次の日が休みのある日、鳳は滝の家に泊まりに来ていた。滝が新しいゲームを買ったとい
うことで、一緒にやろうということになったのだ。
「どんなゲーム買ったんですか?」
「んー、これ。かなり面白そうだと思ったんだけど、やっぱり一人でやるのは怖くって。」
そう言いながら滝が鳳に見せたのは、バリバリのホラー系のノベルゲームであった。正直
鳳はこの手のゲームは苦手であったが、せっかく滝が誘ってくれたのだからやらないわけ
にはいかない。
「た、確かに、これを一人でやるのは怖いですね・・・」
「でしょ?よーし、それじゃあ早速始めようか。」
実に楽しそうに、ゲームを始めようとする滝だが、鳳は気が気でなかった。オープニング
も雰囲気も全てがホラーテイストで、鳳はもう画面から目を背けたくて仕方がなかった。
しかし、そんなことは全く気にせず、滝はどんどんゲームを進めていく。ホラーではある
が、話の内容的にはかなりミステリーに近いものになっているので、その話の流れに滝も
鳳も次第に引き込まれてゆく。
「怖いけど、話の内容は結構面白いね。」
「そ、そうですね・・・・」
滝がゲームをしている間中、鳳はひしっと滝の腕にしがみついている。無意識にしている
のか、そんな状態を鳳は気にしているようには見えない。何だか可愛いなあと思いながら、
滝はコントローラーを操作し、話を進めていった。
コツコツコツ・・・・・・バンっ!!!!
「うわああぁ!!」
「い、今のはさすがにビックリしたな・・・・」
静かな状態からいきなり大音量でドアの開く音が響き、二人はドキっとしてしまう。特に
鳳はもともと怖がっているということもあり、思いきり滝に抱きついた。
(なんかこのゲーム、いろんな意味でドキドキ出来るかも。)
さっきから鳳の反応が可愛すぎると、恐怖とは他の意味で滝はドキドキと胸を高鳴らせる。
怖いの半分、嬉しいの半分で、滝はそのゲームを様々な意味で楽しんでいた。
「おっ、そろそろこのルートの話は終わるかも。」
初めてから数時間、一つのまとまったルートの話が終わろうとしていた。やっと終わると、
鳳がホッと胸を撫でおろそうとすると、今までにないくらいの恐怖映像が、画面の中に映
し出される。
『っ!!!???』
あまりの衝撃映像に、二人とも声にならない悲鳴を上げる。これは、確かに怖いと評判に
なると、滝は納得した。そして、あまりの恐怖に鳳は半泣き状態だった。
「まさか最後にあんなのが来るなんて・・・・予想外だったなあ。」
「もう本当無理ですよ〜・・・」
「キリのいいところまで終わったし、そろそろ寝ようか。あっ、その前に、ちょっとトイ
レ行ってくるね。」
「俺も行きますっ。」
滝がトイレに行こうと立ち上がろうとすると、鳳はそんな滝の服の裾をしっかりと掴み、
一緒に立ち上がる。きっと怖くて、行きたいのを我慢してたんだろうなあと、滝はくすく
すと笑った。
「まあ、確かに一人で行くのは怖いしね。一緒に行こうか。」
「・・・はい。」
かなり恥ずかしいなあと思いつつも、怖い気持ちの方が先に立ってしまう。滝の服を握っ
たままの状態で、鳳は滝について行った。トイレから帰ってくると、滝は鳳に先に布団の
中に入っているように言い、部屋の電気を消す。電気を消すと、滝は鳳の入っている布団
に入った。
「いやあ、怖かったけど、やっぱりあーいうゲームは面白いね。」
「・・・・俺はやっぱり苦手です。」
「だよねー。だって、長太郎、ずーっと俺の腕掴んで怖がってるんだもん。」
「だって、怖いものはしょうがないじゃないですか。」
「可愛かったから、俺は全然構わないけどね。じゃあ、長太郎と怖がらせちゃったお詫び
ってことで、長太郎の言うこと何でも聞いてあげる。」
「な、なら・・・・」
この状況で、鳳が頼むことなんて一つしかない。それを分かった上で、滝は笑顔でそんな
ことを言う。
「まだ怖いんで、くっついて寝て欲しいです。」
「そんなのお安い御用だよ。やっぱ、長太郎は可愛いなあvv」
そう言いながら、滝は鳳の体をぎゅうっと抱きしめた。少し苦しいが、これくらいくっつ
いていれば怖くないと、鳳はホッと安心したような溜め息を漏らす。腕の中で静かな寝息
を立て始める鳳の寝顔を眺めながら、滝はさっきやっていたゲームの怖さなど、綺麗さっ
ぱり忘れてしまうのであった。