お題:離れたくない、離したくない/雨の中にただ佇んで/
同じ空を見ていた(岳人×忍足)

雨がザーザーと音を立てる帰り道、岳人と忍足は一つの傘に二人で入り、家路を辿ってい
た。午前中はこんなにも雨が降るとは思えない程晴れており、岳人は傘を持ってきていな
かった。
「こんなに雨が降るなんて思ってなかったぜ。」
「せやけど、天気予報では夕方から大雨になるって言っとったで。」
「天気予報は見たけどよ、朝あんなに快晴だったんだぜ?雨なんて降るわけないと思うじ
ゃん。」
「確かに朝はメッチャ晴れてたけどなぁ。お昼過ぎから雲が一気に多くなってきてたで。」
「そうなんだよなあ。」
天気予報を信じず、傘を持って来ていなかった岳人であったが、お昼を過ぎたあたりから
これはヤバイと感じていた。真っ青だった空はあっという間に鼠色の雲に覆われ、昼とは
思えないほどに暗くなっていった。
「あの雲の増え方はやばかったよなあ。」
「せやなあ。どこからは分からんけど、黒い雲が集まってきて。」
「あっという間に太陽隠しちまってさ。」
「しばらくは、ただ曇ってるだけやったけど、帰るころになってこの大雨やで。」
「全くやんなっちゃうよな。」
まるで同じ場所から外の様子を見ていたかのように、岳人と忍足はこの天気のことを話す。
そんなことを話している間にも、雨足は強まり、空の雲は二人の傘に雨粒を激しくぶつけ
ていた。
「雨、すげぇ強くなってきてるな。」
「二人で入ってると、傘の大きさがそないに大きくないから、どっちも濡れてしまいそう
やし、あの木のあたりでちょっとだけ雨宿りせぇへん?」
「そうだな。もうちょっと街の方まで出りゃ店とかに入っちまった方がいいんだろうけど
な。ここらへんからじゃまだまだかかるし、あのデカイ木の下なら、少しは雨も弱く感じ
るだろ。」
駅の近くの商店街まではまだまだ距離があると、二人は雨の中に静かに佇む大きな木の下
で雨宿りをすることにする。
「思ったより葉っぱがたくさんあるから、だいぶ雨が弱く感じるな。」
「せやな。そういえば、さっき話してて思ったんやけど、岳人の席って今窓際なん?」
「ああ、そうだけど、どうして分かったんだ?」
「あないに詳しく曇っていく様子が分かるってことは、窓際しかありえへんやろ。」
「確かにそうだな。じゃあ、侑士も窓際ってことか?」
「まあな。なんか大したことやないんやけど・・・」
「ん?何だよ?」
雨が降る空を見上げながら、忍足はふと思ったことを口にする。
「全然違う場所にいるのに、同じ空を見て、同じようなことを思ってたってのが、ちょっ
とだけ嬉しいなあと思って。何か気持ちが繋がってるって言うか、上手いこと言葉に出来
へんのやけど。」
忍足の言葉にどう反応したらよいか分からず、岳人はしばらくぽかんとしてしまう。しか
し、そんなことを考えている忍足がとても可愛いと思ったのは確かだ。岳人が何の反応も
してくれないので、忍足は何だか恥ずかしくなって、岳人につっこむ。
「何か言えや、岳人。そないに黙られたら変なこと言ったみたいで、恥ずかしいやろ。」
「いやあ、何か侑士が本当乙女チックなこと考えてるから、どう返すのが正解なのかなあ
って考えてて。」
「正解なんて考えなくてええんや。岳人が思ったこと言えばええやろ。」
「だったら、あれだ。侑士、超可愛い。さっきの会話でそんなこと考えるなんて、そんな
に俺のこと好きなんだ。」
とりあえず何かを言って欲しいという忍足に、岳人は今思っていることはそのまま素直に
口にする。そんな岳人の言葉を聞いて、忍足の顔はかあっと真っ赤に染まる。
「あー、何か言われるのは言われるので恥ずかしいわ。」
「そこまで赤くなることかよ?本当、侑士は可愛いなあ。恋する乙女みたいな?」
忍足の反応があまりにも可愛くて、岳人はくすくす笑いながらそんなことを言う。恋する
乙女などと言われるのは、普通の中学生男子であれば、それほど好ましくないことではあ
るが、ラブロマンスが大好きな忍足にとっては、別に嫌なことではなかった。むしろ、少
し嬉しいとまで思ってしまう。
「恋する乙女って何やねん。」
「だって、そんな感じだぜ?そんなこと思ってるんだったら、今日俺が傘忘れてこんなふ
うに相合い傘で帰れるのを嬉しいとか思ってるんじゃねーの?」
冗談っぽく岳人がそんなことを言うと、忍足は困ったように笑う。岳人の言うことは一つ
も間違ってはいなかった。
「全く・・・岳人は何でもお見通しなんやな。」
「侑士に関してだけはな。てか、俺が今そう思ってるし。」
「岳人が?何を?」
「今、侑士と相合い傘してるのが嬉しいなあって。だったら、侑士もそう思ってるだろっ
て思ってさ。」
「なるほどな。」
岳人も同じことを思っていると聞いて、忍足は嬉しくなる。とてもいい気分でふと顔を上
げると、雨がだいぶ弱まっていることに気づく。
「だいぶ雨弱まってきたなぁ。そろそろ行くか、岳人。」
「そうだな。」
大きな木の下から出ると、岳人は傘を持っている忍足の手に自分の手を重ねる。そして、
ニッと笑って忍足の顔を見る。
「まだ俺、侑士と離れたくないんだよな。だから、駅につくまでこうしとく。いいよな?」
「別に構へんで。・・・俺もまだ、岳人と離れたくないしな。」
「そんなこと言われたら、ずっと離したくなくなっちゃうぜ?」
「ええよ。岳人やしな。」
「へへー、じゃあ、雨が降ってる間はずっと握っててやるよ。」
二人で一つの傘を持ちながら、岳人と忍足は駅に向かって歩いていく。先程よりは雨は弱
まったが、二人が歩いている間は、その雨はやむことはなかった。

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