お題:お前がいない/嫉妬なんて俺らしくない/
はっかの味を舌でころがして(跡部×宍戸)

(あれ?今日は跡部の奴いないのか。)
とある放課後、宍戸はテニス部の部室にやってきていた。跡部がいることを期待して来た
のだが、あいにく今日はここにはいないようだ。
「ここにいないとなるとどこだろう?生徒会室とかかな。でも、今日は生徒会があるなん
て言ってなかったしなあ・・・」
誰もいない部室で、ぶつぶつと宍戸はそんなことを呟く。会えると思ってきたのに会えな
いと無性に会いたくなる。とりあえずここにいても仕方がないと、宍戸は跡部を探しに出
た。
「おっかしいなあ。まだ、帰ってはねぇはずなんだけど。」
部室を出た後、教室、生徒会室、職員室、図書室と跡部の行きそうな場所を探してみるが、
跡部の姿は見当たらなかった。あとはどこを探せばよいだろうと考えていると、まだ行っ
ていないが、かなり高確率で跡部がいそうな場所を思い出す。
「そうだ!テニスコート!」
三年生は部活はない状態ではあるが、だからといって、絶対にいないとは言い切れない。
それであれば早速行ってみようと、宍戸はテニスコートへと向かった。
「ほら、そこ、油断してるんじゃねーぞ!」
「はいっ!!」
案の定、跡部はテニスコートいた。ベンチで見るのではなく、自らもコートに入り、樺地
や鳳、日吉ら後輩の指導にあたっていた。やっと跡部を見つけられたと思った宍戸だった
が、その心は晴れやかではなかった。
(何だろう?なんか・・・もやもやする?)
折角跡部を見つけることが出来たのに、この胸のもやもや感は何だろうと宍戸は首を傾げ
る。跡部が鳳や日吉達と練習をしている様を眺めていると、そのもやもや感は一層強くな
った。
(あれ?もしかしてこれは・・・)
その感覚に心当たりがあり、宍戸はその原因が何なのかに気づく。探していた跡部の目に
今映っているのは自分ではなく、樺地や鳳、日吉達だ。しかも、跡部が直接指導をしてる
ときた。跡部とテニスをするのは、自分もなかなかしてもらえず、常にしたいと思ってい
ることだ。跡部とテニスをしている三人が羨ましい。宍戸の胸はそんな思いで次第にいっ
ぱいになってゆく。
(俺、アイツらにヤキモチ焼いてるのかよ。ありえねぇだろ。この程度のことでヤキモチ
焼くとか俺らしくねぇぜ。)
勝手に生まれてくるそんな気持ちを誤魔化すかのように、宍戸は一旦その場から離れる。
少しでも気持ちを落ち着かせようと、宍戸はポケットの中を探った。
(確かポケットにミントガムが入ってたはず・・・って、空じゃねーか。うー、この微妙
な気分をなんとかしてぇんだけどなあ。)
ブレザーのポケット等も確認してみると、一つの飴玉が入っていた。その飴玉は透明感の
ある白い色をしており、書いていなくともどんな味かが宍戸には分かった。
「薄荷飴か。まあ、ミントガムと似たような味だし、とりあえずコレ食べて落ち着くか。」
透明な袋を開け、宍戸は真ん丸の飴玉を口の中に放り込む。口の中に広がる薄荷の味に、
宍戸の気持ちはいくらか落ち着いてきた。薄荷飴を舌の上で転がしながら、宍戸は部室の
方へ向かって歩いて行く。特に用はないのだが、宍戸にとっては一番行きやすい場所なの
だ。
「はあ・・・」
「何、溜め息なんてついてやがる。」
「っ!?」
部室に着いて、一息つこうとした瞬間、後ろから声をかけられる。突然声をかけられ、宍
戸の心臓は大きく跳ねた。部活の時間が終わるまでは、まだ少し時間がある。後輩達が戻
ってこないこの時間に宍戸に声をかけたのは跡部であった。
「さっきテニスコートに来たのにすぐにどこかに行っちまったから気になってな。」
「長太郎達の練習見てたんじゃねーのかよ?」
「見てたぜ。でも、テメェの姿を見つけたら、追いかけたくなってな。」
跡部の言葉を聞いて、宍戸の胸はきゅんと高鳴る。鳳達よりも自分のことを気にかけてく
れた。それがどうしようもなく嬉しくて、宍戸は顔が熱くなっていくのを感じる。
「べ、別に俺のことなんか追いかけなくてもいいのに・・・・」
「俺様がそうしてぇんだから、いいんだよ。ん?何か食ってるか?イイ匂いがするぜ。」
「あ、ああ。薄荷飴食ってるけど。」
「薄荷飴か。どんな味なんだ?美味いか?」
「まあ、美味いぜ。俺、薄荷も好きだし。」
「だったら、ちょっと味見させてもらうぜ。」
「えっ・・・?」
そう言って、跡部は宍戸の唇を奪う。唇を奪うだけでは飽き足らず、軽く舌を入れ、宍戸
の口の中にある薄荷飴も奪った。
「確かに悪くねぇ味だな。」
「なっ・・・あっ・・・・」
「つーか、あれだな。薄荷ってお前の味って感じだぜ?キスするとき大抵ミントの匂いさ
せてるし。」
「な、何ふざけたことぬかしてっ・・・」
「顔、真っ赤だぜ。あ、もう味見出来たし、この薄荷飴、返すか?」
「返さなくていい!!」
跡部にキスをされ、薄荷飴も取られ、宍戸の心臓はもうドキドキしまくりであった。しか
し、先程のもやもや感は跡形もなく消え、今感じるのは跡部に対するときめきと腹が立つ
くらいの嬉しさであった。
(くそ〜、いきなりキスされて飴も取られて、恥ずかしくて腹立つのに、何でこんなに嬉
しいとか思ってんだよ!!俺、どんだけ跡部が好きなんだよ。あーあ、もう、ちょいダサ
だぜ。)

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