隣にいる理由

今日も二人の時間を過ごし事を終え、君島と遠野はベッドの上でくつろいでいた。君島が
連休が取れたということで、遠野の家に泊まりに来ているのだ。まったりと休んでいると、
二人のスマホが同時に通知音を立てる。
「何だ?」
「私と遠野くんに同時に来たということは、グループメッセージじゃないですか?」
どちらも自分のスマホを手に取り、画面を開くと、同じ名前が目に入る。
「種ヶ島くんからですね。」
「またいつものメンバーで遊びに出かけねぇかだってよ。君島は忙しいのによくやるぜ。」
「まあ、それでも誘ってもらえるのは嬉しいですけどね。」
「君島の予定に合わせろって書いといてやる。」
君島が乗り気ならと、遠野はそんな返信をする。自分ではなく遠野が返すことで、また何
かツッコまれるだろうなと思いながら、君島はふっと笑う。
「最後のU−17の合宿から結構経っているにも関わらず、遊びに誘ってもらえたり、直
接会うことが出来るのは有難いことですね。」
「まあ、何だかんだ結構長い付き合いになってるからな。」
初めてお互いを認識して出会ったのは高校1年生の頃であるが、既に高校を卒業してから
数年経っている。出身地はバラバラであるにも関わらず、これだけ長い期間交流が持てて
いるのは、やはりどこか馬が合うからであろうと、君島も遠野も口元を緩ませる。
(あのW杯からもうそんなに経つのか。)
高校最後のU−17W杯から数年経過していることに気づき、君島はそのときのことに思
いを馳せる。どの試合も印象深いものであったが、ふとある試合で感じていた思いが蘇り、
君島は口を開く。
「遠野くんは、高校最後のW杯のギリシャ戦を覚えてますか?」
「当然だろ。あれはなかなか印象深い試合だったからな。」
自分の一番好きな処刑人の末裔と戦ったギリシャ戦。そのときのことを遠野は鮮明に覚え
ている。それは君島も同じであった。
「当時はあまりハッキリと認識していなかったんですが、今思えばあのときかなりステフ
ァノプロス兄弟に嫉妬していました。」
「は?どういうことだよ?」
思ってもみないことを君島が言ってくるので、遠野は意外そうな顔でそう返す。
「普段処刑をしている遠野くんがあの二人の処刑を受けている姿を見て、皮肉なものだと
思っていました。因果応報だなと。ただ、それと同時にイライラともモヤモヤとも言えな
い気持ちを間違いなく感じていました。」
「へぇ、お前からしたら俺が処刑を受けてるのは、そこまで悪い気はしなかったんじゃね
ーの?むしろ、スカッとするみてぇな。」
当時は処刑法を使ったプレイスタイルに君島が嫌悪感を抱いていたことを知っていたので、
冗談じみた口調で遠野はそんなことを言う。
「そのはずだったんですけどね。何というか遠野くんが一方的に傷つけられているのが許
せなかった。遠野くんを傷つけていいのは私だけだみたいな独占欲にも似た感情を抱いて
いたというか・・・」
それを聞いて、遠野は驚きつつも嬉しそうに顔を緩ませる。
「はは、俺を傷つけていいのはって、お前本当歪んでるよな!けど、お前のそういうとこ、
お前らしくて好きだぜ!」
「こんなことを言われて喜ぶ遠野くんも相当変わってますけどね。」
まさか嬉しそうな反応をされるとは思っていなかったので、君島は苦笑する。しかし、こ
んなドス黒い感情も笑って受け入れる遠野に、君島は言いようもない愛おしさを感じる。
「それから・・・先に言っておきますが切原くんは何も悪くはないですよ?ただ私が一人
で悶々としていただけなので。」
「まだ何かあるのか?今度はワカメ野郎に嫉妬してたって話か?」
ギリシャ戦の話をまだ続けようとしている君島に、遠野はワクワクとした視線を向ける。
「嫉妬と言うよりは、後悔と悔しさに近いですかね。遠野くんがあの二人の処刑を受けて、
ボロボロになっていくのを、ただ見ているしかなかった。切原くんはアナタの電気椅子を
受けて動けなくなっていましたし。」
「後悔と悔しさねぇ。どこにその要素があるんだ?」
「ただただボールを受け続ける遠野くんを見ながら、私だったらこう動くのに。処刑を防
ぐにはそれではダメだ。あんなに意気投合していたのに、遠野くんをあんな状態にさせる
なんて。私なら遠野くんをこんなにも傷つけさせない。どうして私は遠野くんの隣にいな
いんだろう。私が遠野くんとダブルスをしていたなら、私のプレイで遠野くんを守れたの
に・・・と一人でぐるぐる考えていました。」
「フッ、傷つけたかったり、守りたかったり、お前の感情わけ分かんなくて忙しいな。」
「遠野くんとのダブルスを解消させたのは、紛れもなく私なんですけどね。でも、気づい
てしまった。私は遠野くんとのダブルスが一番自分らしくプレイ出来ていたのだなと。」
そんな君島の言葉を聞いて、遠野はハッとする。そして、初めてここで腑に落ちる。
「なるほど、それが本当のきっかけか。」
「えっ?」
「お前が急に謝りたいって言ってきたきっかけ、種ヶ島には他の奴らとダブルス組んでみ
て、俺の勝ちにこだわるところとかがお前のプレイの足りない部分を補ってたって言って
ただろ?それが俺は何か納得出来なかったんだよな。」
「ちょっと待ってください!遠野くんが何故それを?種ヶ島くんが話したのですか!?」
謝りたい内容は遠野に伝えた認識だが、そのきっかけまでは話してはいなかった。そうで
あるにも関わらず、遠野は正確にそのきっかけを口にする。
「あー、まあ・・・お前が種ヶ島と交渉してるの見てたからな。」
「見ていたって・・・」
「だってあのとき、種ヶ島と同室だったからよ。別に自分の部屋に戻ってきちゃいけねぇ
理由はねぇだろ。部屋に入ろうと思ったら、お前と種ヶ島が話してて・・・」
「そんな・・・」
あの場面を見られていたのであれば、フランス戦後のあの態度もより納得がいくと君島は
押し黙る。
「俺に謝ろうとしたきっかけ、さっき言ってくれたのが本当の理由なんだろ?ギリシャ戦
で気づいたってヤツが。」
「・・・そうですね。そんな気持ちを抱えていることを、さすがに種ヶ島くんに正直に話
すことは出来なかったので。」
「それなら納得だぜ。そっちの方がお前らしいしな。」
ニッと笑いながら、遠野はキッパリとそう言い放つ。そんな遠野の態度にドキドキしてい
ると、今度は遠野が何かを言いたげに口を開く。
「フランス戦のとき、お前の膝を手当てした後、『W杯が終わったら、また組んでやって
もいい』って言っただろ?」
「え?ええ。」
「そう言っておけば、またお前とテニスができるかと思って。俺、お前とのダブルスが一
番好きだし。でも、W杯が終わるまでは待てなかった。だって、もうU−17ではなくな
るし、今度はいつそんなタイミングがあるかも分からなかったからな。」
確かにそう言われればそうかと君島は頷く。今でもあのとき仲が良かったメンバーで集ま
ってテニスをすることはあるが、それは結果にそうなっただけであり、あのW杯が終わっ
た後、出身地が全く異なるメンバーが唯一の共通点であったU−17合宿メンバーでなく
なった後に、共にテニスが出来る保証はどこにもなかった。
「だから、どうしてももう一度君島とダブルスが組みたくて、三船監督に土下座して、決
勝メンバー決定戦に出してもらえるようにしてもらった。」
「土下座してって・・・話をつけてきたって言ってましたが、そんな感じだったのですか?」
「ああ。だから、お前があのとき組んでくれて本当に嬉しかった。お前が嫌だって言うな
ら仕方ねぇって思ってたからな。」
あのときの遠野が抱えていた想いを知り、君島は胸の奥がぎゅっとなる。自分としては遠
野への罪滅ぼしのために遠野と組むことを了承したところがあるが、遠野の想いを聞いて、
あのとき再度ダブルスを組むことができて本当によかったと君島は思う。
「私も、あのとき遠野くんともう一度ダブルスを組むことができてよかったです。」
「お前もそう思ってくれてたならよかったぜ。なんだかんだで、今でもお前とダブルス組
んでテニスするしな。」
「そうですね。・・・遠野くん。」
「何だ?」
お互いに過去に抱えていた想いを伝え合い、君島は今どうしても伝えたいことがあると、
遠野をぎゅっと抱きしめる。
「あのとき、遠野くんの膝を狙わせて傷つけてしまってすみません。それから、そんな私
を許してくれて、もう一度ダブルス組んでくれてありがとうございます。」
心のこもった君島の謝罪と感謝の言葉を聞き、遠野は嬉しそうでありながらも少し困った
ような笑みを浮かべる。
「あー、本当は謝らせたくなかったんだけどな。まあ、君島はずっとそれ言いたかったん
だろ?それに今は昔と違うからな。」
「えっ?どういうことですか?」
「お前が俺に謝るなんて、あんまりお前らしくないし、謝れてないって思いをそのままに
しておけば、君島の気持ちは俺に向いたままになるだろうと思ってた。」
フランス戦のときにキチンと謝らせてくれなかったのはそんな理由だったのかと、君島は
ほんの少し驚いたような表情を見せる。
「でも、今はそんな縛りはなくても、君島は俺のこと見てくれるし、休みのときに俺の家
に泊まりにくるくらいには、俺と一緒にいたいと思ってくれてるんだろ?」
「それは、まあ・・・」
「だから、お前のさっきの言葉、謝罪も感謝も全部受け入れてやるよ!今までだってそう
だし、これからも、俺はお前の全部を受け止めてやるんだからな!」
自信満々な口調でそんなことを口にしながら、遠野はぎゅっと君島のことを抱きしめ返す。
(ああ、そんなことを言われたら、遠野くんから離れられなくなってしまう。)
自分の全てを受け入れてもらえる安心感と心地良さ。今、遠野と一緒に過ごすことができ
る幸せを噛みしめながら、君島は遠野の体温をその腕の中に留め置く。

心の中にあったほころびが、お互いの言葉で、強く美しく結び直される。特別なことは何
もないいつも通りの夜。昔は言えなかった本音をふわりと漏らした二人は、結び直された
絆を胸に、この穏やかな時間の中で幸せを感じながら過ごすのであった。

                                END.

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