Talk about Songs!

部活が終わり、レギュラー専用部室に集まっているレギュラー陣はそれぞれソファやパソ
コンの前の椅子に座りくつろいでいた。
「岳人、何聞いてるん?」
岳人はソファに腰かけ、MDを聞いていた。そんな岳人の隣に制服に着替え終えた忍足は
腰を下ろす。
「ん?何、侑士?何か言った?」
「せやから、何のMD聞いてるん?」
「あー、これ。さて、何でしょう?」
意味ありげな笑いを浮かべて岳人は逆に尋ね返した。そんな岳人の態度に忍足はしばし困
惑。すると、そこに滝が口を挟んできた。
「岳人のことだから、アニソンとか?」
「違ぇーよ!!」
「じゃあ、何なのさ?」
「『結晶』」
「『結晶』?誰の曲?」
「侑士は分かるよな?」
『結晶』というタイトルを聞き、忍足はほのかに赤くなる。そう、『結晶』といえば忍足
が最近出したアルバムのタイトルだ。
「こないなとこで、俺の歌聞いとるん?」
「おう。俺、このアルバム超好き!歌ってる時の侑士の声って、すっげぇセクシーなんだ
もん。」
「な、何言うてんねん。そないなことあらへん。」
アルバムを好きだという言葉に照れ、歌い方がセクシーだということに照れ、忍足はかな
り動揺している。そんな二人の会話に今度は宍戸が割り込んできた。
「俺もそのアルバム聞いたけどよ、入ってる曲がちょっとアレじゃねぇ?」
「アレって何や?」
「跡部の出してるCDでも、歌詞が微妙にそっち系のがあるけど、それに匹敵するくらい
っつーかそれ以上にエロい歌詞の曲あるよな。」
「なっ・・・!?」
「あー、分かる分かる!!『月夜の下で』とか『くせもの』とか確かにそんな感じだよな!」
「何の話してんだ?」
そこに今度は跡部が加わった。このメンバーの中で一番CDを出している上、オリコンで
もベスト10入りを果たしている跡部がこんな会話に加わらないはずがないだろう。
「おう、跡部。今な、忍足のアルバムの曲がエロい歌詞だよなーって話してたんだよ。」
「宍戸、それ、はしょりすぎやろ!」
「へぇ。俺も確か聞いたはずだが、そんな歌詞だったっけか?」
「何なら今聞いてみるか?」
そう言いながら岳人は耳かけタイプのヘッドホンを跡部に渡す。流れている曲はちょうど
『くせもの』だった。跡部はそれを黙って聞いてみる。
「あー、言われてみれば確かにそうかもな。」
「何余計なことしとんねん、岳人!!」
「だって、本当のことじゃん。」
他のメンバーの話を聞いてようやくことの内容を理解した滝はまた話に加わる。滝自体は
CDを出しているということはないが、レギュラーメンバーの出したCDは一通り聞いて
いた。
「なるほどねー。それで岳人はそのアルバムの中でどの曲が一番好きなの?」
「そんなの決まってんじゃん!『スパイラル』だよ、『スパイラル』!!」
「『スパイラル』っつったら、お前と忍足がデュエットしてる曲だよな?」
「おう!初めてCD出した時は俺ら別々だったからさ、このアルバムでデュエット出来た
の超嬉しかったんだぜ。」
「忍足だけが歌ってる曲では?」
「そうだなー、やっぱ『月夜の下で』とか?あ、あと『瞳を閉じて』も結構好きだぜ。」
『瞳を閉じて』というタイトルだけを聞いて、着替えを終えた鳳も会話に加わる。
「『瞳を閉じて』って平井堅ですか?」
「違うよ、長太郎。忍足のアルバムの話。」
「あー、なるほど。忍足さんも跡部さんもすごいですよねー。シングルもたくさん出して
るし、アルバムも出しちゃってるんですもん。」
「もう俺のCDの話はええやん。そろそろ話題変えへん?」
これ以上この話題を続けていると何を言われるか分からない。忍足は溜め息をついてそん
なことを言った。
「他の話題ねぇ。CDの話関連で言ったら、やっぱ跡部のCDネタが無難じゃねぇ?」
「俺様が出してるCDはオリコンでもかなり上の方までいったぜ。そりゃ話の種にはなる
だろうよ。」
「宍戸ってさ、やっぱ跡部が出したCD全部持ってたりするの?」
「んー、まあ一応な。別に買わなくても跡部がくれるし。」
忍足や岳人の向かいのソファに腰を下ろしながら宍戸は言う。跡部は自分のCDが出る度
に自ら宍戸にあげていた。なので、アルバムを含め、今まで出た跡部のCDを宍戸は全て
所有しているのだ。
「跡部さんの歌ってる曲って、何か歌詞がすごくいい感じなの多くないですか?」
「当然だろ?」
「でも、微妙なヤツもいっぱいあるよね。」
「あーん?何だと?」
滝の発言に跡部はカチンとくる。確かにないとは言えないが人に指摘されると、何となく
腹が立つものだ。
「だってさ、『トラソルの鳥籠』って曲あるだろ?あれはどういう意味なのさ。トラソル
を飼いたいわけ?」
「鳥籠ってことはやっぱそうじゃねぇの?てか、トラソルってどんな鳥なんだ?」
トラソルという言葉の意味を知らない岳人が首を傾げながら尋ねる。滝は笑いながら首を
振った。
「違うよ岳人。トラソルは鳥じゃないって。」
「はあ?じゃあ、何だよ?」
「確か・・・どこかの神話の神様やなかったっけ?」
「そうそう。このCD出すとき、アステカ神話の女神とだけ公表してたよねー、跡部。」
「まあな。別に間違っちゃいないぜ。」
トラソルの何が悪いと言わんばかりに跡部は滝を見る。
「宍戸はトラソルがどんな女神か知ってる?」
「そんなの知るわけねぇだろ。別に俺、アステカ神話に興味あるわけじゃねぇし。」
「どんな女神なんですか?滝さん。」
鳳に尋ねられ、滝は跡部を見つつその答えを言った。その答えを聞き、跡部はだから何だ
と飄々としているが、他のメンバーは当然のことながら驚く。
「トラソルっていうのは、性欲の女神なんだ。いき過ぎたそういう行為の罪を浄化してく
れる女神様。これを飼いたいってタイトルなんだからすごいよねー。」
「マジで!?うわあ、ありえねー。」
「大胆やタイトルやな。歌詞からは想像出来へんけど。」
「別にいいじゃねぇか。誰も分かりゃしねぇよ。」
そんなことを知っているのは、本当に少数だろうと跡部は笑う。トラソルにそんな意味が
あるということは百も承知だった。
「でもさ、跡部らしいっつったら、跡部らしくねぇ?俺は別にそれ聞いて、何とも思わね
ぇけどな。てか、あってんじゃん。」
「さっすが、宍戸。やっぱ、跡部とそういうことしてるとトラソルが必要だなあと思っち
ゃうんだ。」
「なっ!?べ、別にそんなこと言ってねぇだろ!!」
「そんなに動揺してるっちゅーことは図星ちゃうん?」
「ち、違ぇーよ!!」
滝や忍足にからかわれ、宍戸の顔は真っ赤になっている。そんな様子を見て、くすくす笑
いながら、鳳は跡部の歌についてとあることを思い出す。
「そういえば、跡部さんのアルバムでこれは宍戸さんに向けてだなあと思う曲ありません
でしたか?」
「宍戸に向けての曲?樺地に対しての歌はあったけど。」
「あれはもうあからさまじゃないですか。そうじゃなくて、何となく歌詞がそんな風に聞
こえるなあと思う曲があったんですよ。タイトルは忘れちゃったんですけど・・・」
そんな曲があったなあというのは覚えているが、タイトルが思い出せない。そのタイトル
を必死で思い出そうと悩んでいると、忍足がふと思いついたタイトルを口走った。
「もしかして・・・『孤高の翼』か?」
「うーん、俺は『Spirit Way』だと思うけどなあ。」
滝も忍足に続けて、一つの曲のタイトルをあげる。跡部のアルバムはもちろん聞いたがそ
んな曲はあったかなーと宍戸は首を捻る。
「たぶんどっちもだと思います。二曲くらいそんな曲がありましたから。」
「俺に向けてっぽい曲ってどんな感じだ?別にそんな風に聞こえた曲なかったけどなぁ。」
「どんな感じかって聞かれたら・・・ねぇ?」
「せやなあ、宍戸一回レギュラー落ちしたやろ?」
「お、おう。」
「その時の跡部の心境っていうのかなあ?何かもう一度レギュラーに復帰することをもの
すっごく望んでるっていうか、その為には自分も手を貸してやる的な歌詞だよね。」
「そうそう、それですよきっと!!」
自分が思ってる歌はまさにそれだと鳳は頷く。しかし、宍戸は納得がいっていないようだ。
「で、跡部、これは本当のとこどうなの?俺達にはそう聞こえたけど、宍戸は分からない
みたいだよ。」
「まあ・・・間違ってはいねぇな。」
「マジかよ!?跡部!!」
「お前、マジで気づかなかったのか?二曲もお前のために歌ってやったのに。まあ、いい。
今度生で聞かせてやるから、そんときはそのつもりで聞けよ?」
「・・・おう。」
そうだったのかと宍戸は内心メチャクチャ驚いているが、外から見れば唖然としていると
いう感じだ。自分ために歌ってくれている歌が二曲もあるということを知って、宍戸はか
なり感動していた。家に帰ったらもう一度、聞きなおしてみようと心の中で決める。
「あ、『孤高の翼』と言えばさぁ、宍戸が『Kiss of Prince』で歌ってた
曲がそれの返しっぽくなかった?」
「『Kiss of Prince』で歌った歌?・・・あー、あれか!」
自分がどんな歌を忘れていた宍戸はしばらく考えて思い出す。『孤高の翼』がどんな曲だ
ったかハッキリとは覚えていないが、確かに自分の曲にも翼という言葉は歌詞の中に入っ
ていた。
「俺、よく分かんねぇ。なあ、跡部も宍戸もその歌今ここで歌ってみろよー。」
そんなにポンポン思い出せないと岳人は無茶苦茶な要求をする。そんなこと出来るか!!
という宍戸の反応に対して、跡部は何の文句も言わず『孤高の翼』を歌い始めた。
「灰色の空 吠え立てる風 絡まるShadows 選ばれし者 挑むべき日々 無情の
微笑み 狂気に満ちた 太陽に咲く 儚い炎 期待と孤独 交差する この胸で舞い踊れ
・・・・」
そんな跡部に宍戸は唖然。もちろん本当に歌うとは思わなかったので、岳人自身もビック
リだった。アカペラで歌う跡部に思わず他のメンバーも聞き入ってしまう。
「かき立てる 激情の嵐 止むことさえ知らない 奪われたものは取り返す 望み通りの
Best ending 閉ざされた思いが したたかに目を開く 駆け引きの行方を 
見届けてやるぜ blazing wings・・・・」
「このあたりとかモロにだよね。」
「せやな。奪われたものっちゅーのは、レギュラーの座やろ?しかも、宍戸、跡部のおか
げで監督に許しもらえたやん。これは望み通りのベスト・エンディングやろ?で、駆け引
きっちゅーのは、鳳とのあの無茶な特訓のことやろな。」
家に帰るまでもなくこの曲の真相を知った宍戸は、言葉を失ってしまう。確かに滝や忍足
の言う通り跡部の歌う歌詞は、まるで自分のことを歌っているようだ。そう思うと何だか
ドキドキしてきてしまい、聞いているのが恥ずかしくなってしまう。
「ほら、歌ってやったぜ。」
「おう!じゃあ、次は宍戸だな!!」
「えっ!?ちょっと待てよ、俺も歌わなくちゃいけねぇのか?」
「当たり前だろー。跡部が歌ってくれたんだから、宍戸も歌えよ!」
「あれは跡部が勝手に歌ったんじゃねぇか!」
「はいはい、文句は言わない。他のみんなも宍戸の歌聞きたいよねー。」
「はい。」
「やっぱ、比べなアカンからな。」
「何々?カラオケ大会でもしてんの?」
あたりがだんだんと騒がしくなってくるので、さっきまで眠っていたジローが完璧に目を
覚ました。何か面白いことが行われてるというのを敏感に察しとり、この会話に参加する。
「跡部の歌と宍戸の歌がリンクしてるのかっていうのを確かめようと思ってんだよ。」
「へー、何か面白そー。今の状況、次は宍戸が歌うって感じ?」
「そうそう。ほら、宍戸、早く歌えよ。」
「な、何勝手なこと言って・・・」
「俺も聞きたいぜ、宍戸。俺様の歌、ちゃんと聞かせてやったんだから、テメェも歌うっ
てのが道理ってもんだろ?」
そう言われてしまっては、文句は言えない。仕方なく宍戸は『Kiss of Prin
ce』に入っている自分の曲『High up in the sky』を歌い始めた。
「黄昏に沈む街並みを 駆け足で過ぎて ぼやけたオレンジに溶けてく 戸惑いの中に 
anytime 耳をふさいで 目を背けてばかり だけど信じて 決して逃げたくない
・・・・」
「ほら、やっぱりレギュラー落ちした時の歌っぽく聞こえない?」
「あー、確かに。しかも信じてって言ってる相手は・・・」
「どうかんがえても跡部やろな。」
宍戸の歌を聞き、三人は言いたい放題。しかし、言っていることは間違ってはいない。
「翼羽ばたかせ 待ってる人がいるから 信じあえたなら 一緒に歩んで行こう いつだ
って I can do it 明日へと続くこの道 もっと高く飛べるはず・・・・」
サビの部分に入ると聞いていたいたメンバーはああと頷く。確かにさっき跡部が歌ってい
る歌にうまい具合にリンクしている。
「『待ってる人』イコール跡部。」
「跡部が見届ける『blazing wings』を持ってる奴は宍戸。」
「『翼羽ばたかせ』とか言ってるしね。」
「完璧やな。」
滝の言っていた通り、『Kiss of Prince』で宍戸が歌っていた歌は、バッ
チリ跡部の歌った曲の返しになっている。これにはさすがの跡部も気づいていなかったの
で、驚いた様子を見せつつ顔を緩ませていた。
「すごいですよね!お互いのことを思ってリンクしてる歌があるって。」
「ホント、ホント。さすが跡部と宍戸だよねー。」
「べ、別にいいじゃねぇか!!なあ、跡部。」
自分でもこのリンクっぷりは否定出来ない。宍戸は顔を真っ赤にして、ちょっと怒ったよ
うな口調でそんなことを言う。
「ああ。俺達だから為せることだぜ。」
宍戸の肩を抱きつつ、跡部は自信たっぷりの笑みを浮かべてそう言い放つ。ここまで自慢
されるとさすがに他のメンバーも悔しくなってきてしまう。そんな悔しさを誤魔化すかの
ように滝はポンと話題を変えた。
「長太郎も『Kiss of Prince』では一人で歌ってるよね?」
「はい。」
「俺、あの曲好きだよ。あ、あと『Love of Prince』に入ってる曲も好き
だなあ。むしろ、俺はこっちのが好きかも。」
「俺もどちらかと言えば、あとの歌の方が好きですね。」
もう跡部と宍戸の歌は無視で、滝は鳳の歌の話を始めた。自分の歌っている歌を好きだと
言われるのはなかなか嬉しいものだ。
「侑士もどっちのゲームでも歌ってるよな?」
「せやな。岳人も初めの方のでは歌ってるやん。」
「俺、『Secret moon』超好き。何か曲調ちょっと乙女チックな感じだけど、
歌に合ってるし、侑士の声が可愛い。」
「可愛いって何やねん。」
「んー、だって、この曲歌ってる侑士の声って地声よりメチャメチャ高いじゃん。あれは
どうかんがえても可愛いって言えんだろ。」
「そうか?まあ、好きだって言われるのは悪い気しないわ。おおきにな岳人。」
ニッコリ笑って忍足は岳人にお礼を言う。そんな忍足に岳人は思わず抱きついた。いきな
り抱きつかれ、少々戸惑う忍足だが、その顔は全く迷惑がってはいない。
「何やねん?いきなり。」
「だって、侑士、超可愛いんだもん!俺がキス・プリで歌ってる歌、思いっきり侑士に向
けての歌だぜ!!」
「そうなん?確かに岳人になら俺の全部咲かせられるかもしれへんなあ。」
「だろー?あー、何かこんな話してたらカラオケ行きたくなっちまったー!!」
「いいねー、カラオケ。これから行こうか。」
「俺も行きたいです。」
歌の話を延々としていたので、そこにいたメンバーは無性にカラオケに行きたくなる。あ
まり会話に加わることの出来なかったジローや樺地もこれには賛成だった。
「俺も行く行くー!!今日はもうバッチリ目覚めちゃったしな。樺地も行こうぜ!!」
「ウス。」
「跡部達はどうする?」
「俺はもういいや。さっき無理矢理歌わされたしな。」
「だったら宍戸、俺んちに来いよ。さっき言ってたもう一つの曲、聞かせてやるぜ。」
「おう。いいぜ!じゃあ、俺らはそのまま帰るわ。」
「そっか。よっしゃー、じゃあカラオケ行くかー!」
「あんまり遅くまで遊んでんじゃねーぞ。」
「分かってるって。跡部達も二人で盛り上がったからって、あんまりやましいことしちゃ
ダメだよ?」
「はあ!?するわけねぇだろ。」
「どうだか。じゃ、みんな行こうか。」
『おう!!』
滝や岳人を筆頭にほとんどのメンバーはこれからカラオケに行くことになった。一方、跡
部と宍戸は跡部の自宅でカラオケをするようだ。岳人の聞いていたMDから発展したそれ
ぞれの歌っている歌の話。単なる雑談ではあるが、意外なことを発見したり、お互いへの
思いを確認したりと、どのメンバーも充実した時間を過ごせたようだ。

                                END.

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