ここは水軍館の一室。今日は大きな仕事が一段落ついたので、兵庫水軍の面々は酒盛りを
していた。かなりハイペースで飲んでいたのと、昼間の戦闘の疲労で年長組はぐっすりと
その場で眠り込んでしまった。しかし、体力のある若い衆は、まだまだイケると杯を手に
ほろ酔い気分で、酒盛りを続けている。
「お頭達寝ちゃったな。」
「蜉蝣さんも由良さんも疾風さんも最前線で戦ってたからな。疲れているんだろう。」
「でも、兄貴や義兄もかなり前の方で戦ってたじゃないですか。」
義丸と鬼蜘蛛丸がそんな話をしていると、間切がそう口を挟む。間切のその言葉に鬼蜘蛛
丸と義丸は苦笑しながら答えた。
「俺達なんて、お頭達に比べたらまだまだだよ。」
「そうそう。それに、お前達だって頑張ってただろ?だから、俺達はこうして酒を飲みな
がら、起きていられる体力が残ってるってわけだ。」
兄貴分に褒められるようなことを言われ、水夫や水練は照れたような笑みを浮かべる。
「でもさ、でもさ、今日の義兄、すっごい格好よかったよね!!あんなにたくさんの軍勢
相手にいっちばん始めに向かって行くんだもん。」
「さすが鉤役ですよね。あれは義さんしか出来ないですよ。」
「そんなに褒めても何も出ないぞ。」
網問と舳丸に褒められ、義丸はそんなことを言うが、その顔はかなり緩んでいる。自分の
したことを弟分にすごいと言われるのは、やはり嬉しいことだ。
「俺も今日の義丸はいつも以上にカッコイイと思ったぞ。お前がいなきゃ、やっぱダメだ
よな!」
酒の所為でほのかに赤くなっている顔で、満面の笑みを浮かべて、鬼蜘蛛丸はそんなこと
を口にする。その言葉を聞いて、義丸の心臓はドキンと跳ねる。
(こんなところでそんなこと言われたら、どうにかしたくなっちゃうじゃないかっ!!)
しかし、ここは他の者もいる席だ。さすがに手は出せないと、義丸は鬼蜘蛛丸に触れたい
欲求をぐっと堪える。そんな義丸の気持ちに真っ先に気がついたのは、比較的年が近い舳
丸であった。
「鬼さん、それは義さんと二人きりの時に言ってあげた方がいいと思いますよ。」
「へっ?何でだ?」
「ねぇ、義さん?」
「お、おまっ・・・舳丸っ!!」
「えー、ミヨ兄どういうこと?」
舳丸の言っていることの意味が分からないと、網問は首を傾げながらそう問う。しかし、
さすがに詳しい事情は言えないと、舳丸は意味ありげな笑みを浮かべて誤魔化すだけだっ
た。
「大人の事情ってやつだ。」
「何それー?分かんないよ、それじゃあ。間切、間切。間切は分かる??」
「お、俺かよ!?わ、分からなくはないけど・・・」
「何々!?教えて教えてー!!」
隣に座っている間切に網問は子供が分からないことを尋ねるように、可愛らしく尋ねる。
何となく意味の分かる東南風は説明しづらいだろうなあと、同情の眼差しを向けながら、
間切がどんなふうに答えるかを聞くことにした。
「た、例えばの話だからな!!も、もし俺が、さっきの鬼さんが言ったみたいなことを網
問に言われたら・・・その、抱きしめたりとか、キスしたいだとか・・・そういうこと思
うかなあと思うんだけど。」
義丸や舳丸の顔色をうかがいながら、間切はボソボソと恥ずかしそうに言葉を紡ぐ。
「ほぼ正解だな、間切。でも、義さんだったら、もっとすごいこと考えて・・・」
「舳丸、お前、いい加減にしろよ!!俺がどれだけ堪えてると思って・・・あっ!」
「なるほどー。そういうことか。」
「あはは、舳丸は酔うとすごい喋るからなー。でも、あんまり言い過ぎると、マジで義兄
に殴られるよ。」
「あ、あはは、何だかもうつっこみどころ満載すぎて、つっこめないな。」
酔った勢いで平気で義丸に怒られるようなことを言う舳丸に、正直にそれを認めてしまう
義丸。そして、間切や舳丸の話に素直に納得してしまう網問に、舳丸につっこみを入れる
重。そんな面々の話を聞いて、今まで黙っていた航は苦笑しながらそんなことを口にした。
「何だかよく分からないけど、楽しそうだなあ、みんな。」
「いや、鬼蜘蛛丸の兄貴が事の発端ですからね?」
「えっ?そうなの?」
「兄貴も何気に酔っぱらってるでしょう。」
全然その場の状況を理解していない鬼蜘蛛丸に、今度は東南風がつっこむ。別にそこまで
酔っていないんだけどなあと思いながら、鬼蜘蛛丸は首を傾げた。
「はいはーい、俺、いいこと思いついちゃった!!」
かなり場がカオスな状態になっているところで、網問が高く手を上げ、楽しげにそう言う。
網問もかなりの量の酒を飲んでいるので、酔っていると言って間違いない。
「何だよ?網問。」
「お頭とかみんな寝ちゃってるし、ここはみんなで猥談大会しよー!!」
『ぶっ!!』
無茶苦茶な提案をしてくる網問に、他のメンバーは思わず飲んでいた酒を吹き出した。
「うわ、みんな汚っ!!」
「お、お前が変なこと言ってくるからだろ!!」
「別にそんな変なこと言ってないよ。だって、面白そうじゃん。」
間切のつっこみを華麗にスルーし、網問は同年代の重や航に同意を求めようとする。
「重とか航も興味あるよねー。」
「うっ、興味ないって言ったら嘘になるけど・・・」
「た、確かに面白そうではあるよな?」
顔を赤くしつつも二人は顔を見合せてそんな会話を交わす。網問のその一言にぷっつんし
た20代メンバーは、酔っていることもあり乗り気になる。
「お前らがそう言うなら仕方ねぇなあ。」
「あー、確かに俺も義さんや鬼さんの話は聞きたいかも。」
「あはは、何か楽しそうなんじゃねぇ?」
鬼蜘蛛丸まで乗り気になってしまっては、もう誰も止めることは出来ない。年長組が寝て
いるのをいいことに、年頃な若い衆はこんな場ならではの話をすることになった。
「んーと、まず何から聞こうかなあ?」
聞きたいことは山ほどあるのだが、いざ聞いてみようとすると迷ってしまう。しばらく考
えた末、網問は一番基本的な質問からしてみることにした。
「じゃあじゃあ、この中で、そういうことを最後までやったことある人、手上げて!」
当然のことながら、その場にいる全員が手を上げることになる。もちろんその相手はこの
場にいるメンバーの誰かだ。
「だよねー。んじゃ、初めてした時の感想を一言ずつ言ってみよう!じゃあ、まず重から。」
「お、俺っ!?」
「うん。あと相手もね。まあ、分かりきってることだけどー。」
また、何て質問だと思いつつも、人のを聞くのはなかなか楽しいものである。興味津津と
いう目で、そこにいたメンバーは重に注目した。
「・・・うわ、何かすっごい恥ずかしい。と、とりあえず、相手は、舳丸だけど・・・」
隣にいる舳丸をチラッと見て、重はそう呟く。した相手のいる前で感想を言わなければい
けないのは、相当恥ずかしいと、重はしばらくもじもじしていた。
「は、初めての時は、かなり怖くって・・・もう心臓飛び出しそうなくらいドキドキしま
くってたんだけど・・・」
重の恥ずかしさが周りの者にも伝わり、皆ドキドキと胸を高鳴らせていた。
「何か・・・舳丸と一つになってんだって思ったら、痛いのとか怖いのとかどっか吹っ飛
んじゃって・・・すっごいイイ気分だった・・・かな?」
言い終わると重は顔を真っ赤にして、うつむいてしまう。ものすごく初々しいことを言っ
てくれると、他のメンバーはもうこれ以上ないくらいに盛り上がっていた。しかし、一番
重の話を聞いて、胸をドキドキさせていたのは、隣に座っている舳丸であった。
「あー、ヤバ。今のは相当クるわ。重、本当可愛い。」
「ちょっ・・・ミヨっ!!こんなとこで抱きつくなっ!!」
あまりにも嬉しすぎて舳丸は、思わず重に抱きつく。そうする気持ちも分かるなあと、他
のメンバーは、特に舳丸の行動を止めようとはしなかった。
「じゃあ、次はやま兄。」
「お、おう。」
「東南風って、そういう話滅多にしないからなあ。これはちゃんと聞いておかなきゃだな。」
いつもは真面目でどちらかと言えば、お堅い感じの東南風がどんな話をするのかと、義丸
はそんなことを言う。大人びて見えるとはいえ、東南風もまだ10代だ。重に負けず劣ら
ず初々しい話を聞けることを期待しながら、そこにいる面々は東南風の話に耳を傾けた。
「あ、相手は・・・その、航で・・・」
分かってはいたが、やっぱりそうかと他のメンバーはうんうんと頷く。
「俺自身もすごく緊張していたんだが、航の反応が想像以上に可愛くて・・・・途中から
はもうなりふり構わず航が全部欲しいって、感じだったかな。」
『おーっ!!』
「何かこれ、俺のが恥ずかしいよ・・・」
東南風の大胆な言葉に皆感心するような声を上げる。相手である航は、東南風の言葉が嬉
しいが恥ずかしくて、ゆでダコのように顔を真っ赤にしていた。
「やるねー、やま兄も。」
「東南風も男だな、やっぱり。」
「も、もう次行ってくださいよっ。あー、恥ずかしい。」
「じゃあじゃあ、次は間切ー。俺と初めてした時、どうだった?」
「ちょっ、何か俺だけ聞き方おかしくねぇ?ま、まあ、いいけどさ。」
あまりに率直な聞き方の網問に、間切はたじたじだ。しかし、こんなことはいつものこと。
コホンと一つ咳払いをすると、間切はチラッと網問を見ながら、口を開いた。
「俺は、網問となんだけどな・・・」
「うんうん。」
「お前は頷かなくていいから。」
網問が隣で頷いてくるので、間切は恥ずかしくてそんなつっこみを入れる。網問がキラキ
ラした瞳で自分を見ているのが耐えられないと、間切は網問から目を逸らす。
「俺も東南風と一緒で、すっごく緊張してて・・・心臓が破裂しそうだった。でも、網問
が、俺のこと何度も何度も好きって言ってくれて、俺のすること一つ一つにイイ反応見せ
てくれるから・・・」
「何回もしちゃったよねーvv」
「網問っ!!な、何でお前、そういうこと平気で言うんだよ!?」
「だって、本当のことだろー。で、俺として気持ちよかった?」
「・・・あ、ああ。」
「どれくらい?」
「もう今まで味わったことないくらいすっごく・・・って、何言わせてんだよ!?」
網問に乗せられ、間切は正直に初めての時のことを話してしまう。他とは少し違う二人の
関係に他の者はニヤニヤしてしまう。
「網問すごいな。される側なのにあそこまで恥ずかしげもなくあーいうこと言えるのも。」
「むしろ、間切の方が押されてるって感じだな。」
鬼蜘蛛丸と義丸がそんな会話をしていると、網問がその場のノリで今度は自分の感想を話
し出す。
「ついでだから、俺の感想も言っちゃうね。俺、間切のことが本当大好きなんだ。だから、
初めてした時は、俺の中が間切でいっぱいになって、胸がきゅーんってして、本当に本当
に幸せだなあって感じた。すっごい気持ちよかったしね。」
屈託のない笑顔でそう話す網問に、他のメンバーはかなりの下ネタを話していることを忘
れてしまう。いろいろな意味で網問はすごいなあと思いつつ、間切の隣に座っていた重は、
間切に話しかける。
「間切、本当に愛されてるな。」
「いや、俺はもう恥ずかしくて死にそうだ。」
「よーし、じゃあ次はミヨ兄!」
間切が顔から湯気を出して、恥ずかしがっていることなど無視して、網問は話を進める。
普段はクールで、一見そういうことには興味がないように見える舳丸であるが、実はかな
りムッツリで、酒が入れば、それが外に出てしまうときた。当然、今は酒の入っている場
なので、ノリノリでそういう話をし始める。
「重と初めて最後までした時の感想か・・・それはもう、重が可愛くて可愛くて。キスし
ても、どこを触っても、子犬のような声で鳴いてな。あの切羽詰まったような声で名前を
呼ばれるのが、たまらな・・・・」
ゴスっ!!
「細かく説明しすぎっ!!」
あまりにリアルに舳丸が話をするので、恥ずかしくなった重は思わず舳丸の頭を殴ってし
まう。頭を押さえながら、舳丸は重をキッと睨んだ。
「重・・・今のはちょっと痛かったぞ。」
「だ、だって、舳丸が・・・・」
「お仕置きだ。」
そう言いながら、舳丸は重の肩をぐっと掴んで、深々と接吻する。まさかこんなところで
こんなキスをされるとは思っていなかったので、重は大パニックだ。
「んんっ!!んん〜っ!!」
「あははは、ミヨ兄超酔っ払いだよ。あの二人は放っておいて、航いってみよー!」
誰か助けろよと心の中でつっこみながら、重は舳丸を何とか離れさせようとする。しかし、
酔っ払いの力は思ったより強く、重は舳丸から離れることが出来なかった。そんな二人を
横目に航はお初の時のことを話し始める。
「相手は・・・さっきやま兄が言ってくれたから、その通りだけど・・・感想は・・・」
感想を話そうとして、航の顔はみるみる赤く染まってゆく。この態度がまず可愛らしいと
他の面々は、航が話し始めるのを黙って待った。
「や、やま兄はさっきあんなこと言ってたけど、してる間中、ずっと俺のこと気遣ってく
れて・・・ずっと俺のペースに合わせてくれてたんだ。」
「へぇ、やるじゃないか、東南風。」
「ヨシも少しは見習えよな。」
「どういう意味だよそれは?」
「言葉通りだぜ。それで、航。その優しい東南風として、どうだったんだ?」
これ以上義丸に何かを言わせると収拾がつかなくなると、鬼蜘蛛丸は話の主導権を航に戻
す。
「もうドキドキして、頭の中ぐちゃぐちゃで・・・あんまりハッキリとは覚えてないんだ
けど・・・・」
恥ずかしそうにうつむいて、そこまで言うと航は少しそこで間を開ける。次に来る言葉を
他のメンバーはドキドキしながら待った。
「・・・やま兄が、すっごい大好きなんだなってことはよく分かった。あんなに体も心も
満たされたって感じたこと、今までなかったから。」
照れ笑いを浮かべながら、航はハッキリとそう言う。そんな航の言葉を聞いて、東南風の
顔は今までになく赤く染まっていた。
「だってさ、東南風。」
「これは、自分で話すより聞く方が何倍も恥ずかしいな・・・」
「だろー?俺の気持ち分かったか?」
「ものすっごくよく分かった。」
自分の相手の話を聞く方が何倍も恥ずかしいと感じていた間切は、東南風に同意を求める。
当然東南風はその言葉に頷いた。
「いやー、航の話も可愛いね。それじゃ、次、鬼蜘蛛丸の兄貴、お願いします!」
最後はこの中で一番年長で、経験豊富な二人だろうと、網問はまず鬼蜘蛛丸を指名する。
弟分にこんな話をするのは、なかなか恥ずかしいと思いつつも、鬼蜘蛛丸はゆっくりとそ
の時のことを話し始めた。
「相手は、まあ、今俺の横に座ってる泣きボクロの奴だ。」
「何だよその説明。ちゃんと名前で言えよ。」
「別にいいだろ。で、俺が義丸と初めて最後までしたのは・・・たぶん、今の網問よりも
2、3歳若いくらいの時だったな。」
「網問より2、3歳若いってことは・・・13か14ってことですか!?」
「たぶんそれくらいだったと思うぜ。」
「どんだけマセガキだったんですか、義兄。」
「失礼だな。その時はかなり悩んでいたんだぞ。」
航や間切のつっこみに、義丸は真面目な口調で返す。そんな義丸に苦笑しながら、鬼蜘蛛
丸は話の続きをする。
「正直、初めてそういうことをした時は、いろいろ戸惑いもあったし、恐怖もあったし、
痛いのか気持ちいいのか気持ち悪いのかさっぱり分からない状態だったんだ。頭ん中ぐち
ゃぐちゃだし、ただわけも分からず泣いていただけだったと思う。」
「義兄、どんだけ無理矢理したんですか?」
「そ、そんなことは・・・なかったはず。」
「メッチャ自信なさげじゃないですか!」
「ははは、確かにあれは無理矢理って言ったら無理矢理だったよな。」
「ちょっ・・・鬼蜘蛛丸!!」
かなり若い時分のことだったので、記憶があやふやだが、鬼蜘蛛丸にそう言われては立つ
瀬がない。しかし、鬼蜘蛛丸はふっと笑って言葉を続けた。
「でもな、その時に一つだけハッキリ残ってる言葉と感覚があるんだよ。」
『何ですか?』
意味ありげな鬼蜘蛛丸の言葉に、水夫の面々は声をそろえて聞き返す。
「こいつが俺の中に出した瞬間、耳元で『愛してる』って、ハッキリそう言ったんだ。
『愛してる』なんて言葉、生まれて初めて言われてさ、しかもそんな状況だろ?けど、そ
の言葉がすごく心に響いて、何かすげぇ嬉しくてな、その瞬間、気失うくらい気持ちよく
なった感覚だけはすごい残ってる。まあ、実際、その後、気失っちまったんだけどな。」
恥ずかしそうに笑う鬼蜘蛛丸の話を聞いて、若い衆は赤面する。しかし、鬼蜘蛛丸の話を
聞いて、一番赤面していたのは義丸であった。
「お、鬼蜘蛛丸・・・」
「はい、俺の話はこれでおしまい。ほら、後はお前だけだぞ、ヨシ。」
恥ずかしさを誤魔化すかのように、鬼蜘蛛丸は義丸の肩を叩く。思った以上に、嬉しい話
をしてくれた鬼蜘蛛丸の後で何を話そうと、義丸はショート寸前の頭を必死に働かせた。
「お、俺が・・・鬼蜘蛛丸にそんなことをしてしまったのには、ちゃんと理由があってな、
ただ無理矢理にそんなことしたわけじゃない。」
まるで言い訳をするかのような滑り出しに、他の面々はくすくすと笑う。
「そのぐらいの年の時に気づいたんだよ、俺は鬼蜘蛛丸が恋にも似た好意を抱いていると。
気づいたらもう、鬼蜘蛛丸が愛しくて愛しくて、この想いを伝えていいのかどうかも分か
らなくて、死にそうなほど苦しかった。鬼蜘蛛丸の全てを手に入れたくて、でも、失うこ
とが怖くて、毎日毎日気が狂いそうだった。それで、ある日その想いがもう自分の中では
溜め込めきれなくて、嫌われるのを覚悟で事に及んだんだ。」
いつもの義丸からは想像のつかない話を聞いて、その話を聞いている面々はごくんと唾を
飲み込む。
「だから、お前達が話したみたいな感覚はなかったに等しい。嫌われるかもしれないと思
いつつも、体が勝手に動いてしまうという感じだったからな。だけど、事が終わる間際、
鬼蜘蛛丸が・・・」
「お、俺が・・・?」
その時の記憶はほとんど残ってないと、鬼蜘蛛丸自身が義丸に聞き返す。
「俺の首にしっかり腕を回して、本当に小さな声で呟いたんだ。『俺も・・・義丸が好き
・・・』と。まあ、その後で本当に鬼蜘蛛丸は気を失ってしまったんだけどな。鬼蜘蛛丸
のその言葉を聞いて、本当に涙が止まらなかった。もう胸がいっぱいで、嬉しくて、ホッ
として・・・で、今にいたるというわけだ。」
最後の一言だけは、いつもの義丸に戻っての言葉であった。義丸の話を聞いて、網問や間
切、航の目は感動から今にも涙がこぼれてしまうのではないかと思うほど潤んでいた。
「まさか、義兄からこんないい話が聞けるとは思ってなかった・・・」
「なあ。やっぱ、兄貴と義兄は違うな。」
間切や網問が感動に浸っていると、義丸ががしっと鬼蜘蛛丸の両手を掴む。
「な、何だよ!?ヨシ!?」
「今でも鬼蜘蛛丸のこと、すごく愛してる。だから、接吻させてくれ!!」
「はあ!?何言って・・・・」
「もうさっきから、いろいろ我慢してるんだよ!!むしろ、この場で押し倒したいくら
い!!」
「な、何言って・・・ちょ・・・待・・・義丸っ!!」
我慢の限界がきている義丸は、話の流れで鬼蜘蛛丸に迫る。必死で抵抗している鬼蜘蛛丸
であるが、力は義丸の方は断然上なので、押し返すことが出来ない。
「あーあ、やっぱ義兄はこうなんだ。」
「まあ、らしいっちゃらしいけど。」
「感動に浸る暇もないって感じだな。」
「兄貴達も大変だけど、こっちの水練組ももっとすごいことになってるぜ。」
東南風にそう言われ、間切と網問と航は舳丸と重の方を見る。酔っ払いの舳丸に絡まれて
いる重は想像以上に大変なことになっていた。
「やっ・・・本当ダメだって、舳丸〜!!」
「んー、重はわたしのこと嫌いなのか?」
「嫌いじゃないけど・・・嫌いじゃないけどぉ・・・うわ〜んっ!!」
「泣いてる顔も可愛い。重、大好きだぞ。」
ちゅっちゅといろんなところにキスをしながら、舳丸は重の着物を脱がしかけていた。
「おおぅっ!!ちょっ・・・ミヨ兄っ!!」
「あー?お前ら、邪魔すんのか?」
「じゃ、邪魔はしないけど、さすがにそれはヤバイんじゃないかなーと。」
「そうそう。お頭達も寝てるとはいえ、同じ部屋にいるんだから。」
「寝てたら問題ないだろ。なあ、重。」
ぶんぶんと首を振る重だが、そんなことは全く無視だ。可哀想にと思いながらも、間切、
網問、東南風、航は立ち上がる。
「何か義兄達もおっぱじめちゃいそうな雰囲気だし、俺達は部屋に戻るか。」
「そうだな。」
「行くぞ、航。」
「う、うん。じゃ、頑張ってね、重。」
もう助けられないと、困ったような顔で笑いながら4人は重に手を振ってその部屋を出て
行く。4人が出て行くと、義丸と舳丸はもうやりたい放題だ。
「あんまり大きな声出すと、お頭達、起きるかもしれないぞ?」
「うっ・・・お前、最悪っ!!」
「重、好き。だから、な?」
「なっ、じゃなーいっ!!ミヨのバカー!!」
酒の所為で完全に熟睡している年長組が起きることはなかったが、鬼蜘蛛丸と重はもう気
が気でなかった。明日、絶対殴ってやると思いつつ、二人は盛ったそれぞれの相手に好き
放題されてしまうのであった。
END.