岳忍 テーマ:かくれんぼ

「もういいかーい?」
『もういいよー!!』
公園のベンチに座りながら飲み物を飲んでいる岳人と忍足の耳に、元気な子ども達の声が
入ってくる。かくれんぼとはなつかしいなあと思いながら、二人は他の子どもを必死で探
している鬼の子どもを眺めていた。
「なつかしいなあ。小学生の頃はよくやったんだけどな。」
「せやなあ。まあ、この年になってかくれんぼはそうそうやらんやろ。」
「あはは、確かにー。俺、かくれんぼは結構得意だったんだぜ!体がちっちゃいから、他
の奴らが入れないような狭いとこにも入れてさあ。」
「そりゃ、岳人らしいな。けど、俺も得意やったで。」
「へぇ、ちょっと意外かも。」
「俺、心閉ざせるし、気配も消せるやん?せやから、鬼が全然気づかへんのや。」
小学生の頃はかくれんぼが得意だったということを、二人はお互いに自慢し始める。とこ
ろがどちらもただ得意だったわけではなく、どこか抜けたエピソードも満載だった。
「でもさあ、入れたはいいんだけど、出れなくなっちゃうこともあってさー、そういう時
はマジ焦ったぜ。一緒に遊んでる奴らが手伝って出そうとしてくれるんだけど、全然抜け
なくて、そこでかくれんぼ中断みたいな。」
「ははは、そりゃ大変やな。でも、メッチャその光景思い浮かべられるわ。」
どこかにはまってしまい、出れなくなっている岳人を、小さいジローや宍戸が必死で引っ
張っているところを想像し、忍足は声を立てて笑う。自分のことながらも、忍足につられ
て、岳人もケラケラと笑った。
「侑士は、見つからないのはいいけど、そのまま忘れ去られちゃうってことがありそうだ
よな!」
何となくそんな感じがすると岳人は、適当にそんなことを言ってみた。すると、驚いたよ
うな顔をして忍足は岳人の顔を見る。
「・・・・何で分かるん?」
「えっ!?マジで!?」
「気配消してると、見つからないのはええんやけど、子どもってすぐに他の遊びに興味持
つやん?だから、見つけてもらえないまま、置いてかれたりとかよくあったで。」
「あはははは、さっすが侑士だな!!」
「笑いごとやないんやで。実際そうされると、ホンマにへこむからな。」
「だろうな。でも、俺だったら、どんなに侑士が気配消してても心を閉ざしてても、見つ
ける自信あるぜ!!」
「ホンマに?」
あまりにも自信満々に岳人がそう言うので、少し試してみたくなる。すくっとベンチから
立ち上がると、忍足はニッと笑って岳人の方を振り返った。
「せやったら、試してみるか。ホンマに岳人が俺のこと見つけられるかどうか。」
「面白そうじゃん!!乗ったぜ、その勝負。俺の実力見せてやるよ。」
へへっと笑って、岳人は忍足の誘いに乗った。どちらも本気を出して、二人かくれんぼを
始める。岳人が忍足を見つけ出せるかということなので、必然的に岳人が鬼になった。小
学生の気分でどちらも真剣にかくれんぼをする。しかし、どんな場所に隠れても、どんな
に気配を消しても、岳人は忍足を見つけ出した。
「侑士、見ーっけ!!」
「ありえへん・・・何で見つかるんや。」
何度やっても岳人は必ず忍足を見つけた。いくらブランクがあると言えども、ここまで簡
単に見つかってしまうのは納得いかないと、忍足はむーっとした顔で岳人を見る。
「だから、言ったろ?俺は絶対侑士を見つけられるって。」
「納得いかへん。何で俺の隠れてる場所がそないに分かるんや?」
「何でって言われても、困るけどな。何となく侑士が居るところが分かるんだよ。やっぱ、
侑士のこと好きだからじゃねぇ?」
「何やその理由?けど、何か見つけてもらえるってのは、嬉しいもんやな。かくれんぼの
目的には、矛盾してるけど。」
苦笑しながら、忍足はそんなことを言う。かくれんぼは見つからないようにする遊びだが、
見つけてもらえると何故か嬉しい。これは新しい発見だと、忍足は何だか新鮮な気分にな
る。
「よう分からんけど、俺も岳人がどんなところに隠れてても見つけられる気ぃするわ。」
「へぇ、マジで?」
「やっぱ、好きだから居る場所が分かっちゃう的な感じかもしれへんな。」
「だろー?かくれんぼの新たな楽しみ方発見!って感じじゃねぇ?」
「せやな。また今度二人でするか、かくれんぼ。」
「いいぜ。今度は学校とかでやっても楽しいかもな。」
「そりゃ面白そうやな。負けへんで。」
「おう!俺だって負けねぇぜ!!」
かくれんぼがこんなに面白く感じたのは久しぶりだと、二人はまたかくれんぼをする約束
をする。子どもの頃と同じ遊びなのだが、全く感じ方が違う。そんな新しい発見をし、二
人は笑顔で家路を辿るのであった。

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