夏の暑い日、宍戸は跡部の家に遊びに来ていて、涼むためにプールで泳いでいる。広いプ
ールで二人で泳いでいると、さすがに少し疲れてくる。
「そろそろ休憩するか。」
「そうだな。」
ざばっとプールから上がると、跡部はメイドに飲み物とおやつを準備させる。プールサイ
ドに用意されたテーブルと椅子に座り、二人は一息ついた。
「やっぱ、夏はプールだよな。」
「水泳は体力もつくし、悪くねぇな。」
「跡部んちだと、他の人がいないから、ゆっくり自由に泳げて最高だぜ。」
そんな話をしていると、メイドが飲み物とソフトクリームを持ってくる。テーブルに置か
れた真っ白なソフトクリームを見て、宍戸は目を輝かせる。
「おー、ソフトクリームだ!」
「そんなにソフトクリーム好きだったか?」
「いや、そこまで超好きって感じではねぇけど、跡部んちのソフトクリームって普通に売
ってるのより高価で美味いからな。結構好きだぜ。」
「それなら、存分に食っとけよ。俺の家でしか食えねぇんだから。」
「おう!」
コーンのついたソフトクリームを手に取り、宍戸はそれを食べ始める。一口含むだけで、
濃厚なミルクの味と甘いバニラの香りが広がる。
「んー、やっぱうめぇな。」
「そんなに違うのか?」
「違う違う。普通のの百倍くらい美味い!」
「へぇ。つーか、がっつきすぎだろ。口の周り、ソフトクリームだらけだぜ?」
子供のように口の周りをベタベタにしながら、頬張っている宍戸を見て、跡部は笑う。そ
れはちょっと恥ずかしいと、何か拭くものを探そうと動こうとした瞬間、宍戸は手を滑ら
せる。
「あっ!!」
暑さで溶けかかっていたソフトクリームは、一瞬宍戸の手から離れ、掴み直したものの、
ボタボタとクリーム部分が宍戸の胸に落ちてしまう。全部が落ちてしまうということはな
かったが、宍戸のソフトクリームは、三分の一くらいの量になってしまった。
「冷たっ・・・てか、激こぼれちまったし。」
「何やってんだよ?」
「ちょっと手が滑っちまって。あーあ、もったいねぇ。」
せっかくの美味しいソフトクリームが一気に減ってしまったと、宍戸は残念そうな声を上
げる。
「口の周りも白くして、胸のあたりもクリームでベタベタになってて、今のお前のすげぇ
エロい状態になってるぜ。」
「なっ!?」
口と胸がソフトクリームで汚れた宍戸を見て、跡部はあらぬものを連想する。そう言われ
ると、確かにそう見えなくはないと、宍戸は妙に納得してしまうが、わざわざそれを指摘
することないだろうと顔を真っ赤にして、跡部に文句を言う。
「変なこと言うな!!アホっ!!」
「だって、どう見たってそれだろ。」
「もぉー!!せっかく美味いの食ってていい気分だったのに、最悪だ!!」
真っ赤になって怒っている宍戸も可愛いなあと思いつつ、跡部は自分の食べていたソフト
クリームを渡してやり、宍戸の持っていたソフトクリームを奪った。さらに、自分の首に
かけていたタオルを渡してやる。
「ったく、本当世話の焼ける奴だな。」
「えっ、あっ・・・」
「俺様の方はまだたくさん残ってるからな。そんなに食いたいなら、こっちを食っとけ。
その代わり、俺はお前の食べてた奴をもらうぜ。」
宍戸の食べかけのソフトクリームを口にし、跡部はからかうように笑う。跡部から受け取
ったタオルで胸と口を拭った後、宍戸は先程まで跡部が食べていたソフトクリームをパク
ッと口に含んだ。宍戸の食べていたソフトクリームはそれほど量が多くなかったので、跡
部はサクッとそれを食べ終え、再びプールへと向かう。
「お前も食べ終わったら来いよ。まだまだ泳ぐだろ?」
「お、おう。」
からかいつつも、何だかんだで優しい跡部の行動に宍戸は柄にもなくドキドキしてしまう。
泳ぎ始めた跡部を見ながら、ソフトクリームを舐めていると、ふとあることに気がつく。
(アレ?このソフトクリーム、跡部の食べかけってことは、思いっきり間接キスなんじゃ
ねぇ?つーか、俺の食べかけを跡部が食べたってことは、そっちもそうじゃねぇか。)
いらないことに気づいてしまったと、宍戸はさらに顔を赤く染める。ただでさえ暑いのに、
ドキドキして無駄に体温が上昇してしまう。そんな暑さを少しでも和らげようと、宍戸は
パクパクとソフトクリームを食べ進めた。
(本当、跡部ずりぃ。何でこんなドキドキさせられなきゃいけねぇんだ。)
速くなる鼓動を抑えたい宍戸であったが、跡部が貸してくれたタオルから漂うバニラの香
りと、甘い甘いソフトクリームの味、そのどれもが跡部を意識させるので、しばらく胸の
ドキドキは続くのであった。