いちご −赤−(滝×鳳)

とある休日、滝の家に鳳は遊びに来ていた。滝の部屋のテーブルには、たくさんのいちご
が乗っている。
「偶然なんだけどさ、親戚とか近所の人からたくさんいちごをもらっちゃって、まだまだ
たくさんあるんだよね。」
「あー、たまにそういうことありますよね。」
「いちごって、あんまり日持ちしないから、消化するのが大変で。」
家にたくさんのいちごがあると、滝は苦笑しながらそんなことを言う。二人で食べるにし
ては、多いなあと思っていた鳳だが、それならば仕方ないと笑った。
「でも、このいちご、すごく甘くて美味しいですね。」
「そうなんだよ。普通にお店で売ってるのよりは美味しくて、食べる分には全然苦じゃな
いんだよね。」
練乳などをかけなくとも、そのいちごは十分に甘く、おやつやデザートとして食べるには
なかなかのものであった。大きさもそれほど大きくないため、それなりの数を食べても、
そこまで食べ過ぎているという感じもなかった。
「あ、飲み物なくなりそうだね。今、お茶入れてくるからちょっと待ってて。」
「あっ、すいません。」
鳳の分も自分の分も飲んでいた飲み物がなくなりそうだと、滝は一旦部屋を出て、お茶を
入れに行く。滝がお茶を入れに行っている間も、鳳はお皿に盛られたいちごをパクパクと
食べていた。
「おまたせ。」
二つのカップと紅茶の入ったポットをお盆に乗せ、滝は戻ってくる。
「それ、いちごジャムですか?」
紅茶の他に、真っ赤な何かが入った瓶があるのを見て、鳳はそう尋ねる。
「うん、そうだよ。ジャムにすれば、少しは長く食べれると思って作ったんだ。今回は、
砂糖の代わりに紅茶に入れようと思って。」
「なるほど。ジャムも合いますもんね。」
持ってきたカップに紅茶を注ぎながら、滝は答える。こんなに甘いいちごで作ったジャム
なら、さぞかし美味しいのだろうなと、鳳はジャムの瓶を眺める。紅茶を注ぎ終え、ジャ
ムを入れようと瓶に手をかける滝であるが、蓋を開けようと思っても、びくともしない。
「あれ?」
「どうしたんですか?」
「いや、ジャムの蓋が固くて。」
思いきり力を入れて開けようとするが、全く開く気配がない。
「あー、ダメだ。そんな固く閉めたつもりないんだけどなー。ゴメン、長太郎。ちょっと
開けてもらえるかな?」
「はい。」
自分よりは力が強い鳳に、滝は蓋を開けるように頼む。滝からジャムの瓶を受け取り、蓋
を回そうと力を込める鳳であるが、思った以上に固くそう簡単に開かない。
「確かに固いですね。」
「長太郎でも開かない?」
「いや、もう少し力を入れれば、たぶん開くと思うんですけど・・・」
先程より更に力を入れ、鳳は蓋を回す。パコンという音を立て、蓋は無事に開いたが、勢
いよく開いたため、ギリギリまで入っていたジャムが鳳の手に飛び散った。
「あっ、すいません!!」
「いや、全然大丈夫だけど、洋服とかにかからなかった?」
「はい。かかっちゃったのは手だけなんで。」
「よかった。」
真っ赤なジャムが洋服にかかってしまっては大変だと、滝は鳳の言葉を聞いて安心する。
蓋の開いた瓶をテーブルに置くのを確認すると、滝はいちごジャム塗れの鳳の手を取った。
そして、その手を綺麗にするかのようにジャムを舐め取る。
「っ!?」
いきなり手を舐められ、鳳は驚く。指や手を舐められる感覚にドキドキしながら、鳳は真
っ赤になって固まってしまう。
「よし、綺麗になった。」
鳳の手のいちごジャムはすっかりなくなったが、鳳は恥ずかしさから黙ってしまう。
「ふふ、長太郎の顔、いちごみたいにすごい真っ赤。」
「だって、滝さんが・・・」
「せっかく開けてくれたんだから、紅茶にジャム入れるね。」
ドギマギとしている鳳を横目に滝は紅茶にジャムを入れる。ジャムの溶けた紅茶を鳳の前
に差し出すと滝はニッコリと笑ってどうぞと言う。ドキドキしたまま、鳳は滝の用意して
くれた紅茶に口をつけ、ゆっくりと飲む。
「どう?いちごジャム入りの紅茶の味は?」
「・・・ドキドキしすぎて、分からないです。」
「そんなにドキドキしてるの?」
「いきなりあんなことされたら、嫌でもしちゃいますよ。」
いまだに耳まで真っ赤な鳳は、少しでも落ち着こうと滝の入れてくれた紅茶を飲む。何口
か飲んでいると、ふんわりとした優しい甘さと甘酸っぱいいちごの香りが口の中に広がる。
「甘いです・・・」
思わず鳳は呟く。それを聞いて滝は嬉しそうに笑った。
「美味しい?それとも甘すぎ?」
「美味しいです。」
「そう。それならよかった。でも、さっきの長太郎の手もすごく甘かったよ。」
滝にまたそんなことを言われ、鳳はまた恥ずかしそうな表情になる。そんな鳳を可愛いな
あと思いながら眺め、滝はいちごの香る紅茶を味わうのであった。

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