穏やかな波の音が聞こえる船の上で、義丸と鬼蜘蛛丸は見張りをしていた。今日は特に悪
い城が海から攻めてくるようなこともなく、見張りと言っても形だけのようなものであっ
た。
「今日は海が穏やかだな、鬼蜘蛛丸。」
「ああ。見張りなんていらないくらいだよな。」
「でも、まあ、油断してて急に攻めて来られても、困るからな。やっぱり見張りは必要だ
ろ。」
そんなことを言いつつ、義丸は船のへりに手をつき、海を眺める。しかし、視線の先はた
だただ暗闇が広がるだけだ。
「なぁ、鬼蜘蛛丸。」
「何だ?」
「折角二人きりだし、ちょっと楽しいことしないか?」
ふっと妖しげな笑みを浮かべながら、そんなことを囁いてくる義丸に、鬼蜘蛛丸はドキッ
としてしまう。
「い、今、見張りはちゃんとやらなきゃダメだって言ってたじゃねぇか!」
「見張りはちゃんとするって。それに誰がそんなやらしいことするなんて言った?」
「わ、俺だって、別にそんなこと言ってないだろ!!」
真っ赤になって、否定する鬼蜘蛛丸を見て、義丸はくすくす笑う。こういう一つ一つの反
応が可愛いなあと思いながら、義丸は鬼蜘蛛丸の肩を捉えた。
「っ!!」
「そんなに構えなくても大丈夫だって。今はまだ何もしないから。」
「今はって何だよ!?」
「別に言葉通りの意味だが?それより、鬼蜘蛛丸、ちょっとして欲しいことがあるんだよ
な。」
「な、何だよ?変なことだったら、絶対しないからな!」
「そんな変なことはさせないさ。すごく簡単なことだ。」
にっこりと笑いながら、義丸はそう口にする。しかし、そんなのは嘘だと、鬼蜘蛛丸はド
キドキしながら、構えていた。
「俺のことを好きだと言ってくれ。鬼蜘蛛丸が俺を好きだと思う気持ちを存分に込めて。」
「へっ?」
予想とは全く違う要求を言い渡され、鬼蜘蛛丸はポカンとしてしまう。
「してくれるか?鬼蜘蛛丸。」
「ま、まあ、それくらいなら、別にやってもいいぜ。その代わり、お前も俺に同じことし
ろよ!」
「お安いご用だ。それじゃ、鬼蜘蛛丸・・・」
早く言ってくれと言わんばかりに、義丸は目を輝かせ、鬼蜘蛛丸に向かって微笑む。いざ
言おうと思うと、かなり恥ずかしく、なかなか言葉が出てこない。
「あ・・・う・・・」
「どうしたんだ?鬼蜘蛛丸。」
恥ずかしがっている顔も可愛いなあと思いつつ、義丸は鬼蜘蛛丸の言葉を待った。しばら
くもじもじと何も言えずにいた鬼蜘蛛丸であったが、真っ赤な顔をして、義丸の顔を見上
げ、きゅっと服を掴むと思いきってその言葉を口にした。
「好きだっ、義丸!!」
あまりにも可愛い鬼蜘蛛丸に、義丸は萌え死にしそうになる。もう一度、今の言葉を聞き
たいと、義丸はそう頼んだ。
「もう一度言ってくれ、鬼蜘蛛丸。」
「えー、もういいだろ。恥ずかしい・・・」
「お願いだから。」
「全く・・・しょうがないなあ。」
「出来れば笑顔で。」
注文が多いと思いつつ、鬼蜘蛛丸は義丸の言う通りにする。恥ずかしさを必死で堪えなが
ら、にっこりと笑って先程と同じような言葉を繰り返した。
「好きだぞ、義丸。」
「鬼蜘蛛丸っ。」
あまりにも可愛すぎる鬼蜘蛛丸を、義丸は堪えきれずに思いきり抱きしめた。自分がこれ
だけ言ったのだから、今度は自分が言われる番だと、鬼蜘蛛丸は義丸にそれを伝える。
「今度はお前が言う番だぞ。」
「そうだな。」
しかし、そう言いながら義丸は鬼蜘蛛丸を抱きしめたままの状態で何も言おうとしない。
さすがに焦れてきた鬼蜘蛛丸は、少しイラついているような口調で抗議の言葉を放つ。
「おい、義丸!!何で黙ってるんだよ!?」
「・・・・・。」
「義丸ってばっ!」
そこまで言って欲しいのかと、笑いを噛み殺しながら、義丸はさらに強く鬼蜘蛛丸を抱き
しめる。そして、唇が触れてしまいそうなほど、耳に口を近づけながら、低い声でゆっく
りと囁いた。
「愛してるぞ、鬼蜘蛛丸。」
「〜〜〜〜〜〜っ!!??」
散々焦らされた後に耳元でそんなことを言われ、鬼蜘蛛丸は腰砕け状態になってしまう。
すっかり力の抜けてしまった鬼蜘蛛丸の体を支えながら、義丸は楽しそうに笑った。
「本当、可愛いなあ、鬼蜘蛛丸は。」
「う、うるさい・・・」
もう胸の高鳴りが止まらないと、鬼蜘蛛丸はゆでだこのように顔を真っ赤にして、義丸の
肩に顔を押しつけた。すっかり見張りをしているということを忘れ、二人はしばらくイチ
ャイチャしているのであった。