かぼちゃプリン −オレンジ−(ジロー×樺地)

跡部に頼まれ、どこかで眠ってしまっているジローを探している樺地だが、今回はなかな
か見つからない。下校時間はとっくに過ぎ、空は夕焼けでオレンジ色に染まり始めている。
「んん・・・」
と、植え込みの奥の方から声のようなものが聞こえる。その声を頼りに普通なら人は入ら
ないような場所に入ると、木の下で眠っているジローを見つける。
(今日もよく眠ってるなー。)
気持ちよさそうに眠っているところを起こすのは忍びないが、もう下校時間は過ぎている
のだ。とりあえず、声をかけて起こそうと、樺地は肩を軽く揺する。
「起きてください・・・」
「んー・・・」
「ジローさん・・・」
「・・・あれ?俺のプリンは?」
目を覚ましたもののまだ寝ぼけているようで、そんなことを口にする。
「??」
「あー、樺ちゃん。おはよー。」
「もう・・・下校時間過ぎてます・・・」
「もうそんな時間かあ。今、かぼちゃプリン食べようとしてたとこなんだよ。すごい美味
しそうだったのになー。」
夢で食べようと思っていたかぼちゃプリンが食べられず、残念そうな声を漏らす。そんな
ジローの言葉を聞いて、樺地は自分の鞄から何かを取り出す。
「これ・・・」
「ん?何?」
ケーキが入っているような小さな箱を渡され、ジローは首を傾げる。箱を開けて、中を覗
いてみると透明なカップにさっき夢で見ていたようなオレンジ色のプリンが入っていた。
「へっ!?何で!?」
「かばちゃプリンです・・・」
「ちょっ・・・樺ちゃん、エスパー!?用意してあるってどういうこと!?」
「この前も寝言で、かぼちゃプリンが食べたいみたいなこと・・・言っていたので・・・」
「マジかー。どんだけ俺、かぼちゃプリン食べたいんだよ。まあ、いいや。食べていい?」
さっき夢で食べられなかったこともあり、ジローは今すぐ食べたいと樺地に尋ねる。特に
断る理由もないので、樺地は頷いた。
「んじゃ、いただきまーす!」
すぐ食べられるように、小さなプラスチックのスプーンがついていたので、それを使って
ジローは食べ始める。ほくほくとしたかぼちゃの風味と、プリンらしい甘さ。これは美味
しいとジローはパクパクそれを食べる。
「んー、マジうめぇ!!夢のもだいぶ美味そうだったけど、こっちのが絶対美味い!!コ
レ、どこで買ったの?」
「・・・・自分が、作りました。」
ジローがあまりにも絶賛しているので、自分が作ったなどというのは少し恥ずかしいと思
いつつ、樺地は素直にそう答える。まさか手作りだとは思わなかったので、ジローのテン
ションはだだ上がりだ。
「樺ちゃんの手作り!?」
「ウス。」
「マジマジすっげー!!本当美味いんだけど!樺ちゃんマジ天才だC〜!!」
さっきまでぐっすり眠っていたとは思えないほどのはしゃぎっぷりで、ジローは樺地手作
りのかぼちゃプリンを食す。残さず綺麗に食べると、満面の笑みでジローは樺地にお礼を
言う。
「サンキュー、樺ちゃん。超美味しかった!!」
「・・・よかったです。」
「かぼちゃプリンも食べれたし、そろそろ帰るかー。」
「ウス。」
お腹も満たされ、満足したジローは帰り支度を始める。鞄はもともと持ってきていたので、
そこまで時間はかからなかった。
「かぼちゃプリンはすごく美味かったけど、何で何度も夢で見るほど食べたいと思ったの
かなー?」
樺地と一緒に家路を辿りながら、ジローはそんなことを呟く。それは自分には分からない
と思っていた樺地だが、今歩いている景色を見てあることに気づく。
(夕焼けで、景色が全部オレンジ色に見える・・・)
今日もそうであったが、ジローは夕方近くに眠っていることが多い。日の沈みかけている
ときのオレンジ色はかなり明るく、目を閉じていたとしても光がオレンジ色であることが
認識できるほどだ。そして、もう一つ、かぼちゃプリンを連想させるものが街の至る所に
あった。
「夕焼けと・・・・」
「えっ?」
「夕焼けとハロウィンが近いからじゃ・・・ないですか?」
もうすぐハロウィンということもあり、街にある店はかぼちゃやお化けなどの装飾で飾ら
れていた。夕焼けのオレンジとハロウィンのかぼちゃ。そんなものがあいまって、ジロー
は無意識にかぼちゃプリンが食べたいと思っていたのではないかと樺地は考えた。
「あー、なるほどなー。」
樺地の話を聞いて、ジローは納得する。確かに最近かぼちゃはよく見ると、言われて気づ
いた。
「こんなにかぼちゃがいっぱい飾られてたら、そりゃ食べたくなるかも。あー、そう思っ
たら、今度はパンプキン・パイとか食べたくなってきた。樺ちゃん、作って!」
「ウス。」
冗談半分で言った言葉だが、樺地はいつも通り頷く。夕焼けでオレンジ色に染まった街で
たくさんのかぼちゃに囲まれ、ジローは樺地と一緒の時間を始終笑顔で過ごすのであった。

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