Story of Love 〜幸福〜

運命の日の前日。跡部達は鳳の国に向かう準備をしている。
「亮、お前はどのタイプが必要なんだ?」
「あんまり重くなくて、だけど、それなりに攻撃のある奴がいい。」
「じゃあ、これだな。」
「ジローは?」
「えっと、短剣がいい!」
「樺地はこれだよな?」
「ウス。」
跡部達は全員相当の剣の使い手だ。それぞれの攻撃の仕方に一番合っている剣を選ぶ。ど
んな攻撃も思いのままに出来る跡部は、一番使い慣れているものを、宍戸は鍛え上げた反
射神経と瞬発力を存分に生かせる軽いが攻撃力の強い剣を、ジローは手首の使い方が天才
的に上手いので、それが直接反映させることの出来る短剣を、樺地は持って生まれた怪力
と相手の技をコピー出来るという特殊能力があるので、誰にも使えないような大きく重い
剣を使用することになった。
「分かってるだろうが、絶対に殺すんじゃねぇぞ。」
「ああ。」
「分かってるって。」
「ウス。」
「あとは、何とかそいつらが鳳の部屋に行く前に止めることが出来るかどうかだな。」
「じゃあ、早く出発しようぜ。」
「でも、外真っ暗だよー。」
もう日付が変わる直前の時間帯なので、当然のことながら外は真っ暗だ。だが、跡部はそ
んなことは関係ないとマントをバサッと肩に羽織り、出発する準備を進める。
「今、出発しないと間に合わねぇ。出発するぞ。」
跡部の言うことはもっともなので、3人は頷き、跡部の後を追った。外に出ると3頭の馬
がすでに門のところに用意されている。
「あれ?跡部、何で馬3頭しかいないの?」
1頭足りないとジローは跡部に尋ねる。
「俺らは馬の扱いに慣れてるけどよ、亮が慣れてねぇんだ。相当とばすつもりだから、俺
の前に乗せる。」
「そっか。」
「じゃあ、二人ともさっさと馬に乗れ。出発するぞ。」
跡部は始めに宍戸を馬に乗せ、その後ろに自分が乗る。ジローと樺地もそれぞれ馬に乗り、
馬を走らせ始めた。
「亮、とばすからしっかりつかまってろよ。」
「ああ。」
一際、手綱を大きく振り馬の走るペースを上げる。4人は暗闇の中、鳳の城へと向かった。

ちょうどそれと同じ頃。跡部に話を聞いた滝も鳳の国へ行く準備を進めていた。いつも来
ているドレスを脱ぎ、動きやすくなおかつ防御力の高い、いわゆる戦闘用の服に着替える。
両親には隠していた使い慣れた剣もしっかり腰に差し、助けに向かう準備は万全だった。
だが、部屋を出ようとしたその時、滝の父親が部屋に入って来た。
「何をしている。お前はこの国の王女なんだ。そんな格好するんじゃない!!」
父親は必死で滝を止めようとした。そんな父親の言葉にも滝は全く動揺せず、落ち着いた
声で答えた。
「大切な人が大変な事態なんです。」
本当は今すぐにでも走り出したいのだが、ここは何とか納得してもらおうと滝はぐっと堪
えた。
「行かせてもらえませんか?」
「ダメだ!!お前は王女だろう!?守られる方なのだからそんな必要はない。出かけるの
は許さないぞ!!」
この言葉を聞き、滝は完璧にキレた。もうわざわざ納得してもらおうなんて思わない。俺
は俺の意思で出かけると、滝は心に決めた。
「俺は王女なんかじゃない!!一国の王子だ!!自分の愛する者は・・・自分で守る!!」
そう叫び、ドアとは全く逆の方向。そう自分の部屋の窓がある方向へ走って行った。
「萩之介っ!!」
開け放たれた大きな窓から、滝は何の躊躇もなしに飛び降りた。そんな高い場所にある部
屋ではないが、2階以上3階未満くらいの高さはある。思ってもみなかった滝の行動に父
親は青ざめ、慌てて窓の下を覗き込んだ。滝はしっかりと着地をし、馬の繋いである方へ
と向かう。走り出そうとしたその時、滝は振り返り、自分の父親を見上げた。
「ごめんなさい、お父様。俺、本当に長太郎のこと好きなんです。」
切なそうな表情を浮かべた滝を見た父親はもう止めることは出来なかった。
「萩之介・・・・。」
走り去る滝をただ茫然と見送り、そう呟くしかなかった。

そして、時間が過ぎ、日の出の少し前。鳳は自分の寝室で眠っていた。だが、何だか外が
何だか騒がしい。鳳は気になり目を覚ます。
バンッ!!
突然大きな音ともに部屋の扉が開いた。
「誰だ!?」
鳳は慌てて飛び起きる。すると部屋の中に大きな剣を持った人相の悪い3人組が入って来
た。
「王様、その命頂戴する!!」
その中の一人が鳳に向けて剣を振りかざす。鳳はとっさにベッドの横に置いてあった剣で
対抗した。
何なんだ!?この状況は。落ち着いて考えろ。えーと、その命頂戴するってことは、この
人達は俺のことを殺そうとしてるわけだから・・・
「くっ・・・」
起きたばかりの頭で必死で考えるが、そんな余裕もないほど3人組は鳳を攻める。鳳はそ
の攻撃を止めるのが精一杯だった。
どうしよう・・・このままじゃヤバイ。でも、俺が本気で剣を振ったら・・・
鳳は剣を振るのをためらっていた。剣術が不得意なわけではない。むしろ得意な方だ。だ
が、半端じゃなく力がこもるので、いったん振り下ろしてしまうとその相手を死なせてし
まう可能性が十分にあるのだ。心優しい鳳はそれが出来ない。ただ、攻撃を抑えるだけで、
押され続ける。鳳がこんな状況になってる間、部屋の外の城内では岳人や忍足、日吉はこ
の3人組以外の約30名程の軍勢と戦っていた。
「岳人、そっちの方頼んだで。」
「オッケー、侑士。」
岳人は思いきりジャンプをし、高い場所から剣を振りかざす。その思ってもみない攻撃に
なすすべもなく、攻めてきた兵士たちは一度に3、4人は倒された。
「下剋上するのは、俺だけでいいんだよ!」
日吉は剣ではなく槍を使い、得意の古武術の動きで次々に敵を倒して行く。忍足も天才的
な剣さばきで敵を倒して行った。
「あー、もう人数多すぎー!!」
「確かにこの人数を俺らだけで倒すのは、結構シンドイなあ。」
「そんな無駄口たたいてないで、さっさと倒してください。」
さすがに疲れてきたなーと感じ始めた時、跡部率いる陣営が到着した。
「遅くなったな。」
「跡部達、遅いー!!」
「さっさとやっつけちゃおう!」
「よっしゃ、行くぜ!」
跡部達も戦いに加わり、30人程いた敵陣はもう残り10人をきった。
「破滅への輪舞曲だ!!」
跡部は相手の剣を一回振り下ろした瞬間に飛ばし、二回目の振りでみねうちで敵を倒す。
宍戸は目にも止まらぬスピードで動き、一気に何人も倒す。ジローは短剣を器用に使い致
命傷にならない程度に軽く切りつけていった。
「岳人、鳳はどうした!?」
「えっ、分かんない。部屋で寝てるはずだけど。」
「バカっ!!何で鳳を一人にさせとくんだよ!!狙われてるのはあいつだぞ!!」
「そないなこと言われても、この人数と戦ってたんや。しょうがないやろ。」
「ちっ、さっさと倒して鳳の部屋へ行くぞ!」
『おう!!』
攻撃するリズムを一気に上げ、跡部達7人は次々に攻めてきた他国軍を倒す。もちろん殺
してはいない。みねうちで気絶させるか、動けないくらいに足を切る程度だ。

跡部達が戦っている間、鳳は必死で倒されないようにと頑張っていた。だが、着ていた服
はいくらか切られ、体力も限界に達しようとしていた。
「ハァ・・・ハァ・・・・」
1対3というのはやはり厳しい。少しのすきがあったのか、鳳は持っていた剣をはじかれ
てしまった。
「死ね――!!」
もうダメだ!そう思った瞬間、キーンッと鋭い金属音が鳴り響く。鳳はとっさに閉じてし
まった目をゆっくりと開けた。そこにはいつもとは違う、まるで王子様のような格好をし
た滝が剣を構え、あの3人組と戦っている姿があった。
「俺の大事な長太郎に手を出そうなんて、100万年早いんだよ!!」
大切な者を守ろうと夢中になった力とはすごい。滝はあっという間に3人を倒してしまっ
た。鳳はその物凄くカッコいい滝の姿に目を奪われた。
「大丈夫か?長太郎。」
くるっと振り返り、心配そうな表情で滝は尋ねる。鳳はハッとして立ち上がった。
「あっ・・・はい。滝・・・さんですよね?」
「そうだよ。こんな格好したの何年ぶりかなー。」
滝は剣を腰に差しながら、滝は鳳に近づく。
「服は少し切れてるみたいだけど、けがはないみたいだね。よかった。」
「ありがとうございます。俺、滝さんがいなかったら本当に殺されてましたよ。」
「長太郎って剣術得意なはずだろ?何であんなにてこずってたんだ?」
「・・・・俺、力の加減が出来ないんで、この人達を殺してしまうかもしれないと思って
剣が振れなかったんです・・・。」
「そっか。長太郎は優しいんだね。」
滝は顔を見上げながら、鳳の頬に手をやった。そんな仕草に鳳は鼓動が早くなってしまう。
いい雰囲気でキスの一つでもするのかと思ったその瞬間、跡部達が鳳の両親を連れて、部
屋に入ってきた。
「どうやら無事みたいだな。」
「跡部さん。」
「滝、来たんだ。さすがだね。」
「滝さんが助けてくれたんです。滝さんが来なければ俺は今こんなふうに話していません。」
鳳は恥ずかしそうに笑いながら、滝を見た。滝は跡部達の方向を見て体を強張らせている。
どうやらその原因は鳳の両親にあるようだ。それに気づき、鳳は滝の肩をそっと抱き、引
き寄せる。そして、一回深呼吸をし、改まった表情でしゃべり始めた。
「父さん、母さん。この人が俺の付き合っている滝さんです。」
それを聞いて、滝の心臓は止まってしまいそうなほどドクンッと高鳴った。この後、何を
言われるか不安で、立っているのも出来なくなりそうなほど緊張している。鳳の両親は初
めのうちは驚いたような表情を見せていたが、次第に穏やかになり、微笑みを帯びるくら
いになった。
「君が滝さんかい?」
「・・・はい。」
滝の声は緊張に震えている。ずっとこのことが不安だったのだから当然であろう。
「綺麗な王女様って聞いていたんですけどね。」
鳳の母親は軽く笑いながら、滝の手をそっと取った。
「すいません!!」
思わず滝は頭を下げた。そうせずにはいられなかったのだ。だが、鳳の両親は何故謝るの
かが分からないというような表情を浮かべている。
「何故、謝るんだい?」
「えっ・・・?」
顔を上げ、滝は驚いた表情を見せた。
「君は長太郎の命の恩人だ。そして、この国を救ってくれた。お礼を言わなければならな
いのは私達の方だよ。」
「だって、俺は男です。それなのに・・・・」
不安気な顔で、滝は鳳の顔を見た。滝が何を心配しているのか察した両親は顔を見合わせ、
笑いながら、もう一度滝の手を取る。
「長太郎と付き合うことはもちろん許しますよ。これからも長太郎をよろしくお願いしま
すね。」
母親は最高の笑顔を滝に向けた。滝は信じられないと思ったが、自然に涙目に溜まってく
る。
「本当に・・・・いいんですか?」
「ええ。」
「もちろんだよ。」
それを聞いて長太郎もうれしそうな表情になる。二人は顔を見合わせて抱き合った。
「長太郎!!」
「滝さん、俺、うれしいです!!」
滝は鳳の胸に顔をうずめ、嬉し涙を流す。今まで抱えていた不安が全て消え去った瞬間だ
った。まわりで見ていた跡部や宍戸、樺地にジロー、岳人や忍足にも自然と笑みがこぼれ
た。
「よかったな、景吾。」
「ああ。さてと、こいつら全員連れて帰るぞ。岳人、馬車の用意だ。」
「了解!」
跡部達はこの城を攻めてきた者全員を捕らえ、一度城に連れて帰り、牢屋に入れておくこ
とにした。そういうことには容赦がない。だが、一人も死者を出さなかったのが跡部のす
ごいところだろう。

その日の昼。跡部は自分の治めている国中に向かって演説をした。その内容は今日起こっ
た事件のこととこれからの統治体制について、そして、これから作られる法律や税金のこ
とについてだった。
「今日、鳳が治めている国が何の予告もなしに攻められるという事件が起こった。それは
俺にとってそしてお前らにとってもマイナスなものでしかない。もし、この事件がきっか
けで戦争が起こっていたら、多くの死者が出ただろう。それは、どんな状況でも同じこと
だ。戦争を起こすことは愚かなこと以外の何ものでもねぇ。お互いを傷つけ、殺し合い、
自然を破壊し、国や街を壊す。こんなことに何の意味がある?例えしたところで、何も残
らねぇよな?残るものといったら、そうだな・・・家族を失った悲しみ、体に傷を受けて
まともに生きていけなくなった絶望、相手に対する憎しみ、そして、貧困。まあ、そんな
ところだな。お前ら、そうなりたくはねぇだろ?だから、今後、戦争や争いを起こそうと
した奴らは捕らえて、それなりな処罰を与える。いいな!それから、王レベル。つまり指
導者となる奴はまず弱者のことを考えろ。それが出来ねぇ奴は指導者になる資格はねぇ。
俺がそう判断した時点で、その地位から外すからな。覚悟しとけ。そうだ、争いになる理
由の一つとして、価値観の違いや大昔のことを引きずって意味もなく、他国の奴らを憎ん
でるってことがあるだろう?それやめろ。例え歴史上そういう事態があって、伝統的に敵
対してるってところはあるかもしれねぇ。だが、それは過去のことだ。いつまでも引きず
ってんじゃねぇよ。今の俺達には関係ねぇ。そんな伝統が原因で差別とかが起こってんな
ら、そんな伝統捨てちまえ!!だが、全ての伝統を捨てろと言ってるわけじゃねぇぜ。文
化でも、商業でも、工業でも、農業でも、伝統を生かせるところはいくらでもある。そう
いう面で発達させりゃあ、国も発展して一石二鳥じゃねぇの?あと、そんなに戦いたいん
なら、正々堂々、スポーツとか文化的なことで戦えばいいじゃねぇか。どういうことか分
かるよな?それから、教育関係の施設がここらへんは全体的に少ないだろ?だから、この
機会に増やしてやる。そのために少し税金が増えるかもしれねぇ。そこのところは勘弁な。」
跡部の演説は長々と続いた。そして、雰囲気を変えて突然楽しそうな口調になった。
「最後の方になったが、今日、俺と宍戸亮は結婚する。」
「はあっ!?景吾、何言ってんだよ!?」
想像していなかったというか出来なかったことを跡部が突然言い出すので、宍戸はすぐに
つっこんだ。
「もう愛し合っちまったら、同性だろうが、階級差があろうが関係ねぇよ。結婚しちまえ。
そういう法律も作ってやるから楽しみにしとけ。」
これを聞いて、岳人や忍足、ジローは大うけ。さすが跡部。自分に都合のよい法律も作ろ
うというのだ。だが、もし、本当にこんな法律が出来たら、滝や鳳は何の問題もなしに堂
々と結婚することができると心の中で喜んだ。岳人と忍足も同じようにそれはいい法律だ
なあと思わずにはいられなかった。
「俺の統治計画はこんな感じだ。もう少ししたら、ちゃんと法律とかもまとめてお前ら全
員に配ってやるよ。絶対いい国にしてやる。だからお前ら、全員俺様について来い!!」
跡部は自信満々にこう言って、演説の最後をしめた。物凄い内容だったが、それを聞いて
いた各国の国民は大歓声を上げた。それは何よりも納得できる内容だったからだ。

数年後、当然のことながら、跡部の治める地域は大帝国にまで発展した。そこに住む人々
は平和で穏やかな、幸福に満ちた生活を送るのであった。

                                Fin.

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