紫いものケーキ −紫−(岳人×忍足)

学校からの帰り道、岳人と忍足は軽く寄り道をしようと街を歩いていた。
「あー、何か甘い物食いてぇな。」
「確かにちょっと小腹空いてる感じかもしれへんな。」
「おっ、ちょうどいいところにケーキ屋発見ー!侑士、ちょっと寄って行こうぜ!」
タイミングよくケーキ屋を見つけ、岳人は寄って行こうと忍足に提案する。まだそこまで
遅い時間でもないので、忍足はそんな岳人の提案に頷いた。
カランカラン・・・
中に入ると、ガラスのケースの中に色とりどりのケーキが並んでいる。今は秋ということ
もあり、期間限定のケーキがいくつもあった。
「おー、どれも美味そー。」
「秋やからか、変わったケーキもたくさんあるな。」
「確かにな。おっ、紫いものケーキとかもあるぜ。」
「へぇ、そりゃ珍しいな。」
「せっかくだから、この中から選ぶか。あー、でも、紫いものだけでも、いろんな種類が
あって迷うな。」
「なら、俺も紫いものケーキのどれかにするから、岳人は俺のとは別のを選べばええんや
ない?」
それはいい考えだと、岳人は頷く。それならばと、岳人はパッと自分の注文するケーキを
決めた。
「んじゃ、俺は紫いものタルトにしようっと。」
「俺が決める前に決めるんかい。」
「別々になればいいわけだから、どっちが先でもいいじゃん。」
「まあ、そうやけど。ほなら、俺はモンブランにするわ。」
タルトとは方向性の違うものにしようと、忍足は紫いものモンブランを選んだ。
「すいませーん、紫いものタルト一つと紫いものモンブラン一つお願いします。」
「紫いものタルトがお一つと紫いものモンブランがお一つですね。お持ち帰りですか?」
「いや、ここで食べて行きます。」
「かしこまりました。」
持ち帰りも出来るが、今食べたいので、二人は店内で食べることにする。注文したケーキ
を受け取ると、二人はレジからそこまで離れていない席に座った。
「よし、じゃあ、いただきまーす!」
「いただきます。」
それぞれ自分の頼んだケーキを口に運ぶ。紫いもということもあり、思ったより甘さ控え
めでどちらのケーキもかなり食べやすい感じであった。
「うん、美味いな。」
「モンブランもなかなかやで。思ったより甘くないし。」
「へぇ、マジで?ちょっと食べさせて。」
「なら、俺もタルト少しもらうわ。」
ケーキの皿を交換するのではなく、それぞれ自分のケーキをフォークで一口分切り分け、
お互いの口へと運ぶ。
「おー、モンブランもうめぇ。」
「タルトも美味いな。ちょうどええ甘さやし、タルト部分の食感もええ感じやん。」
「侑士、もう一口頂戴。」
「ええよ。」
あーんと口を開けて待つ岳人に、忍足は紫色のクリームたっぷりのモンブランを食べさせ
る。どちらもごく自然に食べさせあっているが、傍から見ればどう見てもイチャイチャし
てるカップルだ。ケーキ屋という店上、女性の店員が多く、そんな二人のやるとりは、女
性店員の目を楽しませていた。
「美味いけど、それなりに甘いからちょっとお茶とか欲しくなるよな。」
「確かにそやな。」
二人がそんな話をしていると、女性店員の一人がカップに紅茶を入れて二人に持っていく。
「こちらよろしかったらどうぞ。サービスです。」
にこやかに紅茶を渡され、岳人と忍足は少し驚いたような顔を見せるが、すぐに笑顔にな
ってお礼を言った。
「ありがとうございます!」
「おおきに。」
「では、ごゆっくり。」
二人に笑顔でお礼を言われ、その店員はご機嫌な様子で仕事に戻る。紅茶をサービスされ、
岳人も忍足もニコニコしながら、残っているケーキを食べた。
「紅茶サービスとか、ラッキーだな。」
「飲み物足すと、結構高くなるもんな。」
「てか、いつの間にかあと一口じゃん。最後の一口、侑士食べる?」
「ええの?あ、せやったら、俺の方の最後の一口も岳人にやるわ。」
最後の一口は相手にあげようと、二人はまたお互いの口へとケーキを運ぶ。入れてもらっ
たケーキをごくんと飲み込むと、二人は満足気に溜息をつく。
「はあー、美味かった。ごちそうさま。」
「ごちそうさまでした。」
美味しいケーキで満たされたし、サービスもしてもらえたしということで、二人はかなり
上機嫌で店を出る。そんな二人をその店の店員はみんなにこやかな様子で見送った。
「ケーキも美味かったし、店の雰囲気もよかったし、また来てもええな。」
「そうだな。紅茶もサービスしてもらっちゃったし。」
「そろそろ帰るか?」
「んー、もうちょい寄り道してこうぜ。まだ、侑士といたいし。」
「しゃーないなあ。」
まだまだ忍足と一緒にいたいと、岳人はそんなことを言う。それを聞いて、嬉しそうな顔
をしながら、忍足は岳人と寄り道を楽しむのであった。

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