何故か胸がドキドキし、先程体を重ねていたときの財前の
姿がよみがえる。
「している間中流れとったから、結びついてしまったんやろな。リラックス出来る曲のは
ずやのに、これは困ったなあ。」
財前の贈ってくれたこの曲に、思ってもみない事柄が結びついてしまったと銀は苦笑する。
しかし、この曲を聞いて頭に思い浮かぶ財前は、自分が特に好きだと思っている財前の姿
だ。それはそれで悪くないし、煩悩を払うという意味では非常に修行になると、銀は財前
が自分のために作ってくれたこの曲を大切に使っていこうと心に決めるのであった。

                                END.

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