とある学校からの帰り道。ついこの間まであんなに暑かったことが嘘のように冷たい風が
吹き抜けている。
「う゛〜、寒い。」
「確かに。最近だいぶ冷えてきたよな。」
跡部と宍戸は今日も学校を終え、ゆっくりと家路をたどっている。もうワイシャツだけで
はいられない程なので、二人は白いブレザーをしっかりと着用していた。
「なあ、跡部。何か温かいもん食いたい。」
「温かいもん?例えば?」
「そうだなあ・・・肉まんとかおでんとか?」
「それ、どこで買うんだよ?」
「そんなのコンビニに決まってんじゃん。」
コンビニと聞いて跡部はあからさまに嫌そうな顔をする。超金持ちの跡部にとっては、そ
んなところで買ったものなど食べ物のうちに入らないのだ。
「そ、そんなに嫌そうな顔すんなよ。」
「そんな食いもんは食べ物のうちに入らねぇ。」
「そりゃあ、お前からしたらコンビニで買う食いもんなんて食べ物のうちに入らないかも
しれないけどさ・・・・・」
不満顔で文句を言う宍戸だが、そんな宍戸の耳に聞き覚えのあるお決まりの曲がどこから
か聞こえてきた。
石焼〜きイモ♪
「あっ!!石焼きイモだ!!へぇー、もう出てんだな。」
それを聞いて宍戸の表情は急に明るくなる。その歌はだんだんと自分達のところに近づい
てきた。
「ちょうどいいや。石焼きイモ買おうっと♪」
「石焼きイモ?何だよそれ?」
「熱した石で焼いたイモのことだ。」
「そのまんまじゃねーか。」
呆れ顔で跡部は言う。と、そんな二人のところへ石焼きイモの車がやってきた。宍戸は迷
わずその車に駆け寄り、嬉しそうな声で数を言って焼きイモを買う。
「おっちゃん、大きいヤツ1つ。」
「あいよ。」
茶色の紙袋に新聞紙で包まれた焼きイモを受け取り、宍戸は跡部のもとへと戻って来る。
「本当に買ったんだな。」
「当然だろ。この近くの公園行ってさ、ベンチに座って食いたいんだけどいいか?」
「別にいいけどよ。寒みぃからさっさと済ませろよな。」
跡部としては早く家に帰って暖まりたいのだが、宍戸が袋を抱えてあまりにも嬉しそうに
しているので、少しくらいはつき合ってやってもいいだろうと思い、一緒に公園へと向か
った。
二人が寄った公園は帰り道の途中にある公園で、中に入るとたくさんの木々が色づき始め
ている。もうすっかり秋の景色だ。
「わあ、何かすっかり景色っつーか、木の色が変わっちまったな。」
「もう秋だからな。この気温じゃ葉っぱの色も変わって当然だろ。」
「あっ、あそこのベンチ空いてるぜ。」
ちょうどイチョウの木の下にあるベンチが空いていたので、宍戸はそこに向かって走り出
す。跡部はおいていかれて不機嫌顔になるが、ベンチのところで宍戸が大きく手を振って
いる宍戸を見て、溜め息をつきながらそこまでゆっくり歩いていった。
「何かここ、すげぇイイ感じじゃねぇ?イチョウが真っ黄色でキレイだよな!!」
「そうだな。」
興味なさげに相づちをうちながら、跡部は宍戸の隣に腰掛けた。黄色に色づいたイチョウ
の葉がヒラヒラと二人の目の前を落ちてゆく。
「跡部さ、本当はそう思ってないだろ?」
「何が?」
「はあー、やっぱりな。俺の話全然聞いてくれてねぇじゃん。」
やっぱり自分の話は聞いてくれてなかったと宍戸は大きな溜め息をついた。だが、こんな
ことでいちいち落ち込んでいてもしょうがないので、紙袋から焼きイモを出し、半分に割
った。
「はい。」
「何だよ?」
「跡部も食えよ。すげぇうまいぜ。」
「・・・・。」
半分に割られた焼きイモを跡部はじっと眺める。宍戸が抱えていた所為かその温度はほと
んど出来たての状態と変わらない。少し熱いと感じるくらいの熱が新聞紙を通り越し、跡
部の冷たい手にビリビリと伝わった。
「宍戸。コレどうやって食うんだ?」
「はあ?えーと、まあ皮を剥いて食ってもいいし、そのまま食ってもいいんじゃねぇ?」
「じゃあ、お前皮剥けよ。」
「それくらい自分でやれ!!」
「面倒くせぇ。じゃあ、食わなくてもいい。」
「〜〜〜〜〜〜。」
跡部のわがままにイラつきながらも、宍戸は跡部の焼きイモをひったくって皮を剥く。そ
して、鮮やかな黄色になった焼きイモをもう一度跡部に手渡した。
「ほら。これでいいだろ!!」
何をそんなにムキになっているのか分からないが、ここまでしてもらったのなら食べない
わけにはいかない。跡部は渡された焼きイモを小さく口に含んだ。口当たりは思ったより
柔らかく、さつまいも本来の純粋な甘味が口いっぱいに広がった。
「甘い・・・」
「やっぱ、お前には甘かったか?俺はこの味すげぇ好きなんだけどなあ。」
宍戸が残念そうにしていると、跡部はさっきよりも大きく焼きイモを口に入れてその味を
確かめた。
「これは嫌いな甘さじゃねぇよ。何かさつまいも本来の甘さがよく出てる。思ったよりう
まい。」
跡部の意外な言葉を聞いて、宍戸の顔は一気に笑顔になる。
「だろー?ほら、俺の言った通りじゃねーか!!」
「ああ。たまにはこういうもんも食ってみるもんだな。」
「あー、何か激嬉しいー。」
「何がだよ?」
「俺な、こんなふうに誰かと1つのもんを半分こして一緒に食うのに憧れてたんだ。」
「随分と実現しやすそうな憧れだな。それに、そんなこと誰とでも出来るじゃねぇか。」
跡部がバカにしたように笑うので、宍戸はムッとした表情で跡部を見る。そして、うつむ
き少し赤くなりながら、ぶつぶつと文句を言った。
「だって、二人で食べた方が何かおいしく感じるじゃんか。それに俺としては跡部とそれ
が出来たらいいなあとかちょっと思っててさ・・・それも跡部、俺のあげた焼きイモ食べ
てうまいって言ってくれたんだぜ。嬉しくないわけねぇじゃねーか・・・・。」
焼きイモを口に含んでいるので、何を言っているのかかなり聞き取りにくかったが、跡部
はそれをほぼ完璧に聞き取ってしまう。
「ったく、そんな顔してんじゃねーよ。」
宍戸がうつむいたままなので、跡部は片手で焼きイモを食べながら、もう片方の手で宍戸
の頭をポンポンと叩いた。そうされて、宍戸は頭を押さえながら顔をあげて跡部の方を見
た。まだ、表情はむぅっとした感じだ。
「不細工な顔。」
「なっ!?何だよそれ!?」
「そんな顔してんのがいけねーんだ。おら、これやるから機嫌直せ。」
「んむっ!!」
跡部は自分の食べていた焼きイモを宍戸の口に入れた。そして、宍戸の食べていた焼きイ
モを取り上げ、パクッっと一口で食べてしまう。宍戸の方は残りあと一口程度だったのだ。
跡部の方もそんなにたくさん残っていたわけではなかったので、宍戸は口に入れられた部
分をかじったあと、残りは跡部と同じように一口でたいらげてしまった。
「な、何すんだよ!!」
「間接キスだな、宍戸。」
「っ!!」
ニヤニヤしながら跡部が言うのを聞いて、宍戸はかあっと顔を赤く染めた。そして、拳で
跡部をポスッと叩こうとする。だが、それは読まれていてがっちり止められてしまった。
「甘いぜ、宍戸。」
「う〜、跡部のアホ!!」
「そんなことばっか言ってんとその口塞ぐぞ。」
「えっ・・・!?」
気づいた時にはもう遅い。次の瞬間、宍戸の口はバッチリと跡部の唇によって塞がれてい
た。
「〜〜〜〜〜!?」
もう宍戸の頭はパニック状態。こんなところで何すんだー!!と抵抗したいが、腕はつか
まれているし、ベンチに座っているので結構無理な体勢。されるがままで宍戸はもうどう
でもいいやと素直に目をつぶってしまった。
「・・・・ハァ。」
「今回はスイート・ポテト味だったな。悪くないぜ。」
「ったく・・・やっぱお前激自己中。」
「さあてと、焼きイモ食って体も温まったことだし帰るか。」
「人の話を聞け!!」
いまだに怒っている宍戸だが、跡部がベンチを離れて先に行ってしまうので、急いで追い
かけ隣に並んだ。
「何でおいてくんだよ!!」
「別においていってなんてねぇよ。そんなに離れるのが嫌なら手繋いどいてやるぜ。」
からかうつもりで言ったのだが、宍戸は素で手を握ってくる。一瞬困惑する跡部だったが
宍戸が顔を真っ赤にしているのに気づいて笑いながらまたからかうようなことを言う。
「ガキかよテメーは。ま、俺様だからこういうことするんだよな?」
「ウルセー!!俺はテメーのその冷たい手を温めようと思ってやってんだ!!そんなんじ
ゃねーよ。」
「照れんなよ。全く可愛いヤツだな。」
「もう黙ってろ!!」
跡部は笑い、宍戸は怒りながら公園の出口へと歩き出す。もちろん手は繋いだままだ。公
園内にまた冷たい風が吹き抜ける。だが、この二人のまわりだけはまるで一気に春になっ
たかのように暖かくなっているのであった。
END.