焼き芋 −黄色−(文次郎×伊作)

木枯らしの吹く冬のある日、文次郎は外出から帰ってきた。忍術学園へ入ると、ボロボロ
になり泥だらけの伊作が目に入る。
「また、落とし穴にでも落ちたのか?」
呆れつつ苦笑する文次郎に伊作は気づく。
「あっ、文次郎。おかえり。」
立ち止まっている文次郎に駆け寄って、伊作は話しかける。ボロボロになりながらも、文
次郎を見つけた伊作は嬉しそうに笑う。
「随分ボロボロだが、また落とし穴にでも落ちたのか?」
「そうなんだよー。たぶん綾部が掘った穴だと思うんだけど。まあ、今回は怪我とかはし
なかったから不運中の幸いってとこかな。」
「不幸中の幸いだろ。」
不運なのはいつも通りだなと文次郎が笑っていると、伊作が突然ぐっと近づく。そして、
くんくんと犬のように文次郎の匂いを嗅ぐ。
「な、なんだよ?」
「何か文次郎美味しそうないい匂いがする。」
「ああ、忍術学園に帰ったら食べようと思って焼き芋買ってきたからな。」
「焼き芋!?いいなあ、ぼくも食べたい。」
「それなりな大きさあるし、一緒に食うか?」
「いいの!?」
「ああ、さっき買ったばっかりだからまだ温かいしな。」
別に一人占めするつもりもなかったので、文次郎は買ってきた焼き芋を伊作に分けること
にする。しかし、買ってきた焼き芋は一つだけだ。さすがに他の者には分けられないので、
誰かに見られる前に自分の部屋へと移動することにする。
「仙蔵は?」
「さあ。どこか出かけてるんじゃねぇか?」
文次郎の部屋に入っても仙蔵の姿が見えなかったので、伊作はそんなことを尋ねる。しか
し、自分も外出していたので、仙蔵がどこにいるかなど、文次郎は知らなかった。自分の
机の側に腰を下ろすと、文次郎は買ってきた焼き芋を半分に割り、伊作に渡した。
「ほら。」
「ありがとう。」
半分に割ったことで、真っ黄色の断面はほくほくと湯気を上げ、甘い匂いが部屋の中に立
ち込める。これは美味しいこと間違いないと、伊作は嬉しそうに焼き芋を見た。軽く皮を
剥き、パクッと端の方を口に含むと、甘い芋の味が口いっぱいに広がる。
「美味しい〜vv」
「今日は寒いから温まってちょうどいいな。」
「うん。ちょうどお腹空いてたところだし、体も温まっていいことづくしだよ。」
にこにこしながら、焼き芋を頬張る伊作を見て、文次郎はとてもいい気分になる。はぐっ
と半分になった焼き芋を齧りながら、文次郎はポンポンと伊作の頭を撫でた。
「何?」
「いや、何か可愛いなあと思ってよ。」
「可愛いって何だよ?」
「あまりにも嬉しそうに焼き芋食べてるからよ。」
「子供みたいだって?」
「というよりは・・・嬉しそうに笑ってる顔が単純に可愛くて、見てるとこっちまでいい
気分になるなあと思って。」
率直な文次郎の言葉を聞いて、伊作はカアっと赤くなる。恥ずかしさを誤魔化すかのよう
に焼き芋を口に頬張ると、チラッと文次郎の顔を見た。
「ずるいよ、文次郎・・・」
「何がだ?俺の方が芋が大きいとか?」
「そうじゃなくて!!そんなこと言われたら・・・余計に嬉しくなっちゃうじゃない。」
ゴニョゴニョとそんなことを言う伊作に文次郎は思わず吹き出す。本当に言うこと為すこ
と全部可愛いなあと、ただ焼き芋を食べているだけとは思えないほど、伊作にときめいて
いた。
「買ってきたこの芋、一人で食べるんじゃなくて、お前と食べれてよかったぜ。」
「半分になっちゃったのに?」
「お前と一緒に食べてると、甘さ倍増だからな。同じもの食ってそんなにいい反応見せら
れたら、より美味く感じるってもんだろ。」
そう言って文次郎は最後の一口を口の中へと放り込む。伊作も残りの焼き芋を食べきって
しまうと、向かい合わせのまま、文次郎の肩にポスンと頭を預けた。
「どうした?」
「なんとなくこうしたい気分だから。」
そうかと文次郎は伊作の頭と背中に手を添える。そんな文次郎の行動にドキッとしつつ、
伊作はどうしようもない心地よさを感じていた。
「焼き芋すごく美味しかった。ありがとう、文次郎。」
「また、買ってきたら分けてやるよ。」
「うん。」
外では木枯らしが吹いているとは思えないほど、二人の体はポカポカと温まっていた。お
互いの温もりを感じながら、二人は甘く黄色い幸せの余韻にしばらく浸るのであった。

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