上生菓子 −ピンク−(竹谷×孫兵)

「あ、いたいた!おーい、孫兵ー。」
用があり、孫兵を探していた竹谷は、木の下でジュンコとくつろいでいる孫兵を見つけ、
少し離れたところから声をかける。パタパタと孫兵のもとまで走って行くと、孫兵も立ち
上がった。
「何ですか?竹谷先輩。」
「これからちょっと時間あるか?」
「特に用はないので、ありますけど。」
「なら、生物小屋へ行こう!」
「生物小屋ですか?別にいいですけど、エサやりはもう終わってますよ。」
「いいからいいから。」
何の用だか分からないが、とりあえずついて行こうと、孫兵は竹谷と共に生物小屋へと向
かう。生物小屋に入ると、竹谷は扉の鍵をしめた。
「とりあえず生物小屋に来ましたけど、何の用ですか?」
「今日、町に行ったらいいもの見つけてな。孫兵に見せてやりたいと思って。」
「いいもの?」
「立ってるのもなんだから、とりあえず座れ。」
竹谷に言われるまま、孫兵は生物小屋の床へペタンと座る。そんな孫兵の前に、竹谷は町
で買ってきたものを広げる。
「うわあ・・・」
目の前に広げられたものを見て、孫兵は思わず声を上げ、目を輝かせる。竹谷によって広
げられた紙の上には、淡いピンク色の花や蝶の形をした和菓子がちょこんと乗っていた。
「花はあれだけど、このピンクの蝶々、すごい可愛いなあと思ってさ。孫兵に見せてやり
たいと思って。」
「すごく可愛いです!!」
少々興奮気味でそう答える孫兵に、竹谷は嬉しそうに笑う。ここまでいい反応を見られる
とは思っていなかったので、買ってきてよかったなあと心底思った。
「結構高価な菓子みたいだから、味もなかなかだと思うぞ。」
「えっ、でも、そんなに高いお菓子なら、ぼくが食べるんじゃなくて、竹谷先輩が食べな
いと・・・」
「孫兵が喜んでくれると思って買ってきたんだから、孫兵が食べなきゃ。」
気持ちは嬉しいが、高価なお菓子であるということと魅力的すぎる見た目に、孫兵は食べ
ることを躊躇する。孫兵がなかなか手を伸ばさないのを見て、竹谷は孫兵の後ろに移動し、
ぎゅっとその一回り小さな体を包むように和菓子に手を伸ばした。
「わっ・・・た、竹谷先輩!?」
「自分で食べれないなら、俺が食べさせてやるよ。」
「じ、自分で食べれます!」
「ダメ。もう俺が食べさすって決めた。」
ピンク色の蝶々を手に取ると、それを孫兵の口元へと持っていく。
「ほら、孫兵。口開けて。」
恥ずかしいと思いながら、孫兵はおずおずと口を開ける。そのまま竹谷の持っている和菓
子をパクッと口に含み、柔らかなそれをゆっくりと噛みしめる。優しい甘さと滑らかな舌
触りに、孫兵はほぅっと小さな溜息をついた。
「どうだ?」
「すごく・・・美味しいです。」
「そうか。それならよかった。」
孫兵の表情から美味しいというのは心の底からの言葉なのだろうなと思い、竹谷はニッと
笑った。もう一つ食べさせてやろうと手を伸ばすと、その手を孫兵に止められる。そして、
今度は孫兵がピンクの花を手に取った。
「やっぱり、ぼくだけじゃなくて、竹谷先輩も食べるべきです。」
そう言って、竹谷の顔を見上げながら、孫兵はずいっと竹谷の口元にそれを持っていった。
「あーんしてください。」
この近距離でその台詞は反則だと思いながら、竹谷は言われるまま口を開く。孫兵の手に
よって口の中に入れられたそれは想像以上の甘さで、竹谷の胸を高鳴らせた。
「確かに、美味いな。」
竹谷の言葉に孫兵はニッコリと笑う。いきなりそんな表情を見せる孫兵に、竹谷はドキッ
とする。
「せっかく美味しいんですから、二人で分けないともったいないじゃないですか。」
「そ、そうだな。」
「本当はジュンコにも分けてあげたいけど、さすがにジュンコは食べられないから。あと
で他の美味しいものあげるね。」
首に巻いているジュンコにそう話しかけながら、孫兵は再び和菓子に手を伸ばす。自分だ
け食べさせられるわけにはいかないと、竹谷も残っている和菓子を手に取った。持ってい
るピンクの和菓子をお互いの口へ入れた後、二人同時に取ったのなら自分で食べればよか
ったのではないかということに、二人ともが気づく。
「一緒に取ったなら、自分で食べればよかったな。」
「そ、そうですね。でも・・・」
「何だ?」
「竹谷先輩が食べさせてくれた方が、もっと美味しい気がします。」
恥ずかしそうにそう言う孫兵に竹谷はもうメロメロだった。可愛すぎる孫兵の態度にドキ
ドキしながら、竹谷は孫兵の体をぎゅうっと抱きしめる。そんな竹谷の行動を嬉しいなあ
と思いつつ、孫兵は口の中に残るピンクの甘さをしっかりと味わった。

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