学校から一緒に帰った不二と手塚は、そのまま不二の家に二人で行くことになった。手塚
としてはそんな予定はなかったのだが、不二が半強制的に連れて帰ったという感じだ。し
かし、こんなことには慣れっこなので、それほど手塚は気にしていない。
「手塚も今日、図書室に行ったらしいね。」
「ああ。少し読みたい本があってな。」
「ふーん、どんな本?」
不二にそう尋ねられ、手塚は素直に鞄の中から今日借りてきた本を取り出す。
「『後拾遺集』に『宇津保物語』に『今鏡』か。いかにも手塚らしい本だね。」
「そうか?」
「うん。さすが国語の先生だけあるね。」
「同じようなことを滝と鳳にも言われたぞ。」
「こんな古典文学ばっかり借りてく人はそうそういないでしょ。まあ、僕は手塚が今日借
りてきた本は全部読んだけど。」
「ほぅ。さすが不二だな。」
「僕も結構古典は好きなんだよね。」
さすが教頭をやっているだけあるなあと、手塚は感心する。本の話をしていて、そういえ
ば不二も何かを借りているはずだということを、手塚は思い出した。
「不二も今日は何か借りたんだろう?滝が書庫を開けなければと言っていたからな。」
「うん、借りたよ。」
「不二はどんな本を借りたんだ?」
「内緒。」
ニコッと笑ったまま、不二はそう答える。しかし、手塚にとっては自分はどんな本を借り
たか教えたのに、自分は教えてもらえないというのは何だか不公平だと感じる。
「何故内緒なんだ?」
「手塚は書庫にはどんな本があるか知ってる?」
「入ったことはないが・・・あまり手に入らないような珍しい本が置いてあるんじゃない
か?」
「まあ、間違ってはないね。別に教えてもいいけど、もしそれだったら、僕のしたいこと
に付き合ってもらうことになるけど、それでもいい?」
開眼し、そんなことを聞いてくる不二に多少の恐怖を覚えるが、手塚は冷静さを崩さず、
聞きたいと答えた。
「構わないぞ。それでどんな本を借りたんだ?」
「そんなに知りたいなら・・・」
そこまで知りたいのなら別に教えてもいいだろうと、不二は自分の借りてきた本を手塚の
前に差し出した。表紙を見ただけではどんな本なのか全く検討がつかなかったので、手塚
はパラパラとその本のページをめくってみる。
「・・・・こんなこと本当に出来るのか?」
「うん。僕にかかればこんなのちょろいよ。まあ、今回のは応用的なのが多いから、少し
練習はしなきゃだけど。」
その本に載っていたのは、非科学的な黒魔術の数々であった。普通であれば、信じるか信
じないか少し迷うところであるが、不二なら出来そうだと手塚は素直に納得してしまう。
「こんなこと何に使うんだ?」
「いろいろだよ。手塚を楽しませることも出来るしね。」
「楽しませる?黒魔術でか?」
「うん。普通なら絶対に味わえないようなことも味わわせてあげられるし、別に害がある
ものばかりじゃないから。」
その言葉を聞いて、手塚は先程の「してもらいたいことに付き合ってもらう」の意味が理
解出来た。
「それじゃあ、まず手始めにこのあたりから試してみようか。」
いつの間にか不二は手塚の後ろに回っており、後ろから抱きしめられるような形で、その
本に載っている内容を見せられる。
「じょ、冗談だろ?」
「冗談なんかじゃないよ。さっき君は構わないって言ったよね?」
「い、言ったが・・・」
「大丈夫。本当に危険はないから。ただ、逆にハマっちゃうってことはあるかもね。」
「でも・・・」
「手塚、言うこと聞かないともっとすごいのから試すよ。」
開眼をした真面目な顔でそう言われたら、手塚はもう何も言い返せない。不二を怒らせる
と大変なのは、長い付き合いの中でよく理解している。とにかく今は逆らわないのが一番
だと思いながら、手塚は不二の要求を受け入れることにした。