☆七夕祭り☆ 〜後編〜

カラオケボックスに入った8人はそれぞれ好きな場所に座り、目の前にある曲本を見始め
た。
「何歌おうか?」
「そうやな・・・・。」
「なあ、みんな。聞いて聞いて。」
こういうところに入っても珍しく起きているジローは何かを思いついたようで、全員に声
をかけた。
「何だよ?ジロー。」
「さっき取った服あるじゃん?あれ、みんなで着まわししようぜ!!」
『はあ!?』
さっき取った服とはもちろん跡部がゲームセンターで取ったあのウェイトレスの服だ。そ
れを着まわししようとはなかなかおもしろそうな提案である。
「マジで?」
「うん!!うーん、樺地は着るの無理だと思うんだけど長太郎くらいまではなんとかいけ
るよ。だから、みんなやろうぜ!!」
ジローは本当に楽しそうに言う。他のメンバーはうーんとしばらく頭を悩ませるが1番初
めにこれについて賛成意見を出したのは跡部だった。
「まあ、別にいいんじゃねぇ?」
「えっ、跡部マジかよ?」
「確かに自分が着んのはちょっと気が引けるけどよ、宍戸が着てるのを見るのは結構オイ
シイと思うんだよな。」
「なっ!?」
「あー、確かに。侑士がこの服着てるの見てみたい。」
「ちょっ、岳人まで何言って・・・」
「そうだよね。俺も長太郎が着てるの見てみたいもん。」
「滝さん!?」
「じゃあ、決まり!!くじびきで順番決めようぜ。」
ジローはその辺においてあったメモ帳でアミダくじを作った。下の端に1〜7までの番号
を書きその部分を折って数字を隠す。
「お前線ぐちゃぐちゃだぞ。」
「いいじゃん。大丈夫だよ。」
直線とは言いがたい線であったが、一応はアミダになっている。ジローは順番に線の上に
名前を書かせた。ぐにゃぐにゃの線を下へと辿る。1番は鳳、2番は跡部、3番はジロー、
4番は忍足、5番は滝、6番は岳人、7番は宍戸だ。
「俺、1番っスかぁ。」
「はい、長太郎。」
満面の笑みで滝は鳳に服を渡す。鳳は嫌がりながらも浴衣を脱ぎ、その服を着始めた。
「うっ・・・これ、キツイですよ。無理です。」
185cmという長身を持つ鳳には、かなりこの服はキツイだろう。だが、他のメンバー
は無理やりにでも着せようと着るのを手伝った。
「大丈夫、大丈夫、着れるって。」
「ちょっ・・・うわっ、やめてください!!」
かなりパツパツで、スカートもありえないほどのミニスカートになっているが、なんとか
着ることは出来た。
「嫌だ〜、恥ずかしいですよぉ。」
「うわあ、長太郎可愛いーVv」
「なかなか似合うじゃん。」
「でも、このスカートの短さは犯罪的じゃねぇ?」
「もう脱ぎたいです。脱いでいいですよね?」
もう恥ずかしさから半べそ状態で鳳はこの服を脱ぎたがる。だが、先輩陣はそれを許さな
かった。
「一曲歌ったら脱いでもいいぜ。」
「そんなあ〜。」
「何だったら一緒に歌ってあげるよ。長太郎。」
結局、鳳はそのままの格好で歌わされた。滝がデュエットに付き合ってくれたがやはり恥
ずかしくて仕方がない。そのうえ、ジローがデジカメを持って来ていたようで、バッチリ
その姿をカメラに収められてしまった。
「やめてくださいよ、ジロー先輩。」
「いい写真撮れたよ。よし、じゃあ次♪」
「次は俺だな。」
歌い終えると鳳は即行でその服を脱ぐ。そして、跡部にそれを渡す。跡部は何の戸惑いも
なしにその服を着た。さすが、跡部。何を着ても似合う。それもポーズなどもバッチリつ
ける始末だ。
「跡部、流石。」
「そうだろそうだろ。俺様は何を着ても似合うんだ。」
「跡部も何か歌えよな。」
「当然。」
跡部も一曲歌い、ウェイトレスの服を脱いだ。次はジローなのだが、すっかり睡眠モード。
「ジローはぬかすか。」
「そうだな。じゃあ、写真は樺地が撮れよな。」
「ウス。」
ジローはぬかすことになり、写真は樺地に任せる。次の忍足は鳳と同じくかなり嫌がって
いる。
「やっぱ、嫌や!!」
「ダメだよ侑士。みんな着るんだから今更嫌がらないの。」
「でも・・・・」
「岳人、無理やり着させちまえ!」
他人事なので宍戸は楽しそうに言った。忍足は本当に抵抗するが滝や鳳に体を押さえられ
岳人に無理やり着させられてしまう。その光景を樺地はしっかりとカメラに収めた。
「樺地、今のは写真撮るのヤバイんじゃねーか?」
跡部はニヤニヤ笑いながら樺地に言う。
「?」
「本当、本当。だって、こんな中途半端に着せられてる写真じゃ脱がしてるようにも見え
るもんな。」
「っ!!樺地、その写真消して・・・」
「ダメ!!消しちゃ!!」
忍足は消せと言い、岳人は消すなと言う。樺地は困惑して、カメラを跡部に渡した。
「やっぱ、消さないでおこうぜ。」
「そんなぁ・・・」
「ほら、忍足何か歌いなよ。歌わないと脱げないぜ。」
忍足は出来るだけ短い歌を選び歌った。もう早く脱ぎたいのが1番なので好きな歌などを
選んでる余裕はない。唱歌でもTVサイズの曲でもとにかく短いものがよかったのだ。
「忍足、歌短いぞー。」
「ええやん。ちゃんと歌ったで。」
いろんな意味で恥ずかしくて、忍足は真っ赤になり泣きそうな顔をしている。これでもう
一曲なんて言われた時には、その場から逃げ出してしまうだろう。もちろんこの服は脱い
でだが・・・。
「まあ、いいや。じゃあ、次は滝だね。」
次の滝もその次の岳人もかなりノリノリ。オカッパペアは流石と言っていいほど違和感な
くその服を完璧に着こなした。そして、最後は宍戸。宍戸も初めは嫌がっていたが、着て
しまうとそんなに嫌がってはいない。ある意味慣れているというのもあるのかもしれない。
「宍戸、全然違和感なーい。」
「こういう服着てるときはこう座んのがいいんだよな。」
何故だか、座り方や仕草まで熟知している。岳人や滝はこれは跡部の影響だなとすぐに分
かった。
「宍戸さん、何でそんなに着慣れてるっていうかそういうこと知ってるんですか?」
「そりゃあなー・・・」
宍戸はちらっと跡部を見る。その視線に気がついて跡部はクスッと笑って、肩を抱いて引
き寄せた。
「俺様のおかげだろ?なあ、宍戸。」
「まあ・・・そうだな。」
宍戸も素直に肯定してしまう。どういう意味か分かってしまった他のメンバーを笑うもの
もあり、赤くなるものもあった。宍戸もそのままの服で一曲歌うが、曲が終わってもその
服を脱ごうとしない。もう次に着る人がいないというのもあるのだが、着ているうちにテ
ンションが高くなってきてしまいこのまま着ててもいいやという気分になってしまったのだ。
「あれ?宍戸脱がないの?」
「あー、いいよ。も少しこのままで。俺、似合うだろ?」
「似合うぜ。このままお持ち帰りしたいくらいだ。」
「跡部の変ー態。」
「別にいいじゃねぇか。宍戸は俺のだ。」
なんやかんやしているうちにどんどん時間は過ぎていく。2時間しか部屋を取っていなか
ったので、あっという間に終了時間がきてしまった。
「もう終わりかー。やっぱ、この人数で2時間じゃ短いよな。」
「そうだな。でも、今日は七夕に来たんだから、こんなとこで時間くっててもしょうがね
ーだろ。」
「あれ、宍戸先輩脱いじゃうんですか?」
「当たり前だろ!!こんな格好で回れるか!!」
「何だつまんなーい。」
「おい、ジローここ出るぞ。起きろ!!」
「うー・・・ん・・・・あれ?俺、寝てた?」
「バッチリ寝てたで。ほら、早く起きんと置いてくで。」
「えっ、ちょっと待ってよー。」
他のメンバーがさっさと行ってしまうので、ジローは慌てて追いかける。跡部が代表で代
金を払うと8人は外へ出た。もうすっかり雨はやんでいた。
「雨やんでんじゃん。」
「じゃあ、屋台とかまた回ろうぜ。」
8人は再び屋台をまわり始めた。だが、まだそんなにお腹はすいていないので食べ物を買
う気にはならない。

「何かやりたいよなー。でも、くじとかいっぱいやるのも金の無駄なような気がするし。」
「宍戸、あれで何か欲しいものあるか?俺が取ってやるぜ。」
跡部が指差していたのは射的だった。宍戸はそこにあるゲームソフトが目に入る。前々か
ら欲しいと思っていたもので、取れるものなら取って欲しいなあと思った。
「でも、こういうのてめちゃくちゃ難しくねぇ?重い景品だとほとんど取れないと思うん
だけど・・・。」
「俺様に出来ないことはねぇ。何でも取ってやるぜ。」
そこまで言うのならと宍戸は、自分の欲しいゲームソフトを指差す。跡部は自信満々に鉄
砲を構え、その目的の品に狙いを定めて引き金を引く。
パンッ!!
コルクの弾は箱の中心やや上にあたり位置を少し後ろにずらした。倒れもせず落ちようと
もしないので宍戸はやはり無理だろうと思った。
「跡部、やっぱ無理なんじゃねーの?」
「何言ってんだ。物事には順序ってのがあるんだよ。」
そう言って跡部は2発を撃つ。今度は箱のかなり上部に当たり、見事に箱は倒れた。通常
ならただ倒れるだけなのだが、一発目で後ろにずれていたこともあり、しっかりと棚から
落ちる。もちろん景品は跡部達のものになったというわけだ。
「わあっ!!跡部、すっげー!!」
「これくらい当たり前だ。あと3発残ってるぜ。他に欲しいもんは?」
「じゃあ、あのゲーム機も取ってくれよ。」
「いいぜ。」
残りの3発で跡部は宍戸が欲しがるゲーム機もGETする。本当に跡部はオールマイティ
ーに何でも出来るようだ。
「サンキュー跡部Vvでも、これ本当に俺がもらっちゃってもいいのか?」
「当然だろ?俺はそんなもんいらねぇよ。」
「あー、でも、マジうれしい!!このゲーム前から欲しかったんだけど、金なくて買えな
かったんだよ。ホントありがとな。」
「でも、あとでお返しはちゃんとしてもらうからな。」
「うん。分かってんよ。」
お返しがどんなことかも考えずに宍戸は笑顔で頷く。だが、跡部もお返しとかそういうこ
と関係なしに宍戸が喜んでいることにほのかな満足感を抱いていた。2人が射的をやって
いる間、他のメンバーも屋台で様々なことをしている。樺地とジローはそのすぐ隣で金魚
すくいをしていた。
「マジマジすっげー!!」
何故だかジローは興奮気味。一体目の前で何が起こっているのであろうか?
「・・・・・。」
樺地は黙々と金魚をすくっている。店の人唖然。水の入った入れ物にはもう15匹以上の
金魚がピチピチと動き回っている。
「樺地、それ何匹目?まだすくうヤツ破れないぜ。やっぱ、樺地すげーよ!!」
25匹を超えたあたりでさすがに濡れた紙は破れてしまった。もうこれ以上はすくえそう
にない。
「あーあ、破れちゃった。でも、樺地すごいな。何匹すくった?」
「28匹・・・・です。」
「スッゲー!!樺地、天才ー!!」
はしゃぐジローだが、困っているのはその店の人。この金魚を全部持っていかれてしまう
とかなり困ってしまう。
「あの・・・全部持って帰りますか?」
おそるおそる屋台の人は聞いた。取った張本人の樺地は首を振り、指で3という数を表し
た。どうやら3匹持って帰れればいいということらしい。その店の人は心底ホッとした。
「えー、何で3匹だけなのー?」
ジローは明らかに不満そうだ。樺地は水で満たされた袋に入っている3匹の金魚を渡され
るとそれをジローに手渡した。
「えっ、この金魚、俺にくれるの?」
「ウス。」
「でも、樺地が取ったやつじゃん。」
樺地はうちじゃ飼えないという意味を込めて首を横に振る。ジローはそれを理解し満面の
笑顔でその金魚を受け取った。
「ありがとー!!俺、これ大事に育てる!!」
「ウス。」
ジローは赤く揺らめいている3匹の金魚を見て、またニッコリとした表情になった。一方
岳人と忍足はヨーヨーつりに挑戦している。
「侑士は何色の取るの?」
「俺は緑のやな。」
「俺、あのピンクの欲しい!!取れるかな?」
「取れるやろ。まあ、取れなくても確実に1つはもらえるけどな。」
「えー、でもやっぱ自分で取りたいじゃん。」
岳人はあの両端が曲がっているもので、ピンクのヨーヨーを狙った。だが、持ち上がる前
にひもが切れてしまう。
「あー、おしい!!もうちょっとだったのにー!!」
「おしかったなあ。はい、岳人。」
「えっ?」
忍足はさっき岳人が取ろうとしたピンクのヨーヨーを手渡す。忍足のひもは濡れてはいる
がまだ切れてはいない。
「侑士が取ってくれたの?」
「たまたまな。緑のヤツより取りやすそうな位置にあったから。」
「ありがとー!!俺、超うれしいぜ!!」
「あっ、切れてしもうた。」
自分の狙っていたのを取ろうとしたがやはり濡れていることもあって、簡単に切れてしま
った。
「ゴメンね侑士ー。俺のを取ってくれたからだよね。」
「ええよ。ヨーヨーが合うのは俺より岳人の方なんやし。」
「赤い髪の子。まだ、好きなヨーヨー1個持っていってないでしょ。1つ選んで持ってい
って。」
「そっか。俺、まだもらってないんだった。」
岳人は迷わず忍足の欲しがっていた緑のヨーヨーをもらう。
「はい、侑士♪」
「おおきにな、岳人。」
お互いに相手の欲しがっているものお取って交換し合った。さすがというかなんというか。
またここでもラブラブな雰囲気を見せつけている。だが、他のメンバーは自分達のことで
そんな光景など全く目に入っていない。残りの滝と鳳は他のメンバーとは異なり、そうい
うくじや何かを取るというものはやらないで、アクセサリーのたくさん並ぶところで記念
に何か買おうかというようなことを話していた。
「長太郎、何買おうか?」
「そうですねー、指輪もいいですけどこのネックレスもカッコイイですよね。」
「何か名前彫ってもらえるみたいだからさ、俺達二人の名前彫ってもらおうぜ。」
「はい。ホントどれにしましょうか?」
指輪、ネックレス、ロケット、キーホルダーといろいろなものがあるので二人は迷ってし
まう。いずれにしても二人の名前を彫ってもらい、おそろいで買うというのは決まってい
るのだが・・・。
「でもさ、俺達の名前ってローマ字にすると相当長くなるよね。」
「あー、確かに。“Chotaroh”に“Haginosuke”ですもんね。」
「じゃあさ、指輪とかこういうロケットとかは書く場所が少ないから、プレートみたいな
のにした方がいいよね。」
「そうですね。じゃあ、これなんかいいんじゃないっスか?」
「うん。いいかも。これならちゃんと入りそう。これにしようか?」
「はい!!」
二人は大きなプレートと小さなプレートがついたネックレスを選んだ。これになら二人の
名前をローマ字で書いても大丈夫そうだ。
「これ2つください。」
「名前は何て入れる?」
「萩之介と長太郎で。」
「どっちも?」
『はい!!』
アクセサリー屋は手馴れた手つきで名前を彫っていく。あっという間に2人の名前が2つ
のプレートに入れられた。二人はそれをそれぞれ受け取り、首につける。どちらもよく似
合っていた。
「いいお土産が出来たね。」
「はい。」
ニコッと笑顔を交わしあい滝と鳳はお互いのプレートに軽くキスをした。
「何か恥ずかしい。」
「ホントっスね。」
恥ずかしいと言いながらも二人の顔は幸せいっぱいという感じだ。8人が屋台関係で何か
をしたのはこれが最後で、残りは短冊に願い事を書いたり、飾りを見ることで七夕祭りを
満喫した。

もうそろそろ帰ろうかという時に跡部がある提案をする。
「おい、テメーら。せっかくこんな格好でここに来たんだ。みんなでプリクラでも撮って
行こうぜ。」
「ええんやないか。記念になるし。」
「うん。俺も賛成。」
「いいと思いますよ。」
みんなも撮りたいということで、プリクラを撮ることは決定した。ゲームセンターは確か
に混んでいたが、せっかくなのでどうしても撮りたい。一番人が少なそうな機種に並び、
全員で撮った。8人という大人数ではあったが、それぞれが思い思いにポーズをとり、最
高の笑顔で写る。何パターンか撮って、みんなで落書きをした。それはそこにいた全員が
満足いくものになった。
「よく撮れてるな。」
「うん。すっごくイイ感じだと思うぜ。」
「よっし、じゃあ、もう帰るか。」
「そうだな。」
もう日が暮れかけているので、8人は帰ることにした。東京まではまた1時間ちょっとか
かる。今日は遊び疲れたので、みんなそろって電車の中で眠ってしまった。その光景はと
ても和むものであったであろう。七夕の日、氷帝メンバーは充実した楽しい1日を過ごし
たのであった。

                                END.

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