ここは京の都、平安京。都に住む貴族達は今日も雅やかな時間を過ごしていた。そんな中、
とある屋敷の庭で流鏑馬の勝負が行われている。
「はっ!」
タンっ!!
馬に乗りながら放った矢は、的の中心に当たる。矢を放った主は、この屋敷の主人である
跡部景吾。跡部は文武両道に優れ、詩歌管弦、流鏑馬、蹴鞠、全てにおいて人並み外れた
才能を持っていた。
「さっすが、跡部。今のところ全部ど真ん中だぜ!」
「これは、もう勝負も決まったようなもんちゃう?宍戸。」
「うるせー!まだまだだ!!」
跡部と流鏑馬の勝負をしているのは、身分はそれほど高くないが跡部の幼馴染である宍戸
だ。負けず嫌いで、熱くなりやすい性格の宍戸は、今日も跡部の挑発に乗って、こんな勝
負をすることになってしまった。
「このへんで諦めた方が身のためだと思うけど。どうせ勝てないなら、ここで棄権して、
あの約束はなしにした方がいいんじゃない?」
少し離れたところで、二人の勝負を傍観している滝は、宍戸にそんな忠告をする。滝の言
う約束とは、『負けた方が勝った方の言うことをなんでも聞く』というものだ。跡部は、
宍戸に途中で棄権するならその約束をなしにしてもいいと言った。しかし、そんなことは
宍戸のプライドが許さない。たとえ言うことを聞かなければいけなくなったとしても、最
後まで戦うのが宍戸のやり方であった。
「ほら、次はお前の番だぜ。」
「分かってんよ!」
馬にまたがり、宍戸は手綱を操り、馬を走らせる。そして、的の近くに来ると弓を引き、
的の中心を狙った。
「はっ!!」
宍戸の放った矢は、的の中心に向かって飛んでゆく。しかし、もう少しのところで、勢い
よく飛んでいった矢は、的の中心を外れてしまった。
「勝負あったな。」
「くそっ・・・」
一度でも中心から外れてしまえば、宍戸にもう勝ち目はない。悔しそうにしながら、宍戸
は馬から下りた。
「宍戸ー、約束したんだからちゃんと跡部の言うこと聞けよー。」
「岳人、それは酷やで。何たって跡部の言うこと聞かなアカンのやからな。」
「だから、忠告したのに。知らないよ?」
からかうような口調で、二人の勝負を見ていた岳人、忍足、滝は言う。その顔は実に楽し
そうだ。こんなおいしい賭けをしておいて、跡部が普通のことを宍戸に命令するわけがな
い。きっと面白いことになるのであろうと、三人は予想していた。
「そうだぜ。だが、約束は約束だ。ちゃーんと、俺様の言うこと聞いてもらうぜ。」
ニヤニヤと笑いながらそう言われ、宍戸は身の危険を感じる。しかし、約束を破ることは
出来ない。悔しいが素直に負けを認め、宍戸は跡部の言葉に頷いた。
「当然だろ!一度約束したことを守らねぇのは、許されねぇことだしな。」
宍戸の中ではそうなのだ。跡部がどんなことを要求してくるかは想像がつかないが、どん
なことでもやってやると、宍戸は心の中で覚悟を決めた。
「なら、とりあえず今日の戌の刻に俺の部屋に来い。それまでにいろいろ用意をしておく
からよ。」
「お、おう。」
戌の刻という微妙な時間に来いと言われ、宍戸は少なからずドキドキしてしまう。二人は
幼馴染ではあるが、それだけではない。十の頃を越えたあたりから、お互いを幼馴染以上
の存在として意識するようになっていた。最近では、跡部の屋敷で一夜を越すということ
もしばしばある。そんな中で、戌の刻に部屋へ来いという指示。何か大変なことを命令さ
れるのではないかと、宍戸は緊張を隠せなかった。
戌の刻になり、宍戸は跡部の部屋へやってきた。ドキドキしながら、障子に手をかけると、
勝手にその障子が開く。宍戸の気配を感じ、内側から跡部が開けたのだ。
「うわっ・・・」
「何、驚いてやがる。ほら、入れ。」
「おう・・・」
跡部の部屋は薄暗く、何とも言えない雰囲気を醸し出していた。宍戸が部屋に入ると、跡
部はピシャっと障子を閉めてしまう。その音に宍戸の心臓はドクンと跳ねる。
「さてと、昼間の約束、忘れてねぇよな?」
「ああ。だから、ここに来てやったんじゃねぇか。」
「それじゃ、覚悟は出来てるってわけだな。」
意味深な笑みを浮かべる跡部を前にし、宍戸の緊張はさらに高まる。何を要求されるのだ
ろうと、部屋の中を見回してみると、あるものが宍戸の目に留まった。
(女物の着物・・・?)
部屋の中心にわざとらしく置かれている着物を目にし、宍戸は首を傾げる。跡部は確かに
女人に人気はあるが、決して部屋に入れることはしない。この部屋に入れるのは、跡部と
親しいごく一部の仲間だけなのだ。それなのに、そこには確かに女人が着ているような何
枚もの着物が綺麗に折りたたんである。
「跡部。」
「何だ?」
「そこにある着物って、十二単だよな?」
「ああ。そうだぜ。」
「お前、この部屋に女を入れたのか?」
別に嫉妬しているわけではないが、宍戸は思わずそんなことを口にしてしまった。それを
聞いて、跡部はニヤリと口角を上げる。
「いや、入れるわけねぇだろ。これは、これからお前が着る着物だ。」
「・・・・は?」
跡部の言っていることが理解出来ず、宍戸はポカンとしてしまう。ここにあるのは、確か
に女人が着る十二単であるのに、どうして自分が着なければならないのか。宍戸には、さ
っぱり理解が出来なかった。
「だから、お前がこの十二単を着るんだ。昼間の約束、ちゃんと守ってもらうからな。」
昼間の約束と言われ、宍戸はやっと跡部の意図していることを理解した。『負けた方は勝
った方の言うことを何でも聞く』。つまり、その一つ目の命令が、この十二単を着ろとい
うことなのだ。
「はあ!?ちょ、ちょっと待てよ!いくらなんでもさすがにそれは・・・・」
「約束を破るのは、許されねぇことなんだろ?」
「う・・・でも・・・」
自分であんなことを言ってしまった手前、下手に抗議することも出来ない。言葉を失って
いる宍戸に跡部は十二単を差し出した。
「どうせ脱がせちまうんだから、そんなに真面目に着ないでいいぜ。適当に着乱れてた方
が俺好みだしな。」
「脱がせるんだったら、着る意味ねぇじゃんか!」
「それを脱がすのが楽しいんだろ?」
どうしようもない跡部の発想に宍戸はたじたじ。しかし、約束は約束だ。潔く今来ている
着物を脱ぐと、宍戸は何枚もある衣を羽織り始めた。
「これ、結構重くなるな。つーか、腰紐みたいなのはねぇの?」
「そりゃそんだけ重ねりゃ重いだろ。腰紐はねぇよ。本当は長袴ってのがあるんだけどよ、
必要ねぇから用意しなかった。」
「じゃあ、本当にただ羽織ってるだけって感じじゃねぇか。」
「そうだな。でも、それがいいんじゃねぇの。」
何枚も羽織っているにも関わらず、胸の部分ははだけ、長袴が用意されていないため、脚
も露出している部分の方が多い。そんな宍戸の姿に、跡部は言いようもない艶やかさを感
じる。
「一応着たけどよ。で、この後どうすんだ?すぐ脱がせちまうのか?」
「いや、それは少し勿体ねぇな。・・・そうだ、お前、そのままの格好で舞ってみせろよ。
俺様が琴を弾いて、歌ってやるからよ。」
「激動きにくいんだけど・・・」
「大丈夫だ。お前、舞踊は得意だろ?お前の舞、俺は好きだぜ。」
跡部が褒めてくれるということはそう滅多にないので、宍戸は素直に嬉しいと思ってしま
う。そこまで言うならと、宍戸は跡部から扇を受け取り、髪を縛っていた紐をすっと解い
た。漆黒の髪が緋色の表着に落ちる。その瞬間、宍戸の表情は一変した。
「いいぜ、跡部。」
跡部が奏でる琴に合わせ、宍戸はゆっくりと踊り始める。跡部が歌を口ずさめば、その歌
に合わせ、動きを変化させる。宍戸が動く度に着物の裾がヒラヒラと揺れ、綺麗な脚が見
え隠れする。琴を弾き、歌を歌いつつも、跡部はそんな宍戸に目が釘付けになっていた。
その姿はまるで紅の翅を持った蝶のようだった。そんな宍戸の姿に跡部は、どんどん魅了
されていった。
『・・・・・・』
跡部が琴を弾くのをやめ、歌を歌うのをやめると、宍戸も舞を踊るのをやめる。しばらく
見つめ合ったまま、時間が止まってしまったかのような沈黙が流れる。そんな夢か現か分
からないような雰囲気の中、跡部はおもむろに立ち上がり、宍戸の体を抱きしめた。
パサっ・・・
宍戸の手から扇が離れる。静寂の中に鼓動の音が響いてしまうのではないかと思うほど、
宍戸の胸は高鳴っていた。
「宍戸・・・」
「な、何だよ・・・?」
「契りてぇ・・・」
「っ!!」
あまりにも率直な跡部の言葉に、宍戸の顔は今来ている表着と同じほど赤く染まる。その
言葉に頷くことも首を横に振ることも出来ないでいると、跡部が耳を食みながら、ゆっく
りと低い声で囁いた。
「いいだろ?」
そんなことをされれば、嫌でもそういう気分になってしまう。気が急くのを抑えながら、
宍戸は恥ずかしそうに小さく頷いた。
緋色の表着を下に敷くような形で、二人は肌を重ねる。何度も宍戸の唇に自分の唇を重ね
た後、跡部はその唇を宍戸の綺麗な首元に持っていった。
「あっ・・・」
宍戸の口から甘い声が漏れる。そんな声を出してしまったことが恥ずかしいのか、宍戸は
真っ赤になり、自分の手の甲で口を塞ぐ。
「何してんだよ?」
「こ、声が・・・」
「別にここには、俺とお前しかいねぇんだ。誰にも聞こえたりしねぇから、声出せよ。」
「お前にこういう声聞かれるのが・・・恥ずかしい・・・」
初めてというわけでもないのに、こんな初々しい反応を見せる宍戸に、跡部はもうメロメ
ロだった。出そうとしないなら出させるだけだと、宍戸の感じやすい部分ばかりを攻めて
ゆく。
「んっ・・・ぁ・・ふぅ・・・」
必死で声を堪えている様もまた可愛らしい。今流行の「枕草子」を自分が書くとすれば、
『うつくしきもの(可愛らしいもの)』に絶対宍戸は入れるなあと思いながら、跡部は順
々に事を進めてゆく。
「宍戸、この衣の絹はまだ遣唐使が派遣されていた頃に唐土から持ち帰ったすげぇ貴重で
高価なものらしいぜ。」
「そんなもん・・・どうしてお前が・・・・」
「そんなことはどうでもいいんだよ。だからよ、この衣でこんなことしたら、さぞかし贅
沢で、気持ちいいだろうと思ってな。」
そう言いながら、跡部は敷いてある緋色の表着の裾で宍戸の熱を包んだ。そして、布越し
にそれを擦り始める。
「んあっ・・・!」
「いい肌触りだろ?おっ、だんだん濡れてきてるぜ。」
「なっ・・・やだっ・・・ふあぁっ・・・」
そんな高価なものを、こんなことに使うなんてありえないと思いつつ、そのいけないとい
う気持ちが逆に宍戸の身体を敏感にさせてゆく。布越しに擦られる感覚は、直接触れられ
るときにはない疼きを伴う。その疼きをどうすることも出来ず、宍戸はただ嫌々と首を振
るだけだ。
「あっ・・・んぅ・・・あっ・・あぁ・・・」
「そんなに感じてんのかよ?もっと擦ってやろうか?」
「ああっ・・ダ、ダメ・・・やっ・・いやぁ・・・」
口ではダメだ嫌だと言いながら、その声と表情は全く嫌がっていない。頬を紅色に染め、
甜蜜のように甘い声を漏らす。黒い大きな瞳はひどく潤み、今にも泪が溢れんばかりに溜
まっている。そんな表情を見せられれば、跡部もやめようとは思わない。
「一回、イッたらどうだ?その方が、後々楽しめるぜ?」
跡部のそんな言葉に、宍戸はふるふると首を振るが、そろそろ限界なのは一目瞭然だった。
宍戸の熱を包んでいる部分は、先走りの雫で緋色が他の場所よりはるかに濃くなっている。
「全く、本当素直じゃねぇよな。でも、身体は正直だぜ?」
布越しに跡部は先端の孔にぐりっと爪を立てる。その瞬間、ビクンと宍戸の身体は跳ね、
表着の裏側を白い雫で濡らした。
「ひあっ・・・!!」
「ほら、ちょっとこうしてやっただけで、イッちまったじゃねぇか。」
自分の意志に反して、いとも簡単に果ててしまったことに強い羞恥心を覚え、宍戸は両手
で顔を覆う。しかし、そんな宍戸の手を跡部は半強制的に剥がしてしまった。
「何、顔隠してんだよ?」
「だって・・・も・・恥ずかしくて・・・」
「別にそんな恥ずかしがることでもねぇだろ。でも、そんなふうな反応されるのは悪くね
ぇな。可愛いぜ。」
ちゅっと頬にキスしてやると、宍戸はまたピクッと身体を震わせる。もう何をされても、
反応してしまうらしい。
「お前のココ、随分濡れちまったな。今から俺が綺麗にしてやるよ。」
「えっ・・・?」
包んでいた布を剥いでしまうと、跡部は溢れた蜜でトロトロに濡れている宍戸のそれを舐
め始める。突然の出来事に、宍戸は横たえていた身をがばっと起こした。
「なっ・・・お、お前・・・何やってっ・・・!?」
「何って、綺麗にしてやってるだけだぜ?」
「そうじゃなくて・・・そんなとこ汚ねぇだろっ!!」
「そんなことねぇよ。美味いぜ?お前のコレ。」
見せつけるように舌で茎を舐め上げながら、跡部はそんなことを言う。その言葉と舌がそ
れに触れる感覚に宍戸の熱は再び硬さを取り戻す。
「やだっ・・・やめろよぉ・・・」
「そんなイイ顔見せられて、そんなにイイ声聞かされたら、やめるわけにはいかねぇだろ。」
宍戸の反応を楽しみつつ、跡部はぱくんと勃ち上がってきているそれを口に含む。そして、
わざとらしく音を立てながら、吸ったり舐めたりを繰り返す。
「あっ・・あ・・・っ」
「また、たくさん蜜が溢れてきたぜ。今度は着物に飲ませるんじゃなくて、俺に飲ませろ
よ。」
「そ・・んな・・・」
「我慢することなんてないんだぜ。お前の好きな時に好きなだけ出せ。」
その言葉が宍戸の中で張り詰めていなければならなかった何かを打ち壊した。我慢しても
苦しいだけだ。だったら、全てを解放してしまった方が楽になるのではないか。しかも、
それを跡部は望んでいる。それならば、跡部の与えてくれる快感をそのまま素直に受け止
めよう。そう思った途端、宍戸は今までにないほどの快楽の波が一気に身体中を駆け巡っ
た。
「あっ・・・!!」
「そうだ、素直に感じればいい。その方が俺もお前も楽しめる。」
「ふっ・・あ・・・ど、どうしよ・・・」
「アーン?どうした?」
「気持ちよすぎて・・・どうにかなっちまいそう・・・」
「なっちまえよ。とりあえず、ここに溜まってる蜜を俺に飲ませて欲しいんだがな。」
「やっ・・・そんなことしたら・・・あっ・・・」
ペロペロと蜜の溢れてくる先端を舐めながら、やわやわと茎の下にある蜜袋を揉みほぐす。
そんな刺激に耐えられず、宍戸は再び白い甜蜜を迸らせた。
「やっ・・あっ・・ああ――っ!!」
どくどくと溢れてくる蜜を一滴も逃すまいと、跡部はちゅうっと先端を吸い上げる。全て
を出しきるまで吸われ続けるので、宍戸の快感はなかなか治まらない。ビクビクと下肢を
痙攣させ、しばらく続く絶頂感に完璧に身体を支配されていた。
「あっ・・あ・・・あっ・・・・」
「ふぅ・・・さっきよりもたくさん出たんじゃねぇの?すげぇ濃くて美味かったぜ。」
唇に残った白蜜を舐めながら、跡部は愉悦の表情を浮かべ、そんなことを言う。跡部が口
を離すと、宍戸は全身の力が抜けてしまったのか、そのまま後ろに倒れてしまう。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・」
宍戸の口から漏れるのは、乱れに乱れた吐息だけだ。その呼吸が少し整うのを待つと、跡
部はどこからか陶磁器の器を出してきた。
「落ち着いたか?宍戸。」
「ハァ・・・まあ、一応な。」
「ここまでしたんだから、当然最後までしてもいいよな?」
「最後までって・・・跡部のを入れるってことだよな・・・?」
「ああ、そうだ。」
「嫌じゃねぇけど・・・まだ、慣れてねぇから少し怖いんだよな。」
不安気な表情を浮かべながら、宍戸は呟く。
「安心しろ。今回は全く痛くねぇようにしてやるからよ。」
そう言いながら、跡部は先程出してきた器を宍戸に見せる。蓋を開けると、そこには桜色
のとろっとした液体とも固体とも言えぬものが入っていた。
「何だよ、それ?」
「これも唐土から伝わってきた薬だ。そう滅多に手に入らねぇ秘薬らしいぜ。」
「へぇ、秘薬ってどんな薬なんだよ?」
「さあな。それは使ってみてのお楽しみだぜ。ただ入れるときの痛みとか苦しい感じとか
は完璧になくなると思うぜ。」
どれほどの効果があるかは、初めて使うので分からなかったが、とにかく媚薬的な効果が
あることは知っていた。しかし、跡部はあえてそれを宍戸には話さなかった。ただ、まぐ
わう瞬間の痛みはなくなるとだけほのめかす。
「ふーん。じゃあ、それを塗れば痛くはなくなるんだな。」
「ああ。」
「だったら、使ってくれよ。したら、全然最後までするのは構わねぇぜ。」
跡部とすること自体は嫌ではないので、宍戸はそんなことを言う。宍戸がそういうのなら、
何の気兼ねもなしにこの薬を使える。どんなふうになるのか楽しみだと思いつつ、跡部は
指でその薬を掬い、宍戸のまだ閉じている蕾にまずはゆっくり塗りつけていった。すると、
まだ、表面にしか触れていないにも関わらず、その蕾はひくひくと収縮し始める。
(結構早く効くらしいな。)
そんなことを思いながら、跡部はさらにたっぷり指にその桃色の秘薬をつけ、今度はその
指を宍戸の内側へと埋め込む。
「ひぅっ!!」
跡部の指が内側へ入る感覚に宍戸は腰を引こうとする。しかし、跡部はそれを許さない。
しっかりと脚を掴み、内側にも満遍なくその薬を塗りつけてやった。
「やっ・・・跡部っ・・・何か・・・」
「どうした?」
「中が・・・ムズムズする・・・」
呼吸を乱し、ひくひくと身体を痙攣させながら宍戸はそんなことを跡部に訴える。思って
た以上にこれはすごい効き目だと、跡部は改めて実感する。
「どこかムズムズするって?ここか?それともここか?」
中を掻き回すように指を動かしてやれば、宍戸は今までになく大きな反応を見せる。
「ああっ・・・!あっ・・あぁんっ!!」
これは楽しいと跡部はいったん指を引き抜き、もう一度指にたっぷりと秘薬をつける。そ
して、再び宍戸の内側にそれを塗り込んだ。しかも、今度は一番敏感と思われる前立腺の
周りを中心に塗り込んでゆく。当然そうすれば、その部分は想像を絶するほど感じやすく
なる。少し指を動かしただけで、宍戸はあっという間に達してしまった。
「あぁんっ・・・!!」
達したにも関わらず宍戸の茎は全く硬さを失わない。それどころか、白い蜜を垂らしなが
らも、もっと強い刺激が欲しいと言わんばかりにふるふると震えている。
「あ・・・とべ・・・」
「すげぇ色っぽいぜ宍戸。着物の紅とお前の雫がいい感じに絡んでる。」
「な・・・跡部っ・・・もっとぐちゃぐちゃに掻き回して。そうしてくれねぇと・・・・
本当、おかしくなっちまう・・・」
媚薬に犯された様子で、色気満点でそんなことを言われれば、跡部の理性もぶっつりと切
れる。もう我慢出来ないと、跡部は自身をとろとろになっている宍戸の蕾に突き刺した。
「あっ・・・ああ――っ!!」
中が熱いモノで満たされる感覚に宍戸は嬌声を上げる。宍戸の中の熱さは、もちろん跡部
も感じていた。そして、いつも以上に胸がドキドキし、宍戸を味わう感覚が過敏になって
いることに気がつく。
「・・・っ!」
(ちょ、ちょっと待てよ・・・これは、もしかしてヤバイんじゃねぇか?)
あれだけ媚薬を塗りたくったところに直で自分のものを入れてしまったのだ。その薬の影
響を受けないわけがない。しかし、そんなことに今更気がついてもどうしようもない。と
にかく身体が求めるままに、腰を動かす。
「やっ・・・跡部っ・・・あ・・・激し・・っ・・・」
「わ、悪ぃ・・・お前に塗った薬が俺のにもついちまって・・・」
「はあっ!?」
「しばらく満足出来なさそうだ。ま、たまにはこういうのも悪くねぇだろ。」
笑いながら冗談じみてそんなことを言う跡部だが、目に余裕が見られない。薬の影響で、
相当キているようだ。
「アホ〜。もう好きにしろよっ!!」
宍戸も跡部と同じくらい、いや、それ以上に薬の影響を受けているのだ。もうして欲しく
て堪らない。理性や羞恥心などとうに失っている状態で、二人は飽くまで交わり続ける。
お互いの蜜が混じれば混じるほど、愛しさが増し、どうしようもなく胸がときめく。
「いっ・・あ・・・気持ちイイっ・・・跡部っ・・・跡部ぇ・・・!」
「はあ・・・くっ・・ぅ・・・宍戸っ・・・好きだ・・・宍戸・・・宍戸っ・・・!」
「俺も・・・俺も・・あっ・・・好き・・・すっげぇ好きぃ・・・」
「うっ・・ぁ・・・宍戸・・・はっ・・・もう・・・」
「俺も・・・もう・・ダメぇ・・・!」
『あっ・・・ああ――っ!!』
身も心もとろとろになった二人は、緋色の着物の上にぐったりと横たわる。お互いの想い
をもう一度確認するかのように口づけを交わすと、二人は疲労感から深い眠りに落ちてい
った。
次の日、跡部と宍戸は岳人達と歌合をすることになった。昨日はいなかったジローや樺地、
鳳や日吉も参加し、左右に分かれて勝負をする。
「よーし、じゃあ、まずは俺から!!」
ジローが元気よく手を上げたので、ジローから思いついたままに和歌を詠み上げてゆく。
順々に詠み上げてゆき、跡部の番になると、何故か跡部は宍戸の方を見て、ニヤリと笑っ
た。
「望月の光差したる閨の内紅き艶なる蝶ぞ舞ひける」
「へー、何かすごく綺麗な情景だね。でも、紅い蝶なんているの?」
「比喩に決まってんだろ?なあ、宍戸。」
「へっ?何で俺??」
「分からねぇか。昨日は望月だったんだぜ?」
それを聞いて、宍戸は跡部が何について詠ったかに気がつく。跡部は昨日の自分のことを
詠っている。そんなことに気がつくと宍戸は顔を真っ赤に染めた。
「なっ!?」
「どうしたんですか?宍戸さん。顔、真っ赤ですよ。」
「べ、別に何でもねぇよ!!つ、次は長太郎の番だぜ!」
誤魔化しているつもりだろうが、明らかに宍戸の様子はおかしい。勘のよい滝と忍足は、
昨日の流鏑馬勝負のことを思い出し、その日の夜に何があったかを理解した。
「あー、きっとやっちゃったんだね。」
「でも、紅き蝶ってどういうことなんやろ?」
「跡部のことだからさ、女物の着物とか着せてやったんじゃないの?そしたら、紅っての
も全然ありえるだろ?」
「あー、確かにそうやな。それをあんな歌にしてしまうんやから、流石というか何ていう
か・・・」
「そうなると、宍戸の詠む歌も見物だよね。」
まだ動揺の治まらぬまま宍戸の番になる。こんな状況で思いつくかと!と心の中で文句を
言いつつも、詠まないと負けてしまう。負けず嫌いな宍戸の性格がここで働き、とんでも
ない歌を宍戸は紡ぎ出した。
「ちぎりきなかたみに露をこぼしつつ酔ひてあざれて心飽くまで」
「清原元輔の本歌取りかなあって一瞬思ったけど、内容が・・・」
「随分、大胆な歌詠ってくれるじゃねぇか、宍戸。」
「へっ?」
宍戸自身は気づいていなかった。いかに自分がすごい歌を詠ったかに。要するに昨日した
ことを和歌の字数に全て凝縮したような意味になっているのだ。もう一度、自分が詠んだ
歌を思い返すと、宍戸は慌ててその歌を取り消そうとする。
「い、今のなし今のなし!!うっわあ、俺、どうしちまったんだ?ありえねぇし!」
「技法としては悪くないと思うで。内容はあれやけど。」
「確かに宍戸にしては上手い歌だなあと思ったぜ。なあ、ジロー。」
「うんうん!まさか宍戸がそういうことを和歌にしてくれると思わなかったC〜!!」
「どういうことですか?滝さん。」
「うーん、長太郎には後でゆっくり教えてあげる。」
「教えなくていい!!あー、跡部があんな歌詠うからいけねぇんだ!!」
「俺の所為にするんじゃねぇよ。ま、俺としては、お前の口からそういう歌が出てきたこ
と自体嬉しいことだけどな。」
「だあー、もう!!今の取り消し!!お前ら忘れろー!!」
周りにいるみんなにからかわれ、宍戸は真っ赤になって怒鳴りまくる。しかし、あんなす
ごい歌を聞いて、忘れられるわけがない。
「全く、全然歌合な雰囲気じゃなくなっちまった。」
「ウス。」
あまりの混乱状態に日吉は呆れる。まあ、これはこれで面白いからいいかとそんな状況を
傍観しつつ、どこからか漢文を取り出して読み始めた。結局、歌合はそこで中断され、当
然勝負の結果は曖昧になる。しかし、宍戸を除いたそこにいた者は、全員この歌合に参加
してよかったと思うのであった。
END.