少し早めに学校が終わった帰り道、甲斐と平古場は海に寄ってから帰ることにした。
「そーいえば、海の近くの店で今かき氷がお得に買えるらしいぜ。」
「へぇ。お得にってどういうことなんだろうな?」
「よく分からないけど、とにかく寄って行ってみようぜ。」
「そうだな。」
クラスメートから聞いた話を平古場は甲斐にする。まだまだ暑いこの季節、かき氷がお得
に買えるならば買いたいと、二人はその店に寄ってみることにした。
「なるほど、確かにこれはお得だなー。」
店にやってくると、お得に買えるということを二人はすぐに理解した。店の前に出ている
のぼりには、普通のかき氷の二倍以上の大きさのかき氷の写真が載っている。しかも、値
段は普通のかき氷よりほんの数十円高いだけだ。
「でーじ大きいかき氷だな。」
「これ一人で食べるのはたぶん無理だから、一つ買って二人で食べようぜ。」
「そうだな。味はどれにする?凛はイチゴのが好きだから、イチゴにしとくか?」
「いや、イチゴはいつも食べてるから、そうだな・・・」
今日はいつもとは違う味が食べたいと、平古場はどの味のシロップにしようか考える。そ
んな平古場の目に、ふと真っ青な空と海が映った。
「ブルーハワイにしようぜ。」
「ブルーハワイだな。おっちゃん、大きいかき氷、ブルーハワイ一つ。」
甲斐としてはどの味でもよかったので、平古場が選んだブルーハワイを頼む。がりがりと
氷を削る音が響いた後、大きな器に入ったかき氷が二人の前に差し出された。
「実物はよりでっかく感じるな。」
「な。これなら二人で食べても十分さー。」
真っ青なシロップのかかった大きなかき氷を受け取ると、二人はそのまますぐ近くにある
海へと向かう。まずはこのかき氷を食べようと、日陰になっている大きな木の下に向かっ
て歩いて行った。
「よし、このへんでいいか。」
「そーだな。早く食べないと溶けちゃうし、さっさと食べようぜ。」
日陰になっている砂浜に腰を下ろすと、平古場は甲斐より一足先に食べ始める。一気に食
べると頭がキーンとしてしまうので、少しずつ口に運んだ。
「やっぱ、暑いときに食べるかき氷は上等さー。」
「凛ばっかりずるいぞ。俺も食べる。」
食べるためのスプーンは二つもらっているので、甲斐も食べ始める。自分で器を持った方
が食べやすいので、器を持っている平古場の手に甲斐は自分の右手を重ねた。
「手重ねたら、暑いだろー。」
「かき氷が冷たいからへーきへーき。」
口では文句を言いながらも、別にそこまで嫌ではない平古場は、そのままの状態でかき氷
を食べ進める。かなりの大きさがあったが、二人で食べるとそこまで時間がかからずに全
て食べきった。
『ごちそうさま。』
声をそろえてそう言うと、空になった器とスプーンを砂の上に置く。
「今日はブルーハワイだったからな。舌、青くなってるば?」
べーと舌を出し、甲斐は平古場に色がついたかを見てもらう。シロップの色がつき、甲斐
の舌はしっかり青くなっていた。
「なってるなってる。俺は?」
自分も見てもらおうと、平古場も軽く口を開けて舌を出す。もちろん平古場も青くなって
いるのだが、そんなことよりも無防備に舌を出している平古場に若干ムラッとしてしまい、
甲斐は口元をかぶっていた帽子で隠し、青い舌を食むようにしてキスをした。
「んむっ・・・・!?」
突然のキスにかなり焦る平古場であったが、はむはむと舌を食まれているうちに頭がぼー
っとしてきてしまう。甲斐が満足して唇を離されると、平古場はとろけたような表情で、
甲斐の顔を見た。
「そんな顔されると、もう一回したくなっちゃうけど?」
からかうような口調でそう言う甲斐の言葉を聞き、平古場はハッと正気に戻る。
「い、いきなり何するかよ!?」
「いやー、舌出してる凛がでーじ可愛かったからつい。」
「もー、かき氷でせっかく涼しくなったのに、裕次郎のせいで暑くなっただろーが!」
顔を真っ赤にしてそんなことを言ってくる平古場を心底可愛いと思いながら、甲斐は笑っ
て帽子をかぶり直す。
「じゃあ、海に入って涼むか。」
「そうやって誤魔化そうとする。」
「海に入るのは嫌ば?」
「いや、入るけど・・・」
甲斐の態度に少々腹が立ちつつも、キスをされたのが本気で嫌というわけではなかった。
もともと海に遊びに来ていることもあり、平古場は甲斐の提案を受け入れる。
「んじゃ、行こうぜ!」
平古場の手を掴み、甲斐は海に向かって走り出す。結局甲斐に流されるなあと思いつつ、
平古場は満更でもない様子で、甲斐に引っ張られるまま海へと向かうのであった。