お題:急がなくていいよ/そんなところも好きだよ/
地下鉄のホームで君を見た(滝×鳳)

とある休日、滝は買い物をしに外出しており、地下鉄に乗ろうとエスカレーターでホーム
へ向かっていた。下りのエスカレーターに乗ってホームの方へ目をやると、見たことのあ
る顔が目に映る。
(あれ?長太郎?)
遠目でよく分からないため、滝はあることをして確認してみようとする。ポケットから携
帯電話を出すと、滝は鳳へ電話をかけてみた。と、ちょうどその時、電車がホームへ入っ
てくる。
トゥルルル・・・トゥルルル・・・・
数度の呼び出し音の後、カチャっと音がし、鳳が電話に出る。本来なら今ホームに入って
きた電車に乗るはずだったのであろうが、携帯に出た為に鳳はその電車を見送った。
『はい、鳳です。』
「あ、長太郎?俺だけど。」
『滝さんですか?』
「うん。長太郎、今、地下鉄のホームにいたりする?」
『はい。どうして分かるんですか?』
「今、俺も長太郎と同じホームにいるからさ。」
姿が見える場所で、携帯電話に出てもらえたため、滝はホームにいるのが鳳だということ
が確認出来た。エスカレーターを下りると、滝は鳳のもとへ向かって歩いて行く。鳳のす
ぐ側まで来ると、電話を切り、直接鳳に声をかけた。
「長太郎。」
「滝さん!」
「奇遇だね。こんなところで会えるなんて。」
「はい!滝さんはお買い物ですか?」
「まあね。長太郎も買い物?」
「いえ、俺は友達のバイオリンの発表会があって、今その帰りなんです。」
「なるほどね。じゃあ、この後は暇なんだ。」
これから帰るということを聞いて、滝はこれはチャンスだと思う。せっかくこんなところ
で会えたのだ。そのまま家に帰るというのはもったいない。
「そうですね。この後は特に予定はないですよ。」
「なら、これから少しデートしよっか。長太郎が良ければだけど。」
「はい!全然構わないです!」
嬉しそうな顔で頷く鳳を見て、滝も顔が緩む。こういう素直なところは本当に可愛いなあ
と、滝は胸が弾むのを抑えられない。
「何か嬉しいなあ。まさかこんなところで長太郎に会えるとは思ってなかったからさ。」
「俺もですよ。俺も滝さんに会えて嬉しいです。」
「ふふ、やっぱりいいなあ。」
「何がですか?」
「長太郎、本当素直に言葉にも表情にも態度にも嬉しいって気持ちを出してくれるじゃな
い?」
「そうですか?」
「うん。俺、長太郎のそんなところも好きだよ。」
ニッコリと笑顔を浮かべてそう言う滝の言葉に、鳳の顔は真っ赤に染まる。
(こういう表情もいいなあ。本当長太郎はいい表情見せてくれるよなー。)
「こ、これから、どこ行きます?」
ドキドキする胸を抑えられないまま、鳳はそんなことを問う。正直、滝にとっては、鳳と
一緒に居られるのであればどこでもよかった。
「うーん、長太郎の行きたいところだったらどこでもいいかな。」
「えっ!?えっと、じゃあ、俺が考えなきゃってことですね。ここからだと・・・・」
「そんなに急がなくていいよ。時間はまだまだあるからね。」
どちらも自分の用事を終わらせて来た後と言えども、日が落ちるまではかなり時間があっ
た。これからどこに向かおうとも一人でいるよりは楽しいのは確かだ。次の電車が来るま
での間少し考え、鳳はどこに行きたいかを決める。
「あ、じゃあ・・・」
「どこに行きたいか決まった?」
「少し先の駅にあるちょっと大きめの公園なんてどうですか?あそこなら都会のわりに緑
も多いし、散歩したり、落ち着いて話をしたり出来ると思うんですよね。」
「いいねー。じゃあ、そこに行こっか。」
「はい!」
行き先を決めると、二人はその公園がある街の駅に向かう電車に乗った。車内はそんなに
混んでおらず、いくつか空いている席があった。ただし、二つ並んで、座れる席はなかっ
たので、もし座ろうとするならば、どちらかが立たなければならなくなってしまう。
「長太郎、座って。」
「えっ、でも・・・・」
「いいから、いいから。」
鳳を空いている席に座らせると、滝はひどくご機嫌な様子で鳳の前に立った。そして、ポ
ムッと鳳の頭に手を乗せる。
「た、滝さん?」
「長太郎は大きいから、普段はこんなふうにできないんだよねぇ。長太郎が座ってれば、
さすがに俺の方が大きくなるからね。」
「でも、電車の中でこれはちょっと・・・恥ずかしいです。」
「長太郎が恥ずかしがってなきゃ、ちょっとじゃれてるようにしか思われないよ。でも、
そんなに真っ赤になってちゃ意識してるのバレバレだよ?」
「あうう・・・」
流石に電車の中で頭を撫でられているような状態は恥ずかしいと、鳳は頬を染める。そん
な鳳を見て、滝はくすくす笑いながら手を離した。
「本当長太郎は照れ屋だなあ。」
「だって・・・」
「ま、そんなところも好きなんだけどね。」
そう言われ、鳳はまたはわはわと慌てるような反応を見せる。もうしばらくこんな鳳が見
ていられるのかと考えると、自然と顔がニヤけてきてしまう。公園についたら、どんなこ
とをして、どんなことを言ってあげようかと考えながら、滝は目の前にいる可愛い可愛い
後輩をからかうように愛でるのであった。

戻る