「ふー、やっと終わったあ。」
食堂当番だった伏木蔵は、やっとのことで洗い物を終わらせ、大きな溜め息をついた。そ
んな様子を見ていた食堂のおばちゃんは、ニコニコとしながら伏木蔵に話しかけた。
「お疲れ様。これ、頑張ったご褒美。さっき買い物に行ったらおまけでもらったのよ。」
「うわあ、ありがとうございますー!!」
頑張ったご褒美ということで、伏木蔵は食堂のおばちゃんからペロペロキャンディーをも
らった。ちょうど甘い物が食べたいと思っていたので、伏木蔵は嬉しそうな笑顔でその飴
を受け取る。
「それじゃ、食堂のおばちゃん。ぼく、帰りますね。」
「はい、それじゃあね。」
ペロペロキャンディーを手に持ち、伏木蔵はニコニコしながら食堂を出てゆく。今日はこ
の後、何をしようかと考えながら、伏木蔵は外へ出た。
「へへへ、おばちゃんからもらった飴食べちゃおーっと。」
渦巻き状になっている飴の表面を舐めながら、伏木蔵はてくてくと歩いて行く。すると、
前からよく見知った人物が歩いて来るのが見えた。
「あっ、左近先輩だ!」
左近を見つけて伏木蔵は、パタパタと走って行く。
「左近せんぱーい!!」
「おー、伏木ぞ・・・・」
伏木蔵を見つけて、手を振ろうとした左近であったが、何故か突然その姿が消える。驚い
た伏木蔵は、慌てて先程まで左近が居た場所まで駆けて行った。
「い、いてて・・・」
「左近先輩!?」
「あ、あはは、また落とし穴に落ちちゃった。」
保健委員は不運委員と呼ばれているだけあり、落とし穴に落ちる確率が他の者に比べては
るかに高い。もちろん左近も保健委員の一員なので、よく落とし穴に落ちるのだ。何とか
自力で落とし穴から這い出ると、左近は汚れた制服をはらった。
「大丈夫ですか?」
「ああ。特に怪我もしてないし、大丈夫大丈夫。」
「よかったです。」
怪我をしていないということを聞いて、伏木蔵はホッとしたように笑う。そんな伏木蔵の
笑顔に左近はドキっとしてしまう。そんなドキドキ感を抑えつつ、伏木蔵を見ていると、
手に何かを持っているのに、左近は気づいた。
「あれ?伏木蔵、手に何持ってるんだ?」
「ペロペロキャンディーです。食堂のおばちゃんにもらったんです。」
「へぇ、そうなんだ。」
美味しそうだなあと思いながらその飴を見ていると、伏木蔵がその視線に気づく。折角こ
んなとこで偶然会えたのだからと、伏木蔵はすっと左近の前にその飴を差し出し、にこっ
と笑う。
「左近先輩、一緒に食べませんか?」
「えっ!?い、いいよ。お前がもらったもんだろ!!」
「でも、ぼくは左近先輩と一緒に食べたいです。遠慮しないで下さい。」
「そ、そこまで言うなら・・・」
「それじゃ、あっちの木の下で座って食べましょう。」
「お、おう。」
木の下に移動すると、二人はそこに腰を下ろす。どうやって食べたらいいかなあと、伏木
蔵は考える。同じ面を舐めるというのは少し恥ずかしいので、自分が舐めているところと
は逆の面を左近に舐めてもらえばいいと伏木蔵は考えた。
「ぼくはこっちの方を食べるんで、左近先輩は逆の方を食べて下さい。」
「分かった。」
言われた通り、伏木蔵が舐めていた面とは反対の面を左近は舐める。特に何も考えずにそ
うしたが、同時に飴を舐め、お互いの顔が物凄く近くなっていることに気づき、二人は心
臓が飛び出すかと思うほど、ドキっとした。
『っ!!??』
思わずバッと顔を飴から離し、お互いに顔を背ける。あまりにもドキドキしすぎて、しば
らく何も言えなかったが、左近が順番に舐めようと提案する。
「ど、同時に食べようとするのはちょっとマズイな。じゅ、順番に食べようぜ。」
「は、はい・・・」
伏木蔵も左近と同じ気持ちだったので、その提案に即答で同意する。順番に舐める一つの
飴は、二人には普通の飴よりも何倍も甘く感じられた。