甲斐凛 テーマ:ご飯を作る

家族がみんな出かけてしまっている甲斐の家に平古場は遊びに来ていた。夜になっても誰
も帰ってくる様子がないので、平古場はすくっと立ち上がる。
「腹減らねぇ?裕次郎。」
「そうだなあ。何か頼むか。」
「いや、今日は俺が作ってやるさー。最近、ちょっと作れるようになったんだぜ。」
へへっと笑いながら、平古場はそんなことを言う。平古場の手料理が食べれるのは、なか
なかオイシイと甲斐は、平古場の言葉に甘えることにした。
「凛の手料理か。そりゃ是非食べてみたいさー。」
「だったら、ちょっと待ってろよ。ちゃちゃっと作ってきてやるから。」
「ああ。冷蔵庫に入ってるもんは自由に使っていいから。」
「了解!」
ご機嫌な様子で、平古場は台所へと向かう。トントンと何かを切る音がし、じゅうじゅう
とフライパンで炒める音が聞こえる。そのうち、いい匂いが部屋に漂ってきて、甲斐はわ
くわくしながら出来上がるのを待った。
「お待たせー、裕次郎。平古場凛特製、島豆腐のちゃんぷるーだぜ!」
エプロン姿の平古場は、出来上がった料理を手に持ち、甲斐の待つ居間へと戻ってくる。
意外とテキパキと、しかも、完成度の高い料理をする平古場に、甲斐は驚いてしまう。
「すごいなあ、凛。」
「へへーん、すごいだろ?今、ご飯も入れてくるから、待ってろよ。」
「ああ、それくらい俺がするさー。」
「いいんだよ。今日は俺が裕次郎のために夕飯の準備するんだからさー。」
裕次郎のためにという言葉に、甲斐はきゅんとしてしまう。何だか新婚さんみたいだなあ
と思いながら、甲斐は平古場がパタパタと慌ただしく動くのを見ながら、顔を緩ませた。
「よーし、準備完了!食べようぜ、裕次郎。」
「ああ。」
テーブルの上に用意された料理を二人はパクパクと食べ始める。見た目だけでなく、味も
なかなかのもので、甲斐は平古場の料理の美味しさに舌鼓を打った。
「うわあー、でーじ美味いし!!凛、天才やし。」
「そこまで褒められると照れるさー。」
「いや、本当冗談抜きで美味いって!エプロン姿も可愛かったし、マジ凛のことお嫁さん
にしてぇ。」
照れている平古場に追い打ちをかけるように、甲斐は満面の笑みでそんなことを言う。自
分の一生懸命作った料理を褒められ、しかも、お嫁さんにしたいとまで言われ、平古場は
もう嬉しくて仕方がなかった。
「裕次郎のお嫁さんにだったら・・・なってもいいかなー。」
「じゅんになぁ?だったら、もう結婚しちまうか。」
「けど、わったーの年だとまだ結婚出来ないさー。」
「あー、そっか。残念。」
男同士では結婚出来ないということを全く無視で、二人は笑いながらそんな話をする。平
古場の作った料理を綺麗に平らげると、片付けは甲斐が行った。
「片付けは、俺がしとくから、凛はゆっくりしてろよ。」
「分かった。じゃあ、テレビでも見て待ってるな。」
「ああ。あっ、そうだ!凛。」
「何?」
何かを忘れたというような感じで、甲斐は持っていた空の食器を置いて、平古場に近づく。
何だろうと平古場が首を傾げていると、甲斐は平古場の柔らかい唇にちゅっとキスをした。
「凛の作った料理、最高だったぜ!ごちそうさま!!」
こんな状態で、ごちそうさまと言われるとどっちの意味か分からないと、平古場は顔を真
っ赤にして何も言えなくなってしまう。
「じゃ、また後でな。」
「・・・お、おう。」
台所へ向かう甲斐を見ながら、平古場はドキドキと高鳴る胸をぎゅっと抑える。今の状況
が、何だか恥ずかしくて、しかし、嬉しくて、平古場の顔は自然と緩んだ。
「きっと、新婚さんって毎日こんな気分なんだろうなー。」
そんなことをぼそっと呟き、平古場はテレビをつけた。甲斐が戻ってきたら、さっき甲斐
がしたことと同じことをしてやろうと思いながら、平古場はふふっと小さく声を立てて笑
った。

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