Sick or Well?

「なあ、宍戸。」
「なんだよ、忍足?」
「今日の跡部、えらい機嫌悪うない?」
とある部活の時間、忍足はベンチに座る跡部を見つつ、宍戸にそんなことを言った。そう
言われ、宍戸は跡部の方へと視線を移す。
「別にいつもと変わんねぇと思うけどな。あえて違うと言えば、今日は妙に大人しいって
ところくらいじゃねぇ?」
「うーん、そっか。さっき、ちょっと話しかけたらな、ずっと黙りこくって無視すんねん。
だから、何か怒ってるのかなあと思て。」
「ちょっと虫の居所が悪いだけじゃね・・・」
「宍戸ー。」
宍戸の言葉は遮り、ピョンピョンと二人のもとへやってきたのは岳人だ。何か怖いものを
見たというような顔で、忍足の後ろに隠れる。
「宍戸、跡部の奴、何で今日あんなに機嫌悪いんだよ?お前何かしたんじゃねぇ?」
「な、何で俺が何かしたかとかそういう話になんだよ?別に俺は何もしてねぇぞ。」
「やっぱ、岳人もそう思うよな?」
「思うも何もモロに機嫌悪いじゃねぇか。今練習してたら、ちょっとミスってさぁ、跡部
の足元にボール飛ばしちまったんだよ。そしたら、鬼みたいな顔で睨んでくんだぜ。超怖
ぇし。」
忍足にも岳人にも同じことを言われ、本当に自分が跡部に何かをしたのではないかと、宍
戸は不安になってくる。しかし、思い当たることは一つもない。きっと自分以外に何か不
機嫌になる理由があるのだろうと思いながら、宍戸はもう一度跡部に視線を移した。
「やっぱ、いつもと変わらねぇと思うけどなあ・・・」
「じゃあ、後で確かめてみろよ。絶対いつもよりも怖いから。なあ、侑士。」
「ああ。ほなら俺らは練習に戻るか。」
「おう。じゃあまた後でな、宍戸。」
「ああ。」
岳人と忍足がそろってコートへ戻って行くのを眺め、宍戸は小さく溜め息をつく。跡部が
不機嫌であると、何かしら自分にとってよくないことが起こる。
「俺が原因じゃないといいんだけどなあ・・・」
もし不機嫌の理由が自分であれば、ケンカは避けられない。したくないのは山々なのだが、
つっかかってこられたら、思わず感情的になって言い返してしまうのだ。
「まあ、本当に機嫌悪いかもハッキリしてねぇしな。気にしたってしょうがねぇ。」
独り言のようにそう自分に言い聞かせ、宍戸は人指し指にラケットを乗せ、跡部の居るベ
ンチとは全く逆の方向に歩いて行った。

部活が終わり、レギュラーメンバーは部室に戻って早々に着替え、帰る用意を進める。
「あー、何か無性にシャワーが浴びてぇ。今日結構汗かいちまったもんなあ。」
「でも、もう外真っ暗ですよ。帰ってから浴びた方がいいんじゃないですか?」
「今、浴びてぇんだよ。そういう時って時々あんだろ?」
「いや、ないし。俺だったら、絶対家に帰ってから浴びるけどなあ。」
「いいんだよ。今日の鍵当番誰だっけ?何だったら俺変わるぜ。」
鳳や滝につっこまれながらも、宍戸はどうしてもシャワーを浴びてから帰りたいらしい。
「あー、鍵当番俺ー。俺、眠いから早く帰りたいんだけど。」
「じゃあ、今日は変わるぜ。帰る途中で寝るんじゃねぇぞ。」
「うん・・・」
今にも眠ってしまいそうなジローから鍵を受け取ると、宍戸はシャワー室に向かった。他
のメンバーはさっさと帰りたいので、宍戸に構わず帰ってゆく。
「じゃあ、お先に失礼します。」
「俺も帰ろうかな。じゃあね。」
「俺らも帰るか。行こうぜ、侑士。」
「おう。ジローと樺地はどないするん?跡部は監督に呼ばれてまだ帰って来ないみたいや
けど。」
「俺も帰る〜。樺地も一緒に帰ろう。俺、途中で寝ちゃうかもしれねぇし。」
「ウス」
樺地は跡部を待っていようかとも思ったが、ジローのこの眠そうな表情を見ると、一緒に
帰らなければ、本気で道のど真ん中で眠ってしまうかもしれないと思い、一緒に帰ること
にした。跡部と宍戸以外のレギュラーメンバーは全員帰ってしまい、レギュラー専用部室
は静かになる。そこへ、監督に呼び出されていた跡部が戻ってきた。
「ふぅ・・・」
いくつかの書類をロッカールームの机に置き、自分専用のソファに腰かける。着替えなけ
ればいけないのだが、そんな様子は全く見せず、跡部は腕を額の上に乗せ、ぐったりと背
もたれによりかかる。
「ヤベェな・・・」
ぽつりとそう呟き、跡部はゆっくり目を閉じた。しばらくすると、宍戸がシャワーを浴び
終え、部室に戻ってくる。もう誰もいないだろうと思っていた宍戸は、まともに着替えて
来ず、ワイシャツのボタンは全開、ズボンもベルトをしっかりつけずに垂らしているとい
う状態だ。
「あー、サッパリした!さてと、そろそろ帰る用意するか。」
ミーティングルームからロッカールームに入り、宍戸はドキッとする。さっきまで居なか
った跡部が部活をしていたままの格好でソファに座っている。意表をつかれ、ドキドキす
る宍戸は、恐る恐る跡部に声をかけた。
「あ、跡部・・・?」
「・・・・・・」
宍戸に声をかけられ、跡部は黙ったまま宍戸の方を向く。その宍戸の姿を見て、跡部の中
で何かが切れた。虚ろな瞳をしたまま立ち上がり、宍戸のもとへゆっくりと歩いてゆく。
「ど、どうしたんだよ?跡部、何かいつもと違うぜ?」
「・・・・・・」
じりじりと近づいてくる跡部に宍戸は妙な緊張を覚える。ドアのすぐ側に立っていたので、
逃げることも出来たのだが、獲物を捕らえたような視線で見つめられ、それは出来なかっ
た。
(これは、機嫌が悪いとかそういうレベルの問題じゃねぇぞ。に、逃げた方がいいのかな
・・・って、もうがっつり腕掴まれてるし。あー、ヤバイ〜。)
カチャ
「!」
腕を掴まれ、身動きが出来ない状態で後ろにあるドアの鍵を閉められる。本気で逃げられ
なくなった宍戸はさらにパニックになる。
「あ、跡部っ、ちょっと落ち着けって!ここ部室だからっ!」
「うるせぇ・・・」
「なっ・・・!」
抑揚のない口調で跡部は呟く。そして、宍戸の首にかかっていたネクタイを使い、掴んで
いた手首を後ろ手に縛ってしまった。
(嘘だろ〜。てか、跡部の奴、マジでどうしたんだよ?いくらなんでもこの状況はおかし
すぎだって。)
「ちょっ、何すんだよ!」
「・・・・・・」
宍戸がどんなに抵抗しようが、文句を言おうが跡部は表情を変えない。いつもとは全く違
う雰囲気に宍戸は恐怖さえ覚える。
「跡部・・・?」
名前を呼んでも全く反応しない。ただただ無表情のまま、跡部は宍戸の唇を奪う。
「んっ・・・う・・・」
いつもより乱暴で激しいキスに宍戸は戸惑う。噛みつくようなキスを何度も繰り返され、
宍戸の呼吸は次第に乱れてゆく。
「んっ・・・ハァ・・・あと・・・べ・・・」
苦しいくらいのキスをされ、宍戸の頭はくらくらしてくる。瞳を潤ませ、跡部の為すがま
まにされていると、今度は下半身に妙な感覚が走る。
「ふあっ・・・」
もともとベルトが外れていたため、跡部がそこに触れるのはかなり容易であった。キスを
したまま敏感な部位に直接触れられ、宍戸は素直に感じてしまう。
(うわあ・・・こんなメチャクチャな状況なのに俺、すげぇ感じちまってるし。・・・も
しかして、こういう状況だから逆に感じやすくなってるとか?いやいやいや、それは絶対
にありえねぇ!)
こんな状況でも感じてしまう自分に軽くつっこみを入れながら、意識を他のところへ向け
ようとするが全く意味がない。意識しまいと思えば思うほど、そこに意識が集中してしま
う。
「んくっ・・・やっ・・・」
キスの合間から漏れるそんな宍戸の声を聞き、跡部の表情が無表情から若干興奮を含んだ
表情に変化する。それと同時に、下に刺激を与える手の動きが早まった。
「いやっ・・・あっ・・・跡部っ・・・!」
容赦のない跡部の愛撫に宍戸は、身動きの取れない身体をぶるりと震わせる。だんだんと
高まってくる快感をどうにも出来ず、宍戸はそのまま跡部の掌に真っ白な飛沫を放つ。
「ひあっ・・・ああ――・・・!!」
半ば無理矢理イカされることになってしまった宍戸は、全身の力が抜け、その場に膝をつ
き、脱力する。
(くそぉ、結局イカされちまった。でも、跡部に触られるとダメなんだよなぁ、俺。う〜、
まだ体に力が入んねぇ・・・)
後ろ手に手首を縛られているので、かなりバランスの取りにくい状態で座っていると、突
然前のめりに体が傾く。
「うわっ・・・」
そして、次の瞬間穿いていたズボンと下着を脱がされる。ここまでは別に予測出来ない流
れではなかったが、この次のことまでは宍戸は予想が出来なかった。
「・・・?いっ!ああぁ――っ・・・!」
「ハァ・・・」
跡部は全く指では宍戸の蕾に触れず、そのまま自分自身を突き刺した。あまりの痛さと驚
きに宍戸は、泣きながら跡部に止めて欲しいと懇願する。
「痛いっ・・・跡部っ・・・抜いて・・・!」
「くっ・・・るせー、黙ってろ・・・」
やっとしゃべったと思ったら、全く感情のないセリフ。本当に跡部はどうしてしまったの
かと心配になりつつも、今はそれどころではない。必死で痛みを堪えつつ、唇を噛む。自
然と溢れてくる涙は痛みのためだけではない。あまりにもいつもと違い過ぎる跡部とする
のが怖いのだ。
「ふっ・・・んぅ・・・く・・・」
(マジで今日の跡部、意味分かんねぇ!いきなり入れるなんてアホじゃねぇの!あっ、で
も、少しは楽になってきたかも・・・)
しょっちゅう跡部のモノを受け入れているそこは、普通では考えられないほどのスピード
で、その状況に慣れる。いったん慣れてしまえば、もう痛みなどはどこかに消え去ってし
まう。
「あっ・・・あ・・・」
痛みが無くなってしまえば、後は内側を擦られる快感だけが残る。しかも、今日の跡部は
いつもより激しい。いつの間にか宍戸は自ら腰を動かしていた。
(ヤベェ、すげぇ気持ちよくなってきちまった。今日の跡部のメチャメチャ熱いし・・・)
腹の中に火傷しそうなほどの跡部の熱を感じながら、宍戸はうっとりとした表情で、その
熱さに浸る。
「あ・・・はぁん・・・あと・・・べ・・・」
「ハァ・・・ハ・・・宍戸っ・・・」
すると、突然跡部は宍戸の手首を縛っていたネクタイを解く。自由になったものの、その
手は全く力が入らない。しかし、それでも後ろで固定されてるよりは断然楽になった。
(いきなりどうしたんだ?跡部の奴。でも、まあこっちのが楽だからいっか。)
とにかくさっきより楽になったのだから、後はもう流れに任せろという感じで、宍戸は跡
部の与える快感に身を任せる。
「んっ・・・く・・・あっ・・・ああ・・・」
いつものように内側の中でも特に敏感なところを擦られ、宍戸はビクンと体を震わせる。
急に締まる宍戸の蕾に跡部の楔も耐えられなくなったようで、そのまま宍戸の中へと熱を
放った。
「あっ・・・ああ――っ!!」
体の内側に熱いミルクを注ぎ込まれ、宍戸も自らの熱を床に向けて放つ。しばらくその余
韻に浸り、呼吸を整えられずにいた宍戸だが、落ち着いてくるとだんだんと跡部に対して
腹が立ってくる。くるっと振り返り跡部に文句を言おうとしたその瞬間、跡部の体はゆっ
くりと横に倒れた。
ドサッ・・・
「お、おいっ、跡部?」
そんな跡部を見て、宍戸は目を見開く。ゆっくりと近づいてみると跡部の様子は明らかに
おかしかった。
「ハァ・・・ハァ・・・」
倒れた跡部は、異常なくらい汗をかき、ひどく呼吸を乱している。
「ど、どうしたんだよ?・・・すげぇ熱じゃねぇか。そっか、だから、今日はあんなに様
子が変だったんだ。って、納得してる場合じゃねぇよ、俺!なんとかしねぇと!」
慌てて制服を着て、宍戸は汚してしまったあたりを掃除をする。そして、跡部の携帯で車
を呼び、力の入らない体で、跡部を車まで運んで行った。

ピピピ・・・
「えっと、39度2分?超高熱じゃん!マジで大丈夫かよ。」
体温計に表示された数字を見て、宍戸は驚きの声を上げる。38度台でもかなりフラフラ
して厳しいのに、39度となればもっと苦しい。宍戸は汗を拭いてやりながら、額に濡れ
たタオルを置いてやった。
「どうしてコイツはもっと早く調子が悪いって言わないかねぇ。まあ、気づいてやれなか
った俺も悪いけど・・・」
大きな溜め息をつき、宍戸は苦しそうな跡部の顔を眺める。しばらく額のタオルを替えた
り、汗を拭いてやったりを繰り返していた宍戸だが、部活の後にあんなことをされたこと
もあり、だんだんと疲れから眠くなってきてしまう。
(あー、激眠みぃ・・・でも、跡部放っておいたらダメだよなぁ。あー、でも・・・)
やはり睡魔には勝てず、宍戸は椅子に座ったまま跡部のベッドに突っ伏し、眠ってしまっ
た。

(ハァ・・・まともに息が出来ねぇ。頭もくらくらする。どこだ?ここは・・・)
熱にうなされながら、跡部は夢を見ていた。何もない薄暗い空間に重い体を浮かばせる。
すると突然目の前に宍戸が現れる。痛みに耐えるような悲痛な面持ち、頬には涙を流した
跡。何か言葉を紡いでいるのだが、それは全く聞き取れない。
(どうして宍戸はこんな顔してるんだ?レギュラーにも戻してやったし、試合にも勝って
る。誰が宍戸にこんな顔・・・)
その瞬間蘇る先程の記憶。薄っすらと膜がかかったような記憶に見えるのは、宍戸を痛め
つけるように犯す自分の姿。
「あっ・・・」
そのことを思い出した途端、宍戸の姿が目の前から消える。自分は何てことをしてしまっ
たんだと後悔するが、もう遅い。また薄暗い空間に一人ぼっちになってしまった跡部は涙
を流しながら、さっきまで宍戸のいた場所へ手を伸ばす。しかし、そこにはもう宍戸の姿
はない。どうしようもなく不安になり、跡部は大声で宍戸の名前を呼ぶ。

「宍戸っ!」
その声で跡部の横で眠っていた宍戸は目を覚ます。
「だ、大丈夫か、跡部?」
「ハァ・・・宍戸・・・?」
おろおろしながらも、心配そうに自分を見つめてくる宍戸の姿を見て、跡部はホッとする。
さっきの夢が相当効いたようで、跡部の頬には一筋の涙が流れていた。
「どうした、跡部?どこか苦しいのか?」
「いや、何でもねぇ・・・」
言葉ではそう言う跡部だが、その体は小刻みに震えている。
「寒いのか?」
「いや・・・ちょっとやな夢見ちまって・・・」
「あー、風邪ひいてるときって、何かやな夢見んだよな。ちょっと落ち着くまで、体起こ
してろよ。」
「ああ・・・」
自分に対してひどく優しくしてくれる宍戸に安心感を覚えながらも、跡部はさっき夢で見
た不安感を拭いきれないでいる。夢で見た記憶は本当のものなのか。それが気になり、跡
部は恐る恐るそのことについて、宍戸に尋ねてみた。
「なあ、宍戸。」
「ん?何だよ?」
「俺、今日テメェに何した?」
「あー、やっぱ覚えてねぇの?お前、俺がシャワーから戻ってくるなり、いきなりネクタ
イで手首縛って、無理矢理やり始めたんだぜ。しかも、後ろに慣らさねぇで入れるしよ。
まだちょっと痛いくらいだぜ。」
熱の所為で意識が朦朧としてたとはいえ、宍戸にとってはやはり少し腹立たしいことであ
ったので、ありのままをそのままポンポンと話した。やはり夢で見た記憶は本当のことだ
ったのかと跡部は大きな罪悪感にさいなまれる。いつもの跡部なら、この程度のことでは
何も感じないのだが、今は熱の所為で精神状態が不安定になっている。本当に申し訳なさ
そうな顔をし、跡部は宍戸に謝った。
「本当に悪かった・・・」
あまりにいつもと様子の違う跡部に宍戸は拍子抜けしてしまう。しかも、今にも泣いてし
まいそうな表情で謝ってくるのだ。何だか自分の方が悪いことをした気分になってしまう。
「そ、そんな顔すんなよ!確かに入れられてすぐは痛かったけどよ、しばらくしたらちゃ
んと気持ちよくなったからさ。な、だから、そんなに不安になんなくてもいいぜ。」
「宍戸・・・」
「あっ、そうだ。もっかい熱計ってみようぜ。さっきより下がってるかもしれねぇしな。」
この話題を引きずっていると、跡部が余計に元気をなくすと思った宍戸は、パッと話題を
切り替えた。体温計を渡し、熱を計らせる。ピピピっと音が鳴ると、宍戸は跡部から体温
計を受け取った。
「38度1分か。さっきよりだいぶ下がったな」
「それで、だいぶ下がったのか?さっきはどれくらいあったんだよ?」
もともと自分がどれだけ熱があったのか知らない跡部は、宍戸の言葉を聞いて驚く。
「もともとは、39度以上あったんだぜ。お前さ、風邪ひいてんだったらもっと早く言え
よ。そうすりゃ、こんなにひどくならないで済むんだからよ。」
そんなに重症だったとは思っていなかったので、さすがに跡部も反省する。
「そこまでひどいもんだとは思ってなかった。」
「でも、部活してるときから結構キてたんじゃねぇの?忍足とか岳人が言ってたぜ。今日
の跡部は超不機嫌だって。あれは不機嫌だったんじゃなくて、熱があったからなんだろ?」
「そうかもしれねぇな。」
確かに部活の時間も相当気分が悪かった。しかし、それが熱の所為だと気づいたのはだい
ぶ後になってからだ。宍戸と話しているうちに、だいぶ落ち着きを取り戻した跡部は、ふ
と空腹感を感じる。
「なんか・・・腹減ったな。」
「確かに。俺もちょっと腹減ったかも。跡部はおかゆとかそういうのがいいよな。待って
ろよ、今、持ってきてやるから。」
食欲があるのはいいことだと、宍戸はパッと立ち上がり、食べ物を取りに行く。
「あっ、跡部。俺の分も何か持ってきていいか?」
「ああ。いいぜ。腹減ったっつっても、そんなに食べれねぇと思うからよ、俺の分は控え
めにな。」
「了解。」
自分の分も持ってきてもよいという許しを得ると、宍戸は嬉しそうに跡部の家のキッチン
へと向かう。執事には跡部が熱を出していると伝えたので、すでにおかゆは出来てきた。
「スイマセン、チーズとパンとかってありますか?」
自分はチーズサンドでも作って食べようということで、宍戸はそんなことをキッチンにい
たコックに尋ねる。その材料を聞いて、コックは宍戸のためにパッパとチーズサンドを作
ってやった。
「景吾坊ちゃまの様子はいかがです?」
「だいぶ熱は下がりました。今起きたんで、おかゆを持ってってやろうと思って。」
「そうですか。どうぞ、これは亮様の分です。」
「ありがとうございます。」
コックからおかゆとチーズサンドを受け取るとそれを跡部の部屋へと持ってゆく。ついで
に水と薬もトレイに乗せ、落とさないように宍戸は慎重にそれを運んだ。
「待たせたな、跡部。」
「おう。サンキュー、宍戸。」
持ってきたトレイを跡部のベッドまで持ってゆくと宍戸はさっきまで座っていた椅子に腰
かける。
「跡部、自分で食えるか?」
「アーン?食えるに決まってんだろ。熱出してるからってそこまでは落ちてねぇよ。」
「いや、もし食えねぇんだったら食べさせてやろうかなあと思ってよ。」
宍戸のその一言を聞き、跡部は態度を急変させる。
「やっぱ、食えねぇ。テメェが食わせろ。」
「食べさせて欲しいんだったら、素直にそう言えばいいじゃねぇか。」
くすくす笑いながら、宍戸はおかゆの入った鍋のふたを開ける。さっき温めたばかりなの
で、開けた瞬間、もくもくと真っ白な湯気が上がった。
「まだ熱そうだな。ちょっと冷ました方がいいんじゃねぇ?」
「そうだな。冷ましてる間に、お前自分の分の飯食っちまえよ。」
「おう。じゃあ、お先にいただくぜ。」
少しおかゆを冷まそうと、宍戸はふたを開けたままトレイの上に鍋を放置する。その間に
コックに作ってもらったチーズサンドを食べることにした。
「このチーズサンド激うめぇ!さすが跡部んちのコックだな。」
「作ってもらったのか?」
「おう!コックもお前のこと心配してたぜ。」
「そうか。なら、早く治さなきゃだな。」
「そうだぜ。俺も跡部に早く治って欲しいと思うし。」
そう言いながら、宍戸はパクパクとチーズサンドを口にほおばる。お皿に乗っていたサン
ドイッチを全て食べ終えると、手を合わせてごちそうさまと宍戸は満足そうにあいさつを
する。
「はあー、うまかった。ごちそうさま。」
「よかったな。それ、たぶん超高級なチーズ使ってると思うぜ。」
「そうなのか?どうりでうまいわけだ。よっし、次は跡部の番だな。」
おかゆもだいぶ冷めたことだし、食べさせてやるかと陶器で出来たスプーンを宍戸は手に
取る。本当に冷めているかを確かめるため、宍戸は一口自分の口に含んでみた。
「熱っ!さすがこんな鍋使ってるだけあるな。全然冷めてねぇぜ。ちゃんと冷ましながら
食べさせねぇと跡部火傷しちまう。」
さっきより少しは冷めているものの、まだそのまま口に含むには熱すぎる。跡部が火傷し
ないようにと宍戸はスプーンに取ったおかゆをふーふーと息を吹きかけながら冷ます。
「ふーふー・・・ちゃんと冷めてるのか?」
どのくらい冷めてるのかを確かめるため、宍戸はスプーンいっぱいのおかゆに唇をつける。
そうして熱くなければ、ちゃんと冷めていることになるのだ。
「よし、平気だな。ほら、跡部口開けろ。」
「随分、大胆なことしてくれるな。」
「は?何が?」
「自分の口つけたもん俺に差し出すなんてやるじゃねぇの。」
「あっ、悪ぃ。子供のころ母ちゃんがこういうふうにして食べさせてくれてたからさ。嫌
だったら、次からはしねぇ。」
「いや、そのままでいい。火傷させられても困るしな。それにテメェがそうやって食わせ
てくれるなら大歓迎だぜ。」
なかなかいい食べさせ方だと、跡部は熱で火照った顔を緩ませる。口を開け、ちょうどよ
い温度になったおかゆを口に入れてもらう。
「うめぇ。」
「そっか。いっぱい食えよ。食って栄養つけて早く治そうぜ。」
宍戸が一回一回息を吹きかけ冷まし、その温度を唇で確かめるのを見ながら食べるおかゆ
は、普通のおかゆとは比べ物にならないほど、跡部にとっては美味しく感じられた。食欲
がないと思っていたが、あっという間に跡部は小さな鍋に入っていたおかゆを全てたいら
げる。
「はあ、腹いっぱいだ。」
「全部食べれたじゃねぇか。後は薬飲んで休めばオッケーだろ。」
「薬もテメェが飲ませてくれるのか?」
「飲ますわけねぇだろ。それに、薬錠剤だぜ?どう俺が飲ますんだよ?」
液体の薬ならまだしも、用意してきた熱冷ましは小さな錠剤だ。それくらいは自分で飲め
と宍戸は水をコップに入れてやった。
「ほら。」
「冷てぇ奴。」
「何でだよ!ったく、本当わがままな奴だな。」
跡部の言葉にカチンときた宍戸は錠剤と水を自分の口に含み、そのまま跡部の口にそれを
全て移す。
「・・・っ。」
「ぷは、これで満足だろ!早く寝ろ!」
跡部が冗談半分に言っているのは分かっているが、思わずやってしまった。それが恥ずか
しくて宍戸は、跡部は無理矢理寝かせようとする。
「宍戸。」
「何だよ?」
「ありがとよ。」
「なっ!ど、どういたしまして・・・」
思ってもみない跡部の言葉に顔を真っ赤に染め、宍戸はボソボソと呟く。
「なあ、宍戸。」
「今度は何だよ?」
「今日、帰んじゃねぇぞ。」
「えっ・・・?」
そう言いながら、跡部は宍戸の右手をぎゅっと握る。熱の所為でひどく熱くなった掌は顔
には出ない跡部の寂しいという気持ちを如実に表していた。
「今日は俺の傍にいろ。」
言葉は命令口調なのだが、気持ち的には心からの頼みごとだった。それを分かっている宍
戸は、ふっと笑い、頷いてやる。
「仕方ねぇなあ。今日は一晩中お前の看病しててやるよ。」
宍戸の言葉を聞いて、跡部もホッとしたように微笑む。宍戸の手をしっかりと握ったまま、
跡部は落ち着いた様子で眠りについた。
「今日の跡部、子供みてぇ。ま、たまにもこういうのも悪くねぇよな。」
家に連れて帰ってきたときと比べ、だいぶ楽そうになった跡部の寝顔を見て、宍戸は胸を
撫で下ろし、くすくすと笑った。

それから数日が経ち、跡部の風邪はすっかりよくなった。調子を取り戻した跡部は部活で
もいつものように、厳しくしかし的確なアドバイスを他のメンバーに与える。
「そこでもっと手首を使え!」
「はい!」
そんな跡部を見て、忍足や岳人はホッとする。風邪をひいていたとは知らない二人は、こ
の前のことを本気で跡部が不機嫌であったと思っているのだ。
「今日の跡部はそんなに不機嫌やないなあ。」
「そうだな。この前は何であんなに不機嫌だったんだろうな?ホーント跡部って分かんな
いぜ。」
二人の会話を聞きながら、宍戸はふっと笑い、跡部に話しかける。風邪の治った跡部は、
かなりご機嫌で、宍戸のちょっとした頼みもすぐに受け入れた。
「なあ、跡部。ちょっとだけ俺の練習見てくれねぇ?」
「アーン?テメェの練習?」
「ちょっとだけでいいからさ。な、いいだろ?」
さすがに機嫌がよいと言っても、そこまではしないだろうと思いながら、宍戸の動向を眺
めていた岳人と忍足は、絶対に断られると予想していた。しかし、跡部の答えは二人の予
想に反するものであった。
「いいぜ。それじゃあ、あっちのコートに移動するか。」
「やりぃ!最近、ちょっと調子悪くってさぁ、跡部に修正してもらいてぇなあなんて思っ
てたところなんだよ。」
「俺様が指導してやるんだ。ありがたく思いな。」
「おう!」
一番奥のコートに移動する二人を見ながら、岳人と忍足は意外そうな顔をする。
「跡部の奴、今日はホンマにご機嫌なんやな。」
「ああ。絶対断られると思ってたのに。」
跡部の意外な行動に、二人はただただ驚かされるばかり。本当に気まぐれな部長だなあと
思い、自分達の練習はサボって、しばらく宍戸が跡部の特訓を受けている様を眺めていた。

「跡部ー、そろそろ部活終わりの時間だよー。」
跡部と宍戸の二人が全く練習を終えようとしないので、滝は遠くから声をかける。その声
を聞き、二人はボールを打つのをやめた。
「ハァ・・・もう終わりか。残念。」
「また付き合ってやるよ。今日はここで終わりにしとこうぜ。」
「おう。今日はサンキューな跡部。」
「別にどうってことねぇよこれくらい。」
自分達の使っていたボールやラケットを片付けると二人はそろって部室に向かう。部室に
戻るとすでに他のメンバーは着替えを終えていた。
「それじゃ、お先ー。また来週な。」
「お疲れ様でした。俺も一足先に帰ります。」
着替え終わり、帰る準備も終わったメンバーから順番に部室を出て行く。結局跡部と宍戸
は、二人きりで静かになった部室に残された。
「あいつら、帰んの早ぇーな。」
「いいんじゃねぇ?そのおかげでこんなふうにお前と二人きりになれたんだしよ。」
「そ、そんな・・・」
二人きりということを指摘され、宍戸は何となく照れる。別にそこまで照れることねぇだ
ろとつっこみつつ、跡部はロッカーを開け、テキパキと着替えていった。
「なあ。」
「何?」
「明日、休みだろ?今日うちに泊まりに来ねぇか?」
「えっ・・・?」
「この前よ、かなり無理矢理しちまっただろ。熱があったとはいえ、マジで悪かったと思
ってる。だから、今日はそのおわびと言っちゃなんだが、しっかり気持ちよくさせてやろ
うかと思って。」
恥ずかしげもなくそんなことを言ってくる跡部の言葉に宍戸の顔は紅色に染まる。
「べ、別にこの前のことはそんなに気にしてねぇよ。」
「俺が気にしてるんだ。来いよ、宍戸。」
「・・・分かった。」
跡部の押しの一言に宍戸は頷いてしまう。やるのを分かっていて、跡部の家に泊まりに行
くというのも何だか微妙な気分だが、嫌ではない。部室の外に出ると、空は夕日でオレン
ジ色に染まっていた。そんな夕空の下、宍戸は跡部の隣でほのかな期待感に胸の鼓動を高
鳴らせていた。

いつもと変わらず、共に夕飯を食べ、順番にシャワーを浴び、跡部の部屋でしばらくくつ
ろぐ。そういうことをするにいい時間帯になると、ソファに座っていた跡部は、普通のベ
ッドよりはいくらか大きい自分のベッドに宍戸を招いた。
「宍戸。」
「お、おう。」
「そろそろいいだろ?」
「えっ・・・あ・・・マジで、すんの?」
あらためてそういう状況になると、宍戸も妙に緊張してきてしまう。ドギマギしながらそ
んなことを尋ねると跡部は苦笑しながら、小さく溜め息をついた。
「テメェはしたくねぇのか?」
「い、いや、そんなことはねぇけどよ。でも、やっぱちょっと、恥ずかしいなあなんて思
って。」
照れながらおどおどしている宍戸の姿は、跡部にとってはひどく魅力的であった。初めて
するわけでもないのに、いまだにこんなふうに初々しい反応を見せてくれる。
「とにかくまずはこっちに来いよ。」
「おう・・・」
跡部に招かれ、宍戸はベッドに移動する。ベッドにいけばすることは一つしかない。ソフ
ァからベッドへのほんの少しの距離の間に宍戸の鼓動は、期待と緊張、わくわく感と羞恥
心から、ドキドキと速くなっていった。
ポスン
跡部のベッドまでたどりつくと宍戸は、その身をベッドの上に乗せる。控えめに端の方に
座っていると、ぐいっと跡部が腕を引っ張った。
「うわっ・・・」
腕を引っ張られ、バランスを崩した宍戸の体は跡部の胸にもたれかかるように傾く。その
体を跡部はしっかりと受け止めた。
「今日はどういうふうにして欲しいんだ、宍戸?」
「えっ・・・えっと・・・」
顎を上げられ、じっと見つめられながらそう言われ、宍戸はドキドキしてしまう。どうい
うふうにして欲しいかと聞かれても、そう簡単には思いつかない。
「今回はお前の望み通りにしてやるぜ。」
「んなこと言われても・・・跡部に任せるってのじゃダメか?」
望み通りにしてもらえるというのは、なかなか嬉しいことだが、こんな状況では何も考え
られない。それだったら、跡部に任せてしまった方が楽だと宍戸は困った表情をして、そ
んなことを跡部に尋ねた。
「別にそれでもいいぜ。でも、本当にそれでいいのか?俺がこんなこと言うのってそう滅
多にないことだぜ?」
「それは分かってるよ!でも、別に相手が跡部だったら、そんなに嫌だと思うことねぇし
・・・」
「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇの。それじゃあ、俺の好きなように進めさせてもらう
ぜ。」
「おう・・・」
宍戸が頷くのを見ると、跡部はちゅっちゅと顔のいろいろな部分にキスをしながら、服を
脱がせていった。上着のボタンを全て外し終えると、いったん宍戸から離れ、まじまじと
その姿を眺める。
「やっぱ、お前、こういう格好似合うよな。」
「べ、別にそんなことねぇと思うけど・・・」
「これだけでも、すっげぇそそられるぜ。ほら、下向いてねぇで、俺の顔を見ろ」
恥ずかしがってうつむいている宍戸の顔を上げさせると、跡部は唇に口づけを施す。この
前のように噛みつくような激しいものではなく、ゆっくりと唇をなぞられるような、優し
く柔らかいキス。反射的に口を開くと当然のように熱い舌が口内に侵入する。歯の裏を舐
められれば、思わず甘い吐息が漏れる。
「んっ・・・ふ・・・ぅ・・・」
始めはゆっくり探りを入れるような舌の動きは、次第に激しいものになってゆく。全身が
痺れるようなその感覚に、宍戸は無意識に舌を絡めていた。
「あっ・・・ん・・・んぅ・・・」
お互いの蜜が混じり、濡れた音が響く。それだけで、宍戸はどうしようもなく気持ちよく
なっていた。跡部の与えるキスにうっとりしていると、ふとその唇が離れた。
「ハァ・・・跡部?」
「お前、本当イイ顔するよな。そんな顔見てたら、他の部分も弄りたくなってきちまった。」
「お、お前・・・キスしてんときに、目開けてんじゃねぇよ!」
「アーン?あんなイイ顔してるの見ないのはもったいねぇだろ。」
ふっと笑いながら跡部は、そんなことを言う。恥ずかしさから宍戸はちょっと怒り気味な
口調で文句を言うが本心ではない。実は宍戸も薄っすらと目を開けていて、跡部の様子を
うかがっていたのだ。なので、もちろん跡部が目を開けていたことなど百も承知だった。
「キスだけで随分感じてたみたいじゃねぇの。お前のここ、いい色して、食べて食べて言
ってるみたいだぜ?」
触られもせずに充血して、ピンと立った胸の飾りを弾きながら跡部は冗談まじりに言う。
少し触れられただけにも関わらず、宍戸はふるりと身体を震わせる。
「あっ・・・そんなとこ触んなっ・・・」
「アーン?本当は触って欲しくて仕方ねぇんだろ?」
「んなことっ・・・んっ・・・ああっ・・・!」
宍戸が否定の言葉を言い終わる前に跡部は、赤く熟れた小さな実を口に含み、舌で転がす。
「痛ぇよ、宍戸。髪、引っ張るんじゃねぇ。」
「だ、だってぇ・・・」
「今日はいつもより感じやすいんじゃねぇ?ズボンの上からでも、ここの形が変わってん
のよく分かるぜ。」
再び胸の飾りに口づけながら、跡部はズボンの膨らみに撫でるように触れる。
「やっ・・・あぁんっ・・・!」
それだけで宍戸は先程より何倍も濡れた声を上げる。
(ホント、たまんねぇな。)
宍戸の声に口元を緩ませ、跡部はつっと唇で宍戸の腹の上をたどる。
「あっ・・・」
「この間はここをしっかり可愛がってやる余裕もなかったからな。今日は、存分に可愛が
ってやるぜ。」
そう言いながら、跡部は下着ごとズボンを下ろす。露わになった宍戸の昂ぶりを眺めなが
ら、跡部はニヤリと笑い、舌なめずりをする。
「やっ・・・ダメ・・・あぁっ・・・!」
根元から口の中に含み、吸い上げるように口を動かす。堪らず宍戸は、太腿をビクビクと
痙攣させた。
「あっ・・・あん・・・や・・・ぁ・・・」
「ちょっと咥えただけで、そんなに感じるのかよ?お前、本当に淫乱だよな」
「ち、違うっ・・・!」
からかうようにそういう跡部に宍戸は涙目になりながら反論する。しかし、跡部にとって
は、そんな宍戸の言葉でさえも、耳を心地よく刺激してくれるものでしかなかった。
「へぇ、じゃあ、俺がこれからすることにも耐えられるってことだよなぁ?何されてもそ
ういう声だしたりするんじゃねぇぞ。」
「そ・・・んな・・・」
「淫乱じゃないんだろ?」
跡部の挑発に宍戸はまんまと乗ってしまう。コクンと頷き、声を出さないようにと宍戸は
くっと唇を噛む。
「試させてもらうぜ、宍戸。」
これは面白い展開になったと、跡部はさっきよりも激しい口での愛撫を宍戸のそれに与え
る。そんなことをされれば、宍戸はもちろんさっきよりも感じてしまう。しかし、ああ言
ってしまった手前、あからさまに声を出すことは出来ない。
「んっ・・・んんっ・・・くぅ・・・」
舌で丁寧に宍戸の茎を舐め上げながら、その刺激に耐えている宍戸の顔を跡部は下から眺
める。快感に震えながら、それをかみ殺している宍戸の表情は跡部の下半身を直に刺激し
た。
(ヤベェな。思った以上にこれはクるぜ。)
「ふ・・・ぅ・・・んくっ・・・ぁ・・・」
我慢していても時折漏れてしまう声に、宍戸は悔しさを感じる。我慢しようと思えば思う
ほど、余計に敏感になる。
「なあ、素直に出しちまった方が楽なんじゃねぇの?」
「んんっ・・・」
宍戸が限界であることに跡部は気づいていた。しかし、宍戸はぶんぶんと首を横に振る。
なかなか強情だなあと苦笑しつつ、跡部はいったん口を離した。
「そんなにイカされるのが嫌ならここでやめといてやるよ。その方がテメェもいいんだろ?」
「えっ・・・?」
我慢していたとはいえ、もう限界近くまで高められている。そんなところでやめられれば、
嫌でも身体は疼いてしまう。意外な跡部の言葉に宍戸は困惑の表情を浮かべた。
「これでテメェも楽になったろ?」
宍戸が困惑しているのを分かっていながら、跡部はそんなことを言う。さっきあんなこと
を言ってしまったために、すぐには続けて欲しいとは言えない宍戸は、身体の疼きをどう
することも出来ず、涙を瞳にいっぱい溜めながら跡部の顔を黙って眺めた。しかし、それ
を長く続けていることは出来なかった。
「どうした、宍戸?何か言いたそうだな。」
「・・・めるな。」
「アーン?聞こえねぇよ。何だって?」
「こんな中途半端な状態で・・・やめるなよぉ・・・」
「何をやめるなって?どこをどうして欲しいか言ってみろよ。」
今の宍戸ならこんなことさえも言ってくれるだろうと、跡部はわざと意地悪な命令をする。
羞恥心から宍戸は顔を真っ赤に染め、涙を溢しながら、ボソボソと跡部の言ったことに答
えた。
「跡部が・・・さっきまで口で咥えてたとこ・・・もっかい咥えて・・・最後まで・・・
して欲しい・・・」
「俺に口でされるのは気持ちいいのか?」
「・・・おう。」
「俺様の美技でイカせて欲しいって?」
「そんなっ・・・恥ずかしいことばっか、聞くんじゃねぇよ!分かってんだろ!」
あまりにも恥ずかしい質問ばかりしてくるので、さすがに宍戸もキレた。中途半端な身体
の疼きから呼吸は軽く乱れている。本当はキレている余裕などないほど、身体は昂ぶって
いるのだ。
「我慢出来ねぇって言えよ。そしたら、すぐにでもイカせてやるぜ。」
「も・・・我慢出来ねぇよ・・・さっさとやれ、アホ・・・」
「ふっ、仕方ねぇなあ。俺様の美技に酔いな。」
自信満々にそういい放つと、跡部はさっきのように宍戸のモノを口に含む。そして、軽く
歯を立てるかのようにして思いきり吸ってやった。
「ふあっ・・・ああ――っ・・・・!」
ギリギリまで我慢していた宍戸はあっという間に達してしまう。口に放たれた甘く苦い蜜
をゴクリと飲み干すと跡部は満足気に笑ってみせた。
「やらしいセリフ言いまくりじゃねぇか、宍戸。誰が淫乱じゃないって?」
「ウ、ウルセー!テメェが変なことばっかしやがるからっ・・・」
「でも、素直に気持ちいいんだろ?」
「ま、まあな。それは否定しねぇ。」
「だったら、いいじゃねぇか。テメェが気持ちよけりゃ、俺だって気持ちいいんだ。おあ
いこだぜ。」
「むぅ・・・」
まだ少し納得いかないが、そう言われたら何だかもうどうでもよくなってしまう。
「さてと、先に進むぜ、宍戸。」
「お、おう・・・」
「この間は、慣らさないで入れちまったんだろ?今考えるとありえねぇことしたな。てか、
それで後々気持ちよくなったって、お前、どんな身体してんだよ?」
「し、知らねぇよ!テメェがそうしたんだぞ、たぶん・・・」
「まあ、相手が俺様だったから、為せたことだな。安心しろ。今日はじっくり慣らしてや
るからよ。」
ベッドの横にある棚からローションを取り出すと、跡部は自分の手にそれをなみなみと垂
らす。そして、そのトロトロに濡れた指を宍戸の双丘の中心へと持っていった。
「ひゃっ・・・あ・・・」
「これならこの前みたいに痛くはねぇだろ?」
「い、痛くはねぇけど・・・あっ・・・ん・・・」
「お前やっぱすげぇな。もうぐちゅぐちゅだぜ。ほら、もう一本すんなり入っちまう。」
「あっ・・・ああ――っ・・・!」
指を増やされ、中を探られる。濡れた粘膜を擦られ、広げられ、宍戸は首を振って喘ぐ。
「やっ・・・跡部っ・・・ああっ・・・」
「その声たまんねぇな。・・・早く入れたくなっちまう。」
「ハァ・・・お・・・れは・・・構わねぇぜ・・・」
跡部の指の動きに合わせ、腰を揺らす宍戸はニッと笑いながらそう伝える。もう少し慣ら
した方がいいと思っていた跡部だったが、そんなことを言われてしまえば我慢出来なくな
ってしまう。
「マジでいいのかよ?」
「いいぜ。・・・あのさ、この前したときは後ろから無理矢理だったんだけどよ・・・」
「ああ。」
「今日は、跡部の顔が見れるような体位がいいなあと思うんだけど・・・」
恥ずかしそうに控えめに宍戸はそんなことを言う。このくらいのお願い事は叶えてやらな
いとということで、跡部は仰向けになっている宍戸の足を抱え上げた。
「それじゃあ、このまま入れるって感じでいいか?」
「おう。今日は痛くすんじゃんねぇぞ。」
「分かってんよ。」
お互いにどういうふうにしたいかを確認すると、二人は口づけを交わしながら、身体を繋
げる。跡部の指でしっかりと慣らされた宍戸の蕾は、その蕾を開き、跡部の楔を受け入れ
てゆく。
「あっ・・・あ・・・」
「どんどん奥に入っていくぜ。分かるか?」
「ああ・・・すご・・・今日はマジで全然痛くねぇ・・・」
「動いても平気そうか?」
「うん・・・たぶん・・・へーき。」
入れたばかりであるが、嫌な違和感は全くなく、この前のような痛みも全くなかった。ロ
ーションでトロトロになった入り口を熱い跡部のモノで擦られる。それが堪らなく気持ち
よく、宍戸は跡部の背中に腕を回して、腰を揺らす。
「あっ・・・あん・・・跡部っ・・・あぁ・・・」
「ハァ・・・お前ん中すげぇトロトロで、俺のが溶かされちまいそうだ・・・」
「俺も・・・身体の全部・・・溶けちまいそうなほど、気持ちイイ・・・」
「こういう感覚も悪くねぇよな?」
「すげぇ・・・いいと思う・・・こんなの跡部とじゃなきゃ味わえないぜ・・・」
乱れる呼吸で、言葉が切れ切れになりながらも宍戸はニッコリ笑って言う。そんな言葉に
跡部の熱はさらに高まった。
「ふあっ・・・!い、いきなりデカくなるな!」
「仕方ねぇだろ。テメェがそんな可愛いこと言うからいけないんだぜ。」
「ったく・・・ま、それだけ、テメェは俺に夢中ってことか?」
「まあな。ふぅ・・・だんだん余裕なくなってきてるぜ、宍戸。もっと激しく動いていい
か?」
「おう・・・俺もちょっと物足りねぇなあって思ってたとこ。」
話している間にも身体の熱はじわじわと高まる。それを解放させようと、跡部は先程より
も激しく宍戸を攻め始めた。そんなふうに攻められ、より深いところで跡部を感じ、宍戸
は何とも言えない恍惚感で意識の全てを支配される。
「んっ・・・ああっ・・・あ・・・とべっ・・・!」
「宍戸っ・・・く・・・」
「な、なあ・・・」
「何だよ・・・?」
「――――・・・」
耳元でギリギリ聞こえる程の声で、宍戸は跡部に何かを囁いた。それを聞き、跡部の余裕
は一気になくなる。
「んなこと言われたら、マジで余裕なくなっちまうぜ?」
「へへ・・・んじゃさ、一緒に・・・・」
「そうだな。テメェももう余裕ねぇんだろ。それじゃ、いくぜ・・・」
お互いに笑い合いながら、そんなことを言い合うと、二人は唇を重ね、体中の好きを相手
の中に注ぎ込んだ。重なり合っている全ての部分から、その気持ちが感じられる。そんな
甘い温もりを感じ、二人はそろって快感の海へと堕ちていった。

あまりの気持ちよさに二人はその行為を終えた後もしばらくぼーっとしながら、余韻に浸
る。この間、無理矢理されたときには感じられなかった甘い雰囲気と終わった後の充足感
を宍戸は存分に堪能する。
「あー、やっぱ、終わった後はこうでなくっちゃな。」
「アーン?どういう意味だよ?」
「この前はさ、無理矢理されて痛かったってのもあるんだけど、終わった途端に跡部が倒
れちまっただろ?もう俺大慌てで、こんなふうにくつろいでる暇なんて全くなかったんだ
ぜ。」
薄っすらと残る記憶を思い出し、跡部はバツの悪そうな顔をする。そんな跡部の顔を見て、
宍戸はけらけら笑った。
「そんな顔すんなって。そんなに気にしてねぇしよ。それに、今日のすっげぇよかったと
思うぜ。」
多少の恥ずかしさを見せながら、宍戸はそんなことを言う。そう言われれば、跡部もいつ
もの調子を取り戻す。
「当然だろ?誰を相手にしてると思ってんだよ?」
「何でそうすぐに上から目線になるかなあ。跡部だって、俺が相手だからあんなにいい思
いが出来るんだぜ?」
「言ってくれるじゃねぇの。じゃあ、その証拠見せてみろよ。」
「いいぜ。」
相手にとっての一番は自分だとお互いに主張し合いながら、証拠を見せる見せないという
話になった。跡部の言葉に頷いた宍戸は、余裕の笑顔を浮かべ、跡部の首に腕を回す。そ
して、きゅっと目を閉じ、顔を傾け、跡部の唇に自分の唇を重ねようとする。跡部は宍戸
からキスをしてもらえるという期待に胸を高鳴らせ、目を閉じた。しかし、宍戸の唇はあ
と1ミリというところで触れずに離れる。
「?」
「何期待してんの?寸止めだぜ、バーカ。」
跡部が不思議そうな顔をして、目を開けるのを見て、宍戸は悪戯っ子のように笑う。
「なっ!テメェ、宍戸っ!」
「跡部の心臓、超ドキドキいってるぜ。ほら、やっぱ跡部は俺相手でこうなるんじゃねぇ
か。ちゃんとした証拠だろ?」
確かに跡部は宍戸にキスされるということで、鼓動がひどく速くなっていた。これはさっ
き話していたことの紛れもない証拠になる。それが否定出来ないのが悔しくて、また、こ
んなことで宍戸の騙されたのが恥ずかしくて、跡部の顔は柄にもなく赤く染まる。
「俺様を騙すとはいい度胸じゃねぇか。覚悟は出来てんだろうな。アーン?」
脅すような言葉を放ち、跡部は再び宍戸に覆いかぶさる。
「わっ、ちょ、ちょっと待てよっ!今日はもう無理だって!」
「テメェがあんなことするのが悪いんだぜ。」
「やっ・・・やだっ!」
またされてしまうのかと、宍戸はドキドキし、真っ赤になりながら、目をぎゅっとつぶる。
ちゅっ
しかし、跡部がしたことは、唇にほんの少し触れるだけの軽いキスだけであった。
「あ、あれ・・・?」
「あははは、なーに期待してんだよ?ヤラシイ奴だな」
自分も騙されたということに気づき、宍戸はカアっとさらに顔を赤く染める。
「だ、騙しやがったな、跡部!」
「テメェが先にしてきたんだろ?これでおあいこだぜ。」
宍戸がまんまと引っかかってくれたことに跡部は満足気な笑みを浮かべる。それが何だか
納得いかない宍戸は跡部に背を向け、プイッとそっぽを向いてしまった。
「何、拗ねてんだよ?」
「別に拗ねてなんかねぇよ!」
「ったく、どんだけ可愛いとこ見せたら気が済むんだよ。」
「だから、どうしてテメェはすぐそういうふうに俺のこと・・・」
怒ったような表情を浮かべ、くるっと跡部の方を振り向いた瞬間、宍戸は唇を奪われた。
しばらく、あやされるように甘いキスを繰り返されていると、跡部に対する怒りなどどこ
かに吹っ飛んでしまう。
「ふ・・・はあ・・・」
「機嫌直せよ、宍戸。別に俺はテメェが嫌いだからからかってるわけじゃないんだぜ。」
「そんなの・・・分かってんよ・・・」
甘く優しいキスで絆されてしまった宍戸はすっかり跡部のペースにはまってしまった。
「なあ、宍戸。」
「何だよ?」
「さっきしてたとき、イク前に俺に言ってくれた言葉あるだろ?あれ、もう一回言ってく
れよ。」
「や、やだよっ、恥ずかしい・・・」
「宍戸。」
耳元で吐息を吹きかけるように、低い声で名前を囁いてやる。そうされると、宍戸は嫌だ
とは言えなくなってしまう。
「い、一回だけだからなっ!」
「ああ。」
ああいう状況では、パッと言える言葉もこういう落ち着いた状況だと異様に恥ずかしく感
じる。そんな恥ずかしさに堪えながら、宍戸は跡部の耳元でそっとその言葉を囁いた。
「大好きだぜ、跡部。」
耳元で囁かれる宍戸の素直な気持ち。それがたまらなく嬉しくて跡部は宍戸の体をぎゅっ
と抱き締めた。そして、同じように耳元で囁いてやる。
「大好きだぜ、宍戸。」
心に響くその一言。抱き合う腕からも伝わるその想いは、二人の心を幸せで満たしていっ
た。
                                END.

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