お題:今ここで抱きしめたい/むさぼるようなキスを/
抱きしめてもいいかな(タカ丸×久々知)

土井先生に焔硝蔵の掃除を頼まれ、焔硝蔵の前までやってきた久々知は少し遠くから聞き
覚えのある声を耳にする。その声の主は、タカ丸であった。久々知の前までやってきたタ
カ丸は息を切らせて、困ったような顔で助けを求める。
「久々知く〜ん、かくまって!!」
「どうしたんですか?」
「くノ一の女の子達に追いかけられて・・・」
カリスマ髪結いの息子ということで、タカ丸はくノ一にはかなり人気がある。一人一人で
あれば、特に逃げることはないのだが、集団で追いかけられるとなるとやはり逃げたくな
ってしまう。
「これから焔硝蔵の掃除で、中に入ろうと思ってたんです。ここならさすがにくノ一の子
達も入って来ないと思いますよ。」
「うんうん!!早く入ろう!!」
見つかっては困るということで、タカ丸は久々知と共に急いで焔硝蔵に入る。焔硝蔵に入
ってしばらくすると、『タカ丸さ〜んvv』という黄色い声とともにたくさんの人数で駆
け抜ける音が聞こえた。
「とりあえず、行ったみたいですよ。」
「はあ〜、よかったあ。」
安堵感から、タカ丸はその場に座り込む。たまたま土井先生に会い、掃除を一人でするよ
うに頼まれた久々知であったが、せっかくタカ丸と会ったのだから手伝ってもらおうと、
久々知ははたきをタカ丸に渡す。
「ちょっと休んでからでいいんで、焔硝蔵の掃除手伝ってください。」
「あれ?今日委員会あったっけ?」
「いや、本来ならないんですけど、さっき土井先生に会って頼まれたんです。」
「そうなんだ。伊助くんがいたら張りきってやってくれそうなのにね。」
「一年は組は補習があるみたいで。」
「なるほどね。じゃあ、今日は兵助くんと二人きりで委員会活動かぁ。」
いつものほわわんとした雰囲気で、タカ丸は嬉しそうに笑う。そういう表情で笑うのはず
るいよなあと思いながら、久々知はタカ丸から少し離れ、掃除を始める。
(お掃除してる久々知くんも可愛いなあ。)
走って逃げてきた疲れを和らげながら、タカ丸は久々知を眺める。そんなタカ丸の視線に
気づき、久々知はくるっとタカ丸の方を振り返った。
「何見てるんです?そろそろ手伝ってもらいたいです。」
「うん、じゃあ、今から始める。」
ゆっくりと立ち上がると、タカ丸は久々知に渡されたはたきで掃除を始める。ぱたぱたと
はたきで棚のホコリを払いつつ、タカ丸はチラチラと久々知に視線を送っていた。
「タカ丸さん。」
「な、何?」
「ちゃんと掃除に集中してください。」
「は、は〜い。」
やっぱり見ているとバレてしまうかと、タカ丸は苦笑しながら掃除を続ける。ある程度、
進めたところで、たまたま久々知とタカ丸の掃除をしている位置が重なり、腕がぶつかっ
た。その瞬間、久々知が持っていた雑巾を落としてしまう。
「あ、ゴメン!久々知くん!!」
「いや、こっちこそ。」
落ちた雑巾を拾いつつ、久々知は何気なくタカ丸を見上げる。突然上目遣いで見つめられ、
タカ丸の心臓はドキンと跳ねた。
(うわ、久々知くん睫毛長っ!!すっごい可愛い!!あー、どうしよ・・・)
「あ・・・く、久々知くん。」
「ん?どうしました?」
少し様子のおかしいタカ丸を見て、久々知は首を傾げてそう聞き返す。その仕草も反則だ
と、タカ丸の胸の鼓動は次第に速くなっていった。
(この角度でそんなふうに首傾げるなんて、ずるい!!可愛すぎて、もうっ!!)
「い、今ね、すごくねっ・・・」
「はい。」
「今ここで、兵助くんのこと抱きしめたい!!」
「はっ!?」
「ちょ、ちょっとだけでいいから、抱きしめてもいいかな?」
本当は何も言わずに思いきり抱きしめたいのだが、久々知を怒らせてはいけないとタカ丸
は必死に理性を保ちつつ、そんなことを尋ねる。いきなりそんなことを言われ、久々知は
顔を真っ赤にして、うつむいてしまう。
「ダメかな・・・?」
「・・・そ、掃除手伝ってくれたし、その・・・ちょっとだけなら別に・・・・」
タカ丸があまりにそうしたいオーラを出してくるので、久々知は立ち上がって恥ずかしそ
うにそう口にする。その言葉を聞いて、タカ丸は思いきり久々知を抱きしめる。思ったよ
り強い力で抱きしめられ、久々知の心臓はバクバクと大きな音を立て始める。
(うわっ、これは結構恥ずかしいし、何か・・・・)
恋人同士でするような抱擁に、久々知は恥ずかしくなりつつも、何となく気分が高まって
きてしまう。普段ならそんなことはあまりないのだが、今はあまり人の来ない焔硝蔵に二
人きり。この滅多にない状況が、二人の気分を高めていた。
「ゴメンね、久々知くん。」
「な、何でいきなり謝るんですか?」
「やっぱ、抱きしめるだけじゃ我慢出来ないみたい。今、すごくキスしたい。」
「・・・べ、別にしてもいいですよ。」
「えっ、いいの!?」
「・・・・俺も、今ちょっとして欲しいなあと思ってたんで。」
「っ!!??」
あまりに素直な久々知の言葉に、タカ丸はもう撃沈であった。乙女のように恥じらった表
情でそんなことを言われてしまったら、我慢出来るものも我慢出来なくなってしまう。思
ってもみない久々知の言葉と想像以上の可愛さに、タカ丸は普段なら考えられないくらい
激しくむさぼるようなキスをしてしまう。
「・・・ぷはっ・・・ハァ・・・」
「あっ、ゴ、ゴメン!!ちょっとやりすぎちゃったかも・・・」
「べ、別に謝らなくてもいいです。今の気分だったら、これくらいがちょうどよかったで
すし・・・」
「もー、今日の久々知くん可愛すぎっ!!本当いろいろ我慢出来なくなっちゃうから、こ
れ以上煽らないで!!」
「煽ってるつもりなんてないですよ。」
「自覚ないとか、本当ずるいよね。はあ、何かすごく暑くなってきちゃった。掃除も終わ
ったし、そろそろ出ようか。」
「そ、そうですね。」
これ以上ここにいると、何だかヤバイことになってしまうと二人はそそくさと焔硝蔵を出
る。外に出た瞬間、タカ丸はくノ一の面々に見つかり、再び追いかけられることになって
しまう。
『あ〜、タカ丸さん、みーつけたvv』
「あ・・・忘れてた。」
『タカ丸さ〜ん!!』
「今日は久々知くんの髪の手入れを頼まれてるからゴメンナサイ!!」
そう言って、タカ丸は久々知の手を引っ張って走り出した。まさかこんなことになるとは
思っていなかったが、さっきのことも含め、タカ丸にとって自分はかなり特別なんだなあ
ということを実感し、久々知はこっそり顔を緩ませるのであった。

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