卒業式が終わってからしばらくして、宍戸は跡部の家に泊まりに来ていた。いつものよう
にシャワーを浴びて部屋でくつろいでいると、跡部がクリスタルの容器に何かを入れて持
ってきた。
「お、何持ってんだ?食い物?」
「まあな。なかなか綺麗だろ?」
テーブルの上にそのクリスタルの容器を置くと跡部は宍戸の隣に腰かける。何が入ってい
るのだろうと、宍戸はマジマジとその容器の中身を見つめる。中には容器と同じくらい透
き通ったビー玉にも似た何かが入っている。
「すっげぇ綺麗。これ、マジで食い物なのか?」
「ああ。宍戸、今日が何の日か分かるか?」
「えーと、今日は3月14日だから・・・・ホワイトデーか?」
「ああ、そうだ。この間のバレンタインデーにチョコもらったからな。一応、お返しをし
てやらねぇと思ってよ。」
「へぇ、じゃあ、このビー玉みたいな奴は、飴玉かなんかか?」
「そうだぜ。テメェ好みの味を選んでやった。」
そう言いながら、跡部は容器から飴玉を一つ出した。普通の飴玉より二回りくらい大きな
その飴玉は、宍戸の好きな匂いを放っていた。
「何か随分デッカイ飴玉だな。あれ?この匂い・・・」
「何味の飴玉か分かったか?」
「薄荷だ!!俺、薄荷の飴好きなんだよなあ。ミントガムと味が似てるじゃん!」
「そうだと思ってな、ほら、口開けろ。」
「おう!」
宍戸に口を開けさせると、跡部はその飴玉を宍戸の舌の上へと乗せる。ミントにも似た薄
荷の風味が口に広がり、宍戸は嬉しそうな顔をする。
「激美味いぜ、この薄荷飴。サンキュー跡部!」
「ああ。」
しばらく口の中で飴玉を転がしていると、突然宍戸は困ったような表情になる。
「あれ・・・?」
「どうした、宍戸?」
「いや、別に何でもねぇ・・・・」
何でもなくはないはずなのに、そんなことを言う宍戸をしばらく観察していると、飴玉で
ハムスターのように膨らんだ右頬を一生懸命押している。しかし、その飴玉は舌の上に戻
らず頬の部分で止まったままだ。どうやら、飴玉の大きさが大きすぎて、歯の外側から戻
らなくなってしまったらしい。
「ふっ・・・・」
「な、何だよ?」
「お前、飴玉が頬のところに入って口ン中に戻らなくなったんだろ?」
「そ、そんなことねぇよ!!」
「じゃあ、そのハムスターみてぇに膨らんだ頬は何なんだ?」
そこまで言われたらもう否定は出来ない。素直に頷くと、宍戸は跡部に助けを求めた。
「う〜、この飴玉デカすぎなんだよ。どうすりゃいいんだ?コレ?」
あーと口を開けて、宍戸は歯の外側に引っかかってしまった飴玉を跡部に見せる。確かに
そうすぐには取れなそうな大きさだ。どうすればいいかと聞かれても、溶けて小さくなる
のを待てとしか言いようがない。
「口に含んどけば、勝手に溶けて小さくなんだろ。しばらく待っとけ。」
「えー、舐められないんだからそれって結構時間かかるじゃねぇか。」
「ったく、世話の焼ける奴だな。」
「へっ・・・?」
ぶーぶーと文句を言う宍戸の頭をしっかりと押さえ、跡部は宍戸の口を塞ぐ。そして、頬
にある薄荷飴を舌で舐めて溶かそうとする。
「んっ・・・んー!」
突然のことでバタバタと暴れる宍戸だが、跡部が飴玉を溶かそうとしているのだというこ
とに気づくと暴れるのをやめる。しばらくそのまま跡部にことの成り行きを任せていると
さっきまで頬を膨らませていた飴玉はコロンと舌の上に戻ってきた。
「取れたぜ。」
「お、おう。サンキュ・・・」
「確かにこの薄荷飴、結構美味いかもしれねぇな。テメェの味と混ざっていい感じだった
ぜ。」
小さくなった飴玉をコロコロ舌の上で転がしながら、宍戸は頬を赤く染め、黙ってしまう。
先程のことを思い出すと鼓動が早くなる。飴玉を溶かすためとは言えども、かなり深いキ
スを長い間されていたのだ。口の中に残る跡部の味が、そんなことをよりハッキリと意識
させる。
「おい、宍戸。」
「えっ!?ああ、何だよ?」
「今のキスでよ、ちょっとそういう気分になっちまったんだが、どうだ?ホワイトデーだ
し、別にしても構わねぇだろ?」
「うーん、まあ、嫌だとは言わねぇけどよ・・・・」
「何だ?言いたいことがあるなら言ってみろ。」
「せっかくのホワイトデーなんだし、いつもと違う感じは欲しいかもな。」
「フン・・・いいぜ。ホワイトデーらしい、何かを加えてしてやるよ。」
「お、おう・・・」
自分もそんな気分なっていたので、跡部の誘いを断るということはしなかった。最近は跡
部の家に泊まると8割程度の確率でこういうことになるので、もう断る気にもならないの
だ。しかし、今日はホワイトデーといういつもとは少し違う特別な日。いつも通りではつ
まらないと宍戸はそんなリクエストを跡部にしてみた。
ソファからベッドに移動すると、二人は向かい合ったまましばらく黙っていた。いつもと
違う感じを加えるとは言ったものの、跡部はしっかりとは考えていなかった。
「跡部、どうした?」
「いや、いつもと違う感じにするにはどうすればいいかと思ってよ。」
「考えてなかったのかよ!?」
「仕方ねぇだろ。そうだな・・・・」
こんな時にそういうことを考えるなとつっこみたかったが、宍戸はそれをぐっと堪えた。
「おっ、これはなかなかいいんじゃねぇか。」
ふと何かを思いついたような表情になり、跡部は口元を緩ませる。どんなことが思いつい
たのか、ドキドキしながら宍戸は尋ねてみる。
「どんなことすんだ?」
「いつもは俺様主導でそういうことを進めてるだろ?今日はその主導権をテメェに譲って
やるよ。」
「えっ?どういうことだ?」
「だから、テメェがしたいと思うことを自由にしていいって言ってんだよ。俺にして欲し
いことがあれば、遠慮なく言えばいいし、進め方もテメェが自分で決めていいぜ。」
それはなかなか面白い案だと、宍戸はその案を受け入れる。いまいちハッキリしたイメー
ジはわかないが、自分がそういうことを主導で進められるチャンスはそう滅多にないので、
宍戸は胸を高鳴らせた。
「それ、面白そうじゃねぇか。悪くねぇな。」
「だろ?あっ、ただし、俺が受になるってのはなしな。」
「そりゃそうだろ。俺だって、テメェ相手に上になる気はねぇよ。」
あくまでも受側として主導権を握るということで、双方納得する。どんなふうに進めて行
こうか宍戸はわくわくしながら、頭の中で展開を考える。
「えーっと、じゃあ・・・まずは服を脱がなきゃだよな。」
「そうだな。俺がテメェの脱がすか?それとも自分で脱ぐか?」
「跡部が脱がしてくれよ。な?」
軽く頬を染め、照れ笑いを浮かべながらそんなことを言ってくる宍戸に、跡部の顔は自然
とニヤけてくる。そんな頼まれ方をされたら、しないわけにはいかない。跡部は宍戸のシ
ャツのボタンを一つ一つ外し、肩を晒すくらいで脱がすのをやめた。
「随分中途半端に脱がすな。」
「これくらいが、色気があっていいんだよ。それとも、ちゃんと最後まで脱がして欲しい
か?今日はテメェが決めていいんだぜ。」
「いや、別に俺はこのままでもいいぜ。跡部はこっちの方がいいんだろ?」
「まあな。」
「んじゃ、このままで。次は、跡部の番だな。」
中途半端に脱がされたままの格好で、今度は宍戸が跡部の服を脱がしにかかる。跡部の上
着を完全に脱がしてしまうと、宍戸はベルトにも手をかけ始めた。
「おいおい、そこまで脱がすのかよ?」
「んー、ちょっとしたいことがあってな。今日は俺の好きなように進めていいんだよな?」
「ああ。」
「今日は、まず俺が跡部をイカせてやる。いつもは俺ばっかやってもらっちゃってるから
な。たまにはいいだろ?」
「・・・・まあ、悪くはねぇな。」
跡部に許しをもらうと宍戸は、カチャカチャとベルトを外し、ズボンのジッパーを下ろし
た。そして、期待感から勃ち始めている跡部の熱に触れる。
「何かこれだけでも結構ドキドキするよな。」
「俺の方がドキドキしてるっつーの。何だよ?今日は手でしてくれんのか?」
「お、おう。跡部ほど上手くは出来ねぇかもしれねぇけど、頑張ってやってみるぜ。」
「ほぅ。期待してるぜ。」
宍戸の背中を抱き、跡部は宍戸の愛撫を堪能する。確かにそれほど上手いとは言えないが、
宍戸に触られると思うだけでそこはひどく敏感になる。
「ハァ・・・いいぜ、宍戸。」
「・・・・・」
「んっ・・・そうだ、もっと下の方も・・・・」
耳元で囁かれる言葉にドキドキしながら、宍戸は手を動かす。自分は何もされていないの
に、身体が熱くなってくる。そんな宍戸の髪のゴムを跡部はスルッと解く。肩に落ちる黒
髪に指を絡め、耳たぶをカリっと軽く噛んだ。
「・・・っ!!」
「上手いぜ。このままだともう少しで達っちまいそうだ。」
「ちょっ、跡部・・・耳元でしゃべるな・・・・」
「あーん?何だよ?俺の声で感じてんのか?」
「っるせ・・・ちょっと黙ってろ!」
今日は主導権が宍戸にあるので、跡部は素直に宍戸の言葉に従う。何もしゃべれないと自
然と意識は宍戸に触れられているところに集中してしまう。
「っ・・・ふ・・・・」
だんだんと濡れてくる手が限界が近いことを知らせてくれていた。時折漏れる吐息に混じ
った声と背中を抱く腕の強さから、宍戸は跡部がどれだけ感じてくれているかを知る。
「ハァ・・・宍戸、そろそろヤベェ・・・・イクっ・・・」
一際跡部の腕に力が入ると、宍戸は掌に熱い何かが放たれるのを感じる。耳にかかる荒い
息と掌に放たれた熱が宍戸の鼓動をさらに速くさせる。
「・・・・跡部?」
「やるじゃねーの。何だよ?そんなに顔真っ赤にして。俺の触ってて、興奮しちまったの
か?」
「ウルセー!仕方ねぇだろ。」
「なあ、テメェ主導でいいって言ったけどよ、俺にもテメェのやらせろよ。やっぱ、自分
だけされるってのは腑に落ちねぇ。」
「何だよ、それ?まあ、いいけどよ。」
跡部の言葉に苦笑しながら、宍戸は自ら着ていたズボンを脱いでしまった。そして、跡部
の身体を押し倒し、身体を跨ぐように膝をつく。
「こうしたら、跡部楽だし、俺も上から跡部のこと見れて一石二鳥だろ?」
「上から見られるってのは気に入らねぇが、この体勢は悪くねぇな。」
「どうするかってのはテメェに任せるぜ。少しはテメェにも楽しませてやるよ。」
主導権を握れていることが嬉しくて、宍戸はついついそんなことを言ってしまう。少し調
子に乗りすぎだと思っている跡部だったが、ここでイラつくのは大人げない。せっかく宍
戸が自分に主導権を渡してくれているのだ。怒って黙らせるより、そんな言葉をつけない
ほど気持ちよくさせてやろうと跡部は露わになっている宍戸のそれを擦り始めた。
「・・・っ・・あ・・・」
「なかなかイイ感度じゃねぇか。俺に任せたこと後悔させてやるぜ。」
「・・・ねぇよ。」
「アーン?」
「後悔なんて・・・しねぇよ。俺、跡部にこういうことされんの・・・好きだからな。」
「!!」
身体を小さく震わせながら、宍戸はニッと笑ってそんなことを言う。予想外の言葉に跡部
の理性はブッツリ切れた。とにかく宍戸を鳴かすことばかりを考え、ありったけの美技で
宍戸を攻める。
「あっ・・・や・・あん・・・」
「フッ・・・こんなにトロトロに蜜を溢れさせて、そんなにイイのかよ?」
「あっ・・・跡部・・・もっとゆっくり・・・」
「悪ぃな。今の俺にそんな余裕はねぇ。」
「ひっ・・あ・・あっ・・・あっ・・・!」
全身がとろけてしまいそうな快感に堪えきれず声を漏らす宍戸だったが、余裕がないとい
う跡部の言葉にほのかな嬉しさを感じる。いつもは自信満々で余裕しゃくしゃくの跡部が
自ら余裕がないと言ってきているのだ。跡部の余裕をなくすことなどそうそう出来ること
ではない。そう思うと宍戸自身も余裕を失ってしまう。
「んっ・・・あっ・・跡部っ・・・もう・・出・・・・」
「フン・・・イっちまえ。」
「あっ・・・ああ―――っ!!」
ビクビクと身体を震わせて跡部の手に熱を放つと、宍戸は恍惚とした表情で息を吐く。
「ハァ・・・ハ・・・」
「宍戸、もうちょっとこっちに来い。」
「へっ・・・?」
「後ろも慣らさなきゃだろ?」
宍戸の放った精を舐めながら、跡部は宍戸の腰を自分の顔の方へ引き寄せた。白い蜜を放
った所為でトロトロになっている宍戸のそれが咥えられるくらい引き寄せると、跡部は双
丘の割れ目に指を持っていき、目の前にあるそれをパクッと咥えた。
「ひゃっ・・・ちょっ・・・跡部!?」
さっきの今でこんなことをされてはたまらないと、宍戸は一瞬逃げを打とうとする。しか
し、跡部がしっかりと腰を掴んでいるので逃げることは出来ない。
「やっ・・・ダメ・・・ふっ・・ぅ・・・・」
敏感になっているそこを咥えられる感覚に、宍戸はぎゅっと目をつぶりながら耐えようと
する。そんな表情を下から見上げながら、跡部はニヤニヤと笑う。後ろの蕾に指を入れて
やれば、宍戸の身体はビクンと跳ねた。
「ひぁっ・・・!!跡部っ・・・マジ・・・やめっ・・・」
「こんなとこでやめたら、ツライのはテメェだぜ?」
「んっ・・・だってぇ・・・そんなにたくさんされたら・・・・俺、変になっちまうよ。」
「俺は全然構わねぇぜ。俺の手で狂わせてやるよ。」
妖しく輝く跡部の蒼い瞳に見つめられ、宍戸は催眠術にかけられたように抵抗をやめる。
器用に動く舌と指で前も後ろも弄られ、宍戸は生理的な涙を目から溢れさせながら、跡部
の顔を見る。
「ふっ・・・んぁ・・・あっ・・あ・・・」
「本当こういうことしてる時のお前の顔って可愛いよな。そんな目で見つめられたら、別
に触られてなくても勃っちまう。」
「お前・・・エロい・・・触り方も舐め方も・・・言ってることも全部・・・」
「今更だろ。テメェだって、相当エロいぜ?自覚してねぇのかよ。」
「っるせ・・・はぁ・・・あー、もうっ・・・またっ・・・!」
「今度は口の中でイけよ。一滴も残さずに飲んでやる。」
跡部が再び露を溢すそれを咥えたと同時に宍戸は達してしまう。少しも溢すことなく跡部
は放たれたミルクを飲み込んだ。二度も続けてイカせられて、宍戸はだいぶぐったりモー
ドだ。
「ふぅ・・・は・・・ハァ・・・」
「どうした?もう限界か?」
「ハァ・・・んなことねぇよ。これからが本番だろ?」
「フッ、そうこなくちゃな。いったん指抜くぞ。」
「お、おう。」
跡部の挑発的なセリフに宍戸は口元を上げ、強気な返事を返す。それなら問題はないと跡
部は蕾を慣らしていた指を、一気に引き抜いた。その感覚にも宍戸は思わず反応してしま
う。
「うっ・・あ・・・」
「ここからは、またテメェ主導で進めていいぜ。まあ、さっきみてぇに俺に任せたいっつ
ーんなら、それでもいいけどよ。」
「なら、まずは俺が主導でやらせてもらうぜ。それで物足りなかったら、テメェに任せる。」
「了解。」
せっかくの主導権を使わないわけにはいかないと、宍戸は自分の好きなように進めること
にした。好きなように進めると言っても、もうここまできたらすることは一つしかない。
跡部に慣らしてもらった蕾を自ら跡部の楔に押しつけ、ゆっくりと腰を落とし始める。
「んっ・・あ・・・ふ・・・・」
「無理すんなよ、宍戸。」
「む・・無理なんて・・・・してねぇ・・・・あっ・・・あん・・・!」
「くっ・・・やるじゃねぇの。もう全部入っちまったぜ。」
「ハァ・・・う・・ぁ・・・跡部ぇ・・・・」
濡れた瞳に見つめられ、吐息混じりの声で名前を呼ばれ、跡部は背中にぞくぞくと何とも
言えない痺れを感じる。しばらく動けないでいた宍戸だったが、そこに跡部のモノが馴染
んでんで来ると、ゆっくりと腰を動かし始める。
「んん・・・あっ・・・ぁ・・・」
「宍戸・・・」
動くのは全て宍戸に任せて、跡部は右手を宍戸に差し出した。
「な・・何・・・?」
「手、握れよ。」
「おう・・・・」
差し出された手を宍戸はぎゅっと握った。しっかりと握り合った手から伝わるお互いを想
う気持ちが伝わる。身体だけでなく、心も繋がっているようなその感覚に、宍戸はもっと
奥へ奥へと跡部を自分の中に取り込もうとする。
「跡部ぇ・・・あっ・・・あぁ・・・・」
「そんなに自分から激しく動くなんて珍しいじゃねぇか。」
「んっ・・だって・・・こうした方が跡部も気持ちイイし、俺も気持ちイイからっ・・・」
「ああ。最高だぜ。すげぇ気持ちイイ・・・」
跡部のその言葉を聞いて、宍戸はより跡部を気持ちよくさせようと、そして、自分も気持
ちよくなろうと身体を揺らす。
「もぉ・・・止まらなくなりそ・・・・」
「ハァ・・・たまんねぇ・・・・もっと動けよ、宍戸。」
「うん・・・ふ・・あっ・・・あぁ・・・!」
跡部が求めるまま、身体が求めるままに、宍戸は快楽を求める。もう意識ではコントロー
ル出来なくなった身体は、とにかく跡部だけを感じようとしていた。身体の中も頭の中も
跡部でいっぱいになると、宍戸は握っている手に無意識に力を入れる。
「ハァ・・・あ・・・跡部・・・も・・あぁっ・・・!」
「宍戸っ・・・くっ・・・ぅ・・・・!」
鼓動が重なり合うのと同時に二人は、身体を震わせる。お互いの身体に放つ真っ白な想い
は、二つの心を一つにする。キャンディーをも溶かすようなその熱は、二人の心と身体に
染みわたった。
しばらく余韻に浸りながら身体を重ねていた宍戸だったが、何かを思い立ったようにむく
っと起き上がる。
「どうした?」
「んー、さっきの飴、もう一個食いたいなあと思ってよ。」
そう言いながら、シャツを羽織っているだけの状態で、テーブルに置いてある薄荷飴を取
りに行く。美脚が完全にさらけ出されているその後ろ姿に跡部は思わず目を奪われる。
「跡部も食う?」
突然くるっと宍戸が振り向くので、跡部は慌てて目をそらし、首を振った。
「お、俺はいいっ。」
「何、動揺してんだよ?あー、またエロいこと考えてたんだろ?」
「んなことねぇよ。それより、さっさとこっちに戻って来い。」
「へーい。」
大きな飴玉を口に放り込むと、宍戸は跡部のベッドに戻る。飴玉を舐めながら横になるの
は危険なので、宍戸はベッドに乗り上げると足だけを布団の中に入れ、跡部の隣に座った。
「やっぱ、この飴うめぇー。」
「そりゃよかったな。」
「てかさ、何でホワイトデーってホワイトデーって言うんだろな?バレンタインは人の名
前なんだろ?ホワイトもホワイトさんって人の名前なのかな?」
薄荷飴を今度は歯の外側に行かないように気をつけながら、宍戸はそんな疑問を跡部にぶ
つける。
「違ぇーよ。欧米では、『ポピーデー』やら『フラワーデー』やら『ホワイトデー』やら、
いろんな名前で呼ばれてるんだけどよ、日本では『ホワイト』は純潔のシンボルで、俺ら
くらいの年のさわやかな愛にはピッタリだっつーことで、『ホワイトデー』になったらし
いぜ。んで、日本ではお菓子会社の提案でその日を『キャンディーの日』にしようとして
バレンタインのお返しにキャンディーをってことになったんだとよ。」
「へぇー、そうなんだ。」
「まあ、これは日本のお菓子会社の戦略だけどな。もともとの起源はもっといいもんだぜ。」
「どんななんだ?」
「バレンタインデーは聖バレンタインの命日だろ?その一ヶ月後にバレンタインのおかげ
で結婚出来た男女が、永遠の愛を誓い合ったってことが起源になってるって話だぜ。」
「跡部、よくそんなこと知ってるよな。」
ホワイトデーが何故ホワイトデーと呼ばれるか、そして、起源がどんなものかを話す跡部
の話を聞いて、宍戸は心底感心する。
「これくらい知っていて当然だ。」
「いや、普通はあんまり知らねぇと思うぞ。にしてもさ、ホワイトデーって、さわやかな
愛がモデルなんだろ?俺らはさわやかって感じじゃねぇよな。少なくとも『純潔』ではな
いと思うぜ。さっき、あんなことしてたわけだし。」
自分達の今の状況を考え、宍戸はくすくす笑いながらそんなことを言う。確かにそうだな
と跡部も笑いながら頷いた。
「でもよ、テメェは普通の甘いだけの飴玉より、今舐めてる薄荷みてぇな少し刺激のある
ようなもんが好きなんだろ?」
「まあな。」
「だったら、あれくらいが俺らにはちょうどいいんだ。俺も甘いだけより、刺激のある方
が好きだからな。」
「へへ、俺達って似たもの同士だな。だからきっと、一緒に居てこんなに楽しいんだぜ。」
「そうだな。俺達は俺達なりのホワイトデーを楽しもうぜ。」
自分が言うようなセリフを跡部から聞くことが出来て、宍戸は嬉しくなる。ニッと笑って
隣に座っている跡部にぎゅうっと抱きついた。
「おいおい、どうした?」
「何か嬉しくてよ。そういえばさ、ホワイトデーの起源って結婚した男女が永遠の愛を誓
ったことなんだろ?」
「そうだぜ。それがどうかしたか?」
抱きついている腕を緩め、宍戸は跡部の顔を真正面に捉えながら、満面の笑みでとある言
葉を放つ。
「俺はこれからもずっと跡部のこと大好きだぜ。」
素直で率直な愛の言葉に跡部は驚いた顔になるが、すぐに柔らかく微笑む。そして、同じ
ように自分なりの愛の言葉を囁いてやった。
「俺もお前のこと、これからもずっと想い続ける。それに今も、宍戸、お前のことを誰よ
りも・・・・」
「・・・・ああ。」
「愛してる。」
跡部の愛の言葉に宍戸は照れまくる。しかし、嬉しくないわけがない。もう一度抱きつい
て、顔を緩ませながら、跡部の肩に顔を埋める。
「激嬉しい・・・」
「俺もだぜ。」
ホワイトデーらしく二人はお互いを想い合っていることを確認する。刺激と甘さが入り混
じった薄荷キャンディーのような夜は、二人の心を溶かしながら、ゆっくりと更けていっ
た。
END.