福富屋の護衛を終えて、いつもの浜辺に帰ってきた蜉蝣は疾風を探す。ちょうど水軍館か
ら出てきているのを見つけ、蜉蝣は声をかけた。
「疾風。」
「おー、蜉蝣。もう帰ってきてたのか。」
「まあな。福富屋さんから土産をもらったから、お前にも分けてやろうと思って、探して
たんだ。」
「本当か!?福富屋さんとこの土産、高級品が多いから楽しみだ。」
福富屋からもらったお土産を分けてもらえると聞いて、疾風はご機嫌になる。
「ちょっと用意してくるから、適当な小舟でも用意しといてくれ。」
「小舟?」
「陸で食べると、陸酔いしかねないからな。せっかく美味いもん食べるんだから、陸酔い
とかはなしで食べたいだろ。」
「なるほどな。了解。」
お土産の準備をしてくると、蜉蝣はいったん水軍館に戻る。その間に疾風は、海へ出るた
めの小舟を用意した。
「待たせたな。」
「こっちの準備は万端だぜ。」
「それじゃ、行くか。」
「おう!」
疾風の用意した小舟に乗り、二人は海へ出る。ある程度沖に出ると、そこに舟を止め、蜉
蝣は用意してきたものを出した。大きな皿に乗せられたそれを見て、疾風のテンションは
一気に上がる。
「おー、メロンだ!!」
「小ぶりだが、二人で食うには十分な量だろ?」
皿には小ぶりのメロンがちょうど半分に切られた状態で乗っていた。なかなかメロンなど
食べる機会などないので、疾風は大喜びだ。
「久しぶりにメロンなんて食うぜ。しかも、こんな贅沢な食べ方、なかなか出来ねぇよな!」
「若い奴らにまで分けるには小さすぎたし、一人で食べるにはちょっと多かったからな。
二人で食べるくらいがちょうどいいだろ。」
「おう!」
蜉蝣から匙を受け取ると、疾風は早速メロンを食べ始める。みずみずしい緑色の実を掬う
と、甘い香りが辺りに漂う。
「んー、うめぇ!!」
「熟し加減もちょうど食べ頃って感じだな。」
「こんなにうめぇと、すぐ食べきっちまいそうだ。」
「そうだな。」
甘いメロンに舌鼓を打ちながら、疾風はパクパクと掬っては食べを繰り返す。疾風よりは
もっとゆっくり味わいながら、蜉蝣もメロンを食べ進める。
「はあー、うまかったー!!」
「もう食い終わったのか。早いな。」
「蜉蝣はまだ食い終わんねぇのか?」
「お前よりは味わって食べてるからな。」
もう十分に食べているのだが、人が食べているのを見ると、もう少し食べたくなってしま
う。蜉蝣が食べているのをじっと眺めながら、疾風は羨ましいという顔をする。
「そんな顔して、もっと食べたいのか?」
「そ、そんなことねぇし!!」
「顔にはそう書いてあるぞ?」
「書いてねぇ!!」
素直じゃないなあと思いながら、蜉蝣はメロンを口に運ぶ。いったんはそっぽを向いた疾
風も、やはり食べているところは気になるようで視線を戻す。やはりまだ食べたいんだな
あと、蜉蝣はくすっと笑った。
「疾風。」
「何だよ?」
「ほら。」
「えっ・・・?」
最後の一口を匙で掬うと、蜉蝣は疾風の口の前にそれを差し出した。
「最後の一口だ。お前にやるよ。」
「べ、別に欲しいなんて言ってねぇだろ。」
「いらねぇのか?」
「・・・いる。」
口では欲しくないと言っているが、食べたいのは事実だ。差し出された匙に乗ったメロン
を疾風は、パクッと口に入れる。それを見て、蜉蝣は満足気に笑った。
「うまかったか?」
「おう。ご馳走様。」
ぶっきらぼうにだが、そう言う疾風を蜉蝣は可愛いなあと思ってしまう。辺りを見回して、
他の船や水練の者がいないのを確認すると、蜉蝣はよしっと頷く。
「わっ・・・!?」
小舟に疾風を押し倒すようにして、蜉蝣はメロンの香りのする唇を捉える。そして、いま
だメロンの味が残る疾風の舌を食んだ。
「・・・んんっ!!」
いきなりそんなことをされ、疾風はパニック状態。がっちり押さえつけられているため、
抵抗も出来ない。しばらく蜉蝣の為すがままにされ、解放される頃には疾風はすっかり脱
力していた。
「い、いきなり・・・何すんだよ・・・」
「最後の一口分のメロンを返してもらっただけだが?」
「意味分かんねぇ。」
「ちゃんとメロン味だったぞ。」
「当たり前だろ!!直前までメロン食ってたんだからよ!」
「うまかったぞ。ご馳走様。」
ニッと笑いながらそう言われ、疾風の顔は真っ赤に染まる。恥ずかしさからさっき食べた
メロンの味を忘れてしまうと思ったが、蜉蝣も先程まで同じメロンを食べていたのだ。先
程の接吻もいまだ口に残る味も甘い甘いメロンの味であった。
「次メロン食べるとき、さっきの思い出しちまうだろーが・・・」
「ん?何か言ったか?」
「何でもねーよ。食い終わったんなら、さっさと戻るぞ。」
ぼそっとそんなことを呟きながら、疾風は舟を陸に向かって漕ぎ出す。舟が動いた瞬間、
皿の上に残ったメロンの皮の甘い香りが風に乗る。そんな香りに鼻をくすぐられ、疾風
はまた少し顔を赤らめるのであった。