楽しい夏祭り

夏祭りが行われている神社に到着すると、伊作はうきうきとした様子で文次郎の方を振り
返る。
「お祭りの雰囲気ってすごくいいよね!わくわくしちゃう。」
「ちゃんと前見て歩かねぇと、転ぶぞ。」
「確かに。普段あんまり履かない下駄とか履いてるしね。」
文次郎に注意され、伊作は前を向く。早くお祭りの中心に行きたいと、軽快に歩き出そう
としたところで、伊作は盛大にこける。
「うわっ!!」
伊作の少し後ろを歩いていたため、文次郎は転ばないように体を支えてやることが出来な
かった。ちゃんと注意して歩き始めた途端に転ぶとは、さすが伊作だなあと変なところで
感心してしまう。
「いたたた・・・」
「大丈夫か?」
「うん。あっ!鼻緒が切れちゃってる〜。」
派手に転んだわりには、そこまで大きなケガはしていなかったが、ブツリと下駄の鼻緒が
切れてしまっていた。まだほとんどお祭りを回れていないのに〜と伊作のテンションはが
た落ちだ。
「う〜、やっぱり不運だぁ。」
「ほら、ちょっと見せてみろ。」
ぺたんと地面に座っている伊作の下駄を取り上げると、文次郎は懐から手ぬぐいと一枚の
銭を出す。ビリッと手ぬぐいを裂くと、細く切られたそれを銭の穴に通す。下駄の裏の穴
からそれを通すと、切れた鼻緒にしっかりと結びつけた。
「これでとりあえず歩けるだろ。」
文次郎から下駄を受け取ると、伊作はそれを履いてみる。切れた鼻緒はしっかり固定され、
歩くのに何の問題もない状態になっていた。
「わあ、すごいね、文次郎!ありがとう。」
「今度は転ばねぇように、手繋いでてやるよ。」
「うん!」
すっと差し出された手を伊作は嬉しそうに握る。そのまましばらく歩いて行き、屋台が立
ち並ぶ場所までやってきた。
「いろいろあるねー。」
「そうだな。」
「美味しそうな匂いでいっぱいだし、何買うか迷っちゃうな〜。」
屋台のものをいろいろ食べたいと、伊作は財布を出そうとする。しかし、懐に入れてあっ
たはずの財布が見つからない。
「あれ?」
「どうした?」
「財布がない・・・」
「忘れたんじゃねぇのか?」
「ううん、ちゃんと懐に入れてきたはずなんだけど。」
「さっき転んだときに落としちまったのかもしれねぇな。結構な金額入ってたのか?」
「そんなにたくさんじゃないんだけど・・・・」
「だったら、今日は俺が奢ってやる。別にさっきのところに戻ってもいいけど、せっかく
ここまで来たんだからな。祭りを楽しむ時間が多い方がいいだろ。」
「いいの?」
「お前が不運なのはいつものことだしな。そのくらいのこと構わねぇよ。」
いつもより優しい文次郎に伊作はきゅんきゅんしてしまう。
「好きなの選んでいい?」
「ああ。」
ところせましと立ち並ぶ屋台を回り、伊作は食べたいものを選んで行く。わりとお腹は空
いているので、まずはたこ焼きを買った。出来立てを食べたいと、買ってすぐに伊作は道
の端の方へ移動し、腰掛けるのにちょうどいい石に座る。
「文次郎も座りなよ。」
「おう。」
熱々のたこ焼きを伊作はふーふーと冷ましながら食べる。その仕草が可愛いなあと思いな
がら、文次郎は伊作を眺めていた。その視線に気づいた伊作は、にこっと笑って、一つの
たこ焼きを文次郎に向けて差し出す。
「このたこ焼きすごく美味しいよ。はい。」
当たり前のように食べさせてくる伊作に、文次郎は少々照れながら口を開ける。ふーふー
と冷ましてくれているおかげで、熱すぎずちょうどいい温度のたこ焼きが口の中でとろけ
る。
「確かに美味いな。」
「じゃあ、半分こにして食べよう。」
もう一つ買おうではなく、半分こにして食べようという言葉に、文次郎は伊作らしいなあ
と笑う。一つ自分の口に運ぶと、次は文次郎の口へと運ぶ。そんなことをたこ焼きがなく
なるまで繰り返し、全て食べきると伊作は満足気に笑った。
「はあー、美味しかった。」
「半分俺が食っちまったから足りねぇだろ。」
「大丈夫。まだいろいろ食べたいから、ちょうどいいよ。」
次の食べ物を買おうと、伊作は立ち上がる。伊作が次に目をつけたのは、かき氷だった。
「文次郎、かき氷買っていいかい?」
「ああ、構わないぜ。」
「何味にしようかなあ。イチゴにレモンにメロン・・・うーん、迷うなあ。」
「イチゴにしろよ。」
「文次郎はイチゴが好き?」
「そういうわけじゃねぇけどよ。イチゴがお前に似合いそうだなあと思って。」
イチゴが似合いそうと言われ、伊作はちょっと照れたような顔を見せると、かき氷屋の店
主に向かって注文をする。
「すいません、イチゴかき氷下さい。」
「あいよ。」
文次郎がそう言うならと、伊作はイチゴかき氷を頼む。銭を払い、かき氷を受け取って移
動しようとすると、突然バシャっと水が伊作の顔にかかった。
「ぶっ・・・!!」
何が起こったか理解出来ない伊作であったが、竹で出来た水鉄砲で遊んでいた数人の子供
達が伊作に向かって謝る。
『ごめんなさーい!!』
「こら、お前ら、そんなもので遊ぶんだったらもっと人のいないところで・・・」
「いいよ、いいよ、文次郎。謝ってくれてるんだしさ。」
「お前がそう言うなら・・・」
文次郎に怒られ、ビクビクしている子供達であったが、伊作の一言でホッとしたような顔
になる。もう一度伊作に謝ると、パタパタとどこかへ駆けていく。
「あー、びちょびちょだ。かき氷が濡れなかったのが救いだけど。」
「本当、不運だよな。」
「本当だよー。」
「かき氷、落とさないようにちゃんと持っておけよ。」
そう言うと、文次郎は先程鼻緒を直した手ぬぐいの余りで、伊作の顔を拭ってやる。顔も
髪も丁寧に拭かれ、だいぶずぶ濡れ感はなくなった。
「ほら、これでどうだ。」
「だいぶ乾いた感じになったよ。ありがとう、文次郎。」
「溶けちまわないうちに、かき氷食べようぜ。」
「うん!」
先程のように近くの石に腰掛け、かき氷を食べる。甘く冷たいその氷が、暑さをいい具合
にやわらげる。今回は文次郎はあまりもらわず、ほとんどの氷を伊作に食べさせた。
「そんなにちょっとでいいの?」
「ああ。」
「文次郎が買ってくれたのに。」
「いいから、食べちまえよ。」
それならばと伊作はもぐもぐとかき氷を食べる。そろそろ食べ終わるという頃になると、
文次郎はニヤニヤしながら伊作の顔を眺めていた。
「何だよ?文次郎。」
「イチゴの色が口について、紅塗ったみたいになってるぜ。」
「嘘!?」
「真っ赤で、女装してるときみたいだ。でも、なかなか似合ってて可愛いぜ。」
「う〜・・・さっきの手ぬぐい貸してよ、文次郎。」
「嫌だ。」
「別に女装してないのにそんなじゃ恥ずかしいよ〜。」
イチゴの色が口についてしまったのが恥ずかしいと、伊作は軽く顔を染める。照れている
顔が更に可愛いと、文次郎は顔が緩むのを止められなかった。
「あっ!」
「どうした?」
「かき氷食べたら、ちょっと体が冷えて、厠行きたくなっちゃった。文次郎、ここで待っ
ててくれる?」
「ああ、分かった。迷子にならないように注意しろよ。」
「ならないよ。じゃあ、ちょっと行ってくるね。」
厠に向かって駆けていく伊作を見送ると、文次郎はしばらくその場で待つ。思ったよりも
時間がかかるなあと、伊作の駆けて行った方を見ていると、慌てた様子で伊作が走って戻
って来る。
「文次郎〜。」
「どうし・・・」
「わんわんわんわん!!」
伊作の後ろには大きな野良犬が吠えながら走ってきていた。なるほど、遅くなった原因は
これかと、文次郎は苦笑する。
「助けて、文次郎!!」
文次郎のもとまで辿り着くと、伊作は半べそ状態で文次郎に抱きつく。伊作を片手で抱き
寄せると、文次郎は向かってくる犬をギンっと睨んだ。文次郎の眼光にひるんだ犬は、そ
の動きを止める。
「ギンギーン!!」
「っ!!」
威嚇をするように文次郎がそう言うと、野良犬は驚いて逃げていった。犬が逃げていくの
を見て、伊作はホッと胸を撫で下ろす。
「怖かった〜。厠から出たら何故か追いかけられてさー。」
「本当不運全開だな、お前は。」
「でも、文次郎が追っ払ってくれて助かったよ。」
「確かにお前じゃ追っ払えそうにないもんな。だから、追いかけられてたんだろうけど。」
「また、戻ってきて追いかけられても困るし、お祭り回るの再開しよう。」
「そうだな。」
とりあえずここから離れようと、二人は屋台の並ぶ場所へと戻る。二人で更にいくつかの
食べ物を食べた後、神社の奥の方へと進んで行く。屋台ももう終わるというところで、伊
作は様々な飴が売っている屋台を見つける。
「見て、文次郎!金平糖があるよ!」
「本当だな。」
「綺麗だなー。お星様みたいで、可愛いよね。」
「欲しいなら買ってやってもいいぞ。」
「じゃあ、一つ買ってもらおうかな。あ、あと水飴も買っていい?」
「いいぜ。結構食べたのに、まだ食うんだな。」
「いや、さすがに金平糖とかはお土産な感じでだよ。水飴もすぐには食べないかな。」
今は食べないが、伊作は文次郎に金平糖と水飴を買ってもらった。
「ありがとう、文次郎。」
「どういたしまして。」
「うーん、さすがにちょっと疲れたなあ。」
「なら、少し休むか。」
「そうだね。」
慣れない下駄で歩き回ったので、伊作はだいぶ疲れていた。人の多いところよりは、静か
なところで休んだ方がよいだろうと、文次郎は伊作の手を引き、屋台が立ち並ぶところか
ら少し離れる。神社の本殿の裏まで移動すると、文次郎は大きな木の下に腰を下ろした。
「ここなら、日陰でそれなりに涼しいし、人もいなくて静かでいいだろ。」
「うん。でも、もうすぐ夕暮れだから、真っ暗になる前には移動しなきゃだけどね。」
「俺らは忍者の卵だぜ。少しの暗闇くらい問題ねぇだろ。」
さすが文次郎だなあと、伊作はくすっと笑う。日が傾いて、だいぶ涼しくなった風が二人
の間を吹き抜ける。
「ただ休んでるだけじゃつまらないから、さっき買った水飴食べよう。」
「よく食うな。」
「文次郎も一緒に食べよう。」
水飴を出し、木の棒で食べようとすると、手が滑って落としてしまう。
「あっ、落としちゃった。」
「何やってんだよ?」
「まあ、いいや。手で食べちゃお。」
水飴を指で掬うと、伊作はそれを口へと運ぶ。トロトロの水飴が伊作の指から垂れるのを
見て、文次郎はゴクリと唾を飲む。
「ん?文次郎も食べる?」
文次郎の視線に気づいて、伊作はそんなことを問う。思わず文次郎は頷いてしまう。
「あ、ああ。」
「はい。」
たっぷりと水飴を指に絡めると、伊作を指を文次郎に向けて差し出す。その見た目に文次
郎の胸はひどく高鳴る。伊作の手首を掴むと、文次郎は伊作に手の平を舐めるように水飴
を食べた。
「っ!」
手の平を舐められ、伊作はゾクッとしてしまう。顔が赤くなり、心臓がドキドキしてくる
のを抑えられない。そんな伊作の様子に気づき、文次郎は煽るように指の根元から先まで
ゆっくり舐め、指先をちゅうっと吸う。
「んっ・・・!」
ビクンと体が跳ね、思わず声が出てしまう。いい反応をするなーと、文次郎は顔を緩ませ
る。
「手舐められて感じてるのか?」
「ち、違っ・・・」
「指、こうされるとイイんだろ?」
先程とは違う指を文次郎は咥える。ちゅっと吸われると、どうしようもなくゾクゾクして
しまい、伊作は潤んだ瞳で文次郎を見た。
「そんな顔されたら、我慢出来なくなっちまう。」
「こんな変な気分になってるの全部文次郎のせいなんだからね!責任取ってよ!」
「まあ、そろそろ日が暮れるし、祭囃子も始まるからな。わざわざこんなところに来る奴
はいねぇだろ。」
伊作の手首を掴んだまま、文次郎は伊作の甘い唇に口づける。当然のことながら、文次郎
の唇もひどく甘い。そんな甘いキスに伊作はすっかり魅せられていた。

口づけを交わしながら、文次郎ははだけた浴衣の隙間から伊作の肌をなぞる。文次郎にた
くさん触れられ、伊作はとろけた表情で文次郎に身を任せる。
「伊作。」
「な・・に・・・?」
「さっきの水飴、使ってみようぜ。」
「えっ・・・?」
「あの感じなら、ココ慣らすのに最適だろ?」
伊作の褌を解いてしまい、文次郎は剥き出しになった腰の下をすっと撫でる。ビクッとし
ながらも、伊作は文次郎の言葉に納得し、コクンと頷く。
「使う前に・・・」
水飴をすっと指で絡め取ると、文次郎はその指を伊作の口元に持っていく。唇に指が触れ
ると、伊作は小さく口を開け、その指を舐めた。
「甘いね。」
「俺もこの味わりと好きだぜ。」
伊作が舐めた指を文次郎は同じように自分でも舐める。何故だかその仕草にドキドキして
しまい、伊作は文次郎の指から目が離せなかった。
「次はこっちで存分に味わっとけ。」
再び水飴を指に絡めると、今度は双丘の間にその手を持っていく。ぬるっとしか感触が割
れ目をなぞり、まだ閉じている入口がひくひくと反応し始める。その入口に文次郎の指が
到達すると、伊作はぎゅっと文次郎の浴衣を掴んだ。
つぷんっ・・・・
「んっ・・・ぁ・・・!」
いつもより明らかに簡単に文次郎の指が内側へと入っていく。痛みも違和感もかなり少な
い。ぬるぬるとした指が数度出たり入ったりするだけで、伊作のそこは柔らかくほぐされ
ていく。
「あっ・・・ん・・・文次郎っ・・・・」
「やっぱり、いつもよりいい具合になるな。」
「これ・・・結構ヤバイかも・・・」
「そうか。だったら、もっとたくさん食べさせてやるよ。」
なかなかいい反応を見せる伊作に気分をよくした文次郎は、さらに水飴を足し、伊作の内
側を擦る。いつも以上に大きな収縮を見せるが、ぬるぬるした水飴のおかげで、簡単に指
が動かせる。いつもより激しくそこを擦ってやると、伊作はビクビクとその身を震わせ、
甘い悲鳴を上げる。
「ああっ・・・あああぁ―――っ!」
「外なのにそんな大きな声出して、そんなにいいのか?」
だいぶ深くまで入った指で、一番感じるところを刺激してやると、伊作はぎゅうっと文次
郎にしがみつく。
「ダメっ・・・そこはダメぇ・・・・」
「どこがダメだって?」
「ああぁんっ・・・やっ・・・文次郎っ・・・」
「全然ダメな反応には見えねぇけどな。」
「そこばっかされたら・・・もう・・・イっちゃ・・・・」
その言葉を聞いて、文次郎は指を抜く。達する寸前まで高められたそこは、ひくひくと震
え、まるで文次郎を誘ってるかのような動きを見せる。
「ああっ・・・・」
思わず伊作の口から漏れたのは、落胆の声であった。声だけでなく、伊作の表情全てがど
うしてそこでやめてしまうのかと残念がる様子であった。
「文次郎ぉ・・・・」
「何て顔してやがる。」
「だって、文次郎が・・・やめちゃうから・・・」
「ダメって言ってただろ。」
「・・・ダメじゃない。」
「もっとさっきのところして欲しいのか?」
真っ赤な顔で伊作は頷く。たまらないなあと文次郎は口元を緩ませる。
「だったら、今度はダメって言ってもやめねぇぞ。それでもいいのかよ?」
「・・・いい。」
だったらと、文次郎は自分の褌をほどいてしまい、既に大きくなっている自身に残った水
飴をすべてかける。そして、そのまま伊作の柔らかくなった入口に押しつけ、一気にその
身を進めた。水飴のおかげで、いとも簡単に奥の奥まで入ってしまい、その衝撃に伊作は
図らずも達してしまう。
「――――っ!!」
「これ・・・かなりヤバイな。中ぬるぬるで、すげぇ気持ちいい。」
「あっ・・・ぁ・・・・」
「お前もかなりよさそうだな。さっきの約束守ってやるよ。」
達したことで、まだ正常な思考が戻ってない伊作に追い打ちをかけるように、文次郎は伊
作の一番敏感な部分を熱い楔で何度も突き、擦り上げる。
「ひっ・・・あっ・・・やっ・・・もんじろっ・・・・」
「すげぇ締まるな。気持ちいいか?」
「ああっ・・・ダメっ・・・そこ・・・やぁっ・・・・」
何度も脳天を直撃するような快感がとめどなく与えられ、伊作はビクビクと痙攣しながら、
言葉にならない言葉を紡ぐ。ダメと言われてもやめなくていいことを許してしまったので、
文次郎は容赦なく伊作の中を犯す。
「ひあぁっ・・・んっ・・・ああぁっ・・・!!」
「ハァ・・・お前の中、ずっとビクビクしてるぜ。本当、たまんねぇな。」
「ああぁっ・・・ダメ・・・ダメっ・・・ひぅ・・・ああぁ―――っ!!」
もう何度達したか分からないような状態であるが、いつまで経っても大きすぎる快感は治
まらない。その間にもぬるぬるになった内側では、文次郎の熱が敏感になっている壁を擦
り続ける。もう内側のどこに触れても最大限の快感が生み出されるようになっていた。
「くっ・・・伊作っ・・・」
「ハァ・・・あっ・・・――――っ!!」
あまりにも刺激的な伊作の中で、文次郎は達する。その時ばかりはさすがに文次郎の動き
は止まる。しかし、ビクビクと脈打つ熱からそれ以上に熱い雫を放たれ、伊作はまた達し
てしまう。
(気持ちよすぎて、もうおかしくなりそう・・・)
激しく呼吸を乱しながら、伊作はそんなことを考える。文次郎が達したので、そろそろ終
わりかなあと思うと、ちょっと残念な気もしていた。しかし、文次郎の熱はいまだに自分
の中にあり、その硬さを失ってはいない。
「・・・文次郎?」
「足りねぇな。」
「えっ・・・?」
「もう日も落ちたし、向こう側も囃子でだいぶ賑やかになってきてる。ここまでやって大
丈夫だったんだから、あと少しくらい大丈夫だろ。」
そんなことを呟くと、文次郎は伊作に噛みつくように口づけ、再び激しく動き出す。先程
よりもさらにぬるぬるになったそこは、どちらにとっても気持ちよさを倍増させることに
なった。
「んっ・・・んんんっ・・・んん―――っ!!」
再び襲ってくる果てしない絶頂感に、伊作はもう何も考えられなくなっていた。唯一頭に
あり、五感で感じることが出来るのは、文次郎だけだ。自分を抱く文次郎の姿、切羽詰ま
ったような声、鼻をくすぐる着物の匂い、水飴の甘さが残る口づけの味、そして、肌に触
れる心地よさ。自分は今文次郎と繋がっているんだと意識すると、どうしようもなくとき
めき幸せな気分になる。
「ふはっ・・・もんじろ・・・・」
「ハァ・・・何だ?」
「大好き。」
「〜〜〜〜っ!!」
この状況で満面の笑みでそんなことを言われ、文次郎の理性はもうどこかに吹っ飛んでし
まった。飽くまで伊作と繋がり、何度も果て、数え切れないほど口づけを交わす。祭囃子
を聞きながら、二人は夢のような時間を存分に堪能した。

夕闇の中、ある程度身支度を整えると、二人は灯りのともる本殿の前へ戻る。本殿のすぐ
前ではその神社のお守りや絵馬などが売っていた。そんな中、あるものが伊作の目に留ま
り、心惹かれるものがあった。
「何か気になるものでもあったか?」
「あの鈴いいなあと思って。」
「どれだ?」
伊作が指差したのは、『幸運のお守り』と書いてある桜色の鈴であった。
「随分と可愛らしいお守りじゃねぇか。お前にピッタリだしな。」
「本当?」
「幸運のお守りってとこがな。せっかくだし買ってやるよ。」
「いいの?」
「欲しいんだろ?」
「うん。」
素直に頷く伊作が可愛いと文次郎は上機嫌でそのお守りを買おうとする。店のすぐ前まで
来ると、伊作がくいっと文次郎の浴衣の袖を引っ張った。
「どうした?」
「その鈴、三個買ってもらえないかな。」
「そんなに欲張ったって、たぶん効果はあんまり変わらねぇぞ。」
「違うよ。せっかくだから、留守番を頼んだ左近と伏木蔵にも買って行ってあげたいと思
って。」
「なるほど。確かに俺らが出かける代わりに保健委員の仕事してくれてるんだもんな。い
いぜ、買ってやるよ。」
「ありがとう、文次郎。」
留守番を頼んだ左近と伏木蔵の分も合わせて、文次郎は『幸運のお守り』を買ってやる。
買った鈴を渡すと、伊作は本当に嬉しそうに笑って、文次郎にお礼を言う。
「もう十分に祭りは満喫したし、そろそろ帰るか。」
「そうだね。」
いろいろ不運なことがあり、見た目はかなりボロボロになってしまったが、それ以上に嬉
しいことがたくさんあったので、伊作はかなりご機嫌であった。文次郎の手を握ると明る
い声色で、文次郎に話しかける。
「今日はすっごく楽しかったね!」
「ああ。」
「文次郎のおかげで、不運が不運じゃなくなったよ。ありがとう。」
「礼を言われることのほどじゃねぇよ。俺もかなり楽しめたしな。」
「また、一緒に出かけようね。」
「おう。」
伊作の手を握り返しながら、文次郎は答える。祭囃子が後ろの方で響くのを聞きながら、
二人は明るい月が照らす帰り路をゆっくり歩いて行った。

                                END.

戻る