ゲームセンターを出た仁王と柳生は、家路を辿っている。
「今日はなかなか充実した一日だったな。」
「そうですね。私はゲームセンターの一連でかなり疲れましたけど。」
「けど、本当に似合ってたぜよ、柳生のチャイナ服姿。」
「それはもういいですよ、仁王くん。」
プリクラでの罰ゲームのことを言われ、柳生は恥ずかしそうにそう返す。そんな柳生をも
っとからかってやろうと、仁王はポケットの中から先程撮ったプリクラを出す。
「これマジよく撮れてるし、携帯にでも貼っちゃおうかな。」
「や、やめてください!!」
顔を真っ赤にし、必死になっている柳生を見て、仁王は本当に可愛いなあと思う。これだ
け必死になっているのなら、少しくらい無理な要求をしてももしかしたらしてくれるかも
しれないと、仁王はニヤリと口元を緩ませる。
「ほんなら、柳生。」
「な、何ですか?」
「柳生から俺にキスしてくれるって言うんなら、携帯にプリクラを貼るのは諦める。」
「なっ!?」
反論しようとした柳生だったが、あのプリクラを携帯に貼られるくらいだったらまだこっ
ちの方がマシだと思ってしまう。しばらく心の中で葛藤した結果、柳生は今ここで仁王に
キスをすることを選んだ。
「に、仁王くん・・・」
「何じゃ?やぎゅ・・・」
キスなら一瞬だと、柳生は思いきって仁王の唇にキスをする。ほんの一瞬の出来事であっ
たが、柳生の方からキスをしてきてくれるということはそうそうないので、それだけでも
仁王にとっては十分であった。
「やるのう柳生。」
「こ、これでプリクラを貼るのは諦めてくれるんですよね?」
「ああ、もちろん。約束は守らんと。」
その言葉を聞いて、柳生はホッとしたような表情になる。
「そろそろ帰るかのう、柳生。」
「あっ・・・そうですね。」
ふと時計に目を落とすと、時計は8時半を指していた。もう仁王と別れなければならない
のかと思うと、柳生は何だか寂しくなってしまう。
「柳生。」
「何ですか?仁王くん。」
「今、すっごい寂しそうな顔してるぜ。」
「えっ!?そ、そんなことありません。」
「嘘つくなって。まあ、見ときんしゃい。俺が寂しくなくなるおまじないしてやるから。」
「えっ?」
「柳生、手出して、思いっきり開いてみ。」
「こうですか?」
何をしたいか分からないが、とりあえず仁王の言う通り右手を差し出し、思いきり手の平
を開く。そんな柳生の手を取り、仁王はそのちょうど真ん中あたりにキスをした。
「な、何してるんです?」
「柳生は知らんのか?これは『Kissing Hand』言うてな、寂しくなくなるお
まじないなんだぜ。」
「初めて聞きました。寂しくなくなるとはどういう意味です?」
「俺が今キスしたその手の平には、俺の愛がしっかり注入されとる。俺がいつでも柳生の
側にいるっていう証みたいなもんだ。」
「仁王くん・・・」
先程の行為の意味を聞いて、柳生はキスされた手の平が熱くなり、胸の奥がほんのり温か
くなるのを感じる。こんなにも嬉しく感じるものなら、自分から仁王にもしてあげようと
仁王の手を取った。
「私からもして、いいですか?」
「してくれるのか?」
「ええ。私も仁王くんの側にいたいですから。」
「嬉しいこと言ってくれるのう。じゃあ、お願いするぜ。」
ふっと笑いながら、仁王は手の平を大きく広げる。その中心に、先程の仁王と同じように
柳生はちゅっとキスをした。
「これでいいんですよね?」
「ああ、十分じゃ。柳生の愛、バッチリ受け取ったぜ。」
お互いに側にいるというおまじないを交わすと二人は笑顔で自分の家に向かって歩き始め
る。相手の姿が見えなくなると、どちらも『Kissing Hand』を頬にあて、相
手のことを想いながら家路を辿るのであった。